全国個性派美術館への旅、今回ご紹介するのは伊勢半本店 紅ミュージアムです。
江戸時代から続く最後の「紅屋」で紅の魅力に触れる
板紅各種(江戸後期〜明治期) 伊勢半本店 紅ミュージアム蔵
紅花を原料に作られる赤い染料「紅」は、花弁中にわずか1%しか含まれていない貴重なもの。職人の手で高純度まで精製され、着物の染料や口紅など化粧品として使われます。紅は、古くは卑弥呼の時代からあったとされますが、需要が最も高まったのは江戸時代。紅を扱う「紅屋」は、京都や大阪を中心に軒を連ねていました。ところが明治以降、勢いは陰りを見せ始め、現在「紅屋」は全国にたった1軒のみ。それが、今なお江戸時代と変わらぬ製法で紅をつくり続けている「伊勢半本店」。1825年に日本橋で創業した「伊勢半本店」の紅づくりは、門外不出の秘伝の技。現在まで職人だけに口伝で引き継がれています。
撮影/外山亮一
その伝統がここで途絶えてしまわぬよう、また現代の人に紅について伝えるため’05年「紅資料館」(’06年改称)が開館。館内の常設展示は、「紅づくり」「江戸の化粧文化」「魔除けの赤」の3テーマで構成され、江戸時代を中心とした約120点の資料を展示。年に1度の企画展では、江戸文化や伝統工芸などさまざまな切り口で作品を紹介します。
溪斎英泉 「今様美人拾二景 てごわそう」 伊勢半本店 紅ミュージアム蔵
なかでも「江戸時代の化粧文化」の展示は、必見。当時の女性は、お歯黒や眉の「黒のメーク」、おしろいの「白のメーク」、頬紅や口紅の「赤のメーク」とモノクロ+1色のみで化粧を施していました。紅は、女性の顔にとって華やかさを表す欠かせない色だったのです。お猪口を紅屋に持っていき、紅を塗り付けてもらう「量り売り」のスタイルもあったそうで、館内には当時の人が使用していた紅猪口も展示。ほかにも観劇や船遊びなど出かける際に持ち歩いていた携帯用紅入れ「板紅」の工芸品のような美しさにも魅せられます。また1世紀近く刊行され続けた江戸時代の大ベストセラーの美容ハウツー本「都風俗化粧伝」も展示されており、当時の人々もコンプレックスをメークでカバーしようとしていたことに親近感を覚えたり、紅を通じてタイムトリップできたりするのも魅力。
館内のサロンでは、紅の体験もできます。完全なナチュラルコスメの紅は、塗り心地もなめらか。グラスにも跡がつきにくいとワイン好きや茶道を行う人にも愛用者は多いのだとか。伝統の紅を知ることができるミュージアム、表参道の散歩がてら立ち寄ってみては。