2018年9月1日土曜日から、東京青山の根津美術館で「禅僧の交流 ー墨蹟と水墨画を楽しむ」展が始まりました。
鎌倉時代から室町時代にかけての、禅僧による墨蹟(ぼくせき、禅僧が書いた書)と水墨画が多数出陳された展覧会で、国宝1点、重要文化財15点、重要美術品8点を含む、計49点が展示されています。これだけ重要文化財、重要美術品が一挙展示されるなんて、なんと贅沢なことでしょう!
鎌倉時代、13世紀中頃から100年ほどの間、日本では中国に渡る留学僧が多く、また逆に中国僧の来日もあり、様々な交流があったそうです。
そんな中国の禅僧、日本の禅僧が描いた墨蹟や水墨画は、みているとなぜか心が静まり、静寂に包まれたような幸福感を感じるから不思議です。
雪舟初期の作風を知る貴重な水墨画
注目はなんといっても国宝の「布袋蔣摩訶問答図(ほていしょうまかもんどうず)」。中国元時代の作品で、禅僧、因陀羅(いんだら)の描いた水墨画に楚石梵琦(そせきぼんき)が、賛(さん)を書いています。楚石梵琦はカリスマ的支持を集めていた禅僧で、日本にも楚石梵琦に憧れた修行僧が数多いたそうです。そういう意味からも貴重な作品なわけですが、是非みていただきたいのは描かれた布袋さんの、なんともいえない笑顔の表情! 幸福な気持ちになりますよ。
因陀羅筆 楚石梵琦「布袋蔣摩訶問答図」国宝 1幅 紙本墨画・墨書 中国・元時代 14世紀 根津美術館蔵/水墨画の右に書かれた賛は、日本の僧侶からも憧れの存在であった中国の禅僧、楚石梵琦によるもの。
そして雪舟と同一人物であるとの学説が定着してきた、拙宗等揚(せっしゅうとうよう)の水墨画「山水図」。手前に岩、松、建物を、後方に水面を隔てて山を描いた、典型的な山水図。
雪舟というと、「秋冬山水図」(国宝 東京国立博物館)や「天橋立図」(国宝 京都国立博物館)がよく知られていますが、今回出陳の「山水図」は「秋冬山水図」でみられるような直線的な山の描き方や木々の描き方とは随分と画風が異なり、柔らかで穏やかな印象です。
雪舟は中国で絵を学んだ後、画風が一変したといわれており、雪舟等楊と拙宗等揚が同一人物であるという昨今の定説を踏まえてこの絵をみると、中国留学以前と以降の画風の変化を知ることのできる、貴重な作品ということになります。
拙宗等楊筆「山水図」1幅 紙本墨画淡彩 日本・室町時代 15世紀 根津美術館蔵 小林中氏寄贈/雪舟が改号(改名)以前に描いたものと思われる。雪舟はその作品が国宝に6点も指定されている、日本美術史上のレジェンド!
雪村周継(せっそんしゅうけい)の「龍虎図屏風(りゅうこずびょうぶ)」は、ユーモラスな表情の龍と虎が、ダイナミックに描かれた六曲一双の屏風。画面配置や、竹の描き方などディテールの表現に雪村独自の世界観を有する、見逃せない作品です。
室町時代の画僧、雪村周継の「龍虎図屏風」(根津美術館)。通常の龍虎図では、絵の主題である龍と虎を左右両端に描くことが多いが、雪村は左右両隻で、龍と虎を六曲屏風の中央近くに描いている。ユーモラスな龍虎の眼の表情にも注目したい。
禅僧の水墨画にみられる独自スタイルを楽しもう!
楚石梵琦、拙宗等揚、雪村周継・・・禅僧の名前は通常四文字。最初の二文字が道号(どうごう)と呼ばれ、禅の師から与えられるもの。後ろの二文字が法諱(ほうき)と呼ばれ、出家した僧に与えられるものなのだとか。
墨蹟や水墨画を鑑賞するのと同時に、禅僧の名前にも着目したいものですね。
また、禅僧の描いた水墨画の多くに、賛(さん)と呼ばれる文字が書かれています。これは、描かれた絵を鑑賞した禅僧が詠んだ詩。禅僧による水墨画の独自のスタイルとして、味わいたい鑑賞ポイントです。一幅の絵の中に絵と文字(賛)が絶妙に配された空間構成。みればみるほど引き込まれてハマってしまいます。
さてこの度、完全改修を終えた根津美術館。都心の中にあってまさにオアシスと呼ぶにふさわしい緑に包まれた美しい美術館です。その中にある人気のカフェ「NEZUCAFÉ」も今回改修されたそうです。
東京南青山のど真ん中にいることを忘れさせる、自然と静寂に包まれた根津美術館の庭園。今回改修されたカフェ「NEZUCAFÉ」もその緑の中に抱かれるように心地の良い空間。本企画展に合わせての期間限定メニュー「黒豆きなこアイスわらびもち添え(800円、ドリンクとのセット1200円)も是非!
今年の夏はひときわ暑く、いつまでこの暑さが続くのかと心配になりますが、夏の終わりは、そして秋の始まりは、根津美術館で静寂な気分になれる一幅の水墨画を味わうとともに、緑の中のカフェで一服お茶でもいかが?
「禅僧の交流 ー墨蹟と水墨画を楽しむ」展、会期は10月8日(月曜祝日)までです。
文/橋本記一
「禅僧の交流 ー墨蹟と水墨画を楽しむ」
会場 根津美術館
会期 2018年9月1日〜10月8日
公式サイト