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2019.03.20

NYで活躍中の注目アーティストが凱旋帰国! GINZA SIX「出口雄樹・玉井祥子 二人展」

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3月21日から27日まで、銀座エリア最大の商業施設「GINZA SIX」にて、異色の日本人アーティスト、出口雄樹と玉井祥子の「二人展」が開催されます。GINZA SIX 5階フロアのギャラリー「Artglorieux GALLERY OF TOKYO(アールグロリュー・ギャラリー・オブ・トーキョー)」では、これまで草間彌生氏をはじめとする世界的に人気の高いアーティストや、国内外で評価を受ける若手作家の作品を紹介してきました。

今展では、主に海外での評価の高い美術家、出口雄樹と玉井祥子の作品がそれぞれ20点ずつ、一挙に40点も公開されます。NYを活動拠点にする二人の展示が日本で見られるのは今だけ! 現代アートはワカラナイ? 大丈夫です! 作品の魅力と展示の見どころをたっぷりレポートいたします。

NYで活躍中の注目アーティストが凱旋帰国! GINZA SIX「出口雄樹・玉井祥子 二人展」を見逃すな!

世界を股にかけて活躍する二人の若手作家! 気になる経歴は?

出口雄樹(いでぐち ゆうき)氏は、日本画出身の現代美術家。ニューヨークに在住しながら、ヨーロッパ、アジア、アメリカ大陸を飛び回り、作品を発信しています。日本画で培った伝統的な技術を大切にしながらも、近代に開発された技法や西洋絵画の技法も取り入れ、独自の作品世界を作りだしています。その作品はワシントン・ポストのアートレビューにも取り上げられ、「優雅で伝統的な作品を経て、出口の作品は未来に悠揚たる衝撃を与える。」と絶賛されています。

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「Eating」出口雄樹

一方玉井祥子(たまい しょうこ)氏は、なんと音楽科出身。彼女もまた、ニューヨークに在住しながら世界中で作品を発表しています。音というのは生まれては消え、生まれては消えていくものですが、そうした瞬間の「生」の震えを、目に見える形で留めておくため、視覚表現に移行したとか。和紙の繊維一本一本を鉄製のペンで掻き出しながら、墨で「染め」ていくという独特なスタイルは、伝統的な画材のアートシーンにおける可能性を広げるものとして、国内外で高い評価を受けています。

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「CrestIV(三つ盛亀甲紋)」玉井祥子

各国を飛び回る二人は、世界のコンテンポラリーアートに大きな影響を受けながらも、伝統的な日本美術の技法を重んじ、独自の手法に還元して作品制作を行っています。今展は、そんな二人の作品が20点ずつ、40点も見られるまたとない機会。この記事では、二人の作品の魅力をそれぞれ分けてご紹介します!

出口雄樹の超絶技巧①過去と現在が絵画の中で出会う!?

まずは異色の日本画家、出口雄樹氏。浮世絵のような伝統的な日本美術を彷彿とさせるのに、現代的な軽やかでポップな印象も受ける不思議な作品の数々が特徴です。それは出口氏が「過去と現在をつなげる」ことを強く意識しているから。たとえば出口氏の作品では、古典日本絵画に特徴的な要素である、きめ細かいディテール表現や文様表現が大切にされる一方で、現代的な色鮮やかな色彩やグラデーションも取り入れられています。過去と現在、両方の要素をうまーく混ぜ合わせた表現を行っているのです。

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「鯨飲」出口雄樹 波の部分が文様になっています。伝統的な日本絵画において、繰り返す文様は永遠性のメタファーとして用いられることが多いのだそうです。

出口雄樹の超絶技巧②東洋と西洋も絵画の中で出会う!?

伝統的な日本絵画では、基本的に陰影を描かないので全体としては平面的な印象ですが、出口氏の作品は、西洋絵画のように立体的。日本画っぽいのに、なんだか写真みたいにリアル・・・それは西洋の表現技法、光と影の演出があるからなのです!

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「六歌仙」出口雄樹 「六歌仙」とは、「古今和歌集」の序文に記された六人の代表的な歌人のこと。僧正遍昭、在原業平、文屋康秀、喜撰法師、小野小町、大伴黒主の6人を指します。

「六歌仙」における卓上の滲み模様は琳派の開祖、俵屋宗達が開発したと言われる「たらし込み」技法、人物の肌や果物には新聞などの紙を用いたコラージュ技法、色鮮やかなグラデーションにはストリートアートで使用されるスプレー缶が用いられています。また、この作品でも緻密な文様表現がありますが、これは近代のアクリル絵具による描写。一つの作品をとっても、過去と現在、西洋と東洋の技法や画材がこんなに多く取り入れられているのです!

視点が誘導されている?!

鑑賞者が作品を鑑賞しやすいよう、構成を工夫することを「視点誘導」といいます。これもまた、古典絵画の世界では大事な要素の一つ。今回は特別に、その技術をちょっぴり種明かししてもらいました。

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「四睡」出口雄樹 「四睡図(しすいず)」とは、古典日本絵画の題材の一つで、中国の禅僧三人が虎と眠っている様子のこと。禅における悟りの境地を表しているとされます。

上の図をご覧ください。絵を見た時、まず視線が行くのは中央に配置された虎です。その後、虎に伸びた腕、その腕の持ち主、そしてそこから円環するようにそれぞれの人物に視線が移っていきます。描かれた人物の顔の向きや視線、手の向きなどによって、鑑賞者の目の動きが誘導されているのです。もちろん見方に正解はありませんが、展覧会では、作家の意図によってどのように視線が誘導されているのか考えてみるのも楽しみ方の一つです。

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「四睡」出口雄樹(視点誘導図解)

なんか知ってる・・・あ、マンガだ!

出口氏の作品のもう一つの特徴として、「マンガ的」と言われることがあります。出口氏は、「漫画的とは、事物を二次元に描く際のデフォルメ表現」なのだといいます。自然事象の象徴化、非現実的空間の演出は、確かに現実のデフォルメ表現であり、漫画の得意とするところです。また近代の日本画や西洋絵画の世界では、人物の輪郭線を描くことは敬遠される傾向にありますが、江戸時代までの日本画や、現代の漫画ではむしろ一般的。出口氏の作品に「マンガ」を感じるのは、そんな要素も手伝っているのかもしれません。

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「三神仙(劉海蟾、李鐵拐、琴高仙人)」出口雄樹 「三神仙」とは、西遊記に登場する神通力を持った三人の仙人のこと。劉海蟾(りゅうかいせん)、李鐵拐(りてっかい)、琴高仙人(きんこうせんにん)共に古典日本絵画では繰り返し取り上げられてきた題材です。出口氏の作品では、仙人の気(?)が象徴的かつポップに描かれています。

現代美術は難しくない!楽しみ方はとっても自由

会場で出口氏の作品と向かい合うと、果てしない想像力が働きます。絵巻物の一部のような、あるいはマンガの一コマのような、物語性を感じさせるからです。

また出口氏の作品では、古典絵画で繰り返し描かれた有名な題材も多く扱われています。どの作品にどの過去の作品がフィーチャーされているのか、発見を楽しむのもよし、絵の背景に隠された物語や前後の展開を想像するもよし、純粋に絵画の美しさを愛でるもよし、現代アートの楽しみ方は全く自由です。もちろん、直感的に好きか嫌いかだけで楽しむのだってアリです!

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「人類の一つの側面」出口雄樹 各国の政治家が、机を囲んで議論している・・・とても意味深です。「ダンテがその著書『神曲』の中で、いろんな人に会って回っているのが印象的で、そんな実際にはあり得ない会合なんかを想像して楽しく描いています」(出口氏)彼らが何を話しているか・・・? ご想像にお任せします。

「この世で最も細い線」が立体的に立ち上がる作品?

ここからは、今展のもうひとりの作家、玉井祥子氏の作品についてご紹介します。玉井氏の作品の大きな特徴は、作品が半立体的になっているということ。紙は日本人には馴染み深い和紙、それならやはり筆で描くのかと思いきや、そうではなく、墨をつけた鉄製のペンが用いられています。何枚も重ねた薄い和紙を鉄製のペンで引掻くことで、墨のついた細い繊維が立体的に立ち上がる、という仕組み。「肉眼で描きうるこの世で最も細い線」を探求しているうち、このスタイルに行き着いたそうです。

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「蛇ノ目」玉井祥子(部分)

和紙と墨が生起する「生」の気配

玉井氏が、「この世でもっとも細い線」を立ち上がらせることで求めたもの、それは「気配」の視覚化だといいます。空気が振動することで、何もない空間に音という「有」が生じる瞬間。空気があたたまることで、何もない湖面に霧という「有」が生じる瞬間。あるいは神社のような聖域に入った時、それまで意識していなかった「異界なるもの」を察知して生じる身体感覚の変容。本当はずっとあったけれど、見えなかったものが可視化されるほんの瞬間。今にも消えてしまいそうな細い和紙の繊維一本一本を、墨で「染め」ながら描き出された作品は、その言語化されない一瞬の、細胞が粟立つような感覚を思い出させてくれます。

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「ゲネロジタス」玉井祥子

古代から、文様の力が力強く蘇る!

「気配」が生じる瞬間の感覚を可視化した玉井氏の作品は、どれも空気中に生じては消えていく霧のように、質量感が曖昧です。しかし今回出展された作品は、意外なことにどれもとても力強い印象。それもそのはず、今回玉井氏が選んだ題材は「文様」なのです。文様は洋の東西を問わず、有史以来人々の思想や文化を象徴してきました。玉井氏の作品群は、「着物や工芸品、壁紙等の装飾としてではない、文様それ自体にスポットを当てる」ことで、文様そのものが持つ見えない力や、歴史的に担ってきた意味を浮き彫りにするような内容になっています。

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「黻(ふつ)」玉井祥子 「黻」とは、清時代の中国において、至高の天子が備えているべき美徳を象徴した12の文様のうちの一つ。一対の「弓」という字が背中合わせに構成された文様は、悪を嫌い善に向かうことを示すのだそう。玉井氏は、「悪から身を護ることや、そうでありたいという切実な願いが感じられた」ので題材として選んだといいます。

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「Rosette(half)」玉井祥子(右は横から見た図) こちらは古代メソポタミア文明から。ロゼットは先史時代から装飾意匠として用いられてきた文様の一つ。玉井氏は、NYのメトロポリタン美術館でこのレリーフに出会い、「花紋という現代でも馴染み深い形態でありながら、すでに亡き文明の遺物として展示されていることで、国家・文明の衰亡と興隆を想起させた」といいます。

文様は、その起源を古代に持つものが多いのです。文字による表現に乏しかった、あるいは全くなかった古代には、思想表現からアイデンティティの確立、さらには祈りや呪力まで、文様が担った役割が非常に大きかったからです。玉井氏の「目に見えない気配や感覚」にフォーカスした作品として甦った文様は、文様に託された力が古代から文字通り息を吹き返したかのように、生命力を感じさせます。

先史時代に思いを馳せる! 日本の文様

今回日本での展示に合わせて、玉井氏は日本の文様を多く取り入れたといいます。日本における文様使用の歴史は、1万5000年ほど前の縄文時代にまで遡ることができます。また、家紋などにも用いられるように、日本文化における文様の数や種類は膨大なものです。漢字文化圏の中では文字使用の開始が比較的遅かった日本では、文様が役割を担ってきた歴史がとても長いばかりか、その習慣は江戸時代まで続いたのです。

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「左巴」玉井祥子 巴紋は日本では馴染み深い文様の一つ。原型は雲気、流水、渦巻などで、火や水の印と考えられています。巴紋を社紋とする神社が多いのは、古代人がこの紋によって霊を表したからだとか。

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「ICHIMATSU」玉井祥子 市松紋は古墳時代の埴輪の服にもあしらわれ、古代より用いられてきた文様の一つ。江戸時代の歌舞伎役者「佐野川市松」が名前の由来ですが、それ以前には「石畳」や「霰(あられ)」の名で親しまれてきました。題材になっている特殊な紋は、佐野川市松の着物の柄から採用したとのこと。

玉井氏の半立体的な作品の数々は、実際に至近距離で作品を見た時にはじめてわかること、感じるものがとても大きいと感じます。玉井氏によって命を吹き込まれた文様を見て、古代に思いを馳せてみるのもいいですね。

世界で活躍する現代日本美術作家の作品が楽しめる貴重な7日間

NYで活躍中の注目アーティストが凱旋帰国! GINZA SIX「出口雄樹・玉井祥子 二人展」を見逃すな!
今展では作家二人も一時帰国し、会期中在廊しています! ラッキーなら会えるかも?

今展の大きな魅力の一つは、出口氏の緻密な描写による具象絵画と、玉井氏の半立体的な抽象画という全く趣の異なる二人の作品が、同時に40点も見られるという点です。しかしどちらも、私たちに馴染み深い伝統的な日本の画材や画法を現代美術に応用しているという点では同じ。どちらの作品も「現代アートは難しい」という印象を払拭する、親しみやすい作品ばかりです。ニューヨークからやってきた最新の日本現代美術、わずか7日間と会期が短めですが、自信を持っておすすめできる作品揃いですので、ぜひチェックしてみてくださいね。作品の写真撮影もOKとのことです!

文/笛木あみ

展覧会情報

展覧会名「出口雄樹・玉井祥子 二人展」
場所 Artglorieux GALLERY OF TOKYO (アールグロリュー・ギャラリー・オブ・トーキョー)
〒104-0061東京都中央区銀座6-10-1 GINZA SIX 5F
会期 3月21日(木・祝)→3月27日(水)
開廊時間 10:30〜20:30(無休)※最終日は18時閉場
公式サイト

書いた人

横浜生まれ。お金を貯めては旅に出るか、半年くらい引きこもって小説を書いたり映画を撮ったりする人生。モノを持たず未来を持たない江戸町民の身軽さに激しく憧れる。趣味は苦行と瞑想と一人ダンスパーティ。尊敬する人は縄文人。縄文時代と江戸時代の長い平和(a.k.a.ヒマ)が生み出した無用の産物が、日本文化の真骨頂なのだと固く信じている。