1年のうち、美術展が一番盛り上がるのが、お出かけ日和となる春と秋。各美術館・博物館もその年で一番力をいれている特集展示を春か秋のどちらかに予定していることが多いもの。特に今年は新天皇即位・改元を5月に予定しているため、ゴールデンウィークは10連休となり、美術館・博物館にとって絶好の書き入れ時になっているのかもしれません。
そのせいか、今年は例年以上に要注目の展覧会が4月に集中している印象です。和樂Web編集部では、毎月「おすすめ展覧会10選」のまとめ記事をお送りしておりますが、正直なところ2019年4月は、おすすめしたい展覧会が30くらいあって紹介しきれません!
そこで、今月はそんなおすすめ美術展候補の中でも、特に「日本美術」系の展覧会で、かつ「地方」に着目して、東京以外の展覧会を多めに選んでみました。(※ですので、「GW近辺に東京で観られるおすすめの西洋美術展」については、後日別記事としておすすめのまとめを紹介させていただきます)
それでは、2019年4月にスタートするとっておきの「編集部厳選」の展覧会を発表してみたいと思います。
オススメ展覧会1 メアリー・エインズワース浮世絵コレクション-初期浮世絵から北斎・広重まで(千葉市美術館)
明治時代から戦前にかけて、浮世絵の名品は相当な数が欧米諸国の美術愛好家の元へと買われていきました。近年、海外のコレクターや美術館のコレクションが里帰りして日本を巡回する企画展が頻繁に開催されていますが、4月13日から千葉市美術館で始まる「メアリー・エインズワース浮世絵コレクション-初期浮世絵から北斎・広重まで」もそういった大規模な里帰り展の一つです。
メアリー・エインズワースは、非常に珍しい「女性」の浮世絵大コレクターでした。39歳の時に来日し、浮世絵の魅力に取り憑かれて以来、男性顔負けの「目利き」として1500点以上の浮世絵の名品を収集しました。彼女の死後、コレクションは彼女の地元であるアメリカ・オハイオ州オーバリン大学に一括寄贈されました。
そして日本側からの現地調査が終了した2019年、メアリー・エインズワース浮世絵コレクションから、いわゆる六大浮世絵師と呼ばれる鈴木春信・鳥居清長・東洲斎写楽・喜多川歌麿・葛飾北斎・歌川広重が手がけた優品を中心に約200点が初めて来日します。
喜多川歌麿「婦人相学十躰 面白キ相」大判錦絵 寛政4-5年(1792-93)頃 アレン・メモリアル美術館蔵
歌川国政「岩井粂三郎の禿たより」大判錦絵 寛政8年(1796) アレン・メモリアル美術館蔵
歌川国芳「東都名所 するがだひ」大判錦絵 天保3-4年(1832-33) アレン・メモリアル美術館蔵
展覧会は非常にオーソドックスな構成。黎明期の初期作品から、紅絵などを経て錦絵が誕生した発展期を経て、黄金期から幕末の爛熟期へと歴史を追いながら5章構成で見て回ることができます。エインズワースは、特に広重がお気に入りだったようで、「東海道五拾三次之内」や「名所江戸百景」から状態の良い作品が多数展示される予定です。
歌川広重「名所江戸百景 両国花火」大判錦絵 安政5年(1858) アレン・メモリアル美術館蔵
本展の会期終了後は、静岡市美術館(2019年6月8日~7月28日)、大阪市立美術館(2019年8月10日~9月29日)と順番に巡回する予定です。また、オープニング記念割引として、4月13日(土)は入場料が半額になります。ただでさえ良心的な入館料が設定されている千葉市美術館。これは初日に行くしかないですね!
展覧会名 オーバリン大学アレン・メモリアル美術館所蔵
メアリー・エインズワース浮世絵コレクション
-初期浮世絵から北斎・広重まで
場所 千葉市美術館
会期 2019年4月13日(土)~5月26日(日)
公式サイト
オススメ展覧会2 横山華山展(宮城県美術館)
2018年、東京ステーションギャラリーを皮切りに始まった横山華山展。記者発表会では「横山大観ではありません」「渡辺崋山でもありません」などと自虐的なネタも飛び出したほど、「誰それ?」と熱心なアートファンでもよく知らない”忘れ去られてしまった”絵師のうちの一人でした。
しかし、今でこそ忘れ去られてはいますが、生前当時は伊藤若冲、円山応挙、池大雅といった江戸時代における京都画壇全盛期に活躍した絵師のうちの一人であり、「祇園祭」や山形の名産品「紅花」づくりなどを描いた風俗画から、花鳥画、山水画に至るまで、非常に力量のある素晴らしい画家だったのです。
そして、巡回展の最初の開催地・東京ステーションギャラリーでの展覧会が始まってみるとびっくり。展覧会中盤まではそこそこの客入りでしたが、目の肥えたアートファンが、館内に所狭しと展示された作品群を観て絶賛。ネット上でじわじわと好評価が広がり、最終日近くはお客さんで大混雑したのでした。
横山華山「桃錦雉・蕣花猫図」泉涌寺
そんな遅れてきた大物絵師・横山華山の展覧会が約半年ぶりに仙台へと巡回します。東京展とほぼ同じ構成で、展示替え・場面替えも行われる予定。編集部第一のおすすめは、ゴールデンウィークを中心にごく短期間だけ出展される「紅花屏風」です。
横山華山「紅花屏風」(左隻)文政8(1825)年 山形美術館((山)長谷川コレクション)
京都の有力な紅花問屋・伊勢屋の特注で、数年がかりで丁寧に仕上げられたと言われる本作は、紅花の栽培~刈り取り~加工~出荷までを非常に丁寧に描きこんだ風俗画の大傑作です。
横山華山「祇園祭礼図巻」(上巻部分)天保6-8(1835-7)年 個人蔵
また、祇園祭りの長い隊列を最初から最後まで精密に描いた「祇園祭礼図巻」も素晴らしいです。膨大な人物はきちんと一人ずつユーモアたっぷりに描き分けられ、見飽きることはありません。
なお、本展終了後は、最終巡回地・京都文化博物館にて7月2日~8月17日の日程で京都展が開催される予定です。公式サイトで謳われているように、横山華山の凄さは「みればわかる」のです!おすすめです。
展覧会名 「横山華山展」
場所 宮城県美術館
会期 2019年4月20日(土)~6月23日(日)
公式サイト
オススメ展覧会3 特別展「没後130年 河鍋暁斎」(兵庫県立美術館)
河鍋暁斎の曾孫で、暁斎研究の第一人者でもある河鍋楠美さんの長年にわたる熱心な普及活動や、2010年代に入ってからの大型回顧展の成功によって、一気にアートファンの間でメジャーな存在になった河鍋暁斎。2019年も、2月~3月にかけて東京・サントリー美術館で開催された展覧会「河鍋暁斎 その手に描けぬものなし」も、暁斎の狩野派としてのアイデンティティや真摯に画業に打ち込んだ修行時代をクローズアップして特集し、新たな暁斎像に迫る好展示でした。
しかし、今年はもう一つ大きな暁斎展がすぐに関西で用意されていました!それが、今回ご紹介する特別展「没後130年 河鍋暁斎」です。
同展では、大規模展にふさわしく、まず暁斎の幅広い画業を紹介しています。掛軸や絵巻、屏風や絵馬や引幕に描いた絵画作品だけでなく、暁斎が手がけた錦絵、挿絵本、工芸品など、幅広い種類の作品が展示されます。
「白衣観音図」明治前半
河鍋暁斎記念美術館 *前期展示
「東京名所之内 上野山内一覧之図」明治14(1881)年
河鍋暁斎記念美術館 *後期展示
また、河鍋暁斎記念美術館から出品される下絵、版下絵、画稿などの「下絵類」を通して暁斎の観察力、洞察力、写生力、描写力を実感しつつ、コンドル、ギメ、ベルツといった明治時代に来日した外国人との交流がわかる資料や神社・寺などに奉納された作品を通して、暁斎の幅広い人的ネットワークも見ることができます。
「鳥獣戯画 猫又と狸 下絵」制作年不詳
河鍋暁斎記念美術館 *前期展示
「惺々暁斎下絵帖」弘化3(1846)年-明治17(1884)年
河鍋暁斎記念美術館 *通期展示(頁替え)
そして、暁斎展に通いなれた上級者でも必ず見ておきたいのが、暁斎と親しく付き合いがあったお雇い外国人、エルヴィン・フォン・ベルツの旧蔵品です。同展では、現在の所蔵先であるドイツのビーティヒハイム・ビッシンゲン市立博物館からベルツの旧蔵品が里帰りするのです。
「美女の袖を引く骸骨たち」明治時代
ビーティヒハイム・ビッシンゲン市立博物館 *通期展示
サントリー美術館で暁斎にハマった人は、是非「おかわり」として関西に遠征してみてはいかがでしょうか?まだまだ今年は暁斎から目が離せないようです!
展覧会名 特別展「没後130年 河鍋暁斎」
場所 兵庫県立美術館
会期 2019年4月6日(土)~5月19日(日)
公式サイト
オススメ展覧会4「没後170年記念 北斎―富士への道」(太田記念美術館)
2019年1月~3月にかけて、非常にマニアックで大規模な展覧会「新・北斎展 HOKUSAI UPDATED」が東京・六本木の森アーツセンターギャラリーで開催されましたが、今年の北斎展はまだまだこれで終わりではありません!すぐに4月からスタートする展覧会が、太田記念美術館「没後170年記念 北斎 -富士への道」なのです。
北斎といえば、「絵手本」「肉筆画」「北斎漫画」など、魅力的な切り口はいくらでもありますが、一番親しまれているテーマは「富士山」なのではないでしょうか。北斎の名前が世界中でブレイクしたきっかけも富士山が遠見に描かれた「神奈川沖浪裏」でした。また、北斎の絶筆となった肉筆画「富士越龍図」でも富士山をバックに天に昇る龍が描かれました。
葛飾北斎「冨嶽三十六景 凱風快晴」(後期)
葛飾北斎「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」(前期)
本展は、そんな北斎が好んで画題として描き続けた「富士山」をテーマとして作品を集めて特集した展覧会です。代表作「冨嶽三十六景」や「富嶽百景」など、約70年にわたる画業で残した膨大な作品の中から、前後期合わせて約150点の作品が紹介されます。
葛飾北斎『富嶽百景』二編「夕立の不二」(後期)
葛飾北斎「百人一首宇波かゑとき 山辺の赤人」(前期)
前後期合わせて約200点が展示される、非常に力の入った展覧会です。初心者でも観たことのある作品から、マニアックな上級者向けの作品までズラリとそろった本展で、北斎の描いた富士山をじっくり比べて楽しむのも面白そうですね。
展覧会名 「没後170年記念 北斎 ―富士への道」
場所 太田記念美術館
会期 2019年4月4日(木)~5月26日(日)
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オススメ展覧会5 屏風爛漫(静岡県立美術館)
静岡県立美術館の広大な展示会場を生かして、桃山時代から現代までに制作された「屏風絵」だけを特集した展覧会です。静岡県立美術館の所蔵する豊富なコレクションを中心に、屏風絵の優品が多数出品されます。
狩野山雪「四季花鳥図屏風」江戸時代(17世紀)個人蔵(右隻)
石田幽汀「群鶴図屏風」江戸時代(18世紀)静岡県立美術館蔵(左隻)
鈴木松年「神武天皇・素戔嗚尊図屏風」明治22年(1889年)個人蔵(左隻)
本展では、単に屏風絵に描かれた花鳥や山水を愛でるだけではありません。副題に「ひらく、ひろがる、つつみこむ」とあるように、屏風そのものが持つ機能や形に着目して、様々な楽しみ方を再発見していこう、という狙いがあります。果たして、どんな展示場の工夫や解説が待っているのか、非常に楽しみですね。
伊藤若冲「樹花鳥獣図屏風」江戸時代(18世紀)静岡県立美術館蔵(右隻)
また、静岡県立美術館の屏風絵コレクションといえば、日本美術ファンが一番楽しみに待っているのが、伊藤若冲「樹花鳥獣図屏風」ではないでしょうか?世界にたった3点しか現存しない、若冲オリジナルの技法「枡目描き」で動物や植物を屏風いっぱいに描きこんだ賑やかな作品です。
レストラン「Rodin TERRACE」
そうそう、静岡県立美術館は、併設のレストラン「Rodin TERRACE」も非常に美味しいのでおすすめです! 屋外彫刻やロダン館と一緒に、ゆっくり1日楽しむことができますね!
展覧会名 「屏風爛漫―ひらく、ひろがる、つつみこむ―」
場所 静岡県立美術館
会期 2019年4月2日(火)~5月6日(月・祝)
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オススメ展覧会6「美を競う 肉筆浮世絵の世界」(京都文化博物館)
江戸時代、錦絵や読本挿絵、摺物など町絵師として様々なジャンルの木版画で活躍した浮世絵師たち。しかし、彼らは紙や絹のキャンバスの上に、直接岩絵の具で絵筆を振るい、絵画作品を残すこともありました。浮世絵師たちの残したこうした1点ものの絵画作品は、通常「肉筆浮世絵」と呼ばれ、一般的に錦絵よりも貴重な作品とみなされています。
なぜなら、この世に1点しか存在しないというレア感もさることながら、肉筆浮世絵では錦絵で表現しきれない繊細な色合いやタッチが可能となるため、画家本来の力量がしっかり発揮された作品が多く残っているからです。
歌川国芳「縁台美人」
そんな「肉筆浮世絵」ばかりを集めた展覧会が本展「美を競う 肉筆浮世絵の世界」です。本展では、肉筆浮世絵を約420点所蔵する、国内屈指の大コレクションで知られる、岐阜県高山市の「光ミュージアム」の名品がまとまって公開される絶好の機会なのです。
出品される作家は、葛飾北斎、歌川広重、歌川国芳らビッグネームはもちろん、肉筆浮世絵を専門とした名手・宮川長春、浮世絵作品も残していた洋風画の第一人者・司馬江漢や超個性派・祇園井特の作品も楽しめます。
宮川長春「立ち美人」
溪斎英泉「立ち美人」
また、美人画以外のジャンルでは葛飾北斎の大胆な構図の作品もおすすめ。森羅万象を描き尽くそうとした北斎らしいスケール感の大きな作品です。
葛飾北斎「日・龍・月」
作家の個性がより際立って現れる肉筆浮世絵のディープな世界。国芳や北斎といったビッグネームだけでなく、聞いたこともないような無名の作家が手がけた凄い作品と出会えるかもしれません。いつも見慣れた錦絵とは一味違う、この世に1点しかない貴重な「浮世絵」の世界をたっぷりと楽しんでみてくださいね。
展覧会名 「美を競う 肉筆浮世絵の世界」
場所 京都文化博物館
会期 2019年4月27日(土)~6月9日(日)
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オススメ展覧会7「四条派への道 呉春を中心として」(西宮市大谷記念美術館)
日本美術史に輝く辻惟雄氏のベストセラー「奇想の系譜」の影響で、円山応挙の有力な弟子の中では頭一つ抜けて有名になった長沢芦雪。しかし、円山応挙にはもうひとり有力な弟子がいました。それが、本展で中心となって取り上げられている呉春(松村月渓)です。呉春は、与謝蕪村・円山応挙と、京都画壇の二人のスター絵師に師事し、師匠たちの画風から大きく影響を受けつつ、応挙の死後、自らを祖とする新しい絵師集団・四条派を立ち上げて後進を育成しました。
呉春「秋夜擣衣図」公益財団法人阪急文化財団逸翁美術館蔵
呉春「白猿図」(※後期日程)
展示では、まず二人の巨匠に師事し、多彩な画技を身につけていった呉春の画業を振り返りつつ、同時期の円山派の源琦、山口素絢、吉村孝敬の作品を見ながら、呉春との作風の違いを見ていきます。また、呉春の三人の弟子、松村景文、岡本豊彦、柴田義董の作品を通して四条派が発展していく兆しをとらえ、西山芳園、上田公長ら大坂で活躍した四条派絵師の作品も楽しむことができます。
呉春「松鶴図」(右隻)
本展は「呉春」という、日本美術史の中では重要な役割を果たしたものの、知名度的にはまだまだ一般の美術ファンにも知られていない画家を特集した非常に意欲的な展覧会です。若冲、応挙といったビッグネームの「次」を知りたい人にとってはぴったりの展覧会になりそう。
実際、本展で取り上げられた四条派の系譜を引く「京都画壇」の絵師たちの知名度は、2010年代後半に入ってから徐々に高まりつつあります。開館以来、メジャーな作家だけでなく「知られざる」画家たちにも焦点を当てて、より掘り下げた特集展示を続けてきた同館ならではの好企画です。ぜひ、呉春だけでなく、たくさんの四条派の作家たちの作品群を見比べて、自分だけのお気に入りの画家を発掘してみてくださいね。
展覧会名 四条派への道 呉春を中心として
場所 西宮市大谷記念美術館
会期 2019年4月6日(土)~5月12日(月)
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オススメ展覧会8「長谷川等伯展 〜屏風・襖-大画面作品を中心に〜」(石川県七尾美術館)
長谷川等伯といえば、東京国立博物館の国宝「松林図屏風」や、智積院の障壁画などが有名ですが、長谷川等伯の作品がまとまって楽しめるのは東京や京都だけではありません。等伯生誕の地・能登半島にある石川県七尾美術館もまた、素晴らしい作品群を所蔵しています。
「列仙図屏風」(右隻)長谷川等伯筆 京都市・壬生寺蔵
同館では、平成8年から毎年定期的に年1回「長谷川等伯展」を継続的に開催。今年で24年連続での等伯展開催となります。今年度「長谷川等伯展 〜屏風・襖-大画面作品を中心に〜」では、等伯の「大画面作品」を中心に21点の作品を紹介。晩年期に制作された水墨の屏風や襖や、若年期「信春時代」の仏画、「長谷川派」絵師の絵画なども展示される予定です。
「猿猴図屏風」長谷川等伯筆 石川県七尾美術館蔵
「涅槃図」長谷川信春(等伯)筆 羽咋市・妙成寺蔵
和樂4・5月号でも「金沢特集」を組んでいますが、このゴールデンウィークにせっかく金沢に来たのなら、思い切って能登半島まで足を伸ばしてみてはいかがでしょうか? まだ観たことのない等伯作品と出会える良い機会です!
展覧会名 長谷川等伯展 〜屏風・襖-大画面作品を中心に〜
場所 石川県七尾美術館
会期 2019年4月27日(土)~5月26日(日)
公式サイト
オススメ展覧会9 特別展「京都 大報恩寺 快慶・定慶のみほとけ」(九州国立博物館)
北野天満宮にほど近い閑静な住宅地に、地元住民には「千本釈迦堂」という通り名で愛されている、知る人ぞ知る名刹があることをご存知でしょうか? それが、本展で特集されている大報恩寺です。
大報恩寺外観 撮影=小野祐次
応仁の乱でついた刃跡が本堂の柱に残されるなど、京都市内で現存する最古の木造建築を擁する古刹・大報恩寺では、歴史的な価値の高い仏像や経典などの文物を多数所蔵しています。
重要文化財 釈迦如来坐像(しゃかにょらいざぞう)行快作 鎌倉時代・13世紀 大報恩寺蔵
本展では、本堂の秘仏本尊として通常時は扉の向こう側でひっそりと眠っている行快作「釈迦如来坐像」をはじめ、肥後定慶作「六観音菩薩像」、快慶作「十大弟子立像」など、大報恩寺を代表する寺宝を惜しげもなく公開。鎌倉時代のスター仏師達が手がけた最高傑作の数々を、美しいライティングと360度型展示の下、ゆっくりと鑑賞できます。
集合画像
また、九州展では肥後定慶「六観音菩薩像」の6体すべてが撮影可能に!2018年秋に先行して開催された東京展では「聖観音菩薩立像」1体のみだったので、非常にお得です。
左から 聖観音菩薩立像(しょうかんのんぼさつりゅうぞう)、千手観音菩薩立像(せんじゅかんのんぼさつりゅうぞう)、馬頭観音菩薩立像(ばとうかんのんぼさつりゅうぞう)、十一面観音菩薩立像(じゅういちめんかんのんぼさつりゅうぞう)、准胝観音菩薩立像(じゅんでいかんのんぼさつりゅうぞう)、如意輪観音菩薩坐像(にょいりんかんのんぼさつざぞう)、いずれも 重要文化財 六観音菩薩像のうち、肥後定慶作 鎌倉時代・貞応3年(1224) 大報恩寺蔵
東京展を見逃した方も、リピーターの方も是非この機会に慶派仏師の美仏をチェックしてみてくださいね。仏像好きにはたまらない展覧会です。
展覧会名 特別展「京都 大報恩寺 快慶・定慶のみほとけ」
場所 九州国立博物館
会期 2019年4月23日(火)~6月16日(日)
特設サイト
オススメ展覧会10「小倉遊亀と院展の画家たち展 滋賀県立近代美術館所蔵作品による」(静岡市美術館)
新しい日本画を創り上げるという壮大な目標の下、岡倉天心によって明治31年に立ち上げられた日本美術院。同団体が年2回開催する公募展は通称「院展」と呼ばれ、現代に至るまで日本画系公募展では最大規模の団体として、才能豊かな画家たちを発掘し続けています。
そんな「院展」にゆかりの深い画家たちの中で、女性作家として活躍したのが本展で中心に取り上げられる小倉遊亀(おぐらゆき)です。小倉遊亀は、前田青邨・小林古径らと共に「院展三羽烏」として日本美術院のエース格として活躍していた安田靫彦に25歳の時に入門。それ以来、105歳で亡くなるまで、約80年の画業において、院展の画家たちと研鑽を積み、身近な子どもたちや静物画を中心に明るくモダンで、気品あふれる作品群を残しました。
小倉遊亀 「姉妹」 昭和45年(1970)滋賀県立近代美術館蔵 後期展示
小倉遊亀 「娘」 昭和26年(1951)滋賀県立近代美術館蔵 前期展示
本展では、小倉遊亀の画業の変遷や多彩な作品を紹介しつつ、日本美術院に所属した画家たちの作品も合わせて取り上げ、日本美術院の発展の歴史も振り返ります。
横山大観 「洛中洛外雨十題 八幡緑雨」 大正8年(1919)滋賀県立近代美術館蔵 後期展示
菱田春草 「落葉」 明治42年(1909)滋賀県立近代美術館蔵 後期展示
速水御舟 「洛北修学院村」 大正7年(1918)滋賀県立近代美術館蔵 前期展示
ちょうど近隣の静岡県立美術館で江戸絵画を特集した「屏風爛漫」も開催されていますし、ハシゴして1日日本美術三昧を楽しんでみてもいいですね。JR静岡駅から徒歩3分と新幹線の駅近なので、遠征もしやすい美術館です!
展覧会名 「小倉遊亀と院展の画家たち展 滋賀県立近代美術館所蔵作品による」
場所 静岡市美術館
会期 2019年4月6日(土)~5月26日(日)
(前期:4/6~4/29、後期:5/1~5/26)
公式サイト
4月は面白い展覧会が目白押し!
いかがでしたでしょうか? 冒頭で書いたように、2019年4月は特に多くの注目展がスタートした多く、10展に絞り込むのは非常に後ろ髪引かれるものがありました。ゴールデンウィークを目前にして、今回取り上げた10展以外にもまだまだ数多くの面白い展覧会が開催されます。ぜひ、ご自身でもいろいろと探してみてくださいね。
文/齋藤久嗣