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2019.09.24

埼玉の必見観光スポット!遠山記念館にあるレトロ建築、重要文化財・遠山邸へ

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埼玉・遠山記念館で展覧会を見たあとは、同敷地内にある「遠山邸」を必ず見学してほしい。いやはや、これはもう衝撃を受ける名建築でした。
遠山邸は、遠山記念館の美術コレクションを築いた「遠山元一(とおやまげんいち)」の旧居です。

厳選された素材、考え抜かれた設計、超絶技巧の職人技……すべてにおいて、心がふるえてしまった……。
ここを見るだけでも、わざわざ出かける価値があります。ぜひ、この遠山記念館で、死ぬほど贅沢な名建築を堪能してください。

では、なかに入っていきましょう。2018年、国の重要文化財指定を受けた「遠山邸」へ。


千鳥破風(ちどりはふ)の茅葺き屋根、ケヤキ造りという東棟の表玄関。渋好みのポイントは、巨大な靴脱ぎ石。京都の鞍馬山から取りだした「鞍馬石」は、今や採掘禁止の幻の石でした。

遠山記念館の展覧会レポートはこちら↓
日本文学を進化させた!「かな」の名作が一堂に会する『古筆招来』展レポート【埼玉】

こだわり抜いてつくられた超絶技巧の家

遠山邸をつくったのは、ここ川島町の出身で、日興證券(現SMBC日興証券)の創立者である遠山元一です。

元一はこの地の豪農の家に生まれましたが、若いころに家は没落。彼は丁稚奉公から立身出世をとげ、証券会社をおこすほどになりました。やがて元一は生家の再興を目ざして土地を買い戻し、苦労した母親・美以(みい)のために、昭和8(1933)年から2年7ヶ月を費やして大邸宅を築きます。

施工の総監督は、元一の弟、遠山芳雄(よしお)。設計監督は、東京帝大出身の建築家・室岡惣七(むろおかそうしち)。大工棟梁は中村清次郎(なかむらせいじろう)がつとめました。

芳雄のこだわりは徹底していて、部屋の間取りから庭の一木一草にいたるまで検討をくり返し、全国各地に情報を求め、最高の銘木を探し出してきました。設計は変更を重ねに重ね、建坪40坪ほどの予定だったのに、最終的に300坪を超えるものに……。
この工事に携わった職人は、のべ3万5000人! 関係者の総数は10万人にのぼったそうです。

さて、遠山邸は大きくわけて3つのブロックから構成されています。

1、東棟 関東の豪農風の民家様式
2、中棟 近代風を加味した書院造り
3、西棟 仏間をそなえた京間の数寄屋造り

長い畳敷きの廊下が蛇行しながら、3つの棟をつないでいるという構造です。その長さは片道100メートルほどあって、何度も室内を往復すると、ちょっとしたウォーキングのようなもの。

しみじみと落ち着く田舎風の「東棟」

東棟は、安らぎのある居住空間。
縁(へり)なしの畳を敷き詰めた居間は、いろりをそなえた民家風のスタイルです。おもに母・美以が日常生活を過ごしたそうで、身内的なお客様がいらしたら、ここでもてなしていたとか。


東棟の居間18畳。太いケヤキの柱や、変化をつけた建具格子の桟が生み出す強弱のリズムが見事! 右奥が、家人や使用人が出入りする内玄関です。畳の2枚がイレギュラーなのは、この畳がアート作品だからです。2009年、地元出身の現代美術家・長澤英俊(ながさわひでとし)の展覧会のときにつくられました。


東棟の内玄関の土間。亀甲石(きっこういし)のように見えますが、これは左官職人が研ぎ出した人造石。亀甲の真ん中が微妙に膨らんだ「甲盛り」のようになっており、職人がモルタルに砂利を入れた土をひとつずつ研いで、石のように仕上げています。


東棟から中棟につながる、畳廊下に仕掛けられた窓の意匠。廊下に軽みを入れるアイスポットであると同時に、採光の役割も。

格調のある「中棟」のたたずまい


遠山邸のパブリック空間が中棟です。「庭園入口」の表示のある門から入って、まず目に入るのが、背の高い中棟の建物になります。入母屋(いりもや)造りの2階建てで、2階の高欄(こうらん)の意匠が華やかさを添えていますね。
表玄関のある東棟とは対照的に、こちらはグッと洗練された趣。18畳と10畳からなる書院造りで、広い畳廊下が部屋の周りをぐるりと取り囲んでいます。


こちらが18畳の大広間。天井高10尺(約3メートル)、一間半(約2.7メートル)の床、そのとなりに床脇があります。中央に見える床柱は北山杉の天然絞り。戦後に人工絞りが発明されるまで、1万本に1本といわれた貴重な天然材です。
天井板は、じつに立派な柾目の春日杉(かすがすぎ)の2尺幅(約60cm)。紫がかった壁は、ガーネット・石榴石(ざくろいし)の砂を土にまぜて塗っています。他では見られない個性的な壁!


次の間の10畳から、大広間を見たところ。襖は「遠山」に若松です。遠山記念館は、3月は雛人形、5月は武者飾りをここに飾って、お客様をお迎えします。


大広間からの眺めが、いちばん美しく見えるように庭が設計されているんですって。


建築当初のガラスのまま。完成した昭和11(1936)年当時、日本にこれほどクオリティの高いガラスはありませんでした。幅の広い、透明度も高い、6ミリもある厚いガラスを、アメリカから輸入したのだそうです。


畳廊下が広くて気持ちいいんですね。注目したいのは、縁桁(えんげた)の丸太材。7間(約13メートル)もあり、吉野杉1本が使われています。化粧屋根裏には、わざと「落ち天井」を加えて、2つの違った表情をつくっています。


付書院(つけしょいん)の上の欄間は、桐材の七宝透かし。桐材は細工をするにはやわらかくて、本来なら彫り物にはむきません。それにも増してすごいのは、下の花菱(はなびし)文様を宙に浮かせているところ。わずか爪楊枝1本分ぐらいしか、支えがないのです(ひとつにつき8点の支えがある)。


渡り廊下の建具に仕掛けられた無双窓(むそうまど)。内側からしか開かないようになっていて、80年現役の建具です。

京風数寄屋造りの「西棟」の贅沢さ

母・美以への強い思いを感じる西棟。ここには、書院の茶室的な客間3室と仏間があります。
よい意味で、関東人の「京都風」の解釈がされていて、さりげなくつくろうとしているんだけれど、「自身のワザを見せつけずにはいられない」。職人芸の極致みたいな建築だとも感じます。
個人的には、そこがたまらない陽性の魅力となっており、面白いと思いました。この凝り方は尋常じゃないと申しますか……静かなバージョンの「日光東照宮的なもの」に接する気持ちといいますか……。


西棟8畳半の客間。床の間と右の付書院との間を注目してください。天井が、トントントンと下がっていますよね。このリズミカルな意匠! 中央の柱の壁も、袖のかたちに抜かれています。数寄屋建築もいろんな工夫を凝らすことができるんだなあ。


母の旧姓は「鈴木」。それにちなんで、襖に「ススキ」に露(つゆ)を描いた、武蔵野の意匠。中棟の大広間は「遠山」に若松でしたよね。


8畳半の客間(右)と蔵前廊下(左)の天井。8畳半のほうは、目透し(めすかし)と呼ぶ部分に網代を組んでいます。蔵前廊下の天井は、杉の柾目と板目を交互・上下に組み合わせた「大和天井(やまとてんじょう)」。それをナグリ材の竿縁(さおぶち)で支えています。


7畳の間。「墨差し天王寺(すみさしてんのうじ)」という濃淡の表情をもつ土壁です。遠山邸の見学に来た現代の職人さんは、土壁を見て驚くそうです。「ふつう80年も経った建物は、土壁と建材の間にひびが入ったり隙間ができたりするのに、遠山邸はみんな状態がいい。信じられない!」と。


上写真の7畳間を取り囲む軒内(のきうち)。黒いつや消しの敷き瓦を張り詰めています。ガラス戸を開ければ、内外が一体となる仕組み。


3室の客間のなかで一番大きな12畳の間。木瓜火灯形(もっこうかとうがた)の「狆潜り(ちんぐり)」と呼ぶ窓を大きくとっています。ここは母の寝室で特別仕様。極上の薩摩杉が天井板に使用されるなど、元一・芳雄兄弟のこだわりが尽くされています。優美で品のある雰囲気を演出していますよね。


西棟仏間。須弥壇(しゅみだん)は、中央の扉が鳳凰と宝相華(ほうそうげ)が浮き彫りで表され、火灯窓の周囲には木地に金雲がほどこされています。江戸指物師の伝統を引き継ぐ前田南斎(まえだなんさい)の昭和の名作。

「暮らし」と直結する部分の気配り・デザイン

常時公開中の1階では、この他の部分として、浴室やお手洗いもあります。そこも少しご紹介しましょう。


東棟にある化粧部屋。母・美以はおしろいを使っていたので、体を90度ひねると、手が洗えるという優しい設計。当時のままという、銅(あか)蛇口の細さも見て下さい。隣が浴室になっており、昭和11(1936)年完成の和風住宅に、シャワーがあるのもたいへん珍しいことでした。


派手さを嫌った遠山邸で、異彩を放っているのが、西棟の仏間の隣にあるトイレです。この壁は「紅差し大津磨(べにさしおおつみがき)」の最高級の塗り壁。土にベンガラを混ぜて赤くした上で、光沢が出るように、ふつうの数倍の手間と時間をかけてつくられています。
何がすごいって、作業のコテ跡がないところ。「全国の左官屋さんが語り継いでいる遠山邸のトイレ」らしく、現役の職人が勉強のために見学にきているとか。

遠山邸のまとめ

さて遠山邸のレポートは、いかがだったでしょうか?
「建築を味わう」とは、スマホやパソコンの画面でいくら説明を読んでも、深く知ることはできないもの。かならず、その空間に自分を移動させなければ、ライブの感動を得ることはできません。

訪れた日が雨ならば、雨ならではの豊潤な美しさに出会えますし、晴れた日に訪れたら、外光が織りなす美しさを楽しむこともできる。皮膚感覚で味わうことが、「建築を知る」ことではないかな、と私は思っているんですね。
だから実際に、現地に足を運んでみてほしいのです。

お出かけの場合は、毎週日曜日の13時からおこなっている、学芸員の解説を聞きながら見学するのがおすすめです(平日はボランティアガイドで、不定期催行)。
また、通常非公開である中棟2階(和洋折衷の洋間)は、春夏に限定公開。展覧会と連動した茶会やイベントも、意欲的におこなわれています(HP参照)。

遠山邸は、戦前期の近代和風建築として「記念碑的な遺構」であると、断言できます。先日ご紹介した「古筆招来(こひつしょうらい)」展とともに、遠山記念館で名建築をお楽しみください。

展覧会のご紹介記事はこちら↓
日本文学を進化させた!「かな」の名作が一堂に会する『古筆招来』展レポート【埼玉】
会期:2019年9月14日(土)~10月20日(日)
普段は公開されていない遠山邸中棟2階の数寄屋座敷で、特別展「古筆招来」展開催記念茶会が10月13日(日)に開催されます。

遠山記念館 情報

遠山記念館(重要文化財・遠山邸)
住所:埼玉県比企郡川島町白井沼675
電話:049-297-0007
開館時間:10時〜16時30分(入館は16時まで)
休館日:月曜(祝祭日の場合は開館、翌日休館)
公式サイトはこちら

書いた人

茶の湯周りの日本文化全般。美大で美術史を学んだのち、茶道系出版社に勤務。20年ほどサラリーマン編集者を経てからフリーに。『和樂』他、会員制の美術雑誌など。趣味はダイエットとリバウンド、山登りと茶の湯。本人の自覚はないが、圧が強いらしい。好きな言葉は「平常心」と「おやつ食べる?」。