2019年のゴールデンウィークは、ある「やきもの」の展示を巡ってちょっとした異変がおきました。熱心なファンならご存知かと思いますが、世界に3つしかないと言われる瑠璃色に光るお茶碗、国宝「曜変天目」が3碗同時に別々の美術館で公開されたのです。1碗だけでも話題性十分なのに、3つ同時に見られるとなったものだからもう大変。それぞれ公開されたMIHO MUSEUM、静嘉堂文庫美術館、奈良国立博物館ともに、このお茶碗を見るためだけに長蛇の列ができたのでした。
筆者も実はそのうちの1つを見るため、滋賀県の山深くまでMIHO MUSEUMに駆けつけたのですが、見事に70分待ち。もちろんここまで来たからには引き返すはずもありません。長蛇の列にハマりながら、「これはひょっとしたらやきものや陶磁器って密かに今ブームが来ているのでは?」と考えていました。
そこで帰宅して調べたところ、特に2019年の夏は、全国各地で力の入った陶磁器ややきものの展覧会が開催されていることが判明。それも、洋食器、民芸、超絶技巧、巨匠の回顧展、茶陶とまんべんなく揃っているではないですか。この調査結果を皆さんにお伝えしないわけには夏は越せない!!ということで、僕のまとめ魂に火が付きまして、こうして「2019年夏に陶磁器を楽しめるオススメ展覧会10選」をお送りさせていただくことになりました。
どれも素晴らしい展覧会揃いとなった今回の特集は自信ありです!それではいってみましょう!
オススメ展覧会1:特別企画展 茶人に愛された数々の名碗(サンリツ服部美術館)
ハーモ美術館、北澤美術館、諏訪市原田泰治美術館、サンリツ服部美術館など、諏訪湖畔は美術ファンにとって見逃せない美術館の密集地帯。旅行の道中でフラッと立ち寄る観光客も多いといいます。その中で、特に「茶道具」のコレクションで名高いのがサンリツ服部美術館。開館は1995年と比較的新しく、セイコーエプソン社長であった故・服部一郎と株式会社サンリツとの収集品を合わせ、茶道具や古書画、西洋近現代絵画などを所蔵しています。
黒楽茶碗 銘 雁取 長次郎 桃山時代 16世紀
そんなサンリツ服部美術館ですが、2009年に開催した「茶碗 名碗の かたち」展以来、茶碗をテーマとした展覧会を10年ぶりに開催します。展覧会では、同館コレクションの中でも選りすぐりの名碗が登場。大名茶人・松平不昧(まつだいらふまい)が一番最初に購入した茶道具といわれる「伯庵茶碗 銘 奥田」や井上 馨が愛した長次郎作「黒楽茶碗 銘 雁取」など、作品に纏わるエピソードと合わせて楽しむことができます。
赤楽茶碗 銘 障子 本阿弥光悦 江戸時代 17世紀
中でも注目したいのが、初公開となる本阿弥光悦「赤楽茶碗 銘 障子」です。本作は「光悦七種」や「光悦十作」と言われ、近代数寄者・益田鈍翁(ますだどんおう)が秘蔵した茶碗でもあります。
鑑賞のポイントは、スバリ「火割れ」です。口縁から腰にかけて太い火割れが生じていますよね。また腰には3ヶ所裂け目があり、そこに透明釉が流れ、茶碗を日にかざすと光が透けるように見えます。火割れを障子の組子に見立てて「障子」という銘がつけられました。
重要文化財 玳皮盞天目 吉州窯 中国・南宋時代 12~13世紀
それ以外にも、同館所蔵の、国宝「白楽茶碗 銘 不二山」が特別出品されるなど、多数の名碗が箱や付属品とともに登場。茶人たちに愛された名碗たちをたっぷりと楽しんでみてください。
展覧会名:特別企画展 茶人に愛された数々の名碗
会場:サンリツ服部美術館(〒392-0027 長野県諏訪市湖岸通り2-1-1)
会期:2019年7月6日(土)―9月29日(日)
前期:7月6日(土)―8月18日(日)
後期:8月20日(火)―9月29日(日)
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オススメ展覧会2:「ロイヤル コペンハーゲンのアール・ヌーヴォー」(ヤマザキマザック美術館)
18世紀以降のフランス絵画や、エミール・ガレなどアール・ヌーヴォーのカラス工芸・家具などを多数所蔵するヤマザキマザック美術館。同館では、2019年春から夏にかけて、ロイヤル コペンハーゲンのアール・ヌーヴォー陶磁器を特集する企画展が好評開催中です。
ロイヤル コペンハーゲンといえば、結婚式などの記念日に贈る北欧の高級洋食器として、百貨店などでよく見かけますよね。その歴史は以外に古く、1775 年にデンマーク王立磁器工場として創立されて以来、現代まで約250年の歴史を誇ります。特に同社の評判を高めたのが、19世紀末に開発された「釉下彩」(ゆうかさい)という彩色技術です。顔料であらかじめ描いた絵の上に、透明な釉薬をかけて焼成すると、やわらかいパステル調の風合いの作品ができあがります。この淡くにじんだ色彩、奥行きのある絵画的な空気感など、この独特の釉下彩の質感は、アール・ヌーヴォー全盛の時代に世界中で大人気となりました。
ビング オー グレンダール「釉下彩鷺センターピース」1902-14年 塩川コレクション
本展では、動物たちの姿をかたどった磁器作品「フィギャリン」をメインで出品。ミルキーな釉下彩の風合いと動物たちのかわいさが相まって、ロイヤル コペンハーゲンならではの魅力が感じられます。 ひとびとの心を惹きつけてやまない動物たちとの出会いを、こころゆくまでお楽しみください。
ロイヤル コペンハーゲン「釉下彩小鹿置物」1925-28年 塩川コレクション
ちなみに本展の副題に「塩川コレクション」とありますが、これはロイヤル ビング&グレンダール、ロイヤル コペンハーゲンといった北欧陶磁器における日本有数のコレクター、塩川博義氏のコレクションのことです。普段は大学教授として建築工学科でサウンドスケープ、建築音響、音楽音響といった専門分野を研究する傍ら、約20年かけてコツコツと蒐集を続けてこられたのだそうです。塩川コレクションについてさらに詳しく知りたい方は、塩川氏が運営されている個人HPをぜひチェックしてみてください!
ビング オー グレンダール「釉下彩犬置物 シェットランドシープドッグ」1902-14年 塩川コレクション
また、本展で出品されている全ての作品はなんと【写真撮り放題】。(※フラッシュは使用禁止)美しい作品、かわいい作品が多数並んでいますので、自分好みの作品を見つけたら、思い出に写真を持ち帰ってみてくださいね。また、1Fのカフェでは展覧会限定のスイーツが提供されていますので、こちらも要チェックです!
展覧会名:塩川コレクション「ロイヤル コペンハーゲンのアール・ヌーヴォー」
会場:ヤマザキマザック美術館(〒461-0004 愛知県名古屋市東区葵1-19-30)
会期:2019年4月20日(土)~8月25日(日)
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オススメ展覧会3:企画展「富本憲吉入門―彼はなぜ日本近代陶芸の巨匠なのか」(奈良県立美術館)
全国各地のやきものを研究し、民芸調を土台に独自の作品世界を創り出した富本憲吉(とみもとけんきち)。筆者はたびたび古美術のオークション会場やギャラリーに足を運びますが、北大路魯山人や河井寛次郎などと並び、富本憲吉の作品は特に近年非常に価格が高騰しているイメージがあります。亡くなってから50年以上経過する中で、ますます人気が高まっている大陶芸家なのです。
「色絵四弁花更紗模様 六角飾筥」(いろえしべんかさらさもようろっかくかざりばこ)1945(昭和20)年 奈良県立美術館蔵
彼の地元である奈良県立美術館では、これまでも近代陶磁器作家の巨匠を顕彰する展覧会をたびたび開催してきました。そして2019年夏、新たに「富本憲吉入門-彼はなぜ日本近代陶芸の巨匠なのか」という展覧会が始まりました。
今回の富本憲吉展は、展覧会名の通り初心者におすすめしたい「入門編」の展覧会。富本独自の「美」の感性はどのようにして育まれてきたのか、その多様な創作品を通してじっくり見ていくことができます。彼は楽焼制作に始まり、土焼・白磁・染付と多様な創作活動を展開し、色絵磁器へと作域を広げていきました。その陶業は、独自の模様の探求、造形を通した美の表現、量産の試みといった課題に取り組んだ道のりでもありました。
「赤地金銀彩羊歯模様 蓋付飾壷」(あかじきんぎんさいしだもよう ふたつきかざりつぼ)1953(昭和28)年 奈良県立美術館蔵
また、本展は富本憲吉作品に見慣れている方にとっても朗報かもしれません。なぜなら、新たに収蔵された初公開作品も本展で21点と多数出品される予定だからです。まだ見知らぬ作品と出会って、富本憲吉の新たな魅力を発見できるチャンスです!
「色絵四弁花模様香炉」(いろえしべんかもようこうろ)1944(昭和19)年 奈良県立美術館蔵/本展で初披露される新収蔵作品!
「白磁 壺」1933(昭和8)年 奈良県立美術館蔵/本展で初披露される新収蔵作品!
奈良県立美術館は実は筆者の実家の近くにあり、実家に帰省するたびに必ず立ち寄るようにしている美術館なのですが、いつ行っても建物の外から見た印象よりも遥かに広い館内に驚かされています。その広大な展示スペースを贅沢に使って、約160点が並ぶ今回の展覧会は、民藝好き、やきものファンにはたまらない屈指の展覧会と言えそうです。
展覧会名:企画展「富本憲吉入門―彼はなぜ日本近代陶芸の巨匠なのか」
会場:奈良県立美術館(〒 630-8213奈良市登大路町10-6)
会期:2019年6月29日(土)~9月1日(日)
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オススメ展覧会4:特別展「食の器」(日本民藝館)
日本民藝館の創立者・柳宗悦は、「実用のために作られた雑器にこそ美が宿る」とした「用の美」を唱えて民藝運動の旗手として活躍しました。柳は、それまで注視されてこなかった「手廻りもの」「普段使い」「勝手道具」などと呼ばれていた日用雑器の中に存在する「美」を具体的に示すために、しばしば皿や碗、盆といった「食の器」を取り上げて紹介してきました。
漆絵箔置桃文秀衡椀[手前飯椀・汁椀] 桃山~江戸時代 17世紀
色絵波文輪花形皿[真ん中・向付] 景徳鎮民窯 明時代 17世紀前半
根来盥[折敷] 江戸時代 17世紀
箔絵梅文椀[右奥・煮物椀] 江戸時代 17世紀
織部草文額皿[左奥・焼物鉢] 美濃 江戸時代 17世紀
また、柳は日常生活の中でも、自らの美意識にあった食の器を蒐集していました。各地での工芸調査や蒐集の旅、著述活動などの傍ら、少しずつ集めたコレクションは、実際に自宅の食事で普通に使われていたそうです。(見出し直下のメイン画像にある河井寬次郎と濱田庄司の食器は、実際に柳家の食卓で活躍していたものです!)
大井戸茶碗 銘 山伏 朝鮮時代 16世紀
日本民藝館の展示室に新たに展示された作品が、その前日まで柳の自宅の食卓に上がっていたということもよくあったのだとか。本展では、そんな柳が実際に日常生活で使用した食器や、柳独自の工芸論に大きな影響を与えた茶の湯や懐石の器、江戸時代の饗応や年中行事で使われた晴れの器などを紹介しています。
鉄大風炉 伝辻与次郎作 桃山~江戸時代 16~17世紀/鉄絵花菱文大敷瓦 美濃 江戸時代 17世紀
※ともに大徳寺高桐院伝来
華南三彩印花魚藻文稜花盤 華南地域 明時代 16~17世紀
柳宗悦の美意識をたっぷり感じられると共に、桃山時代・江戸時代など各時代のやきものの名品を見ることによって鑑賞眼も磨かれるという点で、民藝好き、やきもの好きなど幅広い陶磁器ファンにオススメの展覧会です。
展覧会名:特別展「食の器」
会場:日本民藝館(〒153-0041 東京都目黒区駒場4-3-33)
会期:2019年6月25日(火)~9月1日(日)
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オススメ展覧会5:「マイセン動物園展」(パナソニック汐留美術館)
18世紀初頭、ヨーロッパで初めて硬質磁器の製造に成功したドイツの名窯・マイセン磁器製作所。以来約300年、ミルク色の白磁や、染付の技法を応用して完成した「ブルーオニオン」様式のカップ、ソーサーまで高級洋食器の名品を生み出し続け、マイセン磁器製作所はヨーロッパの美術工芸界でトップブランドであり続けています。
その中でもアール・ヌーヴォー様式が席巻した19世紀後半~20世紀初頭に制作された「動物をモチーフとした美術作品」を大特集。約120点の出品作品中、8割以上が立体で動物を表現した陶彫作品となっています。その一番のみどころは、釉下彩やイングレイズといった技法が駆使され、柔らかな淡彩で表現された動物のしなやかな質感です。模様や表情がリアルに表現され、上品な愛らしさを楽しむことができます。
いくつか見ていきましょう。まずは、釉薬の中に絵具を染み込ませ閉じ込める技法として開発された「イングレイズ」という技法を駆使して制作された作品です。
「二匹のフレンチブルドッグ」 エーリッヒ・オスカー・ヘーゼル 1924~1934年頃 J’s collection
また、神話や寓話を主題とした作品もマイセン磁器の立体作品では多数制作されました。人間を風刺した「猿の楽団」や自然の四大元素が擬人化され、超絶技巧を駆使して制作された「四大元素の寓意」など、美しいだけでなくじっくりと考えさせられるような作品も多数出品されました。
「猿の楽団」 ヨハン・ヨアヒム・ケンドラー、ペーター・ライニッケ 1820~1920年頃 個人蔵
「人物像水注『四大元素の寓意』」 ヨハン・ヨアヒム・ケンドラー 1820~1920年頃 個人蔵
明治時代、横浜で真葛焼(まくずやき)の工房を営み、輸出用の超絶技巧陶磁器で一世を風靡した宮川香山は、「高浮彫」という技法で日本の花鳥画の世界を3Dでリアルに表現しましたが、マイセンでも陶磁器の装飾技法が大きく発達しました。特に、多数の小花彫刻を貼り付けて磁胎を装飾するいわゆる「スノーボール」はマイセンを代表するシリーズのひとつとして有名です。本展では、マイセンの「スノーボール」作品を中心に、マイセン作品に表された動物たちを楽しめます。
「スノーボール貼花装飾蓋付昆虫鳥付透かし壺」 ヨハン・ヨアヒム・ケンドラー 1820~1920年頃 個人蔵
また、300年以上の歴史を持つマイセン磁器製作所では、歴史上多数の著名なスター職人達を輩出。本展でもそのうちの一人として、20世紀のマイセンを代表するモデラーのひとりであるマックス・エッサーを大きく取り上げています。そこで卓越した造形力を見せた彼は、1920年にマイセンに招聘され、わずか4年後には工房トップを務めるまでにスピード出世。マイセンではベッドガー炻器によるアール・デコ様式の彫刻作品、動物彫刻の名手として大活躍しました。
「ライネケのキツネ」 マックス・エッサー 1924~1934年頃 個人蔵
ゲーテの叙事詩から着想を得て制作された磁器製の「ライネケのキツネ」はアール・デコを代表するテーブルセンターピースとして高い評価を得ています。
「カワウソ」 マックス・エッサー 1927年 個人蔵
1937年のパリ万博ではベッドガー炻器による「カワウソ」が見事グランプリを受賞。マックス・エッサーの名はヨーロッパ中に知れ渡りました。
このように非常に充実したラインナップとなった本展ですが、驚くことに約9割の作品が展覧会初出品なのです。つまり、ほとんどの美術ファンにとって初めて見る作品ばかりということなのです。しかも、なんと半数近くの作品が【写真撮り放題】なのです。(※フラッシュ撮影は禁止)内覧会の後、子供を連れて再度見に行きましたが「かわいい!」と食いついて写真を撮りまくっていました。ぜひお気に入りの作品を見つけてみてくださいね!
展覧会名:「マイセン動物園展」
会場:パナソニック汐留美術館(〒105-8301 東京都港区東新橋1-5-1 パナソニック東京汐留ビル4階)
会期:2019年7月6日(土)~9月23日(月・祝)
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オススメ展覧会6:企画展「茶席を彩る中国のやきもの」(中之島香雪美術館)
中之島香雪美術館では、朝日新聞社の創業者・村山龍平が収集した古美術の名品「村山コレクション」を多数所蔵しています。昨年の開館から1年間、開館記念として所蔵作品を5期に分けてテーマ別にその膨大なコレクションを少しずつ公開してきました。近代数寄者としても活躍した村山が蒐集した茶道具については、第3期でまとめて披露されました。僕もちょうど東京から遠征して足を運んだのですが、日本・中国・朝鮮だけでなく東南アジアまで幅広くカバーした陶磁器と、光悦や大雅などの絵画の名品を静寂な展示空間で見ることができて、非常に満足して帰途についたのが昨日のように感じられます。
さて、同じ茶道具を特集した展覧会でも、本展が開館記念展と違うのは、展示されている全102点が「中国」の茶器や懐石道具に限定して構成展示されているということです。しかも、村山コレクションの中国陶磁器コレクションは非常にハイレベル。鎌倉時代や室町時代の名品がゴロゴロ展示されているのです!
景徳鎮窯「古染付鹿馬図富士山形鉢」(明時代末期、17世紀)
たとえば、まだ日本ではほぼ焼締陶器しか作れなかった中世に茶器として輸入された建窯などの天目茶碗や、景徳鎮窯(けいとくちんよう)の古染付や祥瑞といったレアアイテムがまとめて見られるのです。プレスリリースによると、こうした名品を村山は自らが主催した茶会で惜しげもなく使用したのだとか。
龍泉窯「青磁筍花入」(南宋時代、13世紀)
特に注目したいのは、これまで公開される機会が極めて少なかった建窯 「油滴天目」や、大正時代に刊行された豪華茶道具図録に掲載されて以降、100年近く秘蔵されていた吉州窯「梅花天目」などのレアな茶碗です。恐らく熱心な茶道具ファンの方でも、この2つは初めて見る人が多いのではないでしょうか。
吉州窯「梅花天目」(南宋時代、12~13世紀)
建窯「油滴天目」(南宋時代、12~13世紀)
また、室町時代後期(16世紀)の記録に登場し、400年以上前からその存在が確認できる唐物「肩衝茶入 銘 薬師院」や、江戸時代後期(19世紀)に相撲と同様の「番付」が作られるほど人気が高まった様々な香合なども見どころのポイントです。
ピーク時は「鳥獣戯画」を見るために行列ができた春の特別展「明恵の夢と高山寺」に比べると、落ち着いて見ることができるはず。ぜひ静謐でリッチな展示空間の中で日本屈指の名品が揃った村山コレクションの茶道具を楽しんでみてくださいね。
唐物「肩衝茶入 銘 薬師院」(南宋~元時代、13~14世紀)
展覧会名:企画展「茶席を彩る中国のやきもの」
会場:中之島香雪美術館(〒530-0005 大阪府大阪市北区中之島3-2-4 中之島フェスティバルタワー・ウエスト 4階)
会期:2019年5月25日(土)〜8月4日(日)
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オススメ展覧会7:「没後60年 北大路魯山人 古典復興 ―現代陶芸をひらく―」(千葉市美術館)
『美味しんぼ』の海原雄山のモデルとして、美術ファン以外にも幅広くその名が知られている北大路魯山人。恐らく、読者の皆様の職場で「北大路魯山人って知ってる?」と無作為に聞いてみても、それなりの確率で「ああ、海原雄山的な?」といった返事が返ってくるかもしれません。(筆者により実験済み)良くも悪くもグルメ漫画の名作「美味しんぼ」の影響によって、北大路魯山人といえば美食家で気難しくて、いつも腕組みして難しい顔をしている人、というイメージが先行しますが、その実像はどうだったのでしょうか?
その答え合わせをするのに最適な展覧会が、千葉市美術館で開催中の「北大路魯山人展」です。ちょうど2019年は魯山人の没後60年。その記念イヤーにふさわしい大規模なやきものの展覧会となっています。
北大路魯山人「染付葡萄文鉢」 1941(昭和16)年 世田谷美術館(塩田コレクション)
少し見てみましょう。
実は魯山人が最初に陶磁器を作り始めたのは32歳のとき。かなりの遅咲きであります。魯山人の社会人としてのキャリアは、古美術商としてスタートしました。仕事を通して古美術に対する審美眼を鍛えつつ、書や篆刻(てんこく)分野での芸術家として活動していました。転機となったのは30代後半に入った時です。美食に目覚めた魯山人は会員制の「美食倶楽部」を発足させ、ついで自らがプロデュースする料亭「星岡茶寮」(ほしがおかさりょう)をオープン。食の世界を徹底的に極めようとします。しかしそこで終わらず、食を盛り付ける器まで作ってしまおうと考えるのが魯山人の凄いところ。自らの理想は自分の手で何でも実現しなければ気が済まないのですね。
北大路魯山人「横行君子平向」 1957(昭和28)年 八勝館蔵
普通はそこで素人の手慰み・・・みたいになっちゃうところなんですが、魯山人は得意としていた書や篆刻以上に、作陶において鬼才ぶりを発揮!古美術商で鍛えた目利きと書・篆刻で鍛え上げた独自の感性が「美食」にマッチする”至高”のやきものへと結実します。本展では、魯山人が生涯にわたって世に送り出したやきものの中から、約120点が集結。千葉市美術館の広大な展示空間の中で、魯山人の本気のライフワークをたっぷりと時間をかけて鑑賞してみてください。
北大路魯山人「織部間道文俎鉢」 1953(昭和28)年頃 八勝館蔵
また、本展では、魯山人と同時代に活躍した近代陶芸家の巨匠達もあわせて特集。桃山茶陶に倣い、美濃焼を復興させた荒川豊蔵、魯山人同様に多方面で才能を発揮した川喜田半泥子(かわきたはんでいし)、石黒宗麿(いしぐろむねまろ)から、走泥社を結成し、現代アートと京焼を融合させた八木一夫など様々な名手たちの作品も楽しめます。
川喜田半泥子「粉引茶碗 銘『たつた川』」1945-54年(昭和20年代) 石水博物館蔵
荒川豊蔵「志野筍絵茶碗 銘『随縁』」 1961(昭和36)年 荒川豊蔵資料館蔵
さらに、彼らの作陶のルーツとなった中国・朝鮮そして日本の古陶磁の名品もあわせて出品。全部合わせて総点数202点と大ボリュームな北大路魯山人展で、あなただけの北大路魯山人を見つけてみてくださいね。
北大路魯山人「日月椀」 1937(昭和12)年 世田谷美術館(塩田コレクション)
展覧会名:「没後60年 北大路魯山人 古典復興 ―現代陶芸をひらく―」
会場:千葉市美術館(〒260-0013 千葉市中央区中央3-10-8)
会期:2019年7月2日(火)~8月25日(日)
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オススメ展覧会8:「近代陶芸の巨匠 板谷波山展」(茨城県天心記念五浦美術館)
絵画や彫刻のように、陶芸を芸術作品としてとらえ、自らを陶芸のアーティストとしてその生涯を捧げた近代陶芸の巨匠・板谷波山。茨城県下館町(現・筑西市)に生まれ、東京美術学校彫刻科で岡倉天心、高村光雲らに学んだ波山は、最先端の技術を学び、当時流行していたアール・ヌーヴォー様式の意匠や新しい釉薬の開発なども手がけました。その偉大な業績が評価され、昭和28年には陶芸家として初の文化勲章を受賞。近代陶芸家の巨匠として、陶芸史に確かな名を刻みました。
板谷波山「彩磁延壽文花瓶」 昭和11年頃(c.1936) 茨城県陶芸美術館蔵
本展では、波山の青磁、白磁などの陶芸作品はもちろん、板谷波山が制作した東京美術学校時代の課題画を展示。当時の授業の内容を紹介すると共に、波山の同窓で、卒業後は国宝の仏像修理保存に携わった新納忠之介(にいろちゅうのすけ)と交わした書簡等が紹介されるなど、茨城県天心記念五浦美術館ならではの資料展示が見どころの一つになっています。
「近代陶芸の巨匠 板谷波山展」では、波山が東京美術学校時代に、校長岡倉天心が作成した授業カリキュラムに基づいて描いた作品を展示しています。後に陶芸の巨匠と称されることとなる波山の若き日の絵画作品をご覧下さい。 pic.twitter.com/PFJt1P9kEf
— 茨城県天心記念五浦美術館 (@TenshinMuseum) 2019年6月28日
波山の作品で注目したいのは、彼のトレードマークでもある「葆光釉(ほこうゆう)」という釉(うわぐすり)がもたらす、なめらかで幻想的な陶磁器の質感です。器の表面にまず普通に絵付けを行い、次に全体をマット釉で被うという新たな技法によって、それまでの色絵磁器とは異なる波山独自の作品世界を作り上げることに成功した波山。どれを見ても惚れ惚れするような美しさです。
「辰砂磁花瓶」 昭和初期(1926-1940) しもだて美術館蔵
「葆光彩磁孔雀尾文様花瓶」 大正3年(1914)頃 茨城県陶芸美術館蔵
「葆光彩磁赤呉須模様鉢」 大正5年(1916) 茨城県陶芸美術館蔵
会期が残り少なくなってきましたが、板谷波山の名品33点と、資料7件で構成される本展は、板谷波山の作品をまとめて一気に味わうチャンス。ぜひ、クリーミーで幻想的な波山のうつわの美しさを存分に味わってみてくださいね!
展覧会名:「近代陶芸の巨匠 板谷波山展」
会場:茨城県天心記念五浦美術館(〒319-1703 茨城県北茨城市大津町椿 2083)
会期:2019年6月7日(金)~7月15日(月・祝)
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オススメ展覧会9:企画展「魅了する 煌めく薩摩」(横山美術館)
明治維新を契機として、日本では各地できらびやかで超絶技巧な色絵陶磁器が外貨獲得のための輸出品として生産されました。その中でも薩摩焼は海外で「SATSUMA」と呼ばれ、特に人気を博しました。薩摩焼は、もともと秀吉の朝鮮出兵時に島津義弘が朝鮮から連れ帰った朝鮮人陶工たちが薩摩藩内の各地ではじめた茶陶をルーツに、「白薩摩」「黒薩摩」が発展しますが、幕末を迎えた19世紀中盤には、藩主・島津斉彬による藩内殖産興業施策の一環として色絵陶磁器の研究が進んだ結果、劇的な進化を果たします。実際、1867年にはフランスの首都パリで開催された万国博覧会に、江戸幕府とはわざわざ別枠を確保。薩摩藩として薩摩焼などの工芸品を出品するほどの実力を示しています。
上絵金彩武者図花瓶(一対) 森田徳(本薩摩)
そんな薩摩を代表する工芸となった「薩摩焼」ですが、明治維新を迎え、金彩を伴った豪華絢爛な薩摩焼は鹿児島だけでなく「京薩摩」や「横浜薩摩」といったように、長崎、京都、金沢、東京、横浜、名古屋など各地で制作されるようになりました。そこで本展では、明治時代に世界を魅了し、日本各地で制作された薩摩焼の名作がまとまって展示。その究極なまでに作り込まれた細密なデザインや美しい絵付をたっぷり楽しめる展覧会となりました。
ちょっと見てみましょう。
上絵金彩人物図獅子鈕飾壺(京薩摩)
上絵金彩人物図花瓶(一対)旻應軒(加賀薩摩)
上絵金彩人物図飾皿(長崎薩摩)
上絵金彩人物図花瓶・香炉(名古屋薩摩)他地域と違い、技巧的な中にも素朴さが漂う面白い作品。展覧会開幕直前に地元「名古屋薩摩」も展示ラインアップに加わりました!
日本各地で作られた「SATSUMA」の実力、いかがでしたでしょうか?どれも非常に細密に作り込まれていて、きらびやかな美しさにため息が出ますよね。画像越しに見てもこの凄さなので、美術館で「実物」を見た時の衝撃は相当なものだと思います。ぜひ美術館へと足を運んでみてくださいね。
うれしいことに、本展も同じ名古屋市内で開催中の展覧会「ロイヤル コペンハーゲンのアール・ヌーヴォー」(ヤマザキマザック美術館)同様、展覧会に出品されている作品全てが写真撮影OKとなっています。明治陶芸における超絶技巧の頂点に立つ薩摩焼の凄さをしっかりカメラに収めて、自宅に持ち帰ってみるのもいいですね!
展覧会名:企画展「魅了する 煌めく薩摩」
会場:横山美術館(〒461-0004 名古屋市東区葵一丁目1番21号)
会期:2019年6月1日(土)~10月31日(木)
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オススメ展覧会10:「帝室技芸員の仕事 七宝編」(清水三年坂美術館)
さて、最後に紹介させていただくのは、厳密には「陶磁器」には分類されない「七宝」を特集した展覧会。七宝は、「その他の工芸」「諸工芸」に分類されるのですが、磁器と同様にガラス質の釉薬を用いる工芸ということで、どうしても強くおすすめしたいため最後に触れさせてください!
明治の細密工芸を専門に作品を収集する日本で唯一の美術館である清水三年坂美術館。京都でも屈指の観光地として年中賑わう、清水寺に向かう参道に向かう道沿いにあります。同館では、昨年から所蔵作品のうち帝室技芸員による作品を一挙に展示する「帝室技芸員の仕事」シリーズを連続開催中。これまで「金工編」と「蒔絵編」を開催し、各分野における明治工芸の優れた職人を紹介してきました。
「菖蒲図皿」 濤川惣助 (23.3×17.4 ㎝)
そして第3回となる今回「七宝編」では近年非常に知名度が高くなってきた「二人のナミカワ」を大特集。綿密な植線と優れた色彩感覚によって有線七宝を極めた並河靖之(なみかわやすゆき)と、無線七宝の技法を確立し、絵画作品に肉薄する描写力を七宝の上でも実現した濤川惣助(なみかわそうすけ)。昨今の明治工芸ブームを象徴するような二人の作品をたっぷりと楽しめる展覧会になっています。
「蝶図瓢形花瓶」 並河靖之 (高 18.0 ㎝)
「芙蓉に鴨図花瓶 一対」 濤川惣助 (高 42.8 ㎝)
清水三年坂美術館での鑑賞で非常に嬉しいのは、他館に比べて照明が明るめに設定されていることです。そのため、同館で展示されている細密工芸作品一つ一つの細かいところまで、ストレスなくしっかりチェックすることができます。ぜひ単眼鏡を忘れずに持参してくださいね。持っていなくても、受付で貸し出しサービスがありますのでぜひ活用してみてくださいね。
「蝶に花唐草文香水瓶」 並河靖之 (高 7.0 ㎝)
展覧会名:「帝室技芸員の仕事 七宝編」
会場:清水三年坂美術館
会期:2019年5月25日(土)~8月18日(日)
公式サイト
大型美術展の谷間の時期は陶磁器の展覧会を狙え!
毎年春と秋には首都圏を中心として大型の企画展が開催されますが、その合間となる真夏や真冬は何を観たらいいのだろう、と迷う時がありますよね。そんな時はぜひ陶磁器の展覧会をチェックしてみましょう。特に春と秋の間となる夏休みの時期には、子供でも楽しめる夏休み向け企画とともに、陶磁器の展覧会が充実する傾向にあります。2019年の夏は、特に首都圏以外で、やきものの名産地や巨匠生誕の地において優れた展覧会が出揃いました。
僕も紹介させていただいたからには、この夏一つでも多くの展覧会に遠征して足を運びたいと考えています。是非、夏休みの大型連休などを活用して、観光とセットで気軽に回ってみてくださいね。