神話と民藝の里『出雲』と、手仕事とコーヒーの町『松江』。山陰きっての散策パラダイスを旅してみませんか?和樂8・9月号の出雲・松江特集と合わせてお読みください。
大社の祝凧 高橋
旅の楽しみのひとつは、その土地に古くから伝わる素朴な工芸品や愛らしい郷土玩具に出会うこと――そんな人も多いのではないでしょうか?出雲大社を中心に広がる静かな町で見つけたのは、材料の真竹(またけ)を採るところからすべて手で行うという『大社の祝凧(たいしゃのいわいだこ)』です。
真っ赤な色で『鶴』という文字を描いた祝凧。このダイナミックな凧にはどんな歴史があるのでしょう?
『大社の祝凧』とは、その名の通りお祝いの際にあげた凧。かつて出雲大社の宮司家両家に祝い事があったとき、氏子(うじこ)たちが稲佐の浜(いなさのはま)で巨大な凧をあげて祝福したのが起源だといわれています。凧は赤と黒の2枚1組。それぞれに出雲大社背後の鶴山と亀山を象徴する『鶴』と『亀』の文字が描かれました。時代が進むにつれて、この大凧を空にあげる光景は見られなくなってしまいましたが、ぐっと小型になったものが縁起物や室内の飾りとして今も愛されているそうです。
竹ひごを組んで骨組みをつくり、フリーハンドで文字を描きます。
そんな祝凧づくりを継承している日本唯一の祝凧職人が高橋日出美(たかはしひでみ)さん。出雲大社のすぐ近くにある『大社の祝凧 高橋』を訪ねたところ、実際につくる様子を見せてくださいました。工房には、細く丈夫な竹ひごでつくられた骨組みに和紙を貼ったものがいくつも。もちろんすべて手作りです。「夏の間に出雲の真竹(またけ)を採っておいて、冬場に1年分の『ひご』をつくります」と高橋さん。現在は、20cmほどの小さいものから1mを超えるものまで全7サイズつくっていて、大きいものは完成までに4~5日かかるそうです。
最初に輪郭を描き、そのあとで内側を塗りつぶす。一本の筆で一気に描きます。
この日、描いていただいたのは赤い鶴の凧。「鶴という文字を表すと同時に、鶴が木にとまっている姿もデザインしています」と聞いてじーっと眺めると、あ、ほんとうだ。向かって左側の上に鶴の頭があり、右側にはひらがなで『つる』と描かれています。凄い!日本のこういうグラフィックデザインは本当にカッコいい。
左が『鶴』。向かって左側には鶴が木に止まっているところ、右側にはひらがなの『つる』がデザインされています。右の写真は『亀』で、『出雲民藝館』に飾られている古いものです。
ちなみに、黒で描かれる『亀』の凧は、亀の字が大社の鳥居を模した形になっていて、打ち出の小槌や米俵もデザインされています。どちらの字形も、『大社の祝凧 高橋』初代である高橋さんのお祖父さまの時代から親しまれてきたもの。3代目となる高橋さんも、14~15歳のころから見よう見真似で描いていたそうです。「基本の文字デザインは変わりません。でも、祖父、父、私…とそれぞれ手が違いますから、ハネやトメなどの形が少しずつ異なっているんですよ」
凧(左は幅20cmほどのミニ凧)のほかに郷土玩具もつくっています。右の写真は張り子の鯛車(たいくるま)。かつては大社の町を彩る夏の夕暮れの風物詩だったそうです。
その昔、『稲佐の浜』で実際に揚げられていたものは畳3畳分ほどもあったそうで、赤と黒の大凧が空を舞う姿はさぞかしカッコよかったんだろうなあと想像しつつ、小ぶりのミニ凧を購入。せっかくなので、ここから歩いて20分ほどの『稲佐の浜』へ向かいました。稲佐の浜といえば国譲り神話や国引き神話の舞台になった場所ですが、夕陽の美しさでも知られるスポット。浜辺に浮かぶ弁天島の向こうに陽が沈み、あたりがうっすらと瑠璃色に染まってきたら、出雲と松江の旅もそろそろおしまいです。
夕暮れの景色が美しい『稲佐の浜』。旧暦10月10日には浜辺でかがり火が焚かれ、全国八百万(やおよろず)の神々をお迎えする『神迎神事』が行われます。
日本で唯一の祝凧職人、高橋日出美さんと奥様の百合子さん。
大社の祝凧 高橋
住所 島根県出雲市大社町杵築東724
TEL 0853-53-1553
営業時間 9時~19時
定休日 不定休
-撮影/篠原宏明-
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