去る8月24日は、二十四節気の処暑にあたる日だ。〈暑さが落ち着く日〉という意味で、この頃を境にだんだん涼しくなるとされている。
……とはいっても、それはあくまで暦の上の話。ピークは去ったものの、その勢いはまだまだ盛んで、30度を超す真夏日が綿々と続いている。古代中国の暦に物申すのも野暮な話だが、それにしてもひどい暑さである(処暑ということで近所の青果店が焼き芋フェアを行っていたが、まったく売れていなかった。無理もない話だ)。
理想の風鈴を求めて
こういうときに冷房に頼るのはいかにも容易だ。しかし、それでは電気代がかさむし、体にもよろしくない。せめて風鈴を取り付けて気持ちだけでも涼しく……と雑貨屋に出向いたが、これというものがなかなか見つからない。和雑貨の代表ともいえる風鈴。当然ながら、洋室にぴったりと馴染むものはそう多くないのである。
このまま夏が終わってしまうと危惧していたところ、ようやく巡り合ったのが、今回紹介する〈サンカク〉というプロダクトだ。
和にも洋にも馴染むデザイン
この作品を手掛けたのは、長屋有氏と土井武史氏、花山和也氏の3人が立ち上げた〈3RD CERAMICS〉というブランドだ。陶磁器で有名な岐阜県多治見市を拠点に、素材や製法にこだわったオリジナルアイテムを展開している。
外見(本体部分)には無釉の磁器を使用。和室だけではなく、洋室にも調和する奥行きの深いデザインに仕上げている。窓辺に飾れば空間の程よいアクセントになってくれそうだ。
こだわりに、こだわりを重ねて
短冊には手漉きの和紙を、吊り紐には蝋引きした麻紐を採用するなど、細かい部品選びにも妥協がない。特にこだわりを感じさせるのは、舌(内側にある重り)に真鍮を採用した点だ。風が吹くたびに金色の輪が見え隠れし、耳だけではなく、目でも風情を楽しむことができる。
新時代の風鈴
素材の特性上、音量はかなり控えめとなっている。ガラスの爽やかな響きも素敵だが、磁器ならではの奥ゆかしい響きも実に魅力的だ。ちなみに、この作品は他にもバリエーションがあり、形状ごとに音色が異なっている。聴き比べて、心の琴線に触れるものを探してみるのもまた一興だろう。
少し話が変わるが、時代の流れによって日本人の価値観が変化し、風鈴は〈騒音の発生源〉として捉えられるようになった。住宅が密集する都市部ではその傾向が特に強い。和室の減少と、ライフスタイルの変化。このふたつの要因が向かい風になり、風鈴は日陰へ日陰へと追いやられている。
和にも洋にも馴染み、音量も控えめな〈サンカク〉は、新時代の風鈴と呼ぶにふさわしい作品だ。風鈴を使わなくなった方や、これまで飾ったことのない方にぜひ試していただきたいと思う。日本の美意識が詰まったこの逸品は、海外の方へのお土産にしても非常に喜ばれそうだ。
この素敵な風鈴を夏の間だけのものにするのは、いささかもったいない。ドアベルとして使ったり、モビールのように飾ったりして、一年を通して耳目で楽しんでみてはいかがだろうか?
3RD CERAMICS スタジオ情報
住所:〒507-0026 岐阜県多治見市虎渓町2-16
Webサイト:http://3rd-ceramics.com/