近年、日本のエコファーが世界から注目を浴びています。
エコファーとは天然毛皮=リアルファーに近い二重構造(刺毛と産毛)を持つ生地で、本物の毛皮のような風合いがあるもののカビや虫食い等の心配がなく、取り扱いが簡単で経済性にも優れているものです。
ラグジュアリーブランドによる「リアルファーを使用しない」というファーフリーの流れもあり、非常に需要が高まっています。
岡田次弘社長率いる株式会社岡田織物はエコファー業界の先頭を走る織物メーカー。従業員はわずか3人ですが、売上1億3,000万円を誇り、実は銀座に軒を連ねる世界有数のファッションブランドに生地を供給している企業なのです。
パイル織物の一大産地である高野口
株式会社岡田織物は高野山のふもとに位置する高野口町にあります。
高野口はかつて高野山参詣の入口であり宿場町でした。
高野口町はもともとパイル織物の一大産地でもあります。
パイルとは「毛」のことで、基布に毛が織り込まれたり編み込まれたりしたもの。パイル部分が生地に独特の光沢とボリュームを生み、保温性にも優れているため、衣類はもちろん、毛布やシーツといった寝具やソファー、カーテン、車両等のシートにも使われています。
パイル織物は実は昔から私たちの生活には馴染み深く、なくてはならない生地なのです。
エコファー生地だけの生産にシフトする
祖父が創業したパイル生地製造会社を岡田社長が引き継ぎ、1991年に立ち上げた同社は当時経営難にありました。
中国からの安い輸入生地に押され売上が下がる中、危機感を感じた岡田社長は、ある生地に注目します。それは当時、大手が手を出さない隙間産業であったエコファーです。
そして「エコファー生地の生産に100%特化する」という決断をします。
もともとパイル生地製造のノウハウと高い技術があったため、基本的に製造方法が同じであるエコファーの生産は同社にとってそれほど難しいことではなかったからです。
ただし、岡田社長は「リアルファーの真似をすることを追求しない」と心に決めます。そして、顧客の要望に応じた色や質感、デザインに対応できる生地の生産を目指しました。
飛躍のきっかけは初めて出店した海外の展示会
海外の一流生地メーカーと勝負してみたいと思った岡田社長は、パリで開催された高級生地見本市に出展しました。2002年のことです。
リアルファーにはない色や柄のエコファーを50種類ほど出展すると、クォリティーの高い生地はさまざまなブランドから評価を受け、次々と取引が決まります。
そして今や高級ファッションブランドに生地を供給するまでになり、取引先は現在200ブランドを超えています。
いくつもの工程を経て生みだされるエコファー
では、同社のエコファーはなぜ世界のラグジュアリーブランドに愛されているのでしょうか。
それはなんといっても品質です。たとえばこちらは、加工前の生地ですが、
丁寧にブラッシング加工されると、このようにふんわりと柔らかく、滑らかに仕上がります。
そもそも動物の毛は短い毛と長い毛が交互に生える構造で、それが立体的になっているのですが、同社の生地はその構造が見事に再現されているのです。
質感の異なるおよそ50種類のアクリル繊維から数種類を選び、寄り合わせた糸で元となる生地を作り、色を染め、毛皮の柄をプリントした後、光沢を出すといったいくつもの加工を施し、同社のエコファーは生みだされています。
本物そっくりのしっとりした光沢と柔らかな手触り
同社のエコファーは、本物そっくりのしっとりした光沢と柔らかな手触りが特徴ですが、実は40を超える工程を経て作られているもの。高野口町一体の企業が分業し、共同で完成させています。
本当に良いエコファーは、ふんわりとした毛足の質感が長続きします。同社の生地は根元がしっかりしていてボリューム感があり、毛が抜けにくく、押しつぶしても元の形状に戻りやすいといった特徴があり、それらが高く評価されているのです。
同社では要望に応じて試作品を作るとともに、すぐに提案できるよう、常時400~500種類の生地をストックしています。
毛皮の風合いを持つ「プロパール®」
本物の毛皮には根本が太く、毛先が細い毛があります。
しかし、従来の技術では同じ太さの化学繊維しか作れず、毛皮に近い風合いを出すことは困難とされてきました。
同社は三菱ケミカルと共同開発を進め、特殊加工を施すことにより繊維の毛先を割ることに成功します。そして、毛先と根本の太さを変化させ、毛皮のもつ毛先の軽さと立毛性を持つ素材「プロパール®」を生みだしました。
発熱保温機能を持つ「コアブリッド®・サーモキャッチ®」
長年培った技術と感性で発熱保湿機能や帯電防止機能を備えた発熱ファーも生みだしています。
三菱ケミカルと共同開発した「コアブリッド®・サーモキャッチ®」は、太陽光を熱エネルギーに変化させることができるアクリル繊維。
太陽光に反応すると生地の温度が2~8度上昇する発熱保温機能と静電気を抑制する帯電防止機能を備えており、発熱物質は繊維の中心部にあるため洗濯等では劣化せず、その効果は半永久的だと言われています。
わずか280gの「ジャパンエコファーバッグ」
生地メーカーという枠を超え、同社は現在、新たな製品の企画・販売も手掛けています。
こちらはふんわりとした美しい毛足が特徴の「ジャパンエコファーバッグ」。
A4サイズが入る大きさで、これだけのボリュームがありながら、重さはなんとわずか280gです。
「スーパーフォックス」と名付けられたこの生地は現在15色展開されていますが、好みに応じて他のカラーと組み合わせ、バッグをオーダーすることもできます。
「ジャパンエコファーバッグ」は、さまざまな技術をもつ地元企業を巻き込んで企画されています。染色、加工、裁断、縫製といったすべての工程が高野口で行われている、まさにオールメイドインジャパンの商品です。
ますます加速するエコファーへの流れ
世界のファッション業界は脱毛皮の傾向にあります。
一方、毛皮業界からは「毛皮は土にかえるが、エコファーは合成繊維。土に戻らないということは環境を汚染を促しているのではないか」との声もあるようです。
岡田社長はその声に耳を傾けた上で、毛皮業界にも納得してもらえるような素材を生みだしたいと新素材の開発に意欲を燃やしています。
現在、フランス・アルル地方で育てられた羊を使った新たな素材に着目。「フレンチメリノ」と名付けられたその生地はスポンジのような膨らみと高い反発性を持ち、エコファーに最適な素材でありながら、毛皮同様、土にかえる性質を持ち合わせることも可能だと考えられています。
完成すればさまざまなニーズに対応できるはず。同社の生みだすエコファーは確実にリアルファーに近づいていると言えるでしょう。
株式会社岡田織物
住所:〒649-7207 和歌山県橋本市高野口町大野757
電話:0736-42-2864
公式サイト:http://okadatx.shop-pro.jp/