ある日突然、XにDMが届いた。「歌舞伎町ホストが、福利厚生で日本舞踊を習っています。見に来ませんか?」ホストが日舞!? しかも福利厚生で? 謎が多すぎる! さっそく見学に訪れた。
新宿・歌舞伎町の名前の由来は、「歌舞伎の劇場を作る計画」が本当にあったから
日本舞踊をホストの福利厚生に取り入れたのは、Smappa! Group。ホストクラブをはじめ介護施設の運営、現代アーティスト集団Chim↑Pom from Smappa!Group と共に展覧会の開催なども行うユニークな企業だ。会長の手塚マキさんに話を聞いた。
給湯流茶道(以下、給湯流):日本舞踊をホストの“福利厚生”に取り入れたと聞いて驚きました。どういう思いがあるのでしょうか?
手塚マキ(以下、手塚):かつて歌舞伎の劇場を誘致するはずだったという歴史にあやかり、歌舞伎町が文化創出をする街になってほしいと思っています。それでキャスト(ホストクラブの従業員)に日本舞踊の稽古をしてもらおうと。
給湯流:え、歌舞伎町は、本当に歌舞伎の劇場ができるはずだったのですか!
手塚:戦後の混乱で劇場は建設できませんでしたが、街の名前は残ったのですよ。
給湯流:なるほど。「日本舞踊を福利厚生の一環として無料で習えるよ」とキャストに声をかけ、どんなメンバーが手を挙げたのでしょうか?
手塚:残念ながら、ほぼ「強制」です(笑)。「日本舞踊に興味があるから、やりたい」と参加してきたキャストは少ないですね。
給湯流:現在はたくさんのキャストが日本舞踊を習っているようですが、どのように人数を増やしたのでしょう?
手塚:正直に言えば、みんな打算的ですよ。
給湯流:打算的というのは?
手塚:「日本文化に興味がある女性たちにアプローチできる」という”エサ”で釣りました(笑)。最初の動機はどうあれ、結果的にキャストが日本文化に触れるなら、それでいいと思っています。
給湯流:最初の動機は幅広くてもいいですよね。たとえば茶人に、茶道を始めたきっかけを聞くと「中学の部活でお菓子が食べられるから、なんとなく茶道部に入った」という場合もありますし。ちなみにホストクラブにくるお客さんには、日本文化が好きな人はいないのですか?
手塚:お客さんに日本文化が好きという人は、ほぼいません。キャストも同じです。でも今後、日本舞踊が好きなお客さんがきてくれたら、同伴で日本舞踊を鑑賞しよう、歌舞伎を観てから店に行こう、というパターンもでてくるかもしれない。
給湯流:今、伝統芸能の現場にくる観客はご高齢の場合が多い。このままでは廃れてしまうと個人的には心配しています。でも若いキャストのみなさんが、伝統芸能や日本文化を支えてくれたら心強い!
ホストは世阿弥『風姿花伝』の教えを地で行く、“顧客ファースト”。
手塚:キャストは仕事柄「お客さんが好きなものをとことん調べる」ことが多いです。たとえばお客さんが「ちいかわ」が好きなら、キャストは一生懸命「ちいかわ」を調べる。だから日本舞踊が好きなお客さんが店にきてくれたら、キャストは必死で日本舞踊のことを調べるはずです。
給湯流:手塚さんは能も習っておられると伺いました。今のお話は、世阿弥の『風姿花伝』に通じるところがありますね。
手塚:『風姿花伝』はそんな感じですか?
給湯流:『風姿花伝』の教えを個人的に咀嚼すると「ファンの人が好きなものや、なじみのあるものを、とことん調べろ。その上でファンの期待を上回る、驚きや新鮮さを舞台で表現しろ。」と言っていると思います。現代風にいえば「お客さんのなかで流行っているものを調べろ」といったところでしょうか。
手塚:流行か…。僕はもう20年以上ホストクラブを経営して、流行を追うことに疲れた部分もありますね。「流行に左右されないもの」に根を張りたいと思って日本文化を福利厚生に選んだのかも。
給湯流茶道:刹那的な夜の街、歌舞伎町で“逆張り”する!
手塚:ええ。将来、日本文化に特化したホストクラブをつくれば「ここで働きたい」という新しい仲間も増えるかもしれない。長く働く子も出てくるかもしれない。そんな特別な企業になれたらいいなと思っています。
日本舞踊はリズムが“ない”から難しい! 現役ホストが語る日本舞踊のリアル
Smappa!Groupで実際に日本舞踊を習うキャストは、どんなことを感じているのか? 人気キャストの一人、空条承太郎(くうじょうじょうたろう)さんにも話を聞いた。
給湯流:実際に日本舞踊を習ってみて、どんな点が難しかったですか?
空条承太郎(以下、空条):日本舞踊はリズムがないのですよ。現代のダンスならカウントで動くじゃないですか。でも日本舞踊は、歌詞や三味線の間合いで動く。
給湯流:確かに、「ワン・ツー・スリー」みたいな一定のリズムはないですね。
空条:だから、まず歌詞を覚えなきゃならない。踊りながら言葉を追っていくのが大変です。僕は運動部に入っていたので体を動かすのは大好きなのですが、日本舞踊は「動」より「静」が重視されていますね。
日本舞踊は、ホストの仕事にも役立つ?
給湯流:ホストのお仕事にも、日本舞踊で学んだことは影響していますか?
空条:めちゃくちゃあります。日本舞踊は「動」より「静」が重視されています。
昔から姿勢は気にしていましたが、より「静」のなかで“見られる”意識が強くなりました。
給湯流:なるほど。
空条:僕は見た目が派手だったりして、喋らないと怖いとお客様に思われるかなと考えていました。だからお客さんの前ではよく話していたのですね。一方で手塚さんからは「君は、ミステリアスな方が魅力的で素敵」とアドバイスをもらって悩んでいたのです。
給湯流:バランスが難しいですね。
空条:そんななかで日本舞踊を習い、目線や、静かな動きの中に感情を込める練習をしました。それがすごく勉強になって、今では“喋らない魅せ方”も意識するようになりましたね。
給湯流:キャストとしての魅力の幅が広がりますね。
ホストが、古くからの日本の名所をスマホで検索……ニュータイプ“風流ホスト”が爆誕か?
Smappa!Groupホスト事業部の社長を務める、大崎愛海(おおさきなるみ)さんも日本舞踊を稽古中。早速、話を聞いてみた。
給湯流:「松島」という演目を練習中と伺いました。どんな内容なのですか?
大崎愛海(以下、大崎):宮城県の名勝・松島を旅するというテーマです。忙しくて僕は行ったことはないのですが、まず画像検索で松島の景色をインプットしましたね。
給湯流:勝手な想像ですが、歌舞伎町ホストがスマホで検索する街といえば、ハワイとかラスベガスといったイメージです。それが、平安時代から和歌が詠まれている松島を検索されているとは、斬新!
大崎:歌詞の意味も、現代語訳で頭に入れてから稽古をしています。でも正直、歌詞がとても難しいです。
給湯流:わかります。古い言葉が歌になると、さらに聞き取りにくいですよね……。
大崎:日本舞踊の動きは歌詞とリンクしているから、言葉の意味がわからないと体も動かせない。最初は戸惑いましたけど、今は言葉と動きをセットで覚えるようにしています。
給湯流:とても大変ですね。でも「ホストが日本舞踊を習っている」ことが全国に知られたら、なんだか大きなムーブメントになる気がします。
大崎:日本舞踊は、“いいとこ”のお嬢さんが習うというイメージでした。10代から水商売をやってきた僕らが、まさか大人になってから日本舞踊を習う機会をもらえたのは、とてもありがたいことですね。
2025年大河ドラマ『べらぼう』では、主人公の蔦屋重三郎が、普段は自由に外出できない遊女たちに、浄瑠璃の太夫や歌舞伎役者を引き合わせ、演技や演奏を見せるシーンがあった。手塚さんが日本舞踊を“福利厚生”にして、ホストが日本文化に触れる機会をつくることも、蔦屋重三郎のような活動かもしれない。
「ホストが日本舞踊を習うなんて……」と戸惑う方もいるかもしれない。しかし、筆者は今後も、手塚さんが歌舞伎町で手掛ける日本文化活動を推していきたい。
写真/阿部章仁
歌舞伎町ホストによる日本舞踊公演のお知らせ
「好色一代男 」日本舞踊 山村流 舞ざらえ 第1回
2025年5月16日(金)~5月23日(金) ※5月19日休
・5月18日(日):セバスチャン高木×手塚マキ アフタートーク開催
・5月20日(火):いとうせいこう×手塚マキ アフタートーク開催
・5月22日(木):公開ホスト歌会 @ AWAKE 開催 俵万智、小佐野彈、野口あや子、國兼秀二
・千秋楽5月23日(金):山村若静紀 特別出演 演目『黒髪』
■時間
全日:19:00開演、18:30開場
※公演時間40分程度を予定
■会場
新宿歌舞伎町能舞台
(新宿区歌舞伎町2丁目9−18 ライオンズプラザ新宿 2階)
■チケット代
1000円
※ドリンク付
※当日支払い
★出演者
手塚マキ、愛海、亜樹、ぴぃぽくん、空条承太郎、桐咲虎、光希、凛希、武尊、幸村隼斗、唄(11名)
千穐楽:山村若静紀 特別出演
■申込みリンク
https://peatix.com/event/4323970
新宿歌舞伎町春画展のお知らせ
Smappa!Groupは、2025年7月26日(土)~9月30日(火)の約2か月間にわたり「新宿歌舞伎町春画展ー文化でつむぐ『わ』のひととき」を開催します。
本展では、浦上蒼穹堂代表・浦上満氏の春画コレクションの中から、菱川師宣、喜多川歌麿、葛飾北斎、歌川国芳など、江戸時代に制作された春画 約100点を展示。
浦上氏は、「北斎漫画」の世界一のコレクターにして、春画のコレクターでもあり、春画の魅力を日本に世界に発信する第一人者です。2013年ロンドン・大英博物館の「春画 日本美術の性とたのしみ」の出品者でスポンサーとして携わり、さらに2015年には、東京・永青文庫で開催された日本初の「春画展」の実現に尽力され、3ヶ月間で約21万人を動員し、大きな話題を呼びました。
会場は、Smappa!Groupが運営する「新宿歌舞伎町能舞台」。
アートディレクターに林靖高(Chim↑Pom from Smappa!Group)を迎え、本舞台や橋掛り、楽屋や客席にいたるまで、新宿歌舞伎町能舞台を全面的に活用した展示空間を創り出します。
■詳しくはこちら
https://www.smappa.net/shunga/
SNSのお知らせ
●新宿歌舞伎町能舞台
公式WEBサイト
https://nohstage.com/
エックス
https://x.com/shinjuku_noh
instagram
https://www.instagram.com/shinjuku_noh/
●Smappa!日本舞踊部
instagram
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●日本文化活動note
https://note.com/smappa_jpnbunka
●新宿歌舞伎町春画展
エックス
https://x.com/KabukichoShunga