上方落語を文字で残していく役割
300公演以上が掲載される「よせぴっ」のスケジュール欄はびっしりと会の情報で埋めつくされており、一つの公演に割かれるスペースは決して大きくありません。それでも、各公演の日時や会場、最寄り駅、演者、演目、時には入場特典まで細かく記載されています。そこには読者にわかりやすい情報を伝えることに加えて、もう一つ大きな理由があります。それは「よせぴっ」が上方落語の現状を後世に残していくことも目的にしているからです。その想いを日高さんはこのように語ります。
「10年後、20年後、できれば100年後に『この時期、上方にはこんな噺家さんがいて、こんな会が開かれていて、こんなことがあった』ということを文字で残していきたいと思っています」
そう言われて「よせぴっ」を見ると、細部までこだわって情報が載っていることにより納得ができるとともに、10年後、20年後には貴重な資料として新たな役割を持つのだろうと想像が湧いてきます。将来のために情報を残していくことに強い気持ちを持っている日高さんからは、上方落語を今に残してきた先人たちへの感謝と、今を生きる人間として自身も後世に繋げていかなければならないという使命感を感じました。
演者からも信頼される情報紙
「よせぴっ」は落語家と落語ファンをつなぐ存在として、落語家さんからも愛されています。それがよくわかる出来事が創刊4年目の2010年にありました。
僅かな広告料だけが収入だった当時の「よせぴっ」は大きな赤字が続き継続が危ぶまれるほどの危機的状況に陥っていました。そんな状況を知った落語家・桂米團治師匠が他の落語家さんにも声を掛けて「よせぴっのための落語会」を繁昌亭で開催したのです。集まった落語家さんたちはノーギャラで出演をして、収益のすべてを「よせぴっ」に寄付してくださったそうです。この公演の舞台でも米團治師匠は「(よせぴっは)お客さんにとっても、演者にとっても大切なもの」と語っています。
さらに、その2カ月後には桂雀三郎師匠も「おおきに“よせぴっ”落語会」を開催します。
これらの会の開催以降、広告を出す落語家さんが増加。そんな落語家さんたちの支援もあり、当時の危機を乗り越えられたそうです。