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Culture
2020.05.08

100均で集めた材料と玉ねぎの皮で奈良時代の模様染めに挑戦してみた!

この記事を書いた人

和樂webでは最近、日本文化DIYが流行っているようです。そこで私も、材料は簡単に調達できて、自宅で簡単にできる日本文化DIYとして「三纈(さんけち)」の染めに挑戦してみました。

今回はなるべくカジュアルな方法をご紹介したいので、100円ショップで材料を揃えるようにしました。また、計量やひと手間を一部省略しています。初心者ならではの右往左往も含めて、お楽しみください。

上代の三纈

「天平の三纈」とも言われるこれらは、奈良時代における代表的な模様染めの技法です。

平安時代は国風文化(日本独自の文化)が発展しましたが、それ以前は中国の影響を強く受けており、三纈の技法も大陸から伝わったとされています。

正倉院にはこの三纈の技法を使った生地が宝物として残されており、宝物のデータベースにも載っています。

纐纈(こうけち、こうけつ)

画数が多くて難しそうな名前ですが、「絞り染め」と言えばわかりやすいでしょうか。布地を糸で縛ったり縫い締めたりして圧力をかけ、そこにだけ染料が染み込まないようにする技法で、今でもよく見る「鹿の子絞り」も纐纈(絞り染め)の一種です。

現代でも馴染み深い、鹿の子絞り。(画像は写真ACより)

他のふたつは、平安時代以降は廃れてしまったようですが、纐纈は時代が移ろっても行われ続けました。

臈纈(ろうけち、ろうけつ)

蝋纈とも書きます。蝋を布地の表面に塗って防染する技法で、蝋を塗った部分だけ地の色が残ります。筆で絵を描くように塗るだけでなく、型を使って判子のように蝋をつける方法もありました。

当時は、仏教と共に伝来した蜜蝋(みつろう/ミツバチの巣の主成分)が使われていましたが、遣唐使が廃止されると唐との交易が少なくなり、蜜蝋の輸入量も減ってしまいます。その後日本ではウルシ科の植物から作った和ろうそくが発明されますが、その間に臈纈は廃れてしまったようです。

夾纈(きょうけち、きょうけつ)

「夾」の字には「挟む」という意味があります。そこからわかるように、板で布を挟んで圧力をかけ、その部分に染料が染み込まないようにする技法です。

文様を彫り込んだ板を二枚用意して生地を挟めば、多少複雑でも美しく染め抜くことが可能ですが、かなり手間と技術がいるため、特に難しい技法です。

いざ三纈チャレンジ!

100均でも揃う! 三纈の材料

今回私が用意した材料は、以下のとおりです。

●材料
・綿100%のおしぼりタオル(28×28センチ) 5枚 
・工作用木片(3×6センチ) 1袋 
・たこ糸 適量 
・ろうそく 1箱 
・輪ゴム 適量
・無調整豆乳 0.5~1リットル(布が十分に浸る程度)
・玉ねぎの皮 10個分
・みょうばん 5~10g

印のついたものは100円ショップで購入

●そのほかあるといい道具
・アルミホイル
・割り箸または筆
・彫刻刀
・洗濯用ネット
・ステンレスの鍋

ちなみに今回は彫刻刀も100円ショップで用意しました。

布の準備

三纈は、布と染料、纐纈用の糸、臈纈用の蝋、夾纈用の板があれば自宅でもできます。今回はご家庭で真似しやすいように、布は手に入りやすい綿100%のものを、染料は玉ねぎの皮を使いました。

ただ、草木染は繊維のたんぱく質に反応して染まるので、綿を使う場合は「たんぱく処理」を行う必要があります。布をたんぱく質を含んだ液体に浸して、染まりやすいようにするのですが、実は豆乳があれば簡単にできます。鍋や桶に豆乳と水を1:1の割合で注ぎ、染める予定の布を入れるだけです。

大事なのは、たんぱく質を行き渡らせること。調整豆乳派の方も、「余ったら飲みたいから」という欲は捨てて、ちょっと濃い目の無調整豆乳を用意してみてください。

私は30分ほど浸けたあと、軽く洗濯機で脱水にかけて、天日干ししました。実際に染める日の前日までに行っておくのがよいでしょう。

板の準備

夾纈は板を2枚使って布を挟めば成立するのですが、どうせなら模様をつけたいので、彫刻にも挑戦することにしました。面倒な人はこの工程を省略しましょう。

実験のため、凹彫りと凸彫り、それぞれに挑戦してみます。

木を彫るのは中学の美術の授業以来でしたが、ありがたいことに100円ショップには木片も彫刻刀も売っていたことですし、張り切って彫ってみます。

模様は、やっぱりお花がいいかな~。

うわ、彫りにくいっ!

よく考えたら、美術の授業で使うような木材は、彫刻を前提としたものに決まっています。一方、こちらは100円ショップで買った、汎用性の高い木片。もちろん彫るためのものではないので、木に罪はありません。

早速不安が立ち込めてきましたが、一回進んだからには引き返したくありません。どんどん彫っていきます。

ちなみに、なるべく同じ形になるように、型紙を作りました。

そして完成したのが、こちらの2枚です。

アメーバかな?

いえいえ、これはお花、これはお花、これはお花……。(自己暗示)

凹彫りは「和」の字にしてみました。「禾」のてっぺんは、染料が入るように少しだけはみ出るようにしています。

これを見ると、私がいかに不器用なのかがよくわかると思いますが、本人的には怪我をしなかったので大成功でした。

玉ねぎを煮出して染料づくり

さて、次は染料の準備です。先述の通り、玉ねぎの皮を使います。今回は玉ねぎ10個分の皮をこつこつ溜めました。

水を張った鍋に皮を入れて煮詰めていきます。

色味に影響があるので、鍋はステンレスが望ましいです。直接お水にどぼんと皮を入れてもいいのですが、回収が面倒なので私は洗濯ネットを使いました。

だいたい30分くらいしたら皮を引き上げましょう。紅茶と見まごうような、美しい染料の完成です。

纐纈 ~布を縛ってみよう~

染める布の準備も進めていきます。
まずは纐纈。縛ったりするだけなので、小さなお子さんでも簡単にできるかと思います。
今回は、糸と輪ゴムでそれぞれ縛ってみました。


現代まで生き残るのも納得。三纈のなかでも一番簡単です。

臈纈 ~蝋を塗ってみよう~

次は臈纈。まずは蝋を溶かしてみます。

私はフライパンにアルミホイルで作った器を作って、その中にろうそくを入れて熱しましたが、真似する場合はフライパンに蝋が流れないように注意してください。

蝋が溶けたら、布に塗っていきましょう。筆の方がやりやすいですが、蝋が固まったあとの処理が面倒な人は割りばしを使うのがオススメです。

溶けきった蝋よりも、少し固まってきてドロドロした蝋のほうが扱いやすかったです。

夾纈と同じく、ワンポイントでお花を描いてみました。

誰がなんと言おうと、お花です。

臈纈は、塗って固まったあとの蝋にひびを入れて、独特の風合いを出すことも可能です。そこで、広範囲に塗ってから割ったものも用意しました。

夾纈 ~板で挟んでみよう~

事前に用意した凹彫り、凸彫り、そして何も細工を施していない板の3種類を使って、それぞれ挟んでいきます。扱いやすいように、夾纈だけは板の大きさに合わせて布をカットしています。

夾纈は板を用意するまでが大変で、挟む作業にあまり苦労はありませんでした。

板と板の間に布を挟み込み、染料が余分なところに入り込まないように、糸でぎゅっと縛ります。

もっときちんとした手順を踏むなら、滲み防止に和紙を挟んだり、それぞれの板に杭と穴を設けてしっかり噛み合わせて固定したりするべきでしょうが、今回はあくまでも初心者向けに簡略化した方法に留めます。

染めてみよう!

準備ができたら、いよいよ染料に浸けます。煮出した直後の熱い状態でも構いませんが、臈纈だけは熱湯だと蝋が溶けだすので注意が必要です。

ぷかぷか泳ぐ、夾纈三兄弟。

こちらは、纐纈の糸締めが緩かったと気づいて後悔したときの写真。

染めている間に、媒染液を用意します。媒染液は、繊維に色を定着させたり、発色を良くしたりするものです。
今回は染液に浸けた後に媒染液に入れていますが、媒染液→染液(今回は玉ねぎの皮の液)、媒染液→染液→媒染液という手順もあります。
みょうばん(アルミ)はスーパーでも手に入りやすいので、それを使いました。
正式には布の重さに合わせてみょうばんを計量するのですが、最終的には目分量でもどうにかなるかと思います。(今回は布の総量が120gなので、その5%にあたる7gあればOK)
入れてみると化学反応を起こして、あっという間に色が変わっていきます。

ボウルに入った布と、まだ入れていない手前の布の違い、わかりますか?

20分ほど浸け込んだら、布を水で洗って、そのまま干して完成です。

ちゃんと綺麗に染まったのか?

さて、干す前に、実際に染まったのか確認してみましょう。

纐纈

まずは一番安定していると思われる纐纈から。

糸バージョン。

輪ゴムバージョン

染液に浸け込んでいるときは糸の縛りの甘さが気になったのですが、意外としっかり染まってくれていました。
輪ゴムのほうは強めに縛った甲斐があり、はっきりとコントラストが出ていますね。

臈纈

纐纈は糸やゴムを切るだけで済みましたが、蝋ははがすのが少し大変です。
地道に手で蝋を取っていくのが確実ですが、面倒な人は熱湯に放り込んでしまいましょう。ただし、その場合は鍋や桶に固まった蝋が残らないよう、そして排水溝が詰まらないように扱いには注意しましょう。

ワンポイントは、きちんと形が残ってくれました。
一方、広範囲に蝋を塗ってひびを入れた布は、ひびを入れすぎてしまったせいか、風合いをうまく出せず……。それでも、まだらに染まっている感はあるでしょうか。
表面がさらっとした生地なら、また少し違うかもしれませんね。

夾纈

最後は、一番不確定要素の強い夾纈です。

さあ、糸を切って、開けていきましょう。
まずは、何も彫っていない板をただ挟んだだけのものです。

おお! ちゃんと板で挟んでいた部分だけ、色が残っています!
この調子で、お花の凸彫りも開けていきます。

素晴らしい、こちらも想像以上にちゃんと形が出ました。立派なお花です!

これは「和」の凹彫りにも期待がかかりますね……。それでは、オープン!

!?
嫌な予感が……。

ひぃっ!!

彫ったときの下書きのインクを残したままにしていました……。(暇な人は、記事の上へさかのぼって、彫りたての「和」の字を見てみましょう。これを伏線といいます)

しかも、「禾」の部分のはみ出しや全体に行き渡らせる彫りが甘く、全然「和」に染まっていません。

アップで見ると、ほんの少しだけ染まっているのがわかります。

最後の最後でやらかしましたが、まあほぼ成功と言ってよいのではないでしょうか。

これから挑戦する人へ伝授するコツ

纐纈

糸でも輪ゴムでもさほど違いはありませんが、糸の場合はとにかくしっかり縛ってください。初心者が複雑な文様を作るのは大変ですが、単純な模様なら難しい技術はいりません。楽しく気ままに縛ってみましょう。

臈纈

蝋は一般に売られているものでOKです。
後処理も含めて、蝋の扱いには注意してください。ひび割れに関しては、蝋を厚めに盛って、細かく砕きすぎないようにしましょう。

夾纈

意外とくっきり跡が残るので、板を信じましょう。
彫刻する場合は、なるべく彫りやすい板を選んでください。染料が行き渡るようにしましょう。(私の屍を越えていけ)
今回は試しませんでしたが、板の代わりに、透かし彫りの入った木のコースターや消しゴム判子で挟んでもいけるかもしれません。

こうして読んでいただいたように、スーパーや100円ショップで揃えた材料を使って、簡単に染物はできます。
皆さんもぜひ、自宅で三纈に挑戦してみてください。

書いた人

日本文化や美術を中心に、興味があちこちにありすぎたため、何者にもなれなかった代わりに行動力だけはある。展示施設にて来館者への解説に励んだり、ゲームのシナリオを書いたりと落ち着かない動きを取るが、本人は「より大勢の人と楽しいことを共有したいだけだ」と主張する。