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2020.09.10

ビルの地下で作られる銘酒「織田信長」「濃姫」。昔ながらの製法にこだわる日本泉酒造に潜入!

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ただいま放映中の大河ドラマ「麒麟がくる」の美濃編の舞台として脚光を浴びる岐阜に、知る人ぞ知る江戸末期創業の「日本泉酒造」があります。ここの人気銘柄は、なんと大吟醸「織田信長」。さらには純米大吟醸「濃姫」や純米吟醸「豊臣秀吉」なども造られています。戦国時代好きであれば一度は飲んでみたくなる銘柄で、平成29年度には全国新酒鑑評会でも入賞を果たしました。

日本泉酒造のある加納地区は、織田信長が天下布武を掲げ、全国統一の拠点とした岐阜城があり、楽市楽座を開くなど大変な賑わいを見せました。また創業地の茶屋新田の近くには、豊臣秀吉が出世の足掛かりにした墨俣一夜城があります。これらのゆかりを誇りに生まれたのが戦国武将銘柄です。

ビルの地下で醸造しているのは日本では2軒のみ!

この日本泉酒造ですが、醸造場所はなんと、住居用マンションとテナントの入るビルの地下。日本でも2軒しかないという地下醸造を行っている珍しい蔵元なのです。

平成14(2002)年にJR岐阜駅前の再開発で移転を余儀なくされましたが、昔からこの地下水で造ってきた酒の味を手放すことができず、スペースを100坪に縮小して新たにスタートしました。

1年中、毎月新酒が誕生しています!

取材当日は、40度近い猛暑日だったのですが、日本泉酒造のある地下に降りると、一瞬にしてひんやりとした空気に包まれました。この地下室自体、壁の周りには地下水が流れていて、天然のクーラーとなっているのだとか。そのため、夏場も20度の温度が保てているといいます。そのおかげで、冬場にしか仕込めなかった日本酒を1年中醸造できるようになりました。これを四季醸造と呼びます。

製造責任者である武山孝広さん(右)と弟の武山昌平さん(左)。杜氏(とうじ)は置かず、製造の中心を担う「醸造ブラザーズ」です!

日本酒の種類知ってる?純米や大吟醸をわかりやすく解説してみた

日本酒と言えば、秋の新米を使って、1年分の酒を冬場に仕込むものでしたが、ここ日本泉酒造では、毎月新酒が出来上がっています。この搾りたての原酒をいただけるのは蔵人(くらびと)だけと言われていましたが、今は生酒として販売。ここ数年、生酒ブームが続いていて、国内だけでなく海外の方にも人気だとか。ということで、まずは搾りたての生酒をいただいてみます。

スーパーフレッシュな生酒はフルーティな味わい!

日本酒造りの工程では、品質を安定させるため、お酒の中の酵母の働きを止め、雑菌を駆除するための火入れをします。その後、貯蔵し、熟成した酒を出荷する際に二度目の火入れが行われ、瓶詰されます。この火入れを一度も行わないのが、生酒。まさに出来立ての味をそのまま楽しめるというものなのです。その味わいといえば、すっきりとしたさわやかな口当たりで、ほんのり香るフルーティさに夏バテが一気に吹き飛びました。

軟水のまろやかな天然水で仕込むから、柔らかくやさしい日本酒に

ここ岐阜県は、水の町とも評され、 環境庁が発表する「名水百選」に、「宗祇水(八幡町)」「養老の滝・菊水泉(養老町)」そしてこの日本泉酒造のある「長良川中流域(岐阜市・関市・美濃市)」が選ばれるなど豊かな水量を誇っています。そのためJR岐阜駅前という中心地にありながら、長良川の天然の名水を地下100メートルから汲み上げて使用することができているのです。また、同ビルの住居用の水道の蛇口からもひねれば天然の地下水が飲めるとのだとか。この贅沢な環境に、このマンションに引っ越してきたくなりました!

この超軟水の柔らかく美味しい水と岐阜県産で取れる酒米(一部は兵庫産や愛知県産も使用)、さらには岐阜県の食品科学研究所が開発したりんごのような華やかな香りといわれる「G2酵母」で醸される日本酒は、岐阜の地酒として県民の誇りともなっています。

昔ながらの製法を守り、手間ひまかけて造り出す本物の味わい

日本泉酒造のもう一つの特徴は、多くの蔵元では機械化されているもろみを搾る工程を木槽(きふね)で行っていること。「搾り切るのに3日かかるのですが、ゆっくり絞るので、雑味のないやさしい味わいになるんです」と武山孝広さん。この木槽の搾り口を「ふなくちとり」と呼ぶのですが、日本泉酒造では、純米吟醸無濾過生原酒をしぼりたて生酒「ふなくちとりシリーズ」として販売しています。これはまさに極上の味わいです!!

蔵人しか飲めない搾りたての生酒を蔵元見学で味わおう!

子どものころから酒造りを手伝い、酒造りに慣れ親しんできた武山兄弟が、本物の味を知って、目で見て、楽しんでほしいと力を入れている「酒造見学」(予約制)。生酒を無料で楽しめてしまえるなんて贅沢の極みです。

階段を降りると、いきなり酒造風景が広がります

精米した米を手洗いし、浸漬(米を水に浸す)し、蒸します

放冷といって、お米を覚ます作業。すべて手作業で行っていきます

麹菌を蒸米に繁殖させ麹米を造ります。麹米は温度管理が大切なので、徹夜で管理しています

酵母を大量に培養して、酒の元となる「酒母」を造ります

培養した酒母に蒸米と麹、仕込み水を入れ、発酵させたものが「もろみ」となります

発酵が終了したもろみを先ほどの木槽に入れて、搾り、瓶詰して酒造りが終了します。ビルの地下に無駄のない動線で酒造りが行われていることに驚きますが、製造量を少なくし、丁寧に作ることで唯一無二の美味しいお酒ができると武山昌平さんは語ってくれました。これも1年中、酒造りができる地下醸造ならではであり、伝統製法を活かしながら、最先端の技術を採り入れていく様子は、新しい時代の酒造りだと感じました。

織田信長は下戸だった? そんな逸話も楽しみながら味わう夫婦酒

「本能寺の変」には、織田信長に酒席で罵倒されたことが謀反を引き起こしたきっかけだと言われる怨恨説がありますが、最近では、織田信長は下戸だったという説もあります。さて、真実はいかに? 今後、「麒麟がくる」では、どんな風に描かれていくのでしょうか。いよいよ美濃編もクライマックス。織田信長の岐阜入城で、また岐阜エリアが話題の一つとなりそうです。日本泉酒造が造る「NOBUNAGA」「Nouhime」のおしゃれなラベルの夫婦酒。戦乱の時代を生きた織田信長と濃姫の姿に思いを馳せながら、こんなお酒を楽しんでみるのもおすすめです!

日本泉酒造株式会社

岐阜県岐阜市加納清水町3-8-2
営業時間:10:00~17:00
定休日: 日曜・祝祭日
公式ホームページ

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旅行業から編集プロダクションへ転職。その後フリーランスとなり、旅、カルチャー、食などをフィールドに。最近では家庭菜園と城巡りにはまっている。寅さんのように旅をしながら生きられたら最高だと思う、根っからの自由人。