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Gourmet
2022.05.09

徳川家光もハマった「七味唐辛子」とは?好みの味に調合するコツを聞いてみた!

この記事を書いた人

コロナ禍では辛いものブームが続いているのだとか。辛いものと一口に言っても、唐辛子を含めてさまざまな種類のスパイスがあり、世界各地には数えきれないほどの調味料があります。そんななかで日本に古くからある調味料のひとつが、七味唐辛子。辛さだけでなく、豊かな風味を持ち合わせている逸品です。そこで今回は、400年ほど前から七味唐辛子を製造・販売している会社にインタビュー! その魅力を深堀りしてみたいと思います。

使い方が一変した、七味唐辛子との出会い

今回紹介する「やげん堀 七味唐辛子本舗(以下、やげん堀)」の七味唐辛子に私が出会ったのは、かれこれ20年ほど前のこと。東京・浅草を訪問したときに立ち寄ったやげん堀の店頭で、七味唐辛子を購入したのが事のはじまりです。お店に入ってまず店員さんに聞かれたのが「お好みはありますか?」ということ。スーパーなどでしか購入したことのなかった私は、この質問にびっくりして「と、とくにありません」と答えたことをよく覚えています。

それを聞いて店員さんは、ショーケースに並んだ唐辛子やけしの実、麻の実などのスパイスをさじに取り、手際よく全体を混ぜて袋に詰めてくれました。ここでしか買えない自分だけの、七味唐辛子。調合してもらったことで、何か特別なものを手にしたような気持ちになりました。

それだけではありません。自宅に戻り、麺類や鍋料理などに振りかけてみると、その香りのよさやそれぞれのスパイスの存在感にも驚きました。七味唐辛子といえば「料理の仕上げに何となく振る」という使い方をしていましたが、「どんな料理が合うだろうか」と積極的に考えるように。大根おろしや湯豆腐、山菜そば、焼き魚、とろろごはんなどにも七味唐辛子をひとふり。いつもの料理に香ばしい風味が加わって、味わい深い一品に変身します。

それまで使っていたものとは一線を画すような、やげん堀の七味唐辛子。店頭で調合してもらう楽しさや脳裏に焼き付くような香りに魅せられて、定期的に通うようになりました。軽くてコンパクトなのでお土産にも最適で、知人友人に渡すとほとんどの人が驚いてくれます。そんな反応を見るのも、私のひそかな楽しみです。

やげん堀の七味唐辛子とは

やげん堀の七味唐辛子の始まりは、寛永2年(1625年)、三代将軍徳川家光の時代。家光公がこの七味唐辛子をとても気に入っていて、献上品としても使われていました。やげん堀のロゴマークに「山徳」の称号があるのは、徳川の「徳」の字をもらったことに由来しています。

やげん堀の七味唐辛子は漢方薬からヒントを得て考案されました。初代からし屋徳右衛門が江戸両国薬研堀において販売を始めたことから「やげん堀」となり、屋号へ。七味唐辛子に使用しているのは、唐辛子と焼唐辛子、けしの実、麻の実、粉山椒、黒胡麻、陳皮という7種類のスパイス。関西では薄口の味が好まれるのに対して、関東の料理は濃い味付けのものも多いです。濃厚な味に合うように、2種類の唐辛子を使いピリッとした辛さを引き出しているのが特徴です。

江戸や東京周辺では七味唐辛子ではなく、「七色唐辛子(なないろとうがらし)」と呼ばれることもあります。やげん堀の場合は「なないろ」と呼ばれることも多いです。独特の香りや辛味が江戸っ子に好まれ、江戸名物のひとつとして親しまれてきました。

調合販売だけでなく、原料や製法にもこだわる

やげん堀の七味唐辛子の歴史に触れて、「へぇ~そうなんだ」と思った人もいるかもしれません。身近な調味料でありながら、知っているようで知らないことの多い七味唐辛子。その魅力を深堀すべく、やげん堀営業部の柏谷晃さんにオンラインにてインタビュー! 七味唐辛子のこだわりや調合についてなど、店頭ではなかなか聞けないようなことも思い切ってお尋ねしてみましたよ。

ーーまず、やげん堀の七味唐辛子のこだわりについて教えてください。

こだわりとしては、主に3点あります。ひとつ目は、原料です。30年以上前は国産の唐辛子が主流でした。ところが、時代の変化により国内で栽培する農家が少なくなってしまい、国産の種を海外に持ち込んで栽培したものを使用するようになりました。

昨今は国産志向のお客さまも増えています。やげん堀らしい味というのは「辛いなかにも旨味がある」ということ。こうした味を出すことができ、必要な量が確保できるようになったこともあり、再び国産の原料を使う方向へとシフトしつつあります。

2つ目は、製法です。唐辛子はさやの状態で仕入れ、職人が辛さや粒度がそろうように粉砕しています。麻の実は、一粒ずつ選別する工程もあります。自社の大きな釜で火入れをしますが、釜の温度にも細心の注意を払っています。時代とともに機械による工程も増えていますが、最終的なチェックなど職人が行う作業も多くあります。

3つ目は、調合販売です。唐辛子の割合に応じて「大辛」「中辛」「小辛」という基本の配合があり、そこにお客さまの好みでカスタマイズできるようになっています。たとえば「陳皮多め」「山椒多め」などを指定することができます。

七味唐辛子の「定義」とは?

ーーそもそもの話になりますが、どこまでが七味唐辛子として許容されるのでしょうか。

驚くかもしれませんが、唐辛子が入っていないくても七味唐辛子と呼ぶことができます。辛い味が苦手な場合には「辛抜き」という調合もあります。では「何種類のスパイスを使っていれば七味唐辛子と呼べるのか」という疑問については、その数をはっきりと断言できません。

たとえば「唐辛子と山椒を混ぜてほしい」というオーダーがあった場合、「唐辛子と山椒のどちらをベースに配合しますか」とお尋ねするようにしています。ベースが唐辛子がであれば「一味の特別調合」、山椒であれば「山椒の特別調合」になります。

「どのスパイスを入れたか」「何種類を使ったか」ではなく、お客さまの好みに合わせて七味唐辛子と呼べるかどうかが決まります。

調合の楽しさや「遊び心」を感じてもらいたい

ーー店頭で調合してもらったときに、手際の良さにびっくりしました。

さじ加減で混ぜ合わせることで、お客様に楽しく買い物をしていただきたいです。
決まった数値をキッチリとはかって調合する方法もありますが、それでは少し味気な
いかと……。目の前で調合している様子を見て「遊び心」を感じてもらえると嬉しい
です。

お客さまから「前に買った時と味が違う」というお声をいただくこともあります。その時のベストな状態に原料を仕上げていますが、農作物なので多少の差が出ます。そのため、同じ分量で配合しても同じ味にはならないこともあります。安定した風味を求めるお客さまのなかには、店内に並んでいる袋入り(調合済)を購入される方も多くいらっしゃいます。

ーー好みでカスタマイズできるのは、とても魅力的ですね。常連さんの少し変わった独自の配合などがあれば、ぜひ教えてください。

配合はたくさんのパターンがあり、例を挙げたらキリがありません。たとえば、常連さんのなかには「大辛と中辛の中間で」というオーダーをする人もいます。お客さまからよく寄せられる声としては「鍋料理には陳皮が多めの配合がよく合う」「香りが立っておいしい」など。以前に自社で試したものとしては、アイスクリームの風味付けとして、「小辛」をベースにして「麻の実多め」にしたものを添えたらおいしかったです。

その人の好みや感性によって、どんな調合がおいしいのかは変わるので、これがおすすめとは断言できません。自分にとってのベストな調合をぜひ見つけていただきたいと思っています。

ーーお客さまの好みに細やかに対応されているんですね。季節によっても、好みの味が変わりそうです。

「夏は辛さを抑えめにしたい」というお客さまもいます。逆に、夏こそ辛味を欲するという声もあったりして、人により好みが分かれるところです。一般的に、唐辛子には食欲増進効果が期待されています。暑い時期は食欲が減退しがちなので、そんな時こそ唐辛子を上手に活用していただきたいですね。

ーー「少し変わったものを試したい」という人に向けた、おすすめの調合はありますか。

何か特別な調合をすることを、おすすめしているわけではありません。その上で、辛いものが好きな人には「大辛」、辛いものが苦手な人には「小辛」をおすすめしています。

好みが分かれるのは「麻の実」です。やげん堀の麻の実は、粒が大きめでインパクトがあります。苦手な人は「麻の実抜き」にすることも可能です。同じように嫌いなものがある人は、そのスパイスだけを抜いて調合することもできます。

自宅で調合体験ができる「薬味手習」というアイテムがあります。店舗にある調合ケースの縮小版で、好みの味を自分で調合できるというものです。「オリジナルの味が探求できる」と好評です。(2022年5月現在欠品中)

オンラインショップでも配合指定ができる

ーーオンラインショップでも、配合の指定ができるようです。

現状では7~8種類の指定ができるようになっています。店頭とは違ってオンラインの場合は「多めというのはどのくらい多めなのか?」など微妙なニュアンスの調整が難しいことも多いです。

2020年4~5月頃にコロナ禍でお店を閉めていた期間があり、オンラインショップでの調合指定をメッセージ欄に書き込んでもらい、一人ひとり対応していました。その際に指定の多かった配合をもとに、現在の7~8種類を選んでいます。

ーー店頭での販売から、オンラインショップへと移行しつつありますか。

お店によく来ていただく人の年齢層は比較的高いので、オンラインショップに移行しているのかどうかは何ともいえません。対面販売の魅力は、混ぜるときの香りや音などが五感で感じられること。それこそがやげん堀の良さだと思っています。

若い人のなかには、七味唐辛子という名前は知っていても、それがどういうものなのかを知らない人も多いです。7種類のスパイスを混ぜ合わせているということを知ると、驚く若者もたくさんいます。オンラインショップは遠方でなかなか足を運べない人などが利用するケースも多く、「オンラインで購入できて嬉しい」という声もよく届きます。

400年続く食文化のバトンを渡していく

ーーコロナ禍では「辛いものブーム」が続いているようです。辛いものが好きな人へのメッセージや、七味唐辛子に期待することはありますか。

「辛さのなかに旨味がある」ということをぜひ感じてもらいたいです。全国的に見ると有名な七味唐辛子がいくつか知られていますが、その土地にあった原料や味付けがあります。その意味でやげん堀は、特に東京や関東の料理によく合います。

とはいえ、七味唐辛子は和食だけでなく、洋風の料理に使っても味を引き立ててくれます。ぜひ若い人たちにも、日本に昔からある七味唐辛子の魅力に触れていただきたい。その方法を模索しています。400年続く食文化のバトンを渡していくのが、私たちの役割だと思っています。

◆やげん堀 七味唐辛子本舗

店 舗 名:新仲見世通り本店
住  所:〒111-0032 東京都台東区浅草1-28-3
営業時間:10:00~18:00(年中無休)

店 舗 名:観音通りメトロ店
住  所:〒111-0032 東京都台東区浅草1-32-13
営業時間:10:00~18:00(水曜定休)

書いた人

バックパッカー時代に世界35カ国を旅したことがきっかけで、日本文化に関心を持つ。大学卒業後、まちづくりの仕事に10年以上関わるなかで食の大切さを再確認し、「養生ふうど」を立ち上げる。現在は、郷土料理をのこす・つくる・伝える活動をしている。好奇心が旺盛だが、おっちょこちょい。主な資格は、国際薬膳師と登録ランドスケープアーキテクト(RLA)。https://yojofudo.com/