ゴーヤーが「縦切り」!世界一「癒し系」のゴーヤチャンプルー
神田流沖縄料理は前菜から予想を覆されるものだった。
鮮やかな朱色の漆器に盛り付けられた「本日のお惣菜盛り合わせ」は、「ゴーヤとセロリの梅和え」「海ぶどうとハンダマの胡麻ゼリー和え」「ニシンの昆布巻き」。
まず、ゴーヤーの形状に注目していただきたい。通常よく見る「輪切り」ではなく、縦にカットされているのだ。「神田切りです(笑)」と野口さん。「神田さんのアイデアに驚きました。食感と料理全体の味なじみがよくなるんです」。
口に入れると、サクサクとシャープなゴーヤーの味わい。おおむね、料理のなかにおいて主張が強いゴーヤが、セロリ、梅とバランスよく奏でる心地よい穏やかなハーモニーに驚く。
次なる衝撃は「ふわとろゴーヤーチャンプルー」。目の前に現れたのはどうみても、「オムレツ」! これが、ゴーヤチャンプルー?
戸惑いながら箸を入れると、かの「縦切り」ゴーヤー、豚肉、島豆腐にもやしが登場!
神田氏の遊び心あふれる、アイデアだ。ムース状のふわふわ、とろとろのたまごにくるまれたゴーヤチャンプルーは、これまで味わったことのない「やさしさ」に満ち溢れている。おそらく、世界一「『癒し系』のゴーヤチャンプルー」だ。
「日本酒」と好相性すぎる「ラフテー」、やさしすぎる「沖縄そば」
驚きは続く。「あぐー豚のラフテー、琉球煮物椀 冬瓜とハンダマ添え」。
沖縄風豚の角煮「ラフテー」をたっぷりの出汁と豚肉で煮物椀のように仕上げた一品だ。その味わいは「どこまでも繊細」。カツオと昆布の一番出汁と、エレガントな仕上がりのとろりとした豚肉は、透明感さえ感じるほど限りなく「和」に近い。
シラカチ炉端では、お酒とのペアリングも楽しめる。スタッフがこのラフテーに進めてくれたのは、泡盛ではない。「醸し人九平次大吟醸」である。
ラフテーを洗い流すのではなく、たおやかに寄り添うようなマリアージュ。最高の相性だ。
人気メニューという「島らっきょうと県産豚焼き」は、ニュージーランドの「クラウディー・ベイソーヴィニヨンブラン」とともに。
ジューシーな豚肉と島ラッキョウの個性が品がよく香り立つ串焼きは、みずみずしいアロマと爽快感のあるワインと合わさって、じつに軽やか。
シメには「アーサ入り沖縄そば」。
県内屈指の品質を誇る恩納村のアーサ(アオサ)をたっぷり使った沖縄そばは、またしても「やさしい」。たっぷりのカツオでとった芳醇な出汁に、潮の香り高くやわらかなアーサ、そして試作の結果、あえて灰汁を使わないで作られた麺とが醸し出す味わいは、寄せてはかえす夕凪のように穏やか。朝ごはんとしても食べたくなるようなホッとする一品だ。
食堂や居酒屋で提供される「にぎやかな味わい」の沖縄料理も楽しいけれど、食材ひとつひとつの旨みを感じる「繊細な味わい」の沖縄料理に舌鼓を打ち、新たな魅力を見出すのも、また楽しい。「唯一無二の沖縄料理」を堪能しに、ぜひ訪ねていただきたい。