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Gourmet
2019.09.25

「とらや 赤坂店」菓子職人インタビュー!おいしさとおもてなしの秘密は?

この記事を書いた人

菓子作りを見てもらうことで職人の士気があがる

12名もの職人がいる御用場の指揮を執るのが菓子職人・杉山康二さん。虎屋の職人として20年以上となる杉山さんは、赤坂準備室のメンバーを経て、とらや赤坂店へ。売場や菓寮で提供する生菓子やあんみつの餡や寒天を手掛け、ほかにも店舗限定菓子の考案や御用場で働く職人の指導を行っています。

昔から菓子作りが好きな少年だった杉山さん。日本文化につながる和菓子職人に惹かれて虎屋へ。「虎屋では、これまで何千種類という菓子を作ってきました。江戸時代の菓子見本帳に描かれている、製法や原材料がわからない菓子を作りあげて、ふたたび世の中に送り出したいですね」。

店内に菓子製造場を併設したのも、衆目のなか菓子作りをするのも、杉山さんはじめ職人にとっては初めての経験。しかし杉山さんは構想段階からこの仕様に、大きな期待を持っていたと言います。「長く工場内で仕事をしてきたのですが、百貨店の催事などで菓子を作った際にお客様との距離が近いことの良さを感じました。店のなかに御用場があることで製造した菓子をお客様にいち早くお届けできること、ガラス越しにお客様に菓子作りを見ていただくことでより身近に感じていただける。それに職人の士気も大いにあがります」と、杉山さん。

赤坂店限定の焼菓子「残月」を焼く杉山さん。丸く薄く延ばして焼けたものから餡を包んでいく。「毎朝焼いたものが午後には売場にならびます。少し硬めの皮で餡を包んだ焼菓子で、生姜風味がアクセントになっています」

取材後、購入した「残月」。生姜風味が効いていて後味もよく、コーヒーとの相性も抜群♡

ガラス張りの御用場は未来のファンをうむ

とはいえ、最初はかなり緊張をしたそう。ガラス正面に銅板の焼き台を設置したため、焼菓子を焼いているときは顔があげられなかったと苦笑い。
「一年がたち漸く慣れてきました。始終注目されることで、床や作業台、道具類を今まで以上にきれいにするようになりました。また全員が立ち居振る舞いに気を遣うようにも。職人として向き合うべきは菓子だけではなく、菓子の先にいるお客様であることを、あらためて感じています」
 最近では子どもから手を振られると、振り返す余裕がでてきたとか。手を振られた子供は、虎屋が、和菓子が、きっと好きになるはず。ガラス張りの御用場は、期せずして未来の和菓子ファンづくり効果ももたらしています。

真っ白な制服に身を包んだ職人がキビキビと働く姿は、子どものみならず大人も興味深いもの。撮影/和田直美

虎屋の味は、「少し甘く、少し硬く、後味よく」

日本の伝統文化である和菓子。日本文化の一端を担う菓子職人に魅力を感じて、高校卒業後にこの世界に飛び込んだ杉山さん。菓子作りや原材料の仕入れに携わるなかで、材料や製法、また菓子の味は時代ごとに変わってきているものでしょうか?「おいしさを追求するために原材料や製法を変えることはあります。虎屋の菓子は『少し甘く、少し硬く、後味よく』が身上。ただ“少し甘く、少し硬く”は時代や菓子の目的に合わせて変わることもあるかと思いますが、“後味よく”は大事にしたいと考えています」。

半月ごとに変わっていく上生菓子。営業、製造、虎屋文庫など各部門の意見をとりまとめ菓子を決めていく。お客様の反応はもちろんだが、技術の伝承なども菓子選定の理由に。

先人たちが作り上げてきた味に敬意を払いながらも、より最善な製法はないのか、もっとおいしくするためにはどうすればいいかを追求。新たな菓子を作るときには、職人だけではなく、必ず菓寮や売場に試食してもらって広く意見を取り入れています。「向き合うべくはお客様であり、意匠や味が自己満足で終わらぬように心掛けています。虎屋の歴史の一部として、受け継いできた味を大事にしながら、お客様に喜んで召し上がっていただける菓子を作り続けていきたい」。

長年、職人たちが使ってきた菓子木型。出来上がった菓子と同じく、ひとつの作品としても美しい。これらも虎屋の歴史の一部。写真提供/虎屋

書いた人

和樂江戸部部長(部員数ゼロ?)。江戸な老舗と道具で現代とつなぐ「江戸な日用品」(平凡社)を出版したことがきっかけとなり、老舗や職人、東京の手仕事や道具や菓子などを追求中。相撲、寄席、和菓子、酒場がご贔屓。茶道初心者。著書の台湾版が出たため台湾に留学をしたものの、中国語で江戸愛を語るにはまだ遠い。