Gourmet
2020.01.04

「玉ようかん」ってどんな和菓子?歴史や美しい食べ方、作り方を紹介

この記事を書いた人

「玉ようかん」という和菓子を知っていますか?「玉ようかん」は、風船に詰められたピンポン球サイズの和菓子で、爪楊枝で風船を割って食べるものです。玉ようかんを製造している菓子店は全国的に減少し、見かける機会も減っていますが、筆者在住の青森県青森市にはりんご味の「玉ようかん」を長年作り続ける飴屋さんがあります。

見た目の特徴や食べ方の面白さから、海外でちょっとしたブームにもなっている「玉ようかん」。その歴史と秘密を探るべく、青森市で「玉ようかん」を作り続ける「上ボシ武内製飴所」にお話を伺いました。

玉ようかんの歴史

上ボシ武内製飴所の「りんご玉ようかん」は、見た目も味も青森らしさあふれる銘菓。

まず、玉ようかんの歴史について振り返ってみます。
玉ようかんは、現在では製造している菓子店がとても少ない希少なお菓子。その歴史は、戦時中にまで遡ります。

玉ようかんの発祥は、日中戦争中の1937年。戦地に赴いてもやわらかく美味しいようかんが食べられるようにと、日本陸軍からの指示のもと、福島県二本松市の和菓子店「玉嶋屋」で開発されたのが始まりです。

「玉嶋屋」では当初「日の丸羊羹」という名前で販売されましたが、戦後に再開業した際には名前を改め「玉ようかん」となったのだそう。以降全国各地の和菓子店に広がりました。現在は北海道の「まりもようかん」や山梨県の「ぶどうゼリー」など、全国各地で同じ製法を用いて、ころんとした球体のようかんやゼリーを販売しています。

玉ようかんを充填するゴム風船も、今では製造している業者が少ないという。

玉ようかんは、ゴムでできた風船にようかんを充填させ、金具で密封して作ります。ゴム風船を割ることで中身を食べることができ、割ったときに出てくるちゅるんとした感じはなんともいえない面白さです。
まんまるのかわいらしい見た目がウケたのか、最近では韓国人や中国人のインフルエンサーやユーチューバーたちが「玉ゼリー食べてみた」動画をアップしたことで話題になっています。

ようかんに欠かせないのは、甘味料代わりだった「水飴」

青森大空襲でも焼けずに残った銅釜。現在もこの銅釜を使って水飴が作られている

青森市にある「上ボシ武内製飴所」は、江戸時代から続く老舗の飴屋さんです。今回、9代目社長の武内勝さんにお話を伺いました。
上ボシ武内製飴所は安政5年創業(1858年)。江戸時代後期に、津軽藩4代藩主・津軽信政が領民の副業として武内喜兵衛に命じ「津軽飴」をつくったのが始まりで、飴づくりを始めました。

武内喜兵衛は佐賀県武雄市武内町から日本海廻船で青森県に到来し、津軽藩に仕えた武士でした。2代目から津軽藩の水飴の御用に携わり、藩財政に寄与した人物です。幕末を迎えた4代目のときに弘前から青森へ移り、青森市で最も古い製菓店として、現在に至るまで代々お店を続けています。

「津軽飴」は、でん粉と麦芽から甘味を抽出してつくられる水飴です。太平洋戦争前までは割れた米を原料として米のでんぷんを使っていましたが、現在は天然のサツマイモのでんぷんを使ってつくられています。イモのでんぷんと大麦麦芽を混ぜ、一晩寝かせて出た水分をじっくりと煮詰めることで、甘味が抽出された「津軽飴」ができあがります。

缶が普及する前は、木の曲げワッパに水飴を詰めていたという。

煮詰めるときに使うのが、銅釜。1945年の青森大空襲によって工場は焼失しましたが、この銅釜だけが焼け残ったため、上ボシ武内製飴所では津軽飴の製造をやめることなく再開できたそうです。

今のように砂糖など手軽に手に入る甘味料がなかった時代では、津軽飴は貴重な甘味料として重宝されました。ニシン漁に出るときに持って行ったり、青森と函館を結ぶ青函連絡船の旅客や女工が買い求める土産品として人気を博していました。

水飴はお料理の照りだしにも使えるため、現在でも甘味料代わりにお赤飯や煮魚、煮豆の照りだし、焼き鳥のたれなどに使う方もいるのだそう。また、青森に昔からある郷土菓子「飴せんべい」の中に挟む水飴としても使われています。保存料や着色料などの添加物は一切使用せず、自然本来のやさしい甘味です。

りんご玉ようかんはもちろん、上ボシ武内製飴所でつくられるお菓子のほとんどに甘味料として津軽飴が使われていて、まろやかで素朴な甘さがすべてのお菓子に調和をもたらしています。

昔から変わらないデザインの津軽飴の缶。印刷されているねぶたも昔のまま。

上ボシ武内製飴所で玉ようかんをつくり始めたのは、45年ほど前。当時お菓子屋さんをしていたお店が潰れてしまい、そのお菓子屋さんから譲り受けた機械が、ようかんやゼリーなどを専用のゴム風船に充填できる、玉ようかん製造マシーンでした。その機械を使ってつくり始めたのが、金魚のかたちをした「りんご玉ようかん」です。

りんご玉ようかんは、ようかんの原料である白あん、水飴、寒天、そして青森県産の「紅玉」という品種のりんごをジャムにしたものを混ぜて、ゴム風船に充填させたものです。冷やせばもちもちとした食感が楽しめ、お茶請けにもぴったり。包装紙は、青森市の伝統的な夏祭り「青森ねぶた祭り」で飾られる「金魚ねぶた」をモチーフにしています。

玉ようかんの美しい食べ方


玉ようかんは、厚めのゴム風船の中にようかんを充填させ、針金で口の部分を留めてあります。食べるときにはお皿の上に置き、ゴム風船部分に爪楊枝やフォークなど先の尖ったものを刺してゴム風船を割ると、ゴムの伸縮性で中のようかんがちゅるんと出てきます。

爪楊枝を刺すときは結構力が要ります。思い切ってブスっと刺すと剥けやすいです。玉ようかんが逃げないように、手を添えて押さえたほうがよいでしょう。

こちら手前の一粒が、ゴム風船が剥けた状態です。風船に入っていたときよりもつやがあります。
長期保存が効く水飴を使っているりんご玉ようかんは糖度が高いため、5ヶ月ほどの保存も可能です。

上ボシ武内製飴所では「りんご玉ようかん」の製法を活かして、青森県産のりんごやカシス、巨峰を原料に使用したゼリーも販売しています。こちらもゴム風船のなかにゼリーを充填させたもので、甘すぎないさっぱりとした味になっています。ゼリーのほうがよりちゅるんと感が強く、弾力もあります。まんまるでコロコロしているので、見た目にもかわいらしいゼリーですよ。

見た目もさることながら、食べ方まで楽しめる「玉ようかん」。上ボシ武内製飴所の「りんご玉ようかん」は、東京の日本百貨店(秋葉原店・日本橋総本店) でも販売中です。見つけたらぜひ、楽しみながら味わってみてください。

上ボシ武内製飴所の店舗情報


上ボシ武内製飴所
住所:青森県青森市本町5丁目1-20
電話番号:017-734-1834
公式Webサイト:https://www.jyoboshi.com/

書いた人

大学卒業後、地元青森にUターン。図書館司書、ローカル誌の編集・発行などを経て、地域にある「いいもの・いいこと」を発掘・発信。地物産品の商品開発やマーケティングにも関わる。怪しい伝統文化・食べ物文化に興味あり。お肉とスイーツに目がない。