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Gourmet
2019.12.12

みりんは戦国時代発祥の高級滋養ドリンク!お屠蘇の手作り方法とみりんの種類・みりん粕も紹介

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12月に入り、新年を迎える準備を始めたという方も多いと思います。「一年の計は元旦にあり」という言葉にもあるように、新しい一年を清々しい気持ちでスタートしたいですね。

そこで提案したいのが、古くから元旦の朝に飲まれてきた「お屠蘇」。数種類の生薬をみりんに浸して作るもので、実はとても簡単なんです。

昔ながらの製法で作られた「三河みりん」を使って、とびきり美味しく手作りしてみませんか?今回は、お屠蘇と三河みりんの魅力をお伝えしたいと思います。

まず、お屠蘇とは

元旦の朝に家族全員が揃って、おせち料理や雑煮の前にいただくのが「お屠蘇」。新年の祝い酒としてだけでなく、その年の無病息災を願う意味も込められています。

お屠蘇をいただく習慣は約1700年前に中国で生まれ、その後日本に伝わり平安時代には貴族の正月行事として使われるようになったのだとか。庶民に広まったのは、江戸時代とされています。

お屠蘇は、5~10種類の生薬をブレンドした「屠蘇散(とそさん)」を、7~8時間程度みりんに浸して作ります。成分が液体に溶け出して、香りや色が移ったら飲み頃!みりんの甘さが生薬の独特の香りをマイルドにしてくれます。

12月頃になると、ティーパックなどに入った屠蘇散をよく見かけるようになります。メーカーごとに配合が少しずつ違っているので、いろいろ試してみると面白いかもしれません。

材料が揃えば10秒足らずであっという間に仕込みが完了するので、「おせちづくりはハードルが高い」「でも手作りの一品で新年を祝いたい」という方にもおすすめ。ある調査によれば「正月にお屠蘇を飲む人は3割程度」と言われていますが、とても簡単に手作りできるので、ぜひ正月の行事に取り入れたいですね。

屠蘇散の中身は?

ちなみに屠蘇散によく使われる生薬は、「山椒(さんしょ)」「桔梗(ききょう)」「肉桂(にっけい)」「陳皮(ちんぴ)」「白朮(びゃくじゅつ)」「防風(ぼうふう)」など。胃腸の働きを整えたり、血行を良くしたりするものも多く含まれています。

年末年始には食べたり飲んだりする機会が増えて、身体が疲れてしまいがち。そんな時にもぴったりの飲み物と言えるかもしれません。

「みりん」には3種類ある

絶品お屠蘇を作るために欠かせないのが、美味しいみりん。

家庭に1本は置いてあることの多いみりんですが、実はみりんと呼ばれるものには大きく3種類あることをご存知でしょうか。

・三河みりん
・一般的な本みりん
・みりん風調味料

通常安い価格で売られていることの多い「みりん風調味料」は、添加物によってみりんに似た風味を付けた合成調味料。即日で完成し、アルコール分は含まれていないものもあります。

アルコール分を含む「本みりん」と呼ばれるもののなかにも2種類あります。

一般的に多く流通している本みりんは、醸造アルコールや糖類(水あめ)などを使ったタイプ。2~3ヵ月の醸造期間を経て、米に対して約4~5倍の量のみりんを造ることができます。

それに対して、昔ながらの製法で作られているのが「三河みりん」。原材料は、国産のもち米・米こうじ・本格焼酎(米)だけで、醸造期間は1年以上。米一升から、同量の一升のみりんが出来上がります。自然の恵みを生かした、濃厚な味と香りが特徴です。

材料や熟成期間の違いは、みりんの味や香りにもはっきりと表れています。比べてみると、その違いは一目瞭然!新年の祝い酒でもあるお屠蘇には、ぜひ本物の美味しいみりんを使いたいですよね。

三河みりんを求めて、みりんの本場・碧南市へ

ところで、「三河みりん」という名前を初めて聞いたという方も多いと思います。三河というのは、愛知県東部地域のこと。豊富な水と温暖な気候に恵まれており、みりんだけでなく、味噌や酢、醤油、日本酒などの発酵文化が盛んなことから別名「醸造王国」とも呼ばれています。

今回は、美味しいみりんを求めて、みりんの本場・碧南市にある株式会社角谷文治郎商店さんへ。明治43年に創業し、三代にわたってみりんの製造に携わっています。

案内してくださったのは、蔵娘の角谷文子さん。みりんが造られている工程を特別に見学させていただきました。

みりんの仕込みは、春と秋の年2回。訪れた時には、秋の仕込みの真っ最中でした。

精米したお米を仕入れる醸造会社が多いなかで、こちらでは玄米を精米するところから始めています。

精米したもち米を洗って水に浸した後、こしき(大きなセイロ)に入れて蒸していきます。

蔵のなかは、もち米の甘くていい香りが立ち込めていました。

一段のセイロに入るもち米は、約300キロ。これを一日3回に分けて、計10段蒸し上げていくそうです。

蒸したての熱々のもち米を試食させてもらいましたが、そのままでもとっても美味しい!

蒸したもち米は、米こうじ・本格焼酎と混ぜ合わせてタンクに仕込んで、約3ヵ月熟成させます。時間をかけることで甘味だけでなく、たんぱく質がアミノ酸に分解されて旨味がじわじわと出てきます。

3ヵ月間熟成させた後、酒袋に入れて搾ります。

絞った後の液体は再びタンクに詰めて、一年以上かけてゆっくりと静かに熟成させます。始めは透明だったものが、糖とアミノ酸のメイラード反応により琥珀色へと変わっていきます。

ここまで約2年の時を経て、ようやく瓶詰め。三河みりんの完成です。

有機もち米、有機米こうじ、有機米焼酎を使った「有機三州みりん」。みりんを製造している蔵は碧南市に5軒あるが、有機みりんを作っているのはこちらだけ。全国の百貨店や高級スーパーや、インターネットからも購入できる。

巷で人気の「みりん粕」とは?

昨今注目されている「酒粕」と並んで、発酵食が好きな人たちを中心にひそかに人気を集めている「みりん粕」。3ヵ月熟成させた後の搾り粕のことです。酒粕に比べて甘さがあり食べやすく、江戸時代中期には、甘いお菓子として食べられていたという話も。

その見た目が満開になった梅の花に見えることから別名「こぼれ梅」とも呼ばれています。材料を厳選し、きちんとした製法で作っていないと「みりん粕」は美味しくないのだとか。

こちらでは、通常はパティスリーや粕漬けなどのメーカーにみりん粕を提供していますが、春の期間限定で個人向けの販売も行っているそうです。

みりんは、もとは「滋養ドリンク」だった

蔵見学を終えた後、文子さんから「みりんを試飲してみませんか」と声を掛けてもらいました。

実は、戦国時代に誕生したみりんは、もともとは高級な滋養ドリンクとして飲まれていたのだとか。庶民に広まったのは江戸時代に入ってからで、そこから調味料として使われるようになったそうです。

みりんと言えば「加熱するもの」というイメージですが、一口含んでみると「とても美味しい」!甘味、旨味、香りが口の中で広がり、何だか身体がポカポカ……。かつては滋養ドリンクだったというお話に、心から納得しました。

このみりんを使えば「絶品お屠蘇」が作れることは、それはもう、言うまでもありませんね!

「みりん=和食」ではない、新しい使い方も

みりんは和食に使うもの、というイメージをお持ちの方も多いと思いますが、文子さんによれば「最近は、和食だけでなく、中華料理や洋食、パンやお菓子づくりにもよく使われていますよ」とのこと。

例えば、酢豚に使うと酸味が和ぎ、麻婆豆腐に使うと味に深みが出るのだとか。酸味との相性も良く、トマトやバルサミコ酢などと合わせるのもおすすめとのこと。お菓子づくりでは、みりんを煮詰めてはちみつやメープルシロップなどの代わりに、甘味付けとして使うという方法も。

みりんは言わば「お米のリキュール」。バーテンダーの方にみりんを試飲してもらうと「ラム酒に似ている」と言われることが多いのだとか。ラム酒を使った定番カクテル「モヒート」は、蔵だけでも5種類のレシピがあるそう。

文子さんから「ラムレーズンを作る感覚で、ドライフルーツをみりんに漬けるのも美味しいです」と教えてもらいました。さっそく干し柿・くるみ・陳皮(みかんの皮を干したもの)を漬けてみたところ、これもとっても美味!

普段の料理やお菓子づくりにみりんを使ってみると、新しい味の発見があるかもしれません。

「旬の果物×みりん」で、手軽に食養生

実は、以前から三河みりんのファンのひとりでもある私。はちみつの代わりにみりんを使って、旬の果物やドライフルーツなどを漬けてみる使い方が、個人的にはおすすめ。手軽にその美味しさが味わえます。

昔から喉を潤し咳などを予防する食材として使われてきた「かりん」や「きんかん」などと組み合わせた保存食は、これからの時期の乾燥対策にも良さそう!

きんかんのみりん煮。みりんならではの美味しそうなツヤが出る。

かりんのみりん漬け。はちみつと比べて、すっきりとした甘さ。かりんの香りを引き立ててくれる。

手間暇かけて愛情を込めて作られた、三河みりん。そのみりんを使った保存食は、私たちの心身をやさしく守ってくれそうですね。

みりんづくりを通して、食文化や風景を守る

一度使ってみると、その魅力を身体の内側からも実感して、手放せなくなる三河みりん。文子さんによれば「地元では三代にわたってご愛用してくださっているお客さまも多いです」とのこと。

すでに多くのみりん好きな方や地域に愛されている三河みりんですが、みりんづくりへの想いを文子さんにお尋ねしてみました。

「この地域は、ほんとうに醸造文化が盛ん。みりんだけでなく、他の醸造製品と一緒に発酵文化を発信してきたいですね。お米を作ってくれる農家さんがいるから、みりんを造ることができる。次世代の子どもたちのためにも、この田園風景を守っていきたい。微力ですが、みりん造りに携わりながら、そんなことを日々考えています。」

本物の美味しいみりんを選ぶことは、自分や家族の味覚を満たすだけでなく、巡り巡って日本の風景を伝えていくことにもつながっていく。ひとりの消費者として、食材を選ぶ時の考え方を見直してみるのもいいかもしれません。


お屠蘇づくりから始まった、みりんを訪ねる旅もそろそろ終わり。次は、皆さんのご家庭で。ぜひ新しい年の始まりに、古くからの歴史や人の温もりを感じながら、お屠蘇と三河みりんを味わってみてはいかがでしょうか。

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会社名:株式会社 角谷文治郎商店
住所:〒447-0843 愛知県碧南市西浜町6-3
電話:0566-41-0748
営業時間:平日9:00~12:00、13:00~17:00
(第二土曜日・日曜日は休み、7~9月は土曜日・日曜日休み、祝日は営業)
公式webサイト:http://www.mikawamirin.com/index.php
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*個人の方向けの蔵見学は行っていません。「大ナゴヤツアーズ」にて春と秋の年2回、見学ツアーを開催しています。関心をお持ちの方は、そちらにご参加ください。

書いた人

バックパッカー時代に世界35カ国を旅したことがきっかけで、日本文化に関心を持つ。大学卒業後、まちづくりの仕事に10年以上関わるなかで食の大切さを再確認し、「養生ふうど」を立ち上げる。現在は、郷土料理をのこす・つくる・伝える活動をしている。好奇心が旺盛だが、おっちょこちょい。主な資格は、国際薬膳師と登録ランドスケープアーキテクト(RLA)。https://yojofudo.com/