え、美術館のチョコレートに専属ショコラティエがいるなんて!
展覧会に行くときは、ミュージアムグッズも同じくらい楽しみですよね。近ごろはどの美術館&博物館も、ミュージアムグッズに気合いが入っています。バリエーションも幅広く、昨年、森美術館で開催された『バスキア展』で“バスキア・ヨガマット”を発見したときは驚愕した記憶が…(それも1柄売り切れていた)。
どうやら展覧会界(なんてあるのか?)では密かに「ミュージアムグッズ対決」が行われている模様ですが、今回ご紹介する箱根の「岡田美術館」で販売されているオリジナルチョコレートブランド「Okada Museum Chocolate」は、ガチ中のガチ。専属のショコラティエが存在し、2014年の発表以来、毎年新作を発売しています。さらに毎年バレンタイン時期に行われるチョコレートの大祭典、日本橋三越本店の「スイーツコレクション」では6年連続、今年は伊勢丹新宿店の「スイーツコレクション2020」にも初出店するなど、世界のチョコレートブランドにも引けを取らない本格派なのです。もはやお土産や記念品の度を遥かに超えている!美術館なのに、どうしてそこまでチョコレートにこだわるの?その秘密が知りたくて、工房におうかがいしてきました。
これはキレイ!収蔵作品を美しいチョコレートに再現
「Okada Museum Chocolate」が誕生したのは2014年。岡田美術館が収蔵する尾形光琳の「菊図屏風」をモチーフに、華やかなチョコレートができあがりました。
この絵が…
こんなチョコレートに!すごくきれい!
ほかにも、浮世絵史上最大と言われる掛け軸の、喜多川歌麿「深川の雪」もチョコレートに。
この傑作が…
こうなりました!
そして今年の新作は、4月5日より開催される特別展「生誕260年記念 北斎の肉筆画-版画・春画の名作とともに-」に合わせて「Okada Museum Chocolate『波と富士』」を発売。満を持して、北斎の代表作である「冨嶽三十六景」の中から、これまた岡田美術館が収蔵する「神奈川沖浪裏」と「凱風快晴」を色鮮やかにチョコレート化しました。
フレーバーも凝りに凝っているのです
あらゆる名画の一部がバランスよくチョコレートに描かれている姿は、見ているだけでワクワクしますが、すごいのは見た目だけではありません。実はこれらのチョコレート、ひと粒ひと粒がすべて違うフレーバーなのです。
その証拠に、新作のチョコレートをカットしてみると…
ガナッシュが2層になっているのがわかりますか?色だけでなく味も異なっているのですが、その組み合わせがとても粋。たとえば和栗×タイム、ハイビスカスベリー×ココナッツ、バナナ×ローズマリー、ブドウ×ゴルゴンゾーラチーズ…。にわかに味が想像しにくいですが、これが「Okada Museum Chocolate」の真骨頂。香り豊か、かつ瑞々しいフレーバーを組み合わせることで、ほかのチョコレートにはない複雑で斬新な味が生まれます。「Okada Museum Chocolate」の名画を描いたチョコレートは、すべて(現在39種類)組み合わせが異なるというから驚き(いつかコンプリートしたい!)。まさに大人のためのチョコレートです。
実際にチョコレートを手がけているのは、先にも述べたとおり専属ショコラティエによるもの。岡田美術館専属マスターショコラティエ・三浦直樹さんは、代官山の「デカダンス・ドュ・ショコラ」のオープニングシェフや「ブルガリ イル・チョコラート」の初代マスターショコラティエという華やかな経歴の持ち主。クオリティにも納得です。現在は「Okada Museum Chocolate」の開発から製作までを、アシスタントとふたりで自ら行っているそうです。
「チョコレートが大好きな岡田美術館の副館長に、声をかけていただき専属になったのが最初です。『美術館収蔵の作品の魅力をチョコレートで伝える』という新しい試みは挑戦しがいがありました」(三浦さん)
三浦さんは、それまで特別アートが好きというわけではなかったそうですが、チョコレートに描くという視点で作品を見ると、あでやかな色使いや構図の巧みさに、改めて感動したとか。「お客様にも『きれいなチョコレートですね』とおっしゃっていただくことが多いですが、それは作品そのものの強さや美しさがあってこそ、としみじみ感じますね。ひと粒の大きさが3㎝四方と、やや大きめなのですが、これは作品を表現しやすいから。この中に、原画により近く、だけどチョコレートとしても成立するベストなバランスを調整しています」(三浦さん)
そして特徴でもある凝ったフレーバーですが、前職で培ったものが大きいと、三浦さんは語ります。「ありとあらゆる食材を実験して、今ではどんなものがうまくいくかは大体わかるように。今回はバナナとブドウが新しい味になります。組み合わせは、何種類ものガナッシュからふたつを重ねてテイスティングし、決めていくんです。大事にしているのは、それぞれの味がきちんと立つこと。たとえばバナナは甘くやわらかい味わいなので、それを引き締めるためにさわやかなローズマリーを合わせることにしました。これは絶対正解!と思っていた組み合わせが意外とバランスが悪かったり、どちらかの味が勝ってしまったりすることもあるんです。日々実験ですし、面白いですね」(三浦さん)
最後にチョコレートの制作工程を全見せします
ひとつのチョコレートをつくるのにかかる日数は、約1週間。特別にその製作過程も見せていただくことができました。が、1週間張り付きで取材できるはずもなく…なんと最後の工程以外は三浦さん自ら撮影!いい人!本当にありがとうございます(泣)。
まずはガナッシュづくり。写真はココナッツフレーバー。一部の工程をのぞき、チョコレートづくりは手作業で行われています。
ふたつのガナッシュを型に流し込んでいきます。こちらはバナナ×ローズマリーの制作工程。作業が終わったら2日間、冷蔵庫に寝かせます。
上下にチョコレートを塗ったらカッティング。
さらにチョコレートを全体にコーティング。やっと機械が登場しました!コーティングするチョコレートはミルクとビターの2種類。中のガナッシュの味を引き立てるフランス産チョコレートを厳選されているそうです。
ツヤツヤのボンボンチョコレートが!
できあがったチョコレートに図柄を施します。その後シルバーの粉をデコレーションして華やかに。ここでやっと三浦さんご本人がお目見え!
マスターショコラティエ自らが、すべての工程を手がけていたことが意外でしたが(『大きな機械を動かして次々にできあがっていくと思っていました』と言うと、『それは大手菓子メーカーだけです』と笑われました)、ひと粒ひと粒に愛情がこもっていると思うとうれしいですよね。ここ数年、世界規模でチョコレート界は盛り上がっており、続々と新しいチョコレートが生まれていますが、そのような中でも「Okada Museum Chocolate」だけがもつ魅力は何でしょう?と最後にたずねてみました。
「やはり、美術品をチョコレートに落とし込んだ最初のブランドである、という自負はあります。チョコレートを菓子としてだけでなく、アートやカルチャーの一部として発信できる喜びは大きいですね。あとはフレーバーの組み合わせについては、アイディアも種類もほかに負けていません」(三浦さん)
たとえばフルーツとハーブ、そこにチョコレートが重なり、最後にシルバーでデコレーションされる。それはさながら、コース料理の最後に出てくるデザートプレートのよう。「Okada Museum Chocolate」のチョコレートには、3㎝四方の中に壮大な世界が広がっているんですね。
展覧会基本情報
展覧会名:生誕260年記念 北斎の肉筆画 ―版画・春画の名作とともに―
会場:岡田美術館
会期:4月5日(日)~9月27日(日)9:00-17:00 会期中休館日なし
公式HP:https://www.okada-museum.com/
※「Okada Museum Chocolate『波と富士』」は4月5日(日)から販売開始。
スイーツコレクション情報
「日本橋三越本店 スイーツコレクション」
会場:日本橋三越本店本館7階=催物会場
会期:1月29日(水)~2月14日(金)10:00-19:00 最終日18:00終了
公式HP:https://www.mitsukoshi.mistore.jp/nihombashi/event_calendar/valentine.html
三越オンラインストア
販売期間:1月6日(月)~2月2日(日)
公式URL:https://mitsukoshi.mistore.jp/onlinestore/index.html
「伊勢丹新宿店 スイーツコレクション2020」
会場:伊勢丹新宿店本館6階=催物場
会期:2月5日(水)~2月14日(金)10:00-20:00 最終日18:00終了
公式HP:https://www.isetan.mistore.jp/shinjuku/event_calendar/sweets_collection.html