ニッポンの名庭
〜信州須坂田中本家 豪商屋敷の庭〜
江戸時代になると庭づくりの文化は日本全国へ広がりました。その一例である大名庭園のほか、大地主や商いで成功した豪商が各地に現れ、それぞれの屋敷に設えた豪勢な日本庭園が今も残っています。
-和楽2014年11月号より-
客殿2階から眺めた、まさに一幅の絵のような大庭。
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信州須坂 田中本家(しんしゅうすざか たなかほんけ)とは…
「信州須坂 田中本家」は、江戸の中期に初代新八(しんぱち)が農業のかたわら、穀物や菜種油、煙草、綿、酒造業などの商いを開始。やがて須坂藩の御用達となり、名字帯刀(みょうじたいとう)が許された大地主へと成長します。3代新十郎(しんじゅうろう)のころには須坂藩筆頭御用達となり、藩の財政にも大きく貢献。その財力は須坂藩をも上回るといわれるほどになります。北信濃でも屈指の豪商となった田中本家は、住居としてはもちろん、来客をもてなすための屋敷づくりにも熱心に取り組み、京都より庭師を招き、池泉回遊式(ちせんかいゆうしき)の日本庭園など3つの庭をつくります。
カルガモも訪れる大庭の池泉。
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名庭の見方と見どころガイド
土蔵に囲まれた約100m四方の豪商屋敷には、須坂藩の役人のほか、その評判を聞きつけて、俳人・小林一茶(こばやしいっさ)をはじめとした文人墨客や落語家の林家正蔵(2代)らが訪れました。表門を入ると玉砂利(たまじゃり)に松や桜、石組を配した表庭。展示館では田中本家の優雅な暮らしぶりを伝える名品の数々に目を奪われます。池泉回遊式の大庭は、大きな石を随所に配し、植栽がこの地の自然が表現していて独自の趣に満ちており、客殿に上がって、かつてこの屋敷に招かれた客人になったつもりで大庭を眺めると、時代をさかのぼったような気分が味わえるようです。
土蔵が立ち並ぶ回廊。
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大庭から客殿を見ると、信州の山並みが借景になっている。
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田中本家の名庭は一般公開されています!
約3000坪の敷地は、20もの土蔵に囲まれ、その中に豪勢な客殿や主家が軒を連ねる田中本家の屋敷。1993年には「豪商の館 田中本家博物館」として一般公開されるようになりました。当時の面影を今に伝える屋敷を訪れると、表庭に迎えられ、秋の庭と呼ばれる池泉回遊式の大庭は、石組と植栽がダイナミックな美を構成。秋の庭の名にふさわしい美しい紅葉が彩りを添えています。また、5棟の土蔵を改装した展示館では、田中本家の代々が江戸中期から昭和までに使用していた美術品のほか、各地から取り寄せた衣装や陶磁器、漆器、玩具などの名品を見ることができ、当時の豪商の生活文化を目の当たりにすることができます。
名庭データ
●信州須坂 田中本家
(しんしゅうすざか たなかほんけ)
池泉回遊式庭園
江戸時代・天明年間に完成
作者不明
住所)長野県須坂市穀町476
開館時間)9時〜17時
休館日)火曜(年末年始、臨時休館日あり)
入館料)750円
ホームページ)
http://www.tanakahonke.org
-撮影 篠原宏明-