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2016.11.12

石川県・金沢の旅ガイド。九谷焼のもてなしマジックを覗いてみませんか?

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色絵の聖地、加賀・金沢には器の美があふれています!

前回の「絢爛たる九谷焼の世界、金沢へ!」では、九谷焼の歴史、九谷焼を楽しむイロハを金沢21世紀美術館館長、秋元雄史さんとの旅の中で教えていただきました。「九谷焼のよいものは、金沢の粋な人々が遊んでいた場所で使われ、受け継がれてきました。そんな金沢の旦那文化が支えてきたのが料亭“つる幸”であり、山代温泉の宿“あらや滔々庵”です」という秋元さんからのアドバイスにしたがって、今回はまず、お昼を予約しておいた料亭「つる幸」にうかがいました。

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山海の美味に恵まれた金沢の食材が集まることで知られる近江町(おうみちょう)市場のほど近くに立つ「つる幸」を訪れると、金沢の旦那衆に愛されてきた老舗らしい落ち着いたたたずまいに迎えられました。ひと品ずつ順に供される料理には、日本海の海の幸と加賀野菜の旬の食材がふんだんに用いられ、上品でいてメリハリのある味わいは目を見張るほど。最後に和菓子とお薄が供されるのも、茶道が日常に息づいている金沢らしい趣です。そして、それら一連のもてなしを美しく演出しているのが九谷焼の器なのです。深い緑色の古九谷の小皿に盛られたお造りや、現代九谷を代表する武腰潤(たけごしじゅん)作の鉢に盛られたノドグロ(アカムツ)や筍の焼き物など、視覚でまず魅了されてしまいます。

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写真の器は武腰潤作。
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ご主人の河田康夫さんにお話をうかがうと、「九谷焼を使っていると、料理と器がお互いに引き立て合う関係だと身にしみて感じます。作家の方もどんな料理を盛り付けるのか興味がある様子で、互いに勉強し合っているような感じです。器が大切なことは店の若い者にも伝えていて、毎年5月の連休に能美市(のみし)で行われる九谷茶碗まつりへ、今でも掘り出し物を探しに行っています」。加賀・金沢の人にとって九谷焼は、美術品として鑑賞するものではなく、日常に用い、食卓を彩っている。その言葉が腑に落ち、金沢の食文化を九谷焼の器が支えていることもよくわかりました。

つる幸(つるこう)

(椅子席)昼¥10,000~、夕食¥18,000~
(座敷)昼¥10,000~、夕食¥18,000~。
【住所】石川県金沢市高岡町6-5 地図 
【営業時間】12時~15時(最終入店13時)
      18時~22時(最終入店19時) 
【定休日】不定休

九谷焼を訪ねる旅の宿は、金沢駅から特急で30分弱の、古い温泉街の面影がある山代温泉「あらや滔々庵(とうとうあん)」。古九谷の生みの親である大聖寺藩の初代前田利治(まえだとしはる)をはじめ代々の藩主を迎えてきた、創業800年を超える古湯を守る老舗です。

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近くには染付の名工として知られた須田菁華(すだせいか)の窯があり、そこで焼物を学んだのが北大路魯山人(きたおおじろさんじん)。宿の15代主人は魯山人を引き立てた人のひとりでした。館内には宿で使用してきた初代須田菁華の器を展示したコーナーがあり、魯山人作の看板や器がそこここにさりげなく飾られています。

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宿で使用した初代須田菁華の器の展示コーナーにあった金継ぎの小鉢。
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館内を見て回り、温泉になごんでいるうちに夕食の時間です。見事な和のしつらいの客室に運ばれてくる料理は、まず器との取り合わせで目を楽しませてくれます。九谷焼らしい色合いの酒杯に冷酒を注ぐと、味わいまで華やかに感じられるほど。ズワイガニがとれない春から夏にかけての名物は日本海産の毛蟹。山本長左(やまもとちょうざ)作の染付の大皿に盛られた姿も上品で、味わいは格別です。さらに、鯛のあら炊きが盛り付けられた器は、大聖寺伊万里(だいしょうじいまり)と称される明治期につくられた赤絵鉢。見た目に地味で素朴な料理を、立派なメインディッシュに仕立てる九谷焼の存在感には感心せずにはいられませんでした。

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大聖寺伊万里に盛ったあら炊きはご馳走の趣。
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あらや滔々庵(あらやとうとうあん)

【住所】石川県加賀市山代温泉湯の曲輪 地図 
【宿泊料金】(1泊2食付き2名1室利用時の1名分)¥35,790~(税・サ込み) 
チェックイン14時(~19時)・チェックアウト11時

進化し続ける九谷

2日目に向かったのは、小松駅の近くにある「小松市立錦窯展示館」。再興九谷の吉田屋窯の作風を受け継いだ初代徳田八十吉と、近代九谷をリードした二代の住居と窯が残された施設です。

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初代徳田八十吉が起居した部屋に作品と資料を展示。初代が興した錦窯のほか、古九谷の展示もある。
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小松市立錦窯展示館(こまつしりつにしきがまてんじかん)

【住所】石川県小松市大文字町95-1 地図
【営業時間】9時~17時(最終入館16時30分) 
【定休日】月曜・祝日の翌日・展示替え期間、年末年始 
【入館料】(平常展)¥300

三代徳田八十吉は光の帯が重なったような絵付けの彩釉(さいゆう)磁器で、九谷焼の新たな境地を見出した人間国宝。九谷焼は素地と絵付けが分業だったことから女性も多く、三代の影響もあって、四代は、たおやかな女性陶芸家。早くから陶芸家を志していたのだそうです。「大きな名前を継ぎ、技術を習得したからといって、すぐに器がつくれるものではありません。ここで心を研ぎ澄まし、目に映る四季折々の自然の息吹や色から力をいただくことによって、コンセプトが固まり、ようやく彩釉を施した器ができ上がります。それもまた先人から受け継いできたものなのです」当代の言葉は、真摯(しんし)な作家や職人の存在が、今日まで続く九谷焼を支えてきたことの証しにほかなりません。つくり手と使い手、双方の高い美意識と志によって不滅の美を得た九谷焼。旅を終えても、美しい絵付けの器への興味は増すばかりです。

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-撮影/篠原宏明-