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2020.08.21

もふもふ苔の三大聖地・奥入瀬渓流の世界をレポート!苔観察の魅力も紹介

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「趣味は苔(コケ)の観察です」なんて言ったら一昔前なら “暗い人” “オタク” などと言われたかもしれませんが、今や苔は疲れた現代人を癒やす存在として注目を集めています。苔を使った苔玉はインテリアとして国内のみならず海外でも人気ですが、最近は京都のお寺も御朱印を苔で表現したり(モシュ印)、苔の注目度は高まるばかり。今回はマイナスイオンたっぷりの奥入瀬渓流(おいらせけいりゅう)の、もふもふ苔まみれの癒し時間をお届けします。

日本庭園と相性の良い苔

苔と言うと日本庭園を思い浮かべる方も多いでしょう。特に京都には苔で有名な寺社や庭園が多数あり、三千院、祇王寺、東福寺本坊庭園、苔寺と呼ばれる西芳寺(さいほうじ)と、有名どころだけでも挙げるときりがありません。主張しすぎない苔の存在は日本庭園との相性が抜群なんです。

苔をデザイン的に配置したという点では、重森三玲(しげもりみれい)が作庭した東福寺本坊庭園の苔と板石による小市松の北庭が有名です。使われているのは京都の寺社でよく見られるウマスギゴケ(馬杉苔)という種類で、日が当たる場所では体を縮めて枯れたように見えますが、水を与えるとふっくらと美しい姿に戻ります。苔は根を持たないため、水分を体全体から直に取り込みます。乾燥すると休眠のような状態になりますが、雨や霧などの水分で復活するという特徴を持っています。

わたしたちの身近にある苔

日本には世界の苔の約1割、約1600~1700種類の苔が生息していると言われています。先ほど紹介したように、寺社の庭園などに行けば簡単に見ることができますが、苔は私たちの通勤や通学途中の何気ない道にも存在しています。例えば石垣や石畳の隙間など、よ~く見ると草ではない緑色の物体を確認することができるでしょう。控えめで景色と馴染むその姿に、あまり注目が集まることはありません。

そもそも苔というのはどういう植物なのでしょう。天体望遠鏡で知られるVixenが、苔についてわかりやすく解説しています。

コケ植物(蘚苔類)は蘚類・苔類・ツノゴケ類に分けられます(コケ観察ガイドでは蘚類とコケ類のみを取り上げています)。 いずれも水を吸い上げる根と植物体に水を運ぶ維管束を持ちません。全身で吸水し、光合成を行います。 コケの形状は、茎と葉が分かれる「茎葉体」タイプと分かれない「葉状体」タイプに大別されます。 「茎葉体」は直立または匍匐し、多くの蘚類・苔類がこのタイプに属します。 「葉状体」は平たく、地面や基部に張りつきます。 このタイプは苔類のみに限られます。これらの植物体は、いずれも吸水機能を持たない「仮根(かこん)」によって基物に着生しています。植物体は単相(n)の「配偶体」と、複相(2n)の「胞子体」からなっています。

出典:Vixen「小さなコケの世界を旅しよう」

実はVixenはルーペやスプレーボトル、コケ観察ガイドブックが入った観察セットを2016年から販売していてます。壮大な宇宙から原始的な苔まで、守備範囲が広いですね。

もふもふ天国!奥入瀬渓流

脇役のような控えめな存在の苔ですが、苔の世界にも「三大聖地」と呼ばれる場所があります。奥入瀬渓流、北八ヶ岳、屋久島です。奥入瀬渓流には約300種類の苔が生息していると言われ、しっとりとした深い緑の世界はジブリ作品に出てきそうな雰囲気。

奥入瀬渓流とは

奥入瀬渓流は十和田湖(とわだこ)から流れ出る奥入瀬川にあるのですが、奥入瀬渓流と奥入瀬川の2つの名称は明確に分けて使われています。奥入瀬渓流というのは奥入瀬川の一部、十和田湖に接した子ノ口(ねのくち)から焼山までの約14kmのことを指す特別な名称なのです。奥入瀬渓流は特別名勝、天然記念物として国の指定を受け保護されていて、渓流沿いには散策路が整備されています。

奥入瀬渓流の成り立ち

十和田湖は、約20万年前に始まった火山活動により形成されたカルデラ湖(噴火による陥没に長い年月をかけて雨水が貯まってできたもの)で、奥入瀬渓流は十和田湖の決壊による大規模な洪水によってできたU字型の渓谷です。V字型ではなくU字型に形成されたため、脇に遊歩道の設置が可能となり、多くの観光客が気軽に渓流沿いを楽しめるのが魅力。約14Km続く散策路からは14本もの滝を眺めることができます。これらの滝は火山活動による柱状節理(ちゅうじょうせつり)が崩れてできたもので、よく見ると柱状節理特有の規則正しい形を見ることができます。

奥入瀬渓流の苔と木々

渓流沿いには岩を抱えたような巨木が多く見られます。もともとは岩の上に苔が付き、その上に樹木の種が落ちて育ち、長い年月をかけてこのような形になったのだとか。苔は水分を多く蓄え、抗菌性もあることから、樹木にとっては優れた環境だったようです。
十和田湖が天然のダムのような役割を果たしているので、奥入瀬川は雨が降っても水量が比較的安定しています。大きく増水することがないため、川の中に天然の苔玉のような岩が沢山存在し、その上に木が茂っている様子も見られます。これらの “天然の苔玉” が長い年月をかけて奥入瀬の豊かな森へと育つのです。

奥入瀬渓流の苔観察

苔の聖地と呼ばれる奥入瀬渓流は、日本蘚苔類(せんたいるい)学会により「日本の貴重なコケの森」のひとつとして選定され、苔好きの人々が集まります。
苔好きの人々が集まると言っても、彼らは集団で騒いだりせず、苔のようにひっそり静かにもふもふの苔の世界に浸っています。木や岩にへばりついている人を見ても不審者だとは思わないでください。彼らは小さなルーペで苔の世界を楽しんでいるのです。

普段なら気にならない倒木も、苔目線で見ると美しいミクロの世界の入り口に思えます。ルーペを持った手を顔に当てて、倒木や岩の苔に思いっきり近づいてみてください。かなり近づくと焦点が合うポイントがありますので、そこでじっくりと観察。はじめて目にするみずみずしい苔の世界は感動ものですよ!

ルーペとスマホのカメラレンズを上手くくっつければ、小さな苔を撮影することもできます

蛇皮のような模様の「ジャゴケ」には、六角形の区画の中央に呼吸のための空気孔(気質孔・きしつこう)が見られます。一口に「苔」と言ってもその種類は奥入瀬渓流だけでも約300種類もあるのですから、その姿も千差万別。ジャゴケには見た目の他にも特徴的な点があって、表面を指先でこすると人によっては松茸のような香りが感じられるとのこと。残念ながら私は嗅覚が鈍いのか松茸には感じられませんでしたが、それでも緑の苔の香りとは思えないような香りは感じられました。

苔は種で増える種子植物とは違って、胞子によって増える植物です。小さな世界で懸命に命を繋いでいる苔を愛しく感じたら、あなたも苔にハマった証拠。

奥入瀬渓流では苔を観察するツアーも行われています。自分で散策するよりも、ガイドさんと一緒だと詳しい説明が聞けますし、ルーペなどの貸し出しもありますので、時間に余裕がある人は参加してみては。奥入瀬自然観光資源研究会が主催しているガイドツアーや宿泊施設のホームページを調べてみるといいでしょう。
NPO法人 奥入瀬自然観光資源研究会 コケさんぽ

奥入瀬渓流で自然観察

せっかくの自然豊かな奥入瀬渓流なら、苔以外にも注目したいところ。渓流沿いの花や木々にも知らなかった秘密が沢山。例えばカツラの落葉は、キャラメルのような甘い香りがします。ガクアジサイの装飾花は、受粉が終わるまでは上を向いて虫たちにアピールしていますが、受粉が完了したら下を向くようになっています。虫はもう必要ないし、種を遠くに飛ばすのに装飾花が邪魔になるのでしょう。奥入瀬渓流で自然の不思議に触れてみてください。

渓流沿いでよく見かけるシダの葉の裏側をそっと覗いてみてください。私ははじめてこれを見た時に虫がぎっしり張り付いているのだと思って絶叫しました(笑)。
シダも胞子で増える植物で、葉の裏には胞子嚢群(ソーラス)がびっちり!!胞子だとわかっていても何回見ても気持ち悪い。でもそのうちシダを見つけると裏返して確認せずにはいられなくなりますよ。

何度見ても気持ち悪いシダの葉の裏 それでもやっぱり見てしまう中毒性あり

意外と身近な苔の世界を楽しもう

石畳や公園の木の根元、お寺の庭など、意外と身近な場所で見かける苔。一生懸命自分たちの小さな世界で生きている愛らしい苔たちに愛着を感じずにはいられません。苔は特別な機材がなくても、スマホの接写(マクロ撮影)やクリップ式のマクロレンズなどで簡単に観察・撮影することができます。特にクリップ式のマクロレンズは今では100均でも手に入るので、気軽に苔の世界を楽しむのにおすすめです。

書いた人

生まれも育ちも大阪のコテコテ関西人です。ホテル・旅行・ハードルの低い和文化体験を中心にご紹介してまいります。普段は取材や旅行で飛び回っていますが、一番気持ちのいい季節に限って着物部屋に引きこもって大量の着物の虫干しに追われるという、ちょっぴり悲しい休日を過ごしております。

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