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大人だけが知っている!「静寂の京都」

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2019.09.03

花のある生活っていいな!露地もの限定の花屋「みたて」を知っていますか?【京都】

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2013年、これまでにない花屋が京都に誕生。それが「みたて」

京都のお花屋さん「みたて」を知ってますか? 取り扱う花は和花など、その季節に咲いている花に限り、しかも山や野に咲く「露地もの」。というだけでもこだわりの専門店ですが、それに加えて既製品の花器を扱わないのがこの店の信条。花や草木をとり合わせるのは「弥生土器のかけら」であったり、陶磁器を焼く際に使われる窯道具「匣鉢(さや)」を用いたり。作家のうつわや昔からある道具で花器となりうるものを「見立て」て、花や草をより魅力的な姿に仕立てる主人の西山隼人さん。これが屋号に「みたて」とついている理由なんです。

2013年、京都市北区紫竹(しちく)に開店。大徳寺からもほど近く、茶の湯まわりの店もある落ち着いたエリアです。開店当時のお店は、引き戸を開けると小間にこんもりと花や草、枝ものが生けられていて、まるで山に分け入ったような雰囲気でした。そこから客は買いたいものを選ぶという斬新なスタイルは瞬く間に評判となっていったのですが、西山さんは2019年春にいったん営業を終了。改装を行い、2019年5月からまったく新しいかたちで「みたて」を再出発させました。

和花を愛するこころを現代によみがえらせてくれた「みたて」。雑誌和樂でもこれまで注目してきたお店です。これからどこへ向かうのか? 西山さんにじっくりと話をうかがいました。

「花一輪、ひと枝」の強さを感じてもらう店へ

まずは店に入ってみましょう。黒板塀の町家が、土壁に変わってますね!

一歩足を踏み入れるとガラス窓と対面。水盤に置かれた一輪の花がお出迎えしてくれます。
店内からのぞくとこんな感じ。水盤は漆作家に依頼した特注品。
「僕がおじいちゃんになっても続けていきたい花屋のあり方を考えたときに、和菓子屋さんがありました。店に入ったらショーケースが置いてあるだけで。生菓子が5つぐらい入っているだけなんだけど、そこにはしっかりと季節が映し出されているという。そこでお客様が指さして選んだものを僕が手渡す。そんなやりとりができたら…という思いでこの水盤をつくりました」と西山さん。

水盤に浮かべた草花はひと種類ずつ。これにも西山さんのこだわりがあります。
「以前は山野草をワサッと盛って、まるで山の一部を見たような気持ちになっていただく狙いがありました。ふり返ればそれは集合で見る面白さであって、それぞれの花には目を留めていただけなかったんじゃないかと。ひと枝でも一輪でも、それだけで季節を伝えることはできる。今はそこに懸けてみたいんですね」。
複数の花を生けるとなるとセンスも必要だし、花器も選ぶ。考えるだけでおっくうになるのも確か。一輪でもお好きなものを、と言われるとグッとハードルも下がりますね。もっと気軽に花を生けることができそうです。

家に花を飾る”場づくり”を提案したい

さらに店内の奥へ。壁一面にいろいろなパターンの草花のしつらえ見ることができます。これも新しい!


西山さんいわく、これは「現代版の床の間」。空間の大きさに合わせて一輪挿しもあれば数種類を寄せ植えたものなど多種多様。「壁にちょっとしたくぼみをつくったり、釘を打つだけで花を飾るスペースってつくれるんですよ。そこに照明の工夫したら、より素敵に見えますね。ここにある飾り方をまねてもらって『家の中にたえず花がある生活っていいな』と思ってもらえたら」。

この日飾ってあるものの中から、私が目をつけたのはこのふたつ。

李朝の耳杯にレンゲの種とドクダミ。どちらも西山さんが朝、田んぼから摘んできたものだそう。「自然界で黒と白の組み合わせを眼にする機会が少ないからこそ、この組み合わせが面白いかな」とのこと。玄関にあったら素敵!

こちらは漆の桶に苔をはって山野草を寄せ植えたもの。家の中に里山の風景が広がるっていいですね。店内にある寄せ植えは、もちろんその場で購入も可能。

定員3名のワークショップ「会」が始まりました

新装開店以降、「みたて」の花屋としての営業日は週末のみとなりました。その代わり、西山さんと一緒に花や草木を通じて季節を味わう「会(かい)」というワークショップを毎月開催することに(隔週の水曜・木曜)。新しく設けた畳の小間で、一緒になって手を動かしたり、勉強をするそうです。
この大きさなので定員は3名。みっちり「みたて」のセンスが学べますね!
「会」で伝えたいことは、行事ほど大げさなものでなくても日常のなかに季節を感じる工夫だとか。たとえばお客様にお菓子を出す場合にはこんな工夫を(取材時期は6月中旬)。杉田明彦さんの菓子鉢にこんもりと盛られたのは笹。うだるような暑さも水のしたたる笹の葉が一気に涼を運んでくれます。

笹のふたをのぞくと、笹の葉に包まれたナニカが見えます。笹をほどくと中には羊羹「笹ほたる」(和久傳製)が! うっかりするとお菓子に気が取られてしまいますが、わざわざ笹の葉に切りたての羊羹を包んだのは西山さんのアイディア。確かに笹一枚でも十分に初夏が感じられますね。昔なら笹の葉を皿にみたてていただくところですが、現代なら菓子皿の上に笹の葉というところでしょうか。
「昔で言えばおばあちゃんの知恵みたいなことを、僕が代わりにお伝えしていくってことでしょうか。話を聞いてくれた方のなかに、ひとつ季節の流れの意識が芽生えたらきっと生活が変わる。楽しくなると思うんです」と西山さん。京都では6月末に茅の輪をくぐって半年後の無病息災を祈る行事がありますが、6月の会では小さな茅の輪を編んだのだとか。秋になったら朴葉を使ったりするのでしょうか? 旬の植物に触れる機会が少ない今の時代にこの試みがどう受け入れられるのか、西山さん自身も興味がとてもあるそうです。

産直野菜ならぬ、季節の花の贈り物をどうぞ

最後に、「みたて」の新しい「おもたせ」を紹介しましょう。「収穫したての野菜が産地から届くように、いま山や野で咲いている花を届けたい。季節を味わうことが花を愛でるいちばんの楽しみのはずなのに、そこが現代ではいちばん忘れられているような気がして」という店主の思いから始まったサービスです。

まずは「山のたより」。山から届く3種類の草木が入ります。
「手元に届いたら3つの草木を寄せて生けるのではなく、それぞれを愛でていただけたら」と西山さん。5,000円(税抜、以下すべて全国発送可・送料別途必要)。
次が「送り筒」。利休が竹の筒に花を入れて送ったという逸話から着想を得て生まれたオリジナルの竹の花入です。「一枝一輪を大事にする心まで届きますように」と店主。
竹筒とお花が届きます。その先にある「自分で生ける楽しみ」も贈ることになりますね。12,000円(税抜)。実際に生けてもらいました。この日はモミジとホタルブクロの取り合わせ。

そして「みたて」の定番「季節の木箱」。旬の草花を詰めたかわいらしい子箱です。箱のまま飾れるところが気楽ですね。内容は月替りで6月は「蛍袋」。4,000円(税抜)

以前に比べるとより身近に和花のある暮らしがイメージできるようになった「みたて」。京都旅の折にはぜひ営業日と時間を確認の上、お訪ねください。西山さんは気軽に山に入れなくなるため、メディアにお顔を出すことは避けているそうですが(悪いことをしているわけではないですよ!)、実際に会うと穏やかな、花を愛する紳士なんです。西山さんとお花にまつわる会話ができたら、それがいちばんの京都土産になるのではないでしょうか。

そして「みたて」のある紫竹はおいしいものや手仕事の集まる小さくて歩きやすい街。その近くには京都市内最長の商店街「新大宮商店街」もありますよ。どうぞ素敵な京都滞在を!

みたて 店舗情報

住所:京都市北区紫竹下竹殿町41
営業日:金曜・土曜(予約制/メールか☎︎0752035050へ)
営業時間:12:00〜17:00
みたて公式サイト hanaya-mitate.com
*「会」の開催日やテーマなど詳しくは公式サイトにあります。

撮影/石井宏明

書いた人

職人の手から生まれるもの、創意工夫を追いかけて日本を旅する。雑誌和樂ではfoodと風土にまつわる取材が多い。和樂Webでは街のあちこちでとびきり腕のいい職人に出会える京都と日本酒を中心に寄稿。夏でも燗酒派。お燗酒の追究は飽きることがなく、自主練が続く。著書に「Aritsugu 京都・有次の庖丁案内」があり、「青山ふーみんの和食材でつくる絶品台湾料理」では構成を担当(共に小学館)。