古事記や日本書紀などに出てくる「天岩戸(あまのいわと)」。
日本全国を旅していると色々な場所で様々な天岩戸に出会うこともあるのですが、今回ご紹介する「天岩戸神社」にあるのは、その中でもトップクラスで有名。
近くには、天岩戸隠れ神話で八百万(やおよろず)の神々が会議を開いたとされる天安河原(あまのやすがわら)などもあり、まさに神話のふるさと呼ばれる宮崎県の高千穂ならでは。
今回は、宮崎県西臼杵郡高千穂町に位置している「天岩戸神社」を神話に基づきながらご案内していきます。
西本宮と東本宮がある天岩戸神社
天岩戸神社は、岩戸川(いわとがわ)を挟んで、西本宮と東本宮を有しています。
昔は、西本宮が「天磐戸神社」、東本宮は「氏神社」、もしくは「天磐戸大神宮」という名前の別々の神社でした。
しかし、1970(昭和45)年に合併して「天岩戸神社」となり、現在の形になっています。
主祭神は、西本宮も東本宮も天照皇大神(あまてらすすめおおみかみ)ですが、西本宮は、天照皇大神の別名である大日霎尊(おおひるめのみこと)となっています。
また、配祀神には、天鈿女命(あめのうずめのみこと)、天手力男命(あめのたぢからおのみこと)、素戔嗚尊(すさのおのみこと)といった天岩戸の神話にも出てくる神々も祀られています。これに加えて、大年神(おおとしのかみ)、日子穂穂手見命(ひこほほでみのみこと)、豊玉姫命(とよたまひめのみこと)、菅原道真公も祀られています。
西本宮は、神話の中で天照皇大神が隠れたとされている天岩戸をご神体として祀っていますが、東本宮は、天照皇大神が天岩戸から出た後に1番最初に住んだとされる場所を祀っています。
どちらから参拝するべきか迷ってしまったら、神話の要素もたっぷり詰まった、参拝者や観光客にも人気が高い西本宮をまず訪れるのがおすすめです。
天岩戸の神話とは?
ここで、天岩戸の神話をあまりご存知ない方のために、この神話のあらすじをご紹介しておきます。
弟である須佐之男命(すさののみこと)の乱暴な行いに怒った、その姉である太陽神の天照皇大神が、天岩戸と呼ばれる岩穴に隠れて岩の戸を閉めて籠ると、世の中は真っ暗闇になり、疫病や食糧難など相次ぐ不運に見舞われました。
八百万(やおよろず)もの大勢の神々が天安河原(あまのやすかわら)に大集合し、この相次ぐ不運な災難を止めるため、天照皇大神が天岩戸から出てきてくれるようにするためにはどうすればよいか会議を開きました。知恵の神様の天八意思兼命(やごころおもいかねのみこと)の名案を採用し、神々は実行開始!
まず最初に、長鳴鶏(ながなきどり)を集めていっぺんに鳴かせ、次に神々は祝詞を奏上。すると、これに合わせて天鈿女命(あめのうずめのみこと)が招霊(おがたま)の木の枝を持って、伏せた桶の上に乗って踊りだしました。その滑稽な踊りに神々は大爆笑し、正に宴会のような大盛り上がり!
天照皇大神は外の賑やかさが気になり、世は自分が隠れたことで暗闇の中にあるのに、なぜ、そんなに楽しいのかと、天岩戸を少しだけ開けて質問しました。
「天照皇大神よりも立派で美しい神が来たからです。今、お連れします!」と神々は答え、少し開いていた天岩戸の隙間から天照皇大神の顔を鏡で映して見せました。
自分だと分からなかった天照皇大神はもっとよく見たかったので、岩戸を更に開け、のぞき込むために体の一部を乗り出してきました。その瞬間に、天八意思兼命は思いっきり天照皇大神の手を引っぱり、そして、天手力男命(あめのたぢからおのみこと)は開いた岩戸の隙間に手をかけて怪力で外し、その岩戸が2度と閉まることがないように遠くへ投げ放ちました。
すると、この世に光が再び戻ってきました。
西本宮で出会える岩戸を外した怪力「手力男命」の像
観光客にも大人気の西本宮。
この駐車場付近で最初に出会うのが「天手力男命(あめのたじからおのみこと)」。
開いた岩戸の隙間に手をかけて怪力で外し、その岩戸が2度と閉まることがないように遠くへ投げ飛ばそうとしている姿が現されている像です。
この様子は、天岩戸神楽の30番戸取にも手力男命が岩の戸を取り払い給う舞としてあります。
さて、天手力男命が取り外し、2度と閉まることがないように遠くへ投げ放った岩戸は、どこへ飛んでいったのかご存知ですか。
それは、なんと、長野の戸隠神社にあるそうです。
宮崎の高千穂から長野の戸隠まで岩戸を飛ばせるなんて、超怪力!
天岩戸神社の参拝後に、戸隠神社へも行ってみたくなっている神話好きの方も少なくないことでしょう。
この像は、車で来た人でない場合、見逃してしまう人もいるらしいので、西本宮の一の鳥居を通ってから少し左側にそれた場所を注意して見てみてください。
西本宮のご神体「天岩戸」
神話の中で天照皇大神が岩戸を閉めて中に籠ったとされている西本宮のご神体「天岩戸」。
拝殿へ行ってもご神体を拝むことはできません。
では、どこで拝めるのでしょうか。
じつは、拝殿の裏にある遥拝所から拝むことができます。
この遥拝所への入り口は閉まっており、神職者の案内無しには入場できませんので、社務所で申し込む必要があります。
御神体「天岩戸」の案内の所要時間は20分ほどで、午前9時から午後4時40分まで、最終回を除き30分ごとに1日15回行われています。この案内に参加しますと、遥拝所への案内だけではなく、神社の説明なども境内で行っていただけます。
料金は無料ですが、造営資金のための寄付として募金も可能となっています。
普段は禁足地となっている拝殿の裏にある遥拝所へ入るために、入り口付近でお祓いをしてもらうと、その先からは写真厳禁。ご神体の撮影ももちろんできません。
遥拝所とご神体の間には岩戸川が流れており、遥拝所から見て右側には東本宮があり、そこからかなり左側の沢山の草木が茂る山の断崖中腹に隠れるように磐の洞穴となっているスポットがあります。
そこがご神体「天岩戸」とのことです。
私が行った際にはご神体を判別できましたが、遥拝所から眺めてもかなり距離があるので見分けがつかなく、どこだか分からない人もいるようです。
西本宮のご神木「招霊の木」と天鈿女命
西本宮の境内には、この本宮のご神木となっている招霊(おがたま)の木があります。
春には可愛い小さな白い花を楽しめ、秋には赤い実がなり季節ごとに異なる表情も楽しませてくれます。
授与所では招霊の木の苗も扱われています。
天岩戸の神話では、天鈿女命が伏せた桶の上で踊る際に手に持っていたのが、招霊の木の枝であったと伝えらており、この天鈿女命の舞は、天岩戸神楽の起源にもなっています。
さらに、神楽で使われる神楽鈴は、たわわに実った招霊の木の枝がその起源となっているとのことです。
天岩戸神楽で神話を満喫!
西本宮の境内にある神殿の左手に位置している「神楽殿」では、春や秋に行われる大祭などで天岩戸神楽の奉納が行われます。
天岩戸神楽は、全体で16時間にもおよぶ33番もある神楽で構成された長編となっており、無形文化財にもなっています。
春や秋に訪れる予定の方は、神楽が行われる大祭に合わせて訪れてみてはいかがでしょうか。
神話で八百萬神々が会議したとされる「天安河原」
天安河原は、天岩戸の神話の中で、八百万もの大勢の神々が大集合し、中に籠って出てこない天照皇大神を天岩戸から出すために連日会議が繰り広げられたとされる場所です。
天岩戸神社の西本宮からは、裏参道を通って県道に出ると、右側に天安河原への歩道を示す看板があります。
天安河原は岩戸川沿いに上流へ500mくらい行った場所にあり、時間にして西本宮から10分くらいです。
天安河原へ向かう歩道の入り口付近には、喉を潤せるような小さなお店も何軒かあります。中でも、地元のお茶を使用して作った特製ソフトクリームなどが人気。
帰りも同じ道を通るので、天安河原の帰りに休憩を兼ねて立ち寄るのもおすすめです。
結界となっている「太鼓橋」
天安河原への道中には、岩戸川に架かった「太鼓橋」があり、この橋を堺に俗世界と聖域が隔てられた結界となっていると言われています。
また、清らかな岩戸川が流れるこの太鼓橋の上は、天安河原エリアの中でも1番清らかなエネルギーに満ちたパワースポットとなっているらしいです。
積み石だらけの「仰慕窟」
天安河原へ到着しますと、幅40メートル、奥行き30メートルほどの仰慕窟(ぎょうぼがいわや)と呼ばれている巨大な洞窟があります。
天岩戸神話では、この洞窟やすぐ目の前の河原に八百万もの大勢の神々が集まって、天照皇大神を天岩戸から出すために連日会議が繰り広げられたとのことです。
この仰慕窟の中には、鳥居と祠があり、御祭神は、天八意思兼命と八百萬神(やおよろずのかみ)となっています。
写真を見てもお分かりの様に、仰慕窟の中やその周辺の河原には、参拝しに来た観光客が身勝手に行った積み石が所かまわず無数にあります。
もともとは、積み石が一切無い清らかな空間で、仰慕窟自体も地元の人々を中心として信仰の対象となっていました。
しかし、積み石で願い事を叶えることを促すような無責任な口コミやWEB記事などが拡散されたことで、この写真にある様な自体になってしまったとのことです。
かつて、この惨状を迷惑に思っている地元の人々についての記事を私は目にしたことがあるのですが、大雨による川の増水などで積み石が流れて綺麗になっても、すぐに足の踏み場もない程の積み石が積まれてしまうとのことでした。
私個人は、あるがままの姿が一番美しいと思っていますので、人の手によって、しかも、個人的な我欲があふれた空間になってしまっているこの現状を非常に残念に思います。
東本宮「天鈿女命」の像
西本宮から徒歩で7分ほどの場所に位置している東本宮へ到着すると、まず最初にご対面できるのが「天鈿女命」の像。
天岩戸伝説で伏せた桶の上に乗って素晴らしい踊りを踊り、天照皇大神が天岩戸から出てくるように気を惹くのに大活躍した神様です。
この像には仕掛けがあり、天鈿女命が360度ぐるりとゆっくり回転して動くようになっているんです。
後ろを向いたまま止まっている時もあるのですが、しばらくすると回転しだして顔を見せてくれるというお茶目な仕掛けも天鈿女命らしいユーモアを感じます。
「本殿」がある東本宮
長い階段を登りきると拝殿、本殿、神楽殿などがあります。
西本宮との大きな違いは、天照皇大神が天岩戸から出た後に1番最初に住んだとされる場所を祀っているので、西本宮には無かった本殿があります。
東本宮は西本宮に比べて参拝者の数も少ないので、神聖な静寂に包まれた空間となっており、ゆっくり落ち着いて参拝することができます。
杉の巨木から湧き出る「御神水」
本殿の裏には、巨大な杉の木の根元から湧き出ている御神水をいただけます。
根元が1つにつながっている「七本杉」
御神水があるスポットの左奥には、30mほどの遊歩道があります。
この遊歩道を進んでいくと、なんと、根元が1つにつながっている七本杉!に出会えます。
でもよく見ると杉の木は全部で9本…。
「七本杉」と呼ばれているの木は、右から数えて7本目までの杉で、これらの木は根元で1つにつながっているとのことです。
この杉は、崖の上に立っていることから、この杉を眺めることができるように遊歩道が後からできました。遊歩道が無かったときは、こんなに間近に見ることができなかったらしいです。
「七本杉」にも是非、立ち寄ってみてください。
天岩戸神社 基本情報
住所:宮崎県西臼杵郡高千穂町岩戸1073-1
電話番号:0982-74-8239