「小田急 山のホテル」のツツジ
ここに掲載した版画は川瀬巴水(かわせはすい)の昭和10(1935)年の作品です。
川瀬巴水は美人画家として著名な鏑木清方(かぶらぎきよかた)に師事し、大正・昭和に「新版画」の制作に取り組み、日本各地の風景を叙情豊かに表現した近代風景版画の第一人者。
描かれているのは現在の「小田急 山のホテル」のツツジ園で、川瀬巴水が描いた当時、三菱の創業者岩崎彌太郎(いわさきやたろう)の甥である岩崎小彌太(こやた)男爵の別邸にツツジ・シャクナゲ園があり、岩崎男爵の依頼を受けた川瀬は、全6点の版画を制作。富士山を望むツツジ園を描いた本作は、そのうちのひとつです。
岩崎男爵の別邸は明治44(1911)年に建てられ、そこにツツジ・シャクナゲ園がつくられました。それから100年の時を超えて「小田急 山のホテル」には今年も、川瀬巴水が版画に切り取った当時と変わらない絶景が楽しめる季節がやってきました。
同じアングルで切り取った川瀬巴水の版画と現在の写真を見比べてみると、ツツジの植栽や富士山の見え方など、まったく変わっていないことがよくわかります。
芦ノ湖畔を赤やピンク、薄紅で染め上げるこのツツジの美しさは、テレビや雑誌でたびたび取り上げられていますが、この時季の「小田急 山のホテル」がこれほど人々に愛されている理由は、実際に訪れてみるとわかるでしょう。
華やかな彩りとともに甘い香りに包まれたホテルは、華やかな春の余韻を五感に訴えかけてくるのです。
では、ここで少しホテルの歴史をひもといてみましょう。
現在「山のホテル」が立つ45,000坪の敷地はもともと、三菱の創業者岩崎彌太郎の甥である岩崎小彌太男爵の別邸があったところでした。
岩崎男爵の別邸から「山のホテル」へ
目の前に広がる芦ノ湖、その向こうには雄大な霊峰富士。箱根で指折りの景勝地に別邸が完成したのは明治44(1911)年。その1年後に、別邸は火災で焼失し、日本の西洋建築の祖ともいわれるジョサイア・コンドルが設計した石造りの2階建洋館が建てられたのですが、今度は関東大震災によって崩壊。翌年、コンドル設計をほぼ再現した木造の建物に建て替えられました。
別邸庭園には3,000株のツツジと300株のシャクナゲが植えられ、5月はツツジとそのあとを追うようにシャクナゲが咲き誇りました。
30種を数えるツツジは男爵が全国津々浦々から集めたもの、シャクナゲの中には男爵が留学先のイギリスから取り寄せたものもあり、それらは日本で最初に輸入された西洋石楠花といわれています。
男爵はこの庭園をつくる際に、見事な景観を巧みに取り入れ、西側には富士山に向かって駆け登るように、南側には芦ノ湖に流れ込むようにそれぞれツツジを配し、まさに一幅の絵のような庭園を完成。それが今日まで受け継がれています。
別邸が「山のホテル」としてオープンしたのは昭和23(1948)年。当初は別邸をそのまま利用した2階建ての木造建築の洋館と、それにつながる和館と離れがあり、広々として明るいダイニングの一角にはマントルピースを設置。洋食が楽しめるホテルは当時非常に珍しいものでした。
昭和34(1959)年に建てられた赤い三角屋根の三代目のホテル。
ところが昭和24(1949)年の冬の火災でコンドル設計の名残をとどめていた洋館部分は姿を消し、新たに片流れ屋根のしゃれた建物に生まれ変わります。そして、昭和34(1959)年に、スイスの山小屋をイメージした赤い三角屋根のホテルに改築されました。
それから長らく愛されてきた赤い三角屋根の建物は老朽化のために取り壊されることになり、昭和53(1978)年にリニューアル・オープンしたホテルは、スイス・レマン湖のほとりに建つ古城をイメージした赤い屋根と白い壁の洋風建築に改築。それでいて、日本旅館のようなきめ細かいもてなしをする、本格的な西洋スタイルのリゾートホテルとなったのです。
「小田急 山のホテル」エントランス。
その後、かつて艇庫(ていこ)があったところにデザートレストラン「サロン・ド・テ ロザージュ」をオープンし、大浴場も完成。客室やレストランのリニューアルや、スパ モンターニュを新設するなどして、格式の高いリゾートホテルの名声を保ち続けています。
ツツジの季節だけの季節限定スイーツ
芦ノ湖に面して立つホテル直営のデザートレストラン「サロン・ド・テ ロザージュ」では、ツツジの開花に合わせた季節限定スイーツ〝タンバル・エリーゼ ~つつじの香り~〟 がおすすめです。このスイーツのメインのムースには、つつじの香りのオリジナル紅茶「つつじティー」を使用。細い糸状の飴細工の帽子をスプーンでくずしながら食べると、パリパリの飴、フワフワのムース、サクサクの薄焼きクッキー、それぞれ異なる食感がツツジに魅せられた心をさらに弾ませてくれるかのようです。
〝タンバル・エリーゼ ~つつじの香り~〟1,604円、紅茶ポットサービスとのセット2,317円(税・サ込み) 販売期間/4月11日(月)~ 5月31日(火)
「小田急 山のホテル」の花情報
ツツジの見頃:5月上旬~中旬
シャクナゲの見頃:5月中旬~下旬
バラの見頃:6月中旬~ 7月上旬
庭園見学料/800円
見学時間/9時~17時
※庭園では5月下旬まで様々に趣向を凝らしたイベントが用意されていて、川瀬巴水の版画も展示されています。
庭園一般の開放期間はツツジ開花中
開花情報は山のホテル スタッフ・ブログで紹介されています。
小田急 山のホテル
箱根を旅するなら、美術館巡りもお忘れなく
個性的な美術館が点在する箱根は、アート巡りにも最適のエリアです。
その中のひとつ、仙石原にある「箱根ラリック美術館」は、アール・ヌーヴォー様式のジュエリーや、ガラス工芸で有名な、ルネ・ラリックの1500点ものコレクションの中から、毎回選び抜かれた約230点を展示している美術館。大胆かつ繊細なジュエリーや大小様々なガラス工芸作品のほか、ラリックが後半生に力を入れた室内装飾が展示されていて、レストランに設置されたオリエン行の車両内では、ラリックが手掛けた150枚以上のガラスパネルに囲まれてカフェタイムを楽しむこともできます。箱根の澄んだ空気の中で、アートとともにゆったりと落ち着いた時間を過ごしてみてはいかがでしょう。
箱根ラリック美術館
「箱根ラリック美術館」のエントランスで出迎えてくれる、ラリック作の装飾パネル「花束」とシャンデリア「狩り」。
箱根の心地よい風が吹き抜ける「箱根ラリック美術」。
香水瓶の制作をきっかけにしてジュエリーからガラス工芸家へと転身したラリック。その再出発点が一望できるコーナー。
代表作であるブローチ「シルフィード」。ラリック以前のジュエリーでは、ダイヤモンドやルビーなどの高価な宝石を主役に用いることが常識だったが、ラリックは、宝石の価値に頼らず、独自の技術とデザインで芸術性の高い作品を生み出し、ジュエリー界に革命を起こした。
ほかにも立ち寄りたい美術館がいくつも!
岡田美術館
8月30日まで、「特別展示 古九谷×柿右衛門×鍋島~あなたのメインディッシュはどれですか?~」「―かわいい・たのしい・なつかしい― 江戸食器の華 古伊万里の世界」を開催中。
住所/神奈川県足柄下郡箱根町小涌谷493-1
岡田美術館ホームページ
ポーラ美術館
9月4日まで「Modern Beauty フランスの絵画と化粧道具、ファッションにみる美の近代」を開催中。
住所/神奈川県足柄下郡 箱根町仙石原小塚山1285
ポーラ美術館ホームページ
箱根 彫刻の森美術館
住所/神奈川県足柄下郡箱根町箱根町二ノ平1121
箱根 彫刻の森美術館ホームページ
成川美術館
住所/神奈川県足柄下郡箱根町元箱根570
成川美術館ホームページ