手土産にもぴったりな菓子。文化人たちが愛した3時のおやつ11選

手土産にもぴったりな菓子。文化人たちが愛した3時のおやつ11選

初夏の走りにだけ店に並ぶ水ようかんや、バタークリームを使ったフランス菓子、甘さと塩気のバランスが絶妙な大福…。こんなおやつが3時に出てきたら、どんなにうれしいことでしょう。作家や文化人たちにとってのおやつは、季節の訪れを告げるものであり、暮らしにささやかな悦びをもたらすものでもありました。今回はそんな彼らを魅了した“昭和のおやつ”をご紹介します。

向田邦子が愛した「菊家」の水羊羹

「新茶の出るころから店に並び、うちわを仕舞う頃にはひっそりと姿を消す、その短い命がいいのです」(講談社文庫『眠る盃』所収「水羊羹」より)

薄墨色の美しさと、するんとした喉ごし、口の中に余韻が残る程度のほの甘さ。自らを“水羊羹評論家”と称した向田邦子が毎年心待ちにしていたのは、東京・青山『菊家』の水羊羹です。帳場を兼ねたガラスケースにこの菓子が並ぶのは、桜の青葉が出る季節のみ。エッセイ「水羊羹」にも書いたように、白磁のそばちょくに京根来(きょうねごろ)の茶卓を出て、すだれ越しの自然光か、少し黄色っぽい電灯の下で食べるのが向田流でした。短期間だけの味だからこそ、美学をもって楽しんだのでしょう。今も変わらず季節限定の味を守る「菊家」。めまぐるしく変わり続ける街にあって、そこだけ昭和の風が吹いているような店構えにもなごみます。

昭和10(1935)年、青山・骨董通り沿いに開店した菓匠。こぢんまりした店内には、向田がエッセイ『水羊羹』に著したとおり、「緋(ひ)毛(もう)氈(せん)をあしらった待合の椅子」が置かれている。上質な小豆の香りを生かした水羊羹は、店の奥の小さな工房で手づくりされている。毎年5月上〜中旬の、桜の青葉が出る時期を待って店頭に並ぶ。

◆菊谷
住所 東京都港区南青山5-13-2
営業時間 平日10時30分~15時00分 (※売り切り次第閉店)
定休日 不定休
公式サイト

中里恒子が愛した「長門」の久寿もち

「葛もちほどにふりふりせず、やわらかいとろけるやうな口當りと、ちよつと焦がしたきな粉でくるんである香ばしさ」(作品社『日本の名随筆24 茶』所収「和菓子曼まんだら」より)

「日持ちのする菓子は飽きる」と綴った作家・中里恒子。彼女が愛したのは、日本橋の老舗『長門』の久寿もち(くずもち)です。葛ではなく、わらび粉と砂糖で練り上げたそれは、昭和初期に先代が始めたもの。優しい甘みのわらびもちに、甘さのないきなこをたっぷりかけていただくと、昭和の味が口中に広がります。皿の上でぷるぷる揺れるさまと、懐かしいきなこの香り。とろける食感や風味が、一日二日で消えてしまうところも、中里の美意識にかなったようです。包装紙には葵の紋。『長門』が代々徳川家の菓子司だったことを伝えます。

創業は18世紀前半の享保年間。店は東京駅のほど近くに立ち、菓子はすべて建物内の工房でつくられる。小津安二郎や古今亭志ん朝も、この店の美しい生菓子や半生菓子のファンだった。昭和初期の関東では、わらびもちが一般的でなかったため、なじみのある「久寿もち」の名をつけた。竹の包みを開けると、三角形にカットしたものが12切れ。冷蔵庫で15分ほど冷やすとおいしさが増す。夕方には売り切れることも。

◆長門
住所 東京都中央区日本橋3-1-3
営業時間 10:00~18:00
定休日 日曜・祝日
公式サイト

獅子文六が愛した「麩嘉」の麩まんじゅう

「麩屋へ出かけて、店頭でできたてのを食ったら、一番うまいのではないかと思う」(文春文庫『食味歳時記』より)

「ふまんじゅうを一番上手につくる」と、作家・獅子文六(ししぶんろく)が記した京都の「麩嘉(ふうか)」本店は、日本で最も古いといわれる生麩店。代々御所に献上し、今も料理屋に卸す生麩づくりが専門です。その日使う分だけ手づくりして売る…という哲学ゆえ、麩まんじゅうの購入は予約のみ。むっちりつるんとした食感も上品な香りも、この本店でしか得られません。商家らしいのれんをくぐり、水を打った石の床がひんやりとする店内に足を踏み入れれば、とっておきの美味への期待が高まります。

京料理に欠かせない生麩をつくり続ける老舗。生麩が好きだった明治天皇の要望で、先々代が考案したという麩まんじゅうは、青海苔の粉が練り込まれた風味豊かな生麩でこし餡を包み、笹の葉でくるんだもの。餡には丹波の大納言小豆を使用。予約でのみ購入可能。

◆麩嘉
住所 京都府京都市上京区西洞院椹木町上ル
営業時間 9:00~17:00
定休日 月曜・最終日曜日

【閉店】川端康成が愛した「フランス菓子カド」のプチ・フール

「全くフランスでも滅多に味へない本格的な良心的な作品であると感じる」(『フランス菓子カド』推薦文より)

西洋への憧れを形にしたような、愛らしいひと口菓子、プチ・フール。バタークリームのミルキーな甘さと洋酒の香りが広がる子の菓子は、昭和35(1960)年創業のフランス菓子店「カド」の看板商品です。考案したのはパリで修業を積んだ創業者の髙田壮一郎。文豪・川端康成は、その洒落たデコレーションや品よい甘さを大層気に入り、「心底から私をよろこばせる」と讃えました。今も、味わいや姿は当時のまま。洋画の飾られた喫茶室で、コーヒーとともにいただくのも素敵です。

川端と親交のあった洋画家・髙田力蔵の息子・壮一郎が創業。川端はこの店のクッキーも大好きで、土産にもらうと缶ごと文机の下に置いてひとり占め。家族にも分けなかったという。ひと口サイズのプチ・フールは、オレンジリキュールや西洋山ハッカの薬草酒など、洋酒を使用した大人の味。店の奥の工房で、ひとつひとつていねいに手づくりされている。

◆フランス菓子カド
住所 東京都北区西ヶ原1-49-3

女優・沢村貞子が愛した「御菓子所ちもと」の八雲菓子

「1974年4月10日おやつ ちもと もち1974年4月11日おやつ ちもと 半生菓子1974年4月15日おやつ ちもと わらびもち」(『献立日記』より)

毎日の食事は朝夜の2食だけ。菓子や果物などのおやつを昼食代わりにしていたのが、昭和の名女優・沢村貞子。彼女がつけていた「献立日記」には、「御菓子所ちもと」の菓子が何度も登場します。そのひとつが、昭和40(1965)年に初代店主が考案した写真の八雲もち。まず、竹皮のこの包みに郷愁を誘われます。中にはマシュマロのような弾力の求肥もち。コクのある黒砂糖と砕いたカシューナッツが入っているのが特徴です。餅の素材から包みに至るまで、50年間一切変わりなし。価格も手ごろな愛すべきおやつです。

現在は軽井沢にある戦前からの名店「ちもと本家」から、昭和40年にのれん分けされた和菓子屋。コクのある国産黒砂糖を使用した八雲もちは、1日1000個ほどが夕方前に売り切れることも。独特の食感は、泡立てた卵白を寒天で固めた“淡雪”を求肥に混ぜてつくるもの。竹皮包みを留める紙縒り(しより)まで、今でも手作業でつくっている。沢村は、季節のわらびもちや桜もち、じょうよまんじゅうも好んで求めた。

◆御菓子所ちもと
住所 東京都目黒区八雲1-4-6
営業時間 10:00~18:00(L.O 17:30)
定休日 木曜・8月29日から9月1日まで連休
公式サイト

まだまだあります!作家たちを虜にした甘くて懐かしい〝昭和のおやつ〟

小説や随筆をしたためる原稿用紙の傍らには、あんこ菓子やハイカラな洋菓子が欠かせない――そんな作家たちが愛した昭和のおやつが勢ぞろい。お取り寄せ可能なものや、包みの魅力的なものが多く、手土産にも喜ばれることうけあいです。

三宅艶子が愛した「ローザー洋菓子店」のクッキー

クッキー

ハンドメイドのハイカラ・レトロな缶に、バターと粉の香り豊かなクッキーがぎっしり。サクサクと懐かしい手づくりの味を愛したのは、東京生まれ東京育ちの小説家・三宅艶子(みやけつやこ)です。「東京の菓子」(『東京味覚地図』に寄稿)で、夜中の執筆のおともとして挙げています。販売は店頭でのみ、数日前の予約が確実です。

◆ローザー洋菓子店
住所 東京都千代田区麴町2-2
営業時間 9:30~17:00(商品がなくなり次第、営業終了)
定休日 土・日・祝日

三島由紀夫が愛した「日新堂菓子店」のマドレーヌ

マドレーヌ

厚手のアルミカップに入った姿と甘い香りが懐かしい、リッチな味の焼き菓子。三島由紀夫は昭和39年から毎夏、下田の海でバカンスを過ごし、執筆にも勤しみました。彼が愛したのが、創業大正11(1922)年の「日新堂菓子店」。週に一度は訪れ、「日本一のマドレーヌですよ」と周囲の人々に声をかけていたほどの贔屓ぶりだったとか。取り寄せも可能です。

◆日新堂菓子店
住所 静岡県下田市3-3-7
営業時間 9:30分~19:00
定休日 無休
公式サイト

林芙美子が愛した「三野屋」の継続だんご

だんご2

淡泊な甘みと、ひと口大のだんごが連なるかわいい姿。昭和の子供に持たせたら似合いそうな、上越生まれの名物が『三野屋(みのや)』の継続だんご。作家・林芙美子が愛し、名作『放浪記』にも登場させたことで一躍有名になりました。白餡を丸めて串にさし、表面を香ばしく焼いた素朴な味は、100年以上変わらない製法でつくられています。取り寄せも可能です。

◆三野屋
住所 新潟県上越市中央1-1-11
営業時間 8:00~18:00
定休日 無休

種村季弘が愛した「伊勢屋」と「虎の門 岡埜栄泉」の大福

大福左/「伊勢屋」の塩大福。右/「虎の門 岡埜栄泉」の豆大福。

「あんこが食べたい。豆大福が食べたい。(略)東京に出るとわざわざ深川まで行って塩大福を買って帰ったりする」と、エッセイ『雨の日はソファで散歩』に綴った作家・種村季弘(たねむらすえひろ)。下町は門前仲町の駅近く、深川不動尊への参拝客で賑わう『伊勢屋』の塩大福(写真左)は、どっしり大ぶりな庶民のおやつ。北海道の小豆とザラメによる素朴な甘さが種村を喜ばせました。

先のエッセイは「芝の岡埜栄泉の甘みを抑えた豆大福──」と続きます。『虎の門 岡埜栄泉(とらのもん おかのえいせん)』の豆大福(写真右)は、食通をも黙らせる手土産として不動の人気を誇ります。エプロンに三角巾の女性が慣れた手つきで包んでくれるその大福は、つきたての餅にこし餡がたっぷり。塩っけのある赤えんどう豆との食べ合わせも実にいい! 開店前から客が並び、昼過ぎに完売することもある逸品です。

◆伊勢屋 (本店)
住所 東京都江東区富岡1-8-12
営業時間 8:00~20:30
定休日 無休
公式サイト

◆虎の門 岡埜栄泉
住所 東京都港区虎ノ門3-8-24
営業時間 月~金9:00~17:00、土9:00~12:00
定休日 日・祝日

井上靖が愛した「森八」の長生殿

干菓子

「風味絶佳(ふうみぜっか)」という言葉がふさわしい、紅と白の美しい菓子。作家・井上靖が心を寄せ、帰省の度に母への手土産として選んだのが、加賀藩御用菓子の歴史を誇る『森八(もりはち)』の干菓子、長生殿(ちょうせいでん)。口の中でほろほろほどける落雁(らくがん)は、阿波の和三盆糖に秘伝の精粉を合わせてつくる日本三名菓のひとつです。取り寄せも可能。

◆森八
住所 石川県金沢市大手10-15
営業時間 9:00~18:30(1月・2月のみ9:00~18:00)
定休日 無休(1月1・2日のみ休業)

團伊玖磨が愛した「石橋屋」の仙台駄菓子

駄菓子

きなこねじり、みそぱん、かるめら焼――「駄菓子屋の店先は、そとを通っただけでも黒砂糖のにおいがした」(『舌の上の散歩道』朝日文庫より)。作曲家の團伊玖磨(だんいくま)が仙台へ出かけた際に寄ったのは、仙台駄菓子の名店『石橋屋』。後日、果物ゼリー菓子を取り寄せたことも記されています。写真は郷土駄菓子の詰め合わせ。取り寄せも可能です。

◆石橋屋
住所 宮城県仙台市若林区舟丁63
営業時間 9:30~19:00
定休日 無休
公式サイト

撮影/篠原宏明、小寺浩之

手土産にもぴったりな菓子。文化人たちが愛した3時のおやつ11選
この記事をSNSでシェアする
この記事をSNSでシェアする