夏の京都旅行、喫茶店や洋食も魅力的ですが、鱧(はも)や鮎(あゆ)も食べて欲しい! 旅の食事に加えたい、鱧や鮎の名店をご案内します。小さいけれど強烈な個性をもつ鮎、その外見に似つかず色白美人な鱧。どちらも夏を代表する味ですが、とくに京都では朝廷への献上品としても珍重された特別な食材です。
「阪川」
鱧のうまみを知り尽くした極上の技!
祇園でも鱧の料理に定評のある阪川。「かつぎ」といって、料理店専門の魚屋さんから仕入れます。「鱧の炭火焼、自分ではこれが好きですね。塩をうった鱧を炭火で焼きます。時間はほんの10秒から15秒。身は半生です。生きた鱧なので、花が咲くように開きます。素材がよくないと成り立たない料理です」と、ご主人の坂川浩和さん。名物の鱧しゃぶは、6月後半から9月まで。「鱧は祇園祭のころがいいですね。このごろは韓国の鱧が評価されるようになりました。値段が日本の2倍もして高いし、数が少ないですけど、脂のりがよく、甘い。皮が薄くて骨が細いのも特徴です」鱧しゃぶは、鱧を焼いてからとった吸い地(吸い物のつゆ)に生の切り身を入れてさっと火を通します。白髪ねぎ、湯葉、壬生菜(みぶな)だけで、鱧本来の味を楽しむシンプルな料理です。鱧のうまみが心底堪能できます。
◆阪川(さかがわ)
住所 京都府京都市東山区祇園町南側570-199
「草喰なかひがし」
この店の炭火でぱりりと焼いた鮎には“夏”が詰まっています
ベンガラ色のおくどさん(かまど)と焼き台が守り神のように鎮座する割烹「草喰なかひがし」。ご主人の中東久雄さんは、美山川、上桂川の上流の鮎を何人もの釣り人に届けてもらい、備長炭の強火で20分くらい焼くことにしています。「自分が親しんできた鮎を使います。小ぶりで背中が盛り上がっていて、きゅうりの香りがするような」鮎は塩焼きが一番とか。「そら、そうでっせ。鮎は丸かじりがいいんです」 中東さんは鮎の脂を炭に落としてその煙で軽い燻製にしながら、焼き色もしっかりつけます。「たで酢は鮎につけるよりも、ちょっと飲むんです。さっぱりして、また何匹か食べられる(笑)」天然鮎は大きさがまちまちなので、塩焼きで使わないものをテリーヌに。鮎と塩だけを型に詰め、蒸したものに、きゅうりもみときゅうりのムース、みょうが、しそ酢のジュレを添えます。「鮎の魅力は勢い。よく焼いて、勢いよく食べてやらないと。脂と苦みが清涼感に変わります」
◆草喰なかひがし(そうじきなかひがし)
住所 京都府京都市左京区浄土寺石橋町32-3
公式サイト
「祇園にしむら」
牡丹と競うように咲く、椀の中の大輪の鱧
ご主人・西村元秀さんは、鱧を鱧切り包丁ではなく柳刃包丁で切ります。「薄く切れるので柳刃が好きなんです。身は薄く切るほど、熱が入ったときにふんわりとする。尾の方は包丁を傾けて、身の幅が大きくなるように切ります。日本の片刃だからできることですが、きれいに切るには鱧が生きてないとだめ。材料の差が必ず出ます」19年前の開店時から韓国鱧を評価していた西村さん。メインである煮物椀には、鱧を70gから100gほども使います。「お椀は見た目にドラマがないと。だしは、北海道利尻島の尾札部(おさつべ)の昆布に鰹節です。鱧には鰹が合う。叩きオクラとみょうがを添えます」鱧は、ふわふわのホットケーキのような感触です。5月後半か6月から、松茸が終わるまで鱧を扱います。九条ねぎと花山椒入りの鱧の卵とじ丼も絶品! メニューになくても注文すればつくってもらえます。
◆祇園にしむら(ぎおんにしむら)
住所 京都府京都市東山区祇園町南側570-160
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「御料理光安」
うまみ、ほろ苦み、香り、すべてを閉じ込めた鮎飯が絶品!
1日2組の予約しか取らない懐石料理店。ご主人の光安裕一さんは、福井県南川の「海上がりの鮎」を使います。「南川では鮎がいると、だれかきゅうりを食べているのかと思うくらいにおいがします。皮が硬く、顔がいかつくてヒレが大きいですね」塩焼きは、樫の木の炭で15分くらい焼きます。4寸(約12㎝)の鮎を使うのは、丸ごと食べたときに味のバランスがいいから。「小さいと香りがつきやすいし、身がぱさつかないうちに焼き切れます」8月後半になると、18㎝くらいの落ち鮎を焼いて鮎ご飯に。鮎ご飯には、鮎の骨と頭から取っただしを使い、炊けたところにみょうがとアサツキを添えます。「身と内臓を最強の火でぴしっと焼いて、ご飯が炊る途中で鮎を入れて、身もしっとり仕上げます」若鮎から落ち鮎まで、自然の味そのものを楽しめるお店です。
◆御料理光安(おりょうりみつやす)
住所 京都府京都市上京区千本通り丸太町上ル二筋目東入ル
公式サイト
「祇園 大渡」
これも鱧! 祇園の最先端の日本料理で出合う椀
若き店主、大渡真人さんが「うちの看板料理になってきました」という椀は、一見どこが鱧? と驚きの一品です。鱧を潰してだしでのばし、葛仕立てにしたなめらかな鱧のポタージュ「ハモタージュ」。鱧から香りと甘さだけを抽出し、葛のとろみに閉じ込めたような味わいです。大渡さんにとって鱧は、大阪の名店「津むら」で修業をしていた時代から、格別に思い入れが強い食材でした。独立後、自分なりの鱧のおいしさの表現として、これまであまり注目されていなかった鱧の甘さと脂分のまろやかさ、とろとろとした舌触りを料理で引き出しています。メインの鱧料理「炙り鱧」は、目の前の炭火コンロで活け鱧の大きな切り身を、皮だけ少し炙ったもの。鱧の身のやわらかさに溶けた皮のとろみが寄り添い、鱧の甘みが口いっぱいに広がります。若手料理人による鱧料理から、鱧の新たな味わいを発見しました。
◆祇園 大渡(ぎおん おおわたり)
住所 京都府京都市東山区祇園町南側570-265
「和ごころ泉」
脂を落とさず焼き上げる鮎は、珠玉の工芸品のよう
一般的な塩焼きとはまったく違う褐色の焼き上がり。「和ごころ」の焼き鮎は、身はふっくら、骨までやわらかく、ワタは乾燥してほろ苦さだけが身に移り、皮の香ばしさが際立つ初めての味です。鮎から出る脂を落とさず、その脂で「揚げ焼き」にする独特の焼き方によるもので、店主の泉昌樹さんが考案しました。活鮎に串を打って焼き台に入れ、にじんできた鮎の脂を串を回して、表面にかけながらつきっきりで焼きます。大ぶりの鮎になると焼けるまでの時間はなんと1時間20分。根気がいるうえ、鮎の体長や脂ののり具合によって微妙な調整も必要で、客の来店を見計らいつつ、時間との勝負です。そんな入魂の気合いで焼かれた鮎は、工芸品のような美しさ。流水を描いた清水焼の大皿の上で、その姿も凉を呼びます。
◆和ごころ泉(わごころいずみ)
住所 京都府京都市下京区烏丸仏光寺東入ル一筋目南入ル匂天神町634-3
撮影/阿部 浩、内藤貞保、奥田高文