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2016.11.11

石川県・金沢へ焼き物をめぐる旅。絢爛たる九谷焼の世界

この記事を書いた人

案内人・金沢21世紀美術館館長/秋元雄史さん

九谷焼(くたにやき)の伝統と絵付けの魅力を知るため、金沢21世紀美術館館長・秋元雄史さん(2007年〜2017年)に案内していただいた加賀・金沢の旅――。それは、九谷焼が加賀百万石の絢爛(けんらん)たる伝統を受け継ぐ工芸であり、金沢の歴史を体現していることを知る旅でした。

九谷焼と聞くと、絢爛豪華な絵付けの器が思い浮かびます。そのふるさとである加賀・金沢では、九谷焼が古くから暮らしの中で用いられ、大切に扱われてきたと聞きます。九谷焼が息づく加賀・金沢へ旅に出る前に、まずは九谷焼の歴史を振り返ってみましょう。

※2016年11月公開記事
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九谷焼は明暦(めいれき)元年、加賀国九谷村(現在の加賀市山中温泉九谷村)の窯でつくられたことに始まります。しかし、九谷村の窯は55年ほどでぷっつり途絶。そのため、当初の窯は“九谷古窯(こよう)”もしくは“古九谷窯”と呼ばれ、その窯で“古九谷”がつくられていたのです。忽然と姿を消したこととともに、古九谷は起源や制作過程に謎が付きまとい、真実は霧に包まれたままです。

九谷古窯が姿を消して約100年過ぎた頃、加賀藩領内に藩窯(はんよう)として春日山窯(かすがやまがま)が開かれ、続いて若杉窯が登場。大聖寺藩では九谷古窯跡に吉田屋窯が興されます。明治までの間に開かれた13を超える窯でつくられたのが“再興九谷”です。作風は古九谷の再現にとどまらず、赤絵や染付、金彩など、各窯が独自の技法や様式を確立。それが現代まで受け継がれ、九谷焼は研ぎ澄まされ、さまざまな個性を花開かせるにいたったのです。

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初代徳田八十吉(とくだやそきち)が建てた旧居に設けられた「小松市錦窯展示館」では、今では珍しい薪焚きの窯である錦窯を見ることができる。これこそまさに、初代から二代、三代へと継承されてきた九谷焼の発展の跡地。
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加賀・金沢で、ミステリアスな謎を秘め、多彩な美を競い合っている九谷焼。その魅力を知る旅をするために、案内をお願いしたのは金沢21世紀美術館館長・秋元雄史さん。現代に生きる九谷焼に注目し、応援している人のひとりです。

秋元さんおすすめの九谷焼を訪ねる旅は、古九谷・再興九谷の名品を鑑賞し、窯元を訪ね、古美術商で触れてみること。そして、料理店や旅館で器としての九谷焼の魅力を実際に味わうというもの。そのアイディアにそって、九谷焼の絵付けの伝統美を探る加賀・金沢の旅へ出かけてみました。

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初日、秋元さんとともに訪れたのは、金沢の美術工芸の担い手が学んでいる「金沢美術工芸大学」。

ここでは、伝統的な九谷焼の技法を継承しながら革新的な作風を生み出した北出塔次郎(きたでとうじろう)が蒐集(しゅうしゅう)した九谷焼の“北出コレクション”を見ることができます。幅広い展示内容とゆっくり鑑賞できるという点で、ここはまさに穴場と言ってもいい貴重な鑑賞の場なのです。

「古九谷にはいかにも武家らしい強さがあり、エキゾチックでモダンな趣もある。それは戦国・桃山時代の気分を引き継いでいるように感じられます。このように大胆なデザインは、他の産地には見られないものです。また、青手(あおで)や五彩手(ごさいで)と呼ばれる古九谷独特の絵付けも、色の深さが際立っています。これらの器は前田家の美意識や威信を表すものとして、江戸屋敷でのもてなしや贈答に用いられていたのです」

秋元さんの説明を聞きながら、隣に展示された再興九谷の器を見ると、絵付けは洗練されているけれど、余白はグレーがかっていて、釉薬は古九谷より薄く見えます。

「古九谷の写しから始まった再興九谷は、新しいパターンを次々に生み出します。時代は江戸末期、桃山時代や江戸初期のデザインに対する憧れが美術工芸に反映されるようになっていたころ。美術工芸は時代の気分を反映するもので、再興九谷はまさに時代の気分に合っていたのです」

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五彩の特徴を表した「色絵岩に鳥文平鉢」北出コレクションより
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九谷焼を知る上で大切なことは、美術館や博物館で名品を見て、次に実際に触ってみることだと秋元さんは言います。そこで、秋元さんが案内してくれたのが、老舗が立ち並ぶ十間町(じっけんまち)に店を構える名店の「谷庄」(たにしょう)です。

「こちらは本来お茶道具が専門の古美術商で、お茶にまつわる九谷焼のよいものがあると思います」

六代目店主の谷村庄太郎さんに迎えられるやいなや、用意されていた古九谷の大鉢や台鉢、小皿を手に取る秋元さん。愛おしむような眼差しで色合いや重さを確かめ、ためつすがめつしながら谷村さんに問いかける秋元さんの横顔に、骨董好きの素顔がうかがえます。

「骨董的な楽しみ方をする場合、だれの目にも触れていない、確かなものが欲しい。それをかなえてくれるのが谷庄さんのような歴史を積み重ねてきた古美術商です」そう言われても、店頭に並んだ商品を見て選ぶのではなく、客の望むものを聞き、蔵から選び出してうやうやしく見せていただくという古美術商での買い物は、初心者にとってはなじみにくいものです。

それについて谷村さんは、「古美術に興味がある方がふらっと立ち寄られることも少なくありません。初めての方でも、希望の品物や金額を言っていただければ、きちんとお応えします。古美術商はお客さまの好みに合わせたセレクトショップみたいなものだと考えていただくといいでしょう」。その場で気に入ったものと出合えなければ探し出し、時間を改めて納得いくものを提供する。そうやって長いつきあいをしていくのが古美術商とのつきあい方。

「買うという意識で九谷焼を見ると、心構えはおのずと変わり、真剣になります。たとえば、気に入った小皿を1枚ずつ集めていくような楽しみ方ができるようになると、九谷焼はもっと身近なものになり、愛着も増してくるでしょう」と秋元さん。

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九谷焼を楽しむイロハを教えていただいたところで、多忙な秋元さんとはここでお別れです。

次回の「九谷焼のもてなしマジック!」では料亭や旅館で器としての九谷焼の魅力をご紹介します!

金沢美術工芸大学
(かなざわびじゅつこうげいだいがく)

九谷焼をはじめ、中国や朝鮮との器の交流をゆっくり俯瞰(ふかん)できる「北出コレクション」などを所蔵・展示。

住所)石川県金沢市小立野5-11-1 地図
※「北出コレクション」の見学を希望する方は、あらかじめ電話で確認を。

谷庄(たにしょう)

九谷焼の優品を手に入れる第一歩はこちらから。

住所)石川県金沢市十間町44 地図
定休日)日曜、祝日、年末年始

秋元雄史(あきもと・ゆうじ)

東京藝術大学美術学部絵画科卒業。ベネッセアートサイト直島などの企画・運営に携わり、2004年から地中美術館館長などを務める。金沢21世紀美術館館長(2007年〜2017年)。

-撮影/篠原宏明-