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2022.11.11

「今日はどうなるかわからない」上高地・予定調和クソくらえ旅全7日間 前編

この記事を書いた人

僕のソロキャン物語VOL.14
3年ぶりの自転車キャンプ旅 IN上高地

「もう我慢できねぇ、とにかく出る」

そう思ったのが、今回の旅である。
1996年の最初の大きな自転車旅以来、何かしら機会を見つけ、ずっと続けてきた長期自転車キャンプ旅であったが、2019年初秋の33日に及ぶ北海道旅を最後に旅に出ていなかった。

2019年の旅は、小さい8㎜映画の規模ながらも、クラウドファンディングで一般の皆様の協力によって実現したムチャな映画撮影旅だった。2020年頭に純粋8㎜サイレント映画「銀河自転車の夜2019 最終章」を仕上げ、公開した後、例のコロナ騒動が勃発、しかも、それによりソロキャンブームなる、嫌なものがブームとなり、ニワカのニセモノが増えていそうで、さらに出る気分が激減、それだけではなく、そんな状況なのに仕事もお金もなく、いろいろな企画もことごとく通らず、気持ち的にも沈み、どうしてよいかわからない低調な日々が続いていた。
世話になった映画プロデューサーにも助けを求め連絡を取るものの「人に迷惑をかけるな」、まるで「死ね」と言われているような言葉の嵐だった。
メチャクチャ言われ、結局はどんな良いものを必死で作ったとしても、一番肝心な仕事面では、大ヒットして大金でも生まない限り、どこでもほぼ無視され、切られ、後は知らんという状況ばかりである。

そうは思っても助けてくれる人も少なからずいるし、親切な人も多く、そこまでひどくもないだろうと思いつつもいろんな被害妄想やら疑心暗鬼やら社会への恨みつらみやら、いい事も悪い事も頭の中で次から次へと雪崩のようにグルグル回る。
女性関係も2019年以来、なぜかパッタリで、恋人候補になりそうな人は誰も寄ってはこないし一人もいない。
ついにそんな縁も途切れたようだ。

金も仕事もなく女もいない。

以前から、神様はオレの落した場所をウッカリ間違えたのでは? と思ってはいたが、いよいよここまでか?
いずれにしても、オレ一匹ぐらい、もはやほとんどの人が必要としてないだろうし、生きてる価値もなさそうなので、アッケラカンと死のうと試みたが、死ぬのは怖いし痛いのでやめた。
そして、紆余曲折の果て、なぜか近場で清掃バイトをしながら生きている。(生きているというより、息をしているという状態だ)

せっかくいただいたこの貴重な連載も、清掃バイトをして、やや疲れ気味のせいか? 気持ちの低下の問題か? 更新が徐々に遅れて、なかなか書く勢いが掴めず苦労している。

自分のツイッターなんか読んでる人は楽しそうに思うかもしれないけど、気分の地獄を書くのは趣味じゃない。サービス精神旺盛な人間(動物)なんで、こちらの地獄は誰もわからないだろうし、ほとんどの人には興味もないだろう。

そんな中、自分的に素直に何が一番しあわせか? と思ったら、だいぶ昔からそうだが、自転車による一人キャンプ旅と映画の残骸である写真を撮影して記録を残す事ぐらいである。
この時だけは、「旅人平野勝之」として生き生きとしだすのが、自分でも手に取るようにわかる。

もはやどうでもいい。昔から楽しいのがこれしかないなら、金をかき集めてやるしかないではないか。
なーに、死ぬよりマシだ。

そんなわけで、前置きが長くなったが、3年ぶりに旅を決行しようと思った。
まずは出てしまおう。
何も変わらないけど、体に何かを刻み付けたいのだ。
理由なんかあるもんか。

松本&上高地

今回持っていった日記用ノート

今はバイトのシフトが決まっていて、以前のように1か月のスケジュールは取れない状況にある。
いろいろやりくりして、約7日間休日をいただいての旅となった。

最初は、乗鞍スカイライン&エコーラインを越えようと思った。
実は2008年10月頭に同じキャンピング装備でここは越えていて、長野側から岐阜の高山まで下っている。しかし、この時は天候が霧で展望全滅、なんのために苦労して上ったのかわからんハメになった。
一度、日本道路最高地点2700mの展望を味わってみたいと思ったので、再度、挑戦してみようと思った。しかし、調べてみると、現在、岐阜高山側の道路が土砂崩れで崩落、通行止めになっていると言う。
管理している観光協会にも電話してみたが、今期開通は無理だろうという事。
どうやらエコーラインの長野側は畳平(ピーク地点)まで行けるようだが、今回はやめる事にした。

さてどうしよう? と思案した結果、以前、仲の良い自転車仲間に、どこがお気に入りか聞いたら「上高地」という答えが返ってきて、気になってた事もあり、今回のメインの目的地とした。

新宿から高速バスで松本まで行き、そこから上高地まで走り、乗鞍スーパー林道経由で白骨温泉、乗鞍高原に寄り、再び松本からバスで帰る計画を立てた。
キャンピングで重装備のため、荷物の半分以上を松本の郵便局留めで予め郵送し、新宿まで走って自転車をバラシ袋に入れてバスに乗る事にする。

準備は数日前から入念に行い、9月28日水曜日早朝から出発した。
新宿南口の向かい、パスタ新宿に到着して、建物の隅で、自転車をバラすが、何となく落ち着かない。

以前、新宿からの高速バスは、西口ヨドバシの前から出ていて、その頃はたくさんの旅行者、登山者などで賑わっていて雑然とした雰囲気があり、そのあたりで自転車をバラしたりしていても、さほど違和感はなかったし「旅の風情」が確実にあったと思う。
しかし、パスタ新宿に移ってからは、お客さんは中のロビーで待機してる事もあり、自転車を一人建物の隅でバラしていると居心地が悪く、浮いた気分になってしまう。旅の風情どころか、生きた化石みたいな気分になってしまう。
時代の流れで仕方ない事とはいえ、なんだか複雑な気分になってしまう。

自由の気分

昼前にバスは松本駅に到着。そこから再度、自転車を組み立て郵便局に寄り、荷を引き取り、自転車に積んで走り始める。

その段階で昼過ぎになっており、この日はあまり走れない。
キャンプの場所は地図(紙)を見て、ほどほどの距離でおおよそのアタリは付けてある。

いつもそうなのだが、自分のキャンプ旅は、泊る場所は決めないで行く。
宿の予約などほぼ皆無。宿に泊まるにしても当日飛び込みがほとんどである。
自転車の旅は良い意味での「自由」を満喫したいので「今日はどうなるかわからない」気分を残しておきたいのだ。それに突発的な出来事が起きた場合に備え柔軟に対処するためでもある。
予約などすると、そこまで走らなければならない、という義務感に苛まれ、なんとなく落ち着かないというのもある。

この日も予約はしていないものの、国道158号から少し外れた梓川(あずさがわ)の近くに梓水苑(しすいえん)という宿とキャンプ場を兼ねたところがあるので、そちらに向かう事にする。情報は地図に載ってる小さい情報のみで下調べもしておらず、どんな場所かはわからないが、いつもの事である。

この日は無事にキャンプ場に泊まれたが、フリーサイトにも関わらず自転車はキャンプ場に入る事ができないと言われ、小道に自転車を止め、自転車から荷を下ろし駐輪場に止めた。
その後、地元のスーパーにおにぎりなど食料を買い出しに行き、陽が暮れる前に梓川から、大量の枝や木を拾って集める事ができたので、焚火も可能となった。
温泉ではないものの、お風呂はとても気持ちよかった。

久しぶりの焚火とバーボンでまったりした初日の夜。
火を見つめながら、3年前の感覚と何も変わってないのを実感し嬉しくなった。

日記より

国道が登山道。危険なトンネル頻発地帯

9月29日、梓川沿いから走りだし、再び国道158号へ。もう松本市からジワジワと上っているため、ペダルは重い。
自転車にとってはすでに松本の市街地から登山なのである。
この道は自転車人間にとっては人気の無い道だ。
トンネルが10か所以上あり、しかもトンネル内部まで上りのため危険だからだ。

最初のトンネルで、荷物の中から工事用ベストを引っ張り出し身に付ける。
これは、昔、北海道の道南のトンネル頻発地帯を走る時、トラックの運ちゃんに何が目立つのか? 聞いたところ、工事用のベストだ、と答えが返ってきたからである。車のドライバーにとって、これが一番目立つそうだ。
リアリティがあるので、以来、トンネルの時は工事用ベストを身に付けるようになった。

何度も暗いトンネルをジワジワと抜けていく。
途中、車が明らかに減速して、自分の背後を少しの間ゆっくり走る気配を感じ取る。おそらく荷物満載の自転車が工事用ベストを着て走ってるので「???」となったのだろう。
「なぜ工事現場の人が自転車に乗ってこんなところを?」と思ったのかもしれない。
しばし、背後から眺められるような視線を感じたが、少しすると、ゆっくりと自分を追い抜いていく。

まあ、確かに珍しいのだろう、こんなきつい国道の、しかもトンネルだらけの道をフル装備のキャンピングで工事ベストまで着て行く人はいないだろうから。
この日、何回かこんな気配を感じとった。
まるで珍動物を恐る恐る眺めてる気分なのだろう。


ドライブインで蕎麦を食べながら、情報収集。
上高地へは観光バス、タクシー以外、通常の一般車は入れないと聞いたからだ。自転車はどうなのか? 聞いてみるが、ハッキリとした返事は返ってこなかった。

この日は沢渡まで上った。ここから、上高地まで行く車両は駐車場に止めてバスやタクシーに乗り換えねばならないそうで、たくさんの駐車場がある。
現地の人に聞いてみると、自転車は行けるそうで、ホッと胸をなでおろす。
日帰り入浴できる沢渡温泉もあるため、キャンプできそうなところを探してみるが、どうもありそうにない……。
困って駐車場の周囲を探しているうちに、なんと、一泊3000円の看板を掲げた宿を見つける。
すぐに聞いてみたら、個室は満室だが、雑魚寝部屋は入れるそうで、しかも大部屋は1000円だった。北海道のライダーハウスのようなもので、即泊る事にした。偶然だが非常にありがたかった。

思わず「助かったぁー!」と声を出してしまった。

「ともしび」という山小屋風の宿で、しかも源泉100%の温泉付きだった。
場所柄、登山客やライダーの人たちに人気の宿のようだ。
それはそうだ、今どき珍しい良い宿である。

この日は夕食も1000円で付けてもらい(すき焼きで、美味しく大満足)
布団も付けて、登山の人やライダーの人と話をしながらゆっくりできた。

壁のような11%激坂、釜トンネル

9月30日金曜日、早朝から出発。昨日からザコ寝していた登山客の朝は早い。
早朝5時には、寝床はもぬけの空だった。
こちらも、次々にバスやタクシーに乗り込む登山客を見送りながら、朝の温泉に入りつつ、準備して8時頃には出発した。
さすが、標高が高い地点だけあって早朝はかなり寒い。
距離はそんなにないが、こちらはここから登山と同じである。
相変わらずのトンネルをいくつか抜け、ジリジリと高度を上げていく。

午前中には安房峠と上高地の分岐に差し掛かった。
左に行けば飛騨、右に行けば上高地。
分岐には一般車両の進入を防ぐためか、警備の方々が立っている。

そこには上高地に行く最後のトンネル、釜トンネルが待ち構えていた。

その入り口を一目見た瞬間、絶句。
暗いトンネルの入口は、まるで壁のような勾配が暗闇に向けてそそり立っている。
「マジか??!!」
こんなトンネル今まで見た事ない


言葉を失って、その場で立ち尽くすオレに、警備の方が一枚のカードを無情に手渡した。
見ると、~この先、自転車はビジターセンターのバスターミナルまでです。そこから先は自転車は行けません~。
「ええぇええぇえええーーーーー!!!!????」

書いた人

映画監督  1964年生 16歳『ある事件簿』でマンガ家デビュー。『ゲバルト人魚』でヤングマガジンちばてつや賞佳作に入選。18歳より映画作家に転身、1985年PFFにて『狂った触角』を皮切りに3年連続入選。90年からAV監督としても活動。『水戸拷悶』など抜けないAV代表選手。2000年からは自転車旅作家としても活動。主な劇場公開映画は『監督失格』『青春100キロ』など。最新作は8㎜無声映画『銀河自転車の夜2019最終章』(2020)Twitterはこちら