国宝級のひと皿が生まれる舞台裏を拝見
明石鯛を扱う淡路島の稀代の目利きと名物との声に恥じぬよう鯛を仕立てる京都名料亭の料理人

南禅寺門前の茶店に始まり、400年の歴史を重ねるなかで、京都一の料亭と評されるまでになった瓢亭。高まる名声とは真逆をいくような、実直な京料理が瓢亭の持ち味です。江戸時代初期に建てられた茅葺(かやぶ)きの建物に象徴されるような、自然と調和した美しさがひと皿の料理に、うつわやしつらえにも表現されています。
瓢亭の鯛のお造りが国宝級の美味と言える理由
料理は茶懐石にのっとって供されるので、今回の主役「向付/明石鯛のお造り」は、先付(さきづけ)に続いて2番目の登場となります。客としては、ここから料理の流れに乗りたいところであり、店としても、ここでまずはお客様の心をときめかせたい。そんな〝つかみ〟のひと皿が、「鯛のみ」。しかも、その季節にいちばんおいしい食材を、おいしい形で出すことが信条のこの店で、「一年中、これだけです」とは、なんとも挑戦的。どうしてこんな英断を?
「それはもう、明石の鯛がおいしいからです。明石海峡にもまれて身は引き締まり、エサにも恵まれているので香りもいい。日本各地の鯛を口にする機会がありますが、やっぱりうちの鯛がおいしいなぁって……」と控えめながらも言葉の裏に自信があふれる15代目主人・髙橋義弘さん。瓢亭で扱う鯛は、淡路島の卸魚店・水口商店が〝生け締め〟にして納品する鯛とのこと。義弘さんの父である14代目主人・英一さんが水口商店の初代・水口計夫(かずお)さんと出会い、〝生け締め〟のおいしさに開眼。以降、瓢亭のお造りは鯛ひと筋になりました。「日本人にとって鯛は今も昔もごちそうですから。『こんなおいしい鯛があるなら、一年中食べられたらええやん』という思いを後押ししてくれたのが、水口さんの鯛だったんです」(義弘さん)
「今日もいい鯛がそろいました!」

「僕たちの〝生け締め〟技術は、魚が気づかないレベルです」

〝生け締め〟とは、生きている魚から神経と血を抜いて締めること。魚の旨み成分のイノシン酸は、生きている間には生成されず、締められた後に生成されるのですが、魚の体に残るエネルギー量が高いほど、その生成量が増えるとか。だからこそ、極力負担のかからない締め方の技術が必要です。水口商店3代目・水口貴士さん、翔平さん兄弟はその技術に長けていることが誇り。
「うちのやり方は一瞬すぎて、魚は締められたことに気づいてないかもしれません」。
ただし、締める技術以上に大切なのは「いつ締めるかの見極め」だとふたりは口をそろえます。「明石で釣り上げられたときから、京都の生け簀(す)に入るまで、魚にはいくつかの負荷がかかっていて。魚体のストレスが整い、回復するのがそのとき。ぴったりあえば、瓢亭さんの厨房を経て、お客様の口に入るころには、鯛に旨みがいちばんのっています」(貴士さん)。
気になるのはその見極め方ですが、それは「手」で持った感覚が一番正確だそう。だからこそ、毎日、明石と京都を往復しながら、鯛を細かくよく見て、手で感じているそうです。
「べっぴんさんに仕立てます。任せとき!」

いい鯛を入手できても、そこで話が終わらないのが、瓢亭の凄(すご)み。鯛の身の切り方、うつわの盛り付けにまでも、緻密(ちみつ)な計算がありました。〝生け締め〟した身は弾力が増します。そこに包丁を斜めに入れて切ることで(へぎ造り)、程よい歯応えを生むのです。包丁を入れる角度を変えながら、どの部位も同じ大きさに切れることに、瓢亭の伝統技が光ります。

1人前は鯛の身が5切れ。一見、小さく思えますが、実はひと切れを3つ折りにしているので、かなりな食べ応えがあります。この大きさも、食感を生かすためのもの。もっちりと口の中に広がる旨み、これぞ至宝。国宝級の味わいです。
さて、義弘さんの発案で、向付はさらに進化をとげました。トマトの旨みを前面に出して、ゆずの香りをまとった薄口醬油が追加に。鯛の味わい方の幅が増え、和食をワインと楽しむお客様に好評です。「明石鯛」を軸に、さらなるおいしさを追求する姿勢も、「瓢亭といえば鯛」の評価を不動のものにしています。
瓢亭の向付 ―明石鯛のお造り―



瓢亭 本店 DATA
住所:京都府京都市左京区南禅寺草川町35
電話:075-771-4116
営業時間:趣の異なる4つの館でいただく懐石料理は昼12時~、夜17時~。
休み:水曜、不定休あり
※2名以上の予約で1名分昼食31,625円~・夕食37,950円~(税・サ込)。
公式サイト:http://hyotei.co.jp/
※価格や営業時間などは2026年3月現在のもので、変更される場合もあります。あらかじめ公式サイトなどでご確認ください。

