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2026.04.11

金沢の名建築「成巽閣」からひもとく、加賀前田家・美の神髄

今春、加賀前田家(かがまえだけ)に大きな注目が集まっています。百万石の礎(いしずえ)を築いた加賀藩は、江戸時代を通じて徳川家に次ぐ石高(こくだか)を誇り、その豊かな財力のもと、独自の文化を育んできました。武をもって国を治めながらも、茶の湯や能楽、美術に力を注いだ前田家のあり方は、大名文化の理想形といえるでしょう。10代大樋長左衛門(おおひちょうざえもん)の二男として生まれ、茶道裏千家(うらせんけ)の茶人として活躍する奈良宗久(ならそうきゅう)さんに、かつて加賀藩主が母のために建てた名建築「成巽閣(せいそんかく)」を案内していただきました。

華麗な小簞笥に凝縮された、加賀百万石の気高さにふれて

「実に穏やかな雰囲気なんですよ。釘隠(くぎかくし)の意匠も見事ですし、障子の下の腰板(こしいた)には、オランダ渡来(とらい)の小鳥のガラス絵もあって。見どころが随所にあります」と奈良さんは語ります。
静けさのなかにある、さりげない遊び心。成巽閣はそんな魅力に満ちた建物です。こちらは、文久(ぶんきゅう)3(1863)年に加賀前田家13代当主・前田齊泰(なりやす)公が、12代夫人だった母・眞龍院(しんりゅういん)のために兼六園(けんろくえん)内に建設した御殿(ごてん)です。母の隠居所という性格から、印象はことのほかやわらか。武家書院造(ぶけしょいんづくり)の格式に、数寄屋(すきや)書院造の軽やかさが一体となった佇まいです。

2階の「群青の間」の天井には、ウルトラマリンブルーという顔料(がんりょう)が使われている。これは、1828年に天然顔料に代わるものとしてフランスで発明。創建当時に、輸入されたものをいち早く採り入れた。

齊泰公は、金沢城石川門(いしかわもん)から兼六園を渡り、幾度となく母を訪ねたとか。かつて前田家には、奥方や姫君たちの雛(ひな)人形、雛道具が数多く伝えられ、城内の雛土蔵(どぞう)に収められていました。災害や維新の動乱によって多くが失われたものの、眞龍院ゆかりの品々は今も大切に守られています。
今回は、大名調度(だいみょうちょうど)の名品、梨子地梅鉢紋唐草蒔絵簞笥(なしじうめばちもんからくさまきえたんす)を特別に拝見しました。金具や蒔絵の装飾が驚くほど繊細で、ここから伝わってくるのは、力を誇るのではなく、美を慈しむまなざしです。加賀前田家が育んできた美意識のかたちが、奥ゆかしく表れています。

雛道具の梨子地梅鉢紋唐草蒔絵簞笥には、加賀前田家の女性の家紋「梅鉢紋」がつけられている。金具には繊細な毛彫(けぼり)が施され、簞笥の美しさを際立たせている。江戸後期ごろの作。

藩主が母君のために建てたこの御殿は、前田家の美術、工芸、文化を今日に伝える唯一のもの

左/客人との公的な面会スペース「謁見の間」は、上段の間(ま)18畳、下段の間18畳、広間33畳という広さ! 欄間(らんま)は花鳥(かちょう)の透かし彫りで、極彩色の岩絵具で色付けされている。右/昭和4(1929)年に、国の名勝指定を受けた「飛鶴庭(ひかくてい)」。一面苔(こけ)むす庭には美しい小川が流れ、六地蔵(ろくじぞう)の手水鉢(ちょうずばち)や味わい深い灯籠(とうろう)が配されている。

成巽閣には、公式の対面に用いられた「謁見(えっけん)の間」をはじめ、眞龍院の居間である「蝶の間」、御寝所(ごしんじょ)の「亀の間」、茶室「清香軒(せいこうけん)」などが配されています。庭には、辰巳用水(たつみようすい)から分流された遣水(やりみず)が流れ、建物は重要文化財、庭園は名勝に指定されています。最近は多くの外国人観光客が訪れ、金沢を代表する名所のひとつに。けれど奈良さんは、成巽閣を観光名所として見る感覚はない、といいます。
「地元の人間にとって成巽閣は、兼六園のいちばん奥で、ずっと変わらずに在(あ)る建物。“前田家は、こまやかな部分を大切にしてきたのだな”と静かに納得させてくれる存在でもあります」
 豪華でありながら、押しつけがましくない。手数も惜しまない。新しさに対しても前向き──それが、加賀百万石の美のスタイルなのかもしれません。この春に、そんな前田家を彩ってきた美術品が一堂に会します。金沢で成巽閣を体感するのも、展覧会で名品を鑑賞するのも、おすすめの楽しみ方です。

左/前田家伝来の飴茶碗(あめちゃわん)を手にする裏千家の茶人・奈良宗久さん。右/成巽閣が所蔵する人形コレクション。奥方たちが受け継いできた数々の人形を展示している。

兼六園内にあります!|加賀前田家奥方御殿「成巽閣」

兼六園の正門からは徒歩約5分、また金沢城からは約10分。目に眩しい新緑と美しい紅葉の季節、特に春秋に訪れたい場所です。
住所:石川県金沢市兼六町1-2
電話:076-221-0580
休館日:水曜日(祝日の場合は開館、翌日休)
開館時間:9時〜17時(入館は16時30分まで)
入館料:企画展700円 特別展1,000円 ※茶室「清香軒」「清香書院」は特別観覧料400円が別途必要(事前予約)
公式サイト:https://seisonkaku.com/

「東京国立博物館 平成館」にて、前田育徳会創立百周年記念 特別展「百万石!加賀前田家」が開催に!(4月14日~6月7日)

加賀前田家は、初代・前田利家(としいえ)が北陸に領地を得て以来、金沢を本拠に、江戸時代を通じて加賀・越中(えっちゅう)・能登(のと)の3か国、百万石を超える領地を治めた大名家です。明治維新後に東京へ移り、侯爵(こうしゃく)家となってからも、前田家は受け継がれてきた文化財の保存に力を注ぎ、16代・利為(としなり)は大正15(1926)年に育徳(いくとく)財団(現・前田育徳会)を設立しました。2026年の今年、財団創立100周年を記念し、加賀前田家が育んできた多彩な文化活動と、家に伝えられた名品の全貌を紹介する展覧会が開かれます。
たとえば『アエネアス物語図毛綴壁掛(ものがたりずけつづれかべかけ)』は、約500年前に制作された全長3mを超える貴重なタペストリー。そのほか初代・利家公ゆかりの品をはじめ、刀剣、茶道具、類(たぐい)まれなる工芸標本『百工比照(ひゃっこうひしょう)』、さらに侯爵前田家が蒐集(しゅうしゅう)した近代の西洋コレクションなど、加賀文化の美の真髄をご覧いただきます。

『アエネアス物語図毛綴壁掛』 ニカシウス・アエルツ作 重要文化財 ベルギー・16~17世紀 前田育徳会(通期展示)

左/『金小札白糸素懸威胴丸具足(きんこざねしろいとすがけおどしどうまるぐそく)』 重要文化財 前田利家所用 安土桃山時代・16世紀 前田育徳会(通期展示) 右上/『大名物 唐物茄子茶入 銘 富士(おおめいぶつ からものなすちゃいれ めい ふじ)』 重要文化財 南宋時代・13世紀 前田育徳会(通期展示) 右下/『百工比照 第三号箱第六架 釘隠引手等金具 第二重(ひゃっこうひしょう だいさんごうばこだいろっか くぎかくしひきてとうかなぐ だいにじゅう)』 重要文化財 江戸時代・17~18世紀 前田育徳会(通期展示)

『シロクマ』 フランソワ・ポンポン作 フランス・1930年 前田育徳会(通期展示)

前田育徳会創立百周年記念特別展「百万石!加賀前田家」

前田育徳会収蔵品による大規模な展覧会が、東京で開催されるのは、実に半世紀以上ぶり。公開の機会が限られてきた名品に出合える、またとない機会です!
会期:4月14日(火)~6月7日(日) ※会期中、展示替えあり
会場:東京国立博物館 平成館(東京都台東区上野公園13-9)
電話:050-5541-8600(ハローダイヤル) 
開館時間:9時30分~17時(※入館は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日(ただし4月27日、5月4日は開館)
入館料:一般当日2,300円
公式サイト:https://tsumugu.yomiuri.co.jp/kagamaedake2026/

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和樂web編集部


撮影/宮濱祐美子 構成/植田伊津子
※本記事は『和樂』2026年4・5月号の転載です。
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※『和樂』2026年4・5月号 美術展カレンダーに誤りがありました。P.224で紹介しました、福岡県・久留米市美術館で開催中の「美の新地平ー石橋財団アーティゾン美術館のいま」の入館料は、正しくは一般1,500円となります。お詫びして訂正いたします。
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