超巨大梨や濃厚ピーナツバターに釣られて農業イベントに参加したら思いがけない発見があった

超巨大梨や濃厚ピーナツバターに釣られて農業イベントに参加したら思いがけない発見があった

テレビもインターネットも、なんだか息苦しい。最近よく感じるこの閉塞感。この正体はなんだろう? 2019年10月28日、友人の誘いで参加したトークイベント「農業を変えナイト!」そこで耳にした議論は、農業だけが直面している問題とは言い難く、私たちの日常を取り巻く悩みと重なりあうものだった。

なぜ私が農業イベントに?

そもそも、私は農業について詳しくない。どちらかというと無関心なほうだ。なぜこのイベントに参加したかといえば「なかなか手に入らない果物やハーブを食べながら農業について学べるぞ!」と誘われたからである。

会場は渋谷の東京カルチャーカルチャー。広いホールが70以上の観客でにぎわっている。テーブルに並ぶのは、親戚の法事みたいな量の梨、子どもの腕みたいなバナナ、ゆで卵にピーナツバター、にんじん、ハーブティー…。動物気分で、むしゃむしゃほおばりながら、登壇者たちの話に耳を傾ける。

イベントに登壇されたのは、4名。川内イオさん(稀人ハンター、「農業新時代~ネクストファーマーズの挑戦」(文藝春秋社刊)著者)、菊池紳さん(プラネット・テーブル創業者、たべものCo.CDO)、佐川友彦さん(農家のカイゼン伝道師)、酒井里奈さん(ファーメンステーション代表取締役)、【司会】河原あず(東京カルチャーカルチャー コミュニティ・アクセラレーター)。

稼げない、結婚できない「5K」の呪縛

「5K」をご存知だろうか? 若者に不人気な仕事はかつて「3K」と呼ばれていたが、現代はさらに2つ増えて「5K」になったそうだ。

「キツイ」
「汚い」
「臭い」
「稼げない」 ←NEW!
「結婚できない」←NEW!

そりゃあんまりだ!と思わず声を上げたくなるワードの連続だが、農業や漁業など一次産業の仕事は、このイメージが今だに根強くあると言う。しかし、今回のイベントで紹介されたネクストファーマーズは、そんなイメージを覆す人物ばかりだ。

例えば、会場で食べたピーナツバター。めちゃくちゃ濃厚で旨味が強く、男気というかパンチがある。このピーナツバター、どんな人がつくっているのか? トークに耳を傾けると、意外や意外。落花生の栽培から手がける「杉山ナッツ」の杉山孝尚さんは、NYでHIPHOPダンサーを目指し、レコードショップで働いたのち、エリート会計士になり、世界屈指の会計監査企業へ入社。現在は世界一のピーナツバターを目指して静岡で奮闘中…と、異色すぎる経歴の持ち主。

続けていただいたのは、こちらのにんじん。これが、生なのに甘い! 葉っぱはパセリ、茎はセロリのよう。まるごと食べられる。にんじんを栽培したのは、ハーブハンターを名乗る「梶谷農園」の梶谷譲さん。留学経験やラテン語の知識を生かして、世界中からハーブ栽培のノウハウを集め、同園では100種類を超えるハーブを栽培している。彼の栽培した野菜やハーブは、世界の一流シェフたちを魅了してやまない。

この日登壇された3人も、異色のキャリアを持つネクストファーマーズだ。東大を卒業したのち梨農家に勤め500の改善を実行した佐川さん、コンサルや投資ファンド業界から、生産者支援プラットフォームの開発事業へと転換した菊池さん。銀行員から外資系企業へ就職し、30代で農大に入学し、発酵技術を学んだ酒井さん。

酒井さんは現在発酵技術を活用した事業を起ちあげているが、事業を始めた当初は「米のニオイはするが、金のニオイはしない」と、周りから言われたそうだ。果たして、本当にそうだろうか? ネクストファーマーズは、私たちに問いかける。もちろん、実際問題として5Kはあるのかもしれないが、登場した方々のキャリアや事業を聞くと、5Kのイメージからは遠いように感じる。

職種で可能性を狭めていないか?

機能やフィールドで職種が決められることに、違和感を覚えたことはないだろうか? 私は「編集者」に就いたとき、それを強く感じた。Web以外のフィールドで活動してはならないのか? ライターやイラストの仕事を兼任してはならないのか?

あらゆる職種がそうであるように「ファーマー(農家)」にも、同じような悩みがある。クリエイティブな仕事であるとも捉えられるし、生産以外の仕事は範疇外であると、自らの可能性や技能を狭めることだってできる。前段で書いた「ネクストファーマーズ」という言葉は、川内イオさんの著書のタイトルにもなっている言葉で、そこには「従来の生産者という意味合いに限定されない、職業としてのファーマーの可能性」という願いが込められている。

登壇者のひとり、佐川さんは梨園に勤めていた際に事務所などで仕事することが多いため「畑に入らないマネージャー」と呼ばれていた。最近はその考え方を改め「事務所も畑の範囲である」と畑の定義を広げて、自らもファーマーであると名乗っている。また、テクノロジーから農業の課題解決を試みる菊池さんは「ファーマーはデザイナーに近い存在だ、醸造家や経営者だってファーマーである」と言う。

農家を表す「百姓」は、もともと100の作業ができる人、すなわち「マルチタレント」でもあった。多様な働き方が認められるようになってきた現代、私たちの想像する農業の世界の外にも、ネクストファーマーズが続々と現れている。

需要の多様化から気づくこと

働き方、生活、性別。多様性は現代においてポジティブなものとして捉えられるが、供給側から見ると弊害もある。イベントの後半に「なぜ日本の農業の衰退は止まらないのか?」という観客からの質問があった。それに対する壇上の回答のひとつが以下である。

需要の多様化は業界の衰退の兆しである。大量に安定的かつ効率的に届けるシステムは発展途上国にはマッチするが、日本にはもうフィットしない。結果、大企業が衰退してベンチャー企業が成長し続ける現象と同じことが、日本の農業の現場で起きている

かつて野菜を食べる人とつくる人の関係は、「今は何がおいしい?」「これがおいしいよ!」の二言で成立するものだった。それがスーパーマーケットの陳列棚からいくらでも選べるのが当たり前になった現代、中小生産者はチャンスといわんばかりに台頭している一方で、大手が消費者のニーズに追いつけなくなっているのは否めない。

そういえば10年前はインターネットで情報を探すとき「専門サイト」で調べるのが一般的だった。今や気になるワードを叩けば、あっというまにGoogleから何でも答えが返ってくる。ネクストファーマーズの活動だけでなく、便利さをデフォルトとする私たち消費者のスタンスが変わらなければ、どんな政策やテクノロジーをもってしても、農業の未来は変わらないのかもしれない。

イベントが終わるころには、他人ごとのように感じていた農業の話が、急に自分ごとのように思えてきた。私がこのイベントで学んだことは、応援したい人から物を買うこと、可能性を既存のイメージや言葉で狭めないこと。どちらも、日常のあらゆる場面に通ずる。

「こうあるべきだ」「こういうものだ」と私たちは「当たり前」を決めることで、現状に安心する癖がある。テレビもインターネットも、そんな「呪い」で溢れているから、息苦しいのではないだろうか? 5K、ネクストファーマーズ、職種の定義、需要の多様化…イベントで耳にした言葉や事例は、決して農業に限られた話ではなく、日本に蔓延する呪いとそこから解かれるための、アイデアとアクションのヒントの宝庫だった。

じゃんけん大会で梨をお持ち帰り。家の猫と比べるとこんなに大きかった。
超巨大梨や濃厚ピーナツバターに釣られて農業イベントに参加したら思いがけない発見があった
この記事をSNSでシェアする
この記事をSNSでシェアする