渋谷に47都道府県の発酵食品大集合「Fermentation Tourism Nippon」見学レポート

渋谷に47都道府県の発酵食品大集合「Fermentation Tourism Nippon」見学レポート

目次

摩訶不思議な発酵文化に出会える展示が、渋谷ヒカリエにある「d47 MUSEUM」で開催されています。今回は「Fermentation Tourism Nippon 〜発酵から再発見する日本の旅〜」初日の2019年4月26日(金)に行われた、ミュージアムツアー参加レポートをお届けします。

Fermentation Tourism Nippon とは?

微生物の視点から、日本各地のダイナミックな歴史の変遷と風土に根ざした人々の暮らしを再発見する展覧会、それが「Fermentation Tourism Nippon(ファーメンテーションツーリズムニッポン)〜発酵から再発見する日本の旅〜」。本展覧会のキュレーターである小倉ヒラクさんは、発酵デザイナー。見えない発酵菌たちのはたらきをデザインを通して見えるようにすることを目指し、これまで全国の醸造家や研究者たちと発酵・微生物をテーマにしたプロジェクトを展開してきました。


小倉さんの著書である「発酵文化人類学(木楽舎)」は、どこか遠くに感じていた「発酵」を、グッと自分ごとに引き寄せてくれます。

今回の展覧会で紹介されている展示品は、全部で51つ(47都道府県+番外編4つ)。会場内を旅するように回遊することで、日本各地の発酵文化に触れられる構成となっています。


中央のマイクを握っている方が小倉ヒラクさん。

「展示されている発酵食品の選定には3つのルールがあります」と小倉さん。そのルールとは、以下のとおり。

1.発酵食品の種類がかぶらないこと

47都道府県どこにでもある酒や醤油、味噌などは、1点ずつしか出展されていません。展示品の中には、数百人のコミュニティでしか受け継がれていない、私たちがこれまでに見たことも聞いたこともないようなレアな食品もあります。

2.ルーツに忠実であること

なぜその場所でその発酵食品が生まれたのか? それぞれに必然性があり3代以上受け継がれてきた食品が選ばれています。例えば、最近は個人でおもしろい発酵食品を作っている方もいますが、その土地の歴史と関わりがない場合は「文化」とは言えないため、今回は未選出となっています。

3.景色と人にフォーカスすること

キュレーターである小倉さん自身が、製造現場に足を運び、製造する人たちの話を聞いて、どうやってそれらが食べられているのか1つ1つ調査すること。文化的な背景を掘り下げるべく、小倉さん個人から見た日本の発酵文化を届けることを大切にされています。


会場には、小倉さんが実際に各地を訪れたときのように、五感を使って発酵文化に触れられるしかけがたくさんあります。そのひとつが、匂いを嗅ぐことのできる食品展示。こちらは奈良漬。

展覧会を構成する4つのカテゴリ

普段はグリッド形式で構成されているd47の展示空間ですが、今回の展示はまるで川のように入り組んだレイアウト。展示は「海・山・街・島」の大きく4つのカテゴリに分かれています。

海の発酵 〜旬を逃さず旨味を極める〜

会場に入って、まず最初に見られる展示が「」のカテゴリ。秋田県の「ハタハタ」や福岡県の「明太子」などその土地の特産品として親しまれているものがいくつかある一方で、このカテゴリにあるほとんどの食品が初見…! ディープな世界に足を踏み入れた感覚があります。 

小倉さん「日本らしい発酵の特徴はにあります。なぜかというと、日本が島国で海に囲まれていることも理由のひとつですが、6世紀くらいから日本は仏教を国教としてきたので、肉食が禁じられてきたんですね。エネルギーを摂取するのに効率の良い肉食が禁止されたので、何かエネルギーを代替しなくてはならなかった。そこで一瞬の漁期に大量に獲れる魚介を有効活用するために食べ方のバリエーションが増えて、こんなものまで発酵させるのか!というものが現れてきたんです。」

「僕の母の故郷でもある佐賀県、唐津北部にある『松浦漬け』は、鯨の上顎の軟骨を発酵させたもの。鯨って昔は食べ物だけではなく、その油をしぼって工業用に使われていたんです。そのとき一番困るのが、油を絞ったあとに残る軟骨。それだけで何十キロもある。その残った軟骨をなんとか食べられないかと加工したのが松浦漬けなんですね。酒粕に漬け込んだ、すごく味わい深いもので、僕は小さい頃に食べていたので非常に懐かしかったです。鯨の上顎を発酵させる日本人の発想、すごいですよね?」

街の発酵 〜地の利を生かして価値を醸す〜

続いて現れるのが「」のカテゴリ。こちらは海のカテゴリから一転して、愛知県の「八丁味噌」や茨城県の「水戸納豆」三重の「たまり醤油」などメジャーな調味料や食品が多く並んでいます。

小倉さん「街の発酵食品は、醤油や味噌、酢や酒など、持ち運ぶことによって利益を得るもの…つまり貿易として経済をつくっていったものが多いんですね。保存がきいて遠くに運べて、しかも付加価値の高い醸造プロダクトは、日本の経済の屋台骨だったねです。ちなみに、ここにある京都の『しば漬け』は匂いを嗅ぐことができます。本物のしば漬けって、乳酸発酵だけで風味をつけているので、しそと乳酸菌の匂いがダイレクトに香ってくるんですよ。」

山の発酵 〜山に根ざした工夫の宝庫〜

展示会場の中央にあるのが「」のカテゴリ。ここで目にとまったのがお茶やワインといった飲料。

小倉さん「山の発酵は、日本の地域性がよく出るカテゴリですね。というのも、日本の山里って外界から隔絶されていて外から食べ物を持ってこれないんですよ。なのでそこの土地にある在来の食べ物をどうやって保存していくかという、その土地の博物誌的な展示になっています。あとは、海辺と違って塩をふんだんに使えないので、植物の抗菌効果や酒粕のアルコール分、乳酸菌の酸味などをフル活用して保存技術を追求しているのも特徴です。」

「例えば、僕の今住んでいる甲府では1300年くらい前から根付いている地葡萄があって、それを使って150年に渡り『甲州ワイン』が作られています。甲府のお父さんたちは、ちゃぶ台にドンッと一升瓶に入ったワインを置いて、湯のみに注ぎながら野球のナイター中継とか観てきたんですね。そういう風景があたりまえにあるから、甲府の人にとってワインは地酒のひとつなんです。ワイン自体は外来の文化ですが、100年も経つとその土地らしい文化に形を変えるということが分かります。」

島の発酵 〜閉鎖環境で生まれる多様性〜

会場奥にある最後のカテゴリが「」。沖縄県の「豆腐よう」や東京伊豆諸島の「くさや」が、ギリギリ知っている食品で、そのほかのほとんどが見聞きしたことのないもの。なかでも長崎県の「せん団子」は衝撃的でした。

小倉さん「島の発酵は、日本人のサバイバルの知恵の結晶。島って究極の閉鎖環境だから、奇想天外な発酵食品が生み出されてきたんです。例えば、長崎の『せん団子』は、さつまいもが冬に腐るのを防ぐために微生物の力を使って、6プロセスくらいかけて発酵させてでんぷんを取り出したもの。ものすごくユニークですよね。現代の科学を持っても、謎の多いガラパゴス発酵の宝庫なんです。」


こちらが「せん団子」。その見た目は、一見すると人形のよう。さつまいもを洗ってスライスしたものを水にさらしてアクを抜き、最初の発酵。1カ月水にさらしたら発酵。やわらかくなったら団子状にかためて屋外に置いて、さらに発酵。それをまた水にさらして…と完成までに4ヶ月以上もかかるんだそう。

編集部の気になった発酵食品は…

和樂編集部・白方の気になった食品は、会場入り口そばにあった宮崎県の「むかでのり」。

見た目はぷるぷるとした餅のよう。その正体は、日南海岸に生えている海藻を天日干しにしたあと煮出して寒天にして、味噌漬けにしたもの。小倉さんの解説を聞くと「お盆の時の神様のお供え物に使われているもの」だそうですが、詳しいことの記載された文献もなく、起源がわからないんだとか…そのミステリアスさに惹きつけられました。

もうひとつ、気になったのが京都府の「しば漬け」。すっぱくてジューシーな香りだけで、ご飯が何杯でも食べられそう…。展示されていた3種類、全て展覧会場横にある物販コーナー「発酵デパートメント」で購入。そのまま食べたりご飯にのっけたり、パスタに和えたり料理に、すでに家で大活躍しています。


物販コーナーには、見たこともない食品や調味料、さらには種麹や発酵消臭剤まで売っています。

この物販コーナーでは、2019年5月24日(金)の全国発売に先駆け、この展覧会の公式書籍「日本発酵紀行」が先行販売されています。ローカル発酵食品をさらに深く紐解きながら、日本列島を北から南へ。小倉ヒラクさんの“全国発酵取材旅”を追体験できる旅行記です。


こちら、私も購入しました。展覧会よりもさらに小倉さんの視点で、各土地を巡る体験ができる一冊。民話を読んでいるような感覚に陥ります。

【おまけ】フォトスポット&限定発酵定食も

実際に食べてみたい!という方、お子さん連れの方にうれしい情報です。この展覧会は全体的にお子さんと一緒に五感を使って楽しめる構成になっていますが、会場の奥には、子どもも楽しめるフォトスポットが2箇所あるんです。

ひとつは「巨大な木桶」。小倉さん曰く、日本の発酵文化が発達したのは巨大木桶のおかげでもあるんだそう。海外は金属で締めていた木桶も、日本の場合は竹のタガで締めていたことから、呼吸による伸縮で巨大サイズにも耐えられる構造になっているんだとか。この技術があったからこそ日本酒や醤油が発展して、発酵食品を北前舟に乗せて日本全国に運んでいくことができたのですから、巨大な木桶は日本の前近代の産業をつくってきた立役者でもあるんです。


そんな貴重な木桶で記念撮影。(一緒に訪れた友人を記念撮影)

もうひとつのフォトスポットは、なんと「顔ハメ」。これは食品の製造工程ではなく、藍染の製造工程の一部である「すくもの水打ち」を切り取ったパネル。すくもの葉っぱを腐葉土にして堆肥状にして発酵させていく際、熱が出るため水をかけて冷まし、発酵を促していくんだそう。これはその様子を撮影した貴重な写真。「藍染」の工程にそもそも発酵が関わっているとは知らず驚きでした。(そして、そんなマニアックな瞬間を顔ハメパネルに選んでいるところも、びっくり…)

そして、展覧会場の隣にある「d47食堂」では、出展中の発酵食品を使ったオリジナル定食が展覧会期間中にリレー形式で登場。実際に食べられるんです!

左から(1)麹づくし定食(2)珍味づくし定食(3)旨味づくし定食 全て1,680円(税込)。

今回、私は展覧会を巡ったあとに「麹づくし定食」をいただきました。「ごど」「三五八漬け」「白味噌粕汁」「鶏肉のトマト塩麹漬け」「かんずり」の5品をいただける贅沢な定食。なかでも個人的に大ヒットだったのは、納豆に似た青森の発酵食品「ごど」。展覧会場で匂いを嗅いで、味が気になっていましたが、納豆よりもねっちょりとした食感で香りも甘め。酒のつまみに欲しくなる一品でした。

実際に味わうことで、発酵旅を疑似体験できる企画。展覧会場で気になった食品を、こうして食べられるのは嬉しいポイントです。展覧会に訪れた際にはぜひ「d47食堂」で定食も。


メニューには、小倉さんによるミニ解説コメントも。

展覧会は2019年7月8日(月)まで。会期中の週末はトークイベントなども行われるので、詳しくは公式サイトをチェックしてみてください。

展覧会概要

Fermentation Tourism Nippon 〜発酵から再発見する日本の旅〜 supported by カルピス
主催: D&DEPARTMENT PROJECT
協賛: 「カルピス」(アサヒ飲料株式会社)、株式会社環境ダイゼン、株式会社ビオック・株式会社糀屋三左衛門
協力: ALL YOURS

会期: 2019年4月26日(金) – 2019年7月8日(月)
時間: 11:00〜20:00(最終入館19:30)
場所: d47 MUSEUM
料金: 入場無料
公式サイト:http://www.hikarie8.com/d47museum/2018/11/fermentation-tourism-nippon.shtml

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