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2020.01.28

何者ぞ?和風キャラメル的お菓子「兵六餅」のパッケージに描かれたふんどし男の謎

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ふんどし姿の若侍のイラストがパッケージに描かれているという、ちょっと異色な雰囲気のお菓子「兵六餅(ひょうろくもち)」。

駅売店などのお菓子コーナーの定番商品なので、多くの人はご存じだと思います。

箱の中には、キャラメルサイズのもっちりした求肥飴が入っていて、どこかなつかしさを感じさせる味わいが人気です。

「兵六餅」を食べたことがある人なら、きっと一度はこう思ったことがあるでしょう―「パッケージの人物は一体誰なのだろう?」。

今回は、考え出すと夜も眠れなくなりそうな(?)、この疑問に迫ります。

その正体は大石内蔵助の子孫?

パッケージの人物の名前は、ご想像のとおり「兵六」です。では苗字はというと「大石」です。

日本史に詳しい人でも、聞いたことがない名前だと思いますが、この人は自分を、忠臣蔵の主人公・大石内蔵助の子孫(末の孫)だと名乗っています。とはいえ、忠臣蔵ファンであっても、聞いたことがないでしょう。

謎かけはこれぐらいにして、ネタ晴らしをしてしまうと、大石兵六は江戸時代に書かれた小説(当時は戯作と呼びました)『大石兵六夢物語』の主人公です。作者は、鹿児城下で下級武士であった毛利正堅の二男・毛利正直(1761~1803)です。武家の生まれながら、文才に優れ、20代の間に『大福夢中小鎚』、『移居記』、『煙草記』など数々の作品を著しています。

毛利正直の自画像

『大石兵六夢物語』は、正直がまだ23歳頃に書いた作品ですが、好評で多くの写本が出回りました。明治時代以降も何度か出版されるほか、戦前に映画化され、地元鹿児島ではラジオや舞台で上演されました。

現代語訳された『大石兵六夢物語』の1冊(高城書房刊)

『大石兵六夢物語』のあらすじ

『大石兵六夢物語』は、主人公・大石兵六の妖怪退治譚とも言うべきもので、狐たちが化けた妖怪変化に誑(たぶら)かされながらも、最後は一味の狐2匹を倒すというもの。

あらすじを大雑把にまとめると次のようになります。

兵六が悪友たちと車座になって世間話に興じているとき、仲間の1人が4里(約15km)ほど離れた吉野の野原に、異形の化け物が出没、往来の人を丸坊主にしてしまうという事件が続発していると語ります。

血気盛んな兵六は、1人でそれら化け物を討ち取ってみせると豪語し、言葉どおり刀を引っさげて吉野へ向かいます。

化け物の正体は、化ける能力に秀でた狐たち。彼らは、兵六が向かってくるのを知ると、さまざまな妖怪変化の姿をとって、兵六の勇気をくじき、丸坊主にして追い返してしまおうと画策します。

そんなこともつゆ知らず、兵六は、最初に遭遇した「茨木童子の幽霊」と名乗る「くちびるは両耳近くまで裂け、上下の歯はくいちがいにはみだし、頭髪は赤い針金のように逆立ってかぶりものをつき破っている」化け物を見るや、それまでの勇気は吹き飛び、逃げ出します。

その途上でも、別の化け物に行く手を阻まれるのですが、我を取り戻した兵六は、逃げずに立ち向かいます。それでも、あの手この手で兵六の気力を萎えさせようとする狐の一匹が、和尚に化けて兵六を弟子の僧にすると騙し、丸坊主にすることに成功します。しかし、なんとか勇気を奮い起こした兵六は、お地蔵様に変じた2匹の狐を討ち取り、仲間のもとへと凱旋します。

兵六が立ち向かう様々な妖怪たち(高城書房版より)

たくさんあった『大石兵六物語』のバージョン

怖いというよりユーモアあふれる冒険譚である『大石兵六夢物語』は、実は正直の完全なオリジナル作品ではありません。それ以前に『大石兵六物語』として、幾つものバージョンがありました。

正直は、公務で鹿屋郷に出張しており、農家に『大石兵六物語』の1バージョンがあるのを見つけ、誤りが多いのに驚き、書き改めることを決心したそうです。荒唐無稽な単なるおとぎ話でなく、その裏に含まれる社会への風刺も読み取ってほしいという気持ちがあったようです。

正直のこの意図を知った上で改めて『夢物語』を読むと、礼儀知らずの若い武士や口だけは達者な僧侶など、当時世間にはびこっていた堕落した風潮への批判をくみ取ることができそうです。その点が、江戸時代の昔から現代まで読み継がれる魅力の1つとなっているのでしょう。

「兵六餅」を名付けた人は?

さて、『大石兵六夢物語』の基本のキがわかったところで、「兵六餅」の話題に戻ります。「兵六餅」のメーカーは、セイカ食品(株)。鹿児島市に本社を置く、2019年で創業100年を迎えた老舗製菓会社です。「兵六餅」は製造開始から90年近い歴史を持つ、看板菓子の1つです。

素朴な疑問として、このお菓子のネーミングになぜ「兵六」を使ったのでしょうか? 他の商品は「ボンタンアメ」や「さつまいもキャラメル」など、素材がわかる直球のネーミングなのに、「兵六餅」だけは物語の主人公です。

そのあたりの事情は、セイカ食品が作成した資料「兵六餅と大石兵六夢物語の関係について」に書かれています。資料によると、「兵六餅」の名付け親は、二代目社長の玉川秀一郎氏。「このさわやかな薩摩男児の名をしのび、昔の人々の気持ちを今に伝えていこう」という考えからこのネーミングに決まったそうです。これで謎の1つが解けました。

「兵六餅」の名付け親である二代目社長の玉川秀一郎氏

「兵六餅」のパッケージの謎

大概の歴史あるお菓子は、パッケージデザインが何回かリニュアルされるものですが、「兵六餅」については、ほとんど変わっていません。

昔の「兵六餅」のパッケージ

ただ、よく見ると、昔のパッケージでは商品名が「薩摩名物 兵六餅」で「へうろくもち」とふりがながふってあります。対して、昭和40年代以降は「南国名物 兵六餅」でふりがなは「ひょうろくもち」。細かい変化は、やはりあるものです。

余談になりますが、パッケージデザインが、がらりと変わってしまうかもしれない出来事が一度あったそうです。戦後間もない頃、米国の進駐軍から「兵六のおしりの丸出しがよくない、パンツをはかせろ」と指摘を受けたそうです。セイカ食品側は、ふんどしは日本古来の立派なパンツだと説得し、事なきを得ましたが、説得が失敗していれば、野性味ある兵六の姿は、ずいぶんとソフトなものへと変わっていたに違いありません。

ところで、昔も今も商品名の下には「夢廼舎主人」とありますが、これは何でしょう?

これについてもセイカ食品の資料で、種明かしがされています。読み方は「ゆめのやしゅじん」で、「発売当時の社長のペンネーム」とありますので、玉川秀一郎社長であることがわかります。

パッケージの裏にも謎あり

パッケージの謎はまだあります。裏面には、漢詩とおぼしき28字の漢字が記されています。

五百年來世上人 見來皆是野狐身
鐘聲不破夜半夢 兵六爭知無意眞

実はこれ、『大石兵六夢物語』に登場する、狐が化けた和尚が語った言葉なのです。これも同資料にて「直訳」と「解釈」があります。

「直訳」:五百年来ずっと世の中の人々を見てきたが、みな野狐の性を備えている。鐘声によっても夜半の夢から覚めないのにどうして兵六が真相を知ることができるだろうか。

「解釈」:宇宙の全ての出来事は理にかなって事が運ばれているのに、人間の社会では何と割り切れないことの多いことか。譲歩、妥協、かけひき、契約、善悪…。誠は何かを誰も知ることはできない。

お菓子のパッケージにしては、ずいぶんと深みのある言葉です。この物語が書かれた当時、鹿児島(島津藩)は、幕府に命じられた理不尽な木曽川治水工事により財政難にあえいでいたそうです。それに伴い、藩内ではいささかの不正や庶民の艱難辛苦があったことでしょう。そうした諸々の理不尽に対する、作者の社会批判が込められているそうです。「兵六餅」の発売当時も、これに似た世相があったのかもしれません。

実は深い意味が込められていたパッケージ裏の漢詩

バラエティーに富んでいるパッケージの絵柄

前節でパッケージデザインは、発売当初からあまり変わっていないと述べましたが、下の写真をご覧のとおり、これとは異なるバリエーションはいろいろと出ています。

どれも、兵六が化け物と対峙したときのユーモラスな反応が描かれていて秀逸。セイカ食品に入手方法をうかがうと、「お近くの販売店舗のご案内をしますので、まずはフリーダイヤル0120-254685でお客様相談室にご連絡ください」とのことでした。

ちなみに、2019年11月15日~12月29日にかけて、「兵六餅」パッケージの新デザインを公募するという新たな試みが行われました。受賞作品は、限定版のパッケージとして採用されることになります。

2019年の暮れには、パッケージデザインの公募を実施

「人に歴史あり」という言葉がありますが、由緒あるお菓子も、歴史と謎が積み重なっているものです。ふだん表に出てこない歴史を知り、謎を解明することで、何気なく食べていたお菓子にも、ちょっとした愛着がわくことでしょう。今度売り場で「兵六餅」を見かけたら、改めてパッケージに注目してみてはいかがでしょうか。

書いた人

フリーライター。北国に生まれるも、日本の古くからの文化への関心が抑えきれず、2019年に京都へ移転。趣味は絶景名所探訪と美術館・博物館めぐり。仕事の合間に、おうちにいながら神社仏閣の散策ができるYouTube動画を制作・配信中→Mystical Places in Japan