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2020.07.14

約400年間生き抜いてきた歌舞伎がコロナ禍で進化を遂げた!これが「図夢(Zoom)歌舞伎『忠臣蔵』」だ!!

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コロナ禍の影響でライブ型のエンタテインメントは中止や延期の苦境に立たされ、その状況は今なお続いている。8月にはいよいよ歌舞伎座公演が4部制で始まろうとしている。が、ちょっと待って! その前に、絶対に観てほしい配信があるのだ。

これまで、歌舞伎はあらゆる手法を使いながら、400年間を強かに生き延びてきた。その時代時代で人気だった能や文楽や落語や、はたまたバレエまでをも取り入れながら、パトロンもなく国から援助を受けることもなく、苦境も乗り越えて生き延びてきた伝統芸能である。

その歌舞伎が、このコロナ禍においては、なんと”Zoom”を取りこんで「図夢歌舞伎(ずぅむかぶき)『忠臣蔵』」なるオンライン配信専用の作品を生み出したのである。史上初のオンライン歌舞伎の上演。これまでにもあった舞台中継や歌舞伎の映像化の配信とは一線を画している。この「図夢歌舞伎『忠臣蔵』」とは、歌舞伎三大名作のうち最も人気の高い演目『仮名手本忠臣蔵』をオンライン配信のために新たに構成して、全十一段を「通し狂言」で5 回に分けて5週間にわたり上演する。

6 月27日よりスタートし、すでに7月11日の第3回まで配信されて大きな話題を呼んでいる。チャンスはあと2回、まだご覧になってない読者の皆さんに是非観ていただきたいという思いで、緊急レポートします。

第一回 6月27日、「大序から三段目」。なになに?このワクワク感。初めて相手役目線で歌舞伎を観た!

狂言回しの役割を担う口上人形が、丁寧に物語を説明してくれる。(c)松竹

午前11 時、歌舞伎座公演の昼の部が始まるのと同じ時間設定で視聴が始まる。定式幕がゆらゆら揺れる映像に期待が高まる。歌舞伎好きの友人と、LINEでつながりながらログインしたのだが、すぐにチャット機能があることに気がついた。すでに書き込みがザワザワ・・・まるで劇場にいるかのような臨場感だ。第一回は「大序から三段目」。狂言回しの役割を担う口上人形が、浮世絵などを用いてわかりやすく物語を説明してくれる(名バイプレイヤー・市川猿弥さんの声だ)。物語の敵役である高師直(こうのもろなお)と、全編を通じて重要な役どころとなる加古川本蔵(かこかがわほんぞう)の二役を松本幸四郎さんが初役で演じた。

塩冶判官を挑発する、憎ったらしい高師直(松本幸四郎)。(c)松竹

顔世御前(かおよごぜん)に高師直が言い寄る場面は2分割された画面で史上初のZoom共演だ。意地の悪い高師直が、塩冶判官を挑発するシーンでは判官目線で撮影されていて、まるで自分が共演者になったかのような視点。つい刃を抜きたくなるほど感情移入してしまう。舞台では決して見られない新鮮なアングルだ。気持ちを抑えて判官が悔しがる場面では塩谷判官の手のアップが映され、自身のジリジリと震える手を見つめているという斬新な演出。

“Zoom”を用いることでソーシャルディスタンスを保ちながら、別の空間で演じる俳優同士が共演したり、事前収録した自身の映像とリアルタイムの役者の演技が画面上で共演できるという驚きの演出。しかもライブなので、演じる方にも観る側も独特の緊張感がある。まるで、長い歌舞伎の歴史の中の新たな1ページに立ち会ったような、貴重な瞬間だった。

第一回とあり、まだまだ実験的で、音声が安定しなかったり、幾つかの失敗はあったものの、チャットで観ている観客が「あれ?音が小さいかも…」とつぶやけば、速やかに改善されるなど、打てば響くライブ感が俄然楽しく、劇場の一体感も感じられ、久々に歌舞伎好きの友人たちと一緒に観劇した気分に浸れた。もちろんアーカイブ配信になってからは、何度も何度も見返した。最初は5回分のチケットをまとめて買う勇気がなく、とりあえず1回分だけ買って初めての図夢歌舞伎鑑賞に望んだのだが、第一回視聴後には即、第二回から第五回まで通しで視聴できるチケットを購入したのだった。

第二回 7月4日 「四段目」。衣擦れの音や、畳を歩く音、刀を包む音がリアルに響く「通さん場」

“Zoom”を用いて、塩谷判官(右)と大星由良助(左)を同じ画面で二役演じる松本幸四郎。(C)松竹

第二回は「四段目」塩谷判官切腹の場だった。この段は、昔から「通さん場(とおさんば)」と言って上演中客席の出入りが禁止される場面である。「四段目特有の劇場のシーンとした空気感が大切だから、あえて歩く音や衣擦れの音を拾って緊迫感を出したい」という幸四郎さんの提案で、衣擦れの音や、畳を歩く音、刀を包む音などを、劇場で見る時以上の静けさと生々しさを演出したそうだ。様式的な切腹のシーンは圧巻、見たことのないアングルで映される画像と迫力に息を呑みました(リモートZoom会議用に27インチのPCに買い替えといてよかった!)

切腹する塩谷判官(松本幸四郎)。様々なアングルから様式的な切腹シーンを見せた。(c)松竹

ちなみに、主君を失った塩冶家の国家老・大星由良之助(おおぼしゆらのすけ)の息子・大星力弥(おおぼしりきや)を市川染五郎が初役で勤め、Zoom歌舞伎で親子共演を果たした。通常の舞台では、切腹前の塩谷判官の前に、客席に背を向けるかたちで力弥が座り、判官に由良助がまだかと聞かれて首を振って告げるのだが、なんと図夢歌舞伎は判官目線! 歌舞伎界一の美少年と言われる力弥(染五郎)の切なくも美しい表情がアップで映し出された。

大星力弥(市川染五郎)の美少年ぶりにため息!(c)松竹

実はこの日、私は出張だったため、オンタイムでは見られなかったのだが(翌日23時まで視聴できる)アーカイブで鑑賞した。アーカイブにはチャットがないので、どのように盛り上がったかはわからないが、「染五郎、イケメン!」と響めいたに違いない。

大星由良之助(右)を松本幸四郎、大星力弥(左)を市川染五郎が演じ、初の親子zoom共演を果たした。(C)松竹

第二回からは、藤森圭太郎監督(『東海道中膝栗毛』DVD特典映像の監督)も参加して、カット割りに力を注いだそうだ。最後に由良助と力弥が城を離れていく「城明け渡しの場」も、余韻が残る素晴らしい映像だった。「図夢歌舞伎」は、松本幸四郎さんを中心とする、歌舞伎を愛する有志で始めたというが、スタッフは歌舞伎座の舞台美術(大道具)、照明部、音響、衣裳、床山、小道具に至るまで、歌舞伎を作ることにおいてはプロの集団だ。初めての手法で役者もスタッフも手探りながら、ギリギリの進行や臨機応変な対応にも慣れている。直前まで「こうすればもっと良くなる」の試行錯誤を重ねながら準備をしているそうで、強い歌舞伎愛を感じられて、舞台を観られなくて枯渇していた観客の心を潤わせてくれた。二回目にして、もはや第一回で起きた音声の途切れなどは懐かしいほどの進化だ。「さすがプロの仕事やな」と、友人のLINEに呟いてみた。

「城明け渡しの場」のラストシーン。(c)松竹

第三回7月11日、「五・六段目」。まずは顔をする場面から、意表を突く始まり!

第三回「五・六段目」の鑑賞には午前11時からオンタイムで視聴に望んだ。が、じつは時間になっても反応がなかった。チャットが「あれ?まだかな?」「準備してるのかな」と呟き始めると、「システム不具合のため開演が遅れております」と表示された。それから数分の間は「気長に待っています」「チャットがあって安心できる」などのコメントとともに、数分間の待ち時間は1,000人超えの図夢歌舞伎ファンがチャットで団結した。

そして、いよいよ「五・六段目」のはじまりはじまり。まず、冒頭で二分割の画面に映し出されたのは、幸四郎と猿之助が顔をする(化粧する)場面だった。こうきたか!! 毎回、違うZoomならではのアプローチに驚かされ、チャットも響めいた。また、第三回から初めて観る人でも解るように、市川猿弥さんが勤める口上人形がこれまでの物語の流れを楽しく簡潔に解説してくれる。口上は全編を通じて『忠臣蔵』の世界と観客をつなぐ存在。時折、チャットコーナーが挟まれ、例えば「イノシシは誰がやってるの?」という呟きにも「あーちゃん(幸四郎)です。あーちゃんは何でもやりたがるんです」と答え、場を和ませてくれる。

山崎街道で百姓与市兵衛(松本高麗五郎)が、山賊の斧貞九郎(松本幸四郎)殺害される場面。(c)松竹

さて、第三回「五・六段目」は、芝居のやり取りが見どころで配信時間は50分ほどだった。

見せるところはじっくりと・・・。山崎街道で百姓与市兵衛が、山賊の斧貞九郎に殺害される場面は、通常では見られない舞台袖から見たアングルで、左右2画面が一体となっていた。斧貞九郎の鋭さ極まる最期もシーンも大迫力だった。やがて、おかるとの悲劇的な別れをすることになる早野勘平役は市川猿之助さんが演じた(女房おかるは中村壱太郎、母おかやは上村吉弥)。同じ切腹でも、四段目の塩谷判官の切腹とはまるで雰囲気の異なる、早野勘平の庶民の腹切り。猿之助さんは関西の型で勘平を演じた。

腹を切る早野勘平(市川猿之助)(c)松竹

生配信ならではの、緊張感を伴う役者の芝居が画面を通してひしひしと伝わってきた。さらに、翌日まで配信されるアーカイブでは何度何度も演技を繰り返し見られるのだ。今、歌舞伎に関わってきたプロ集団たちが、”図夢歌舞伎”という初めての手法で歌舞伎に挑んでいる。毎回、見るたびに進化して完成度が高くなる。また、配信を見た観客の声が翌週の作品に反映されていたりするのも、江戸の芝居小屋のようで楽しい。コロナ禍の影響を受けて、舞台が見られなくなったのは悲しかったけれど、その結果、たくましく進化しながら立ち上がってくれた歌舞伎に感謝!歌舞伎の底力を見たような気がした。どこまで進化するのか、見届けたい。

次の配信、第四回「七段目」は、2020年7月18日(土)午前11時より配信される。映像ならではのサプライズを計画中。なんと、昭和の名優として知られる幸四郎さんの祖父・初代松本白鸚(故人)と39年ぶりに共演を果たすことになりそうだという。大星由良之助を演じた初代白鸚の映像に、平岡平右衛門役の幸四郎や、遊女おかる役の中村雀右衛門がリアルタイムで演じる映像を組み合わせ、時を超えた奇跡の共演を実現させるというのだ。楽しみ!

視聴チャンスはあと2回、見逃さないでね!

1981年、祖父の初代白鴎と共演した染五郎時代の松本幸四郎。亡き祖父様との共演が実現するかも?!

「図夢歌舞伎『忠臣蔵』」配信情報
次の第四回は2020年7月18日(土)午前11時より配信されます。配信はイープラス「Streaming+」で、同日23時まで購入可能。アーカイブは翌日12日(日)23時までの視聴となる。料金は、四十七士の物語『忠臣蔵』にちなんで第一回の値段は4700円。
●図夢歌舞伎『忠臣蔵』第一回「大序から三段目」 松本幸四郎 中村壱太郎 市川猿弥
6月27日(土) ※終了
●図夢歌舞伎『忠臣蔵』第二回「四段目」 松本幸四郎 市川染五郎 市川猿弥
7月4日(土) ※終了
●図夢歌舞伎『忠臣蔵』第三回「五・六段目」 松本幸四郎 市川猿之助 市川猿弥 ほか
7月11日(土) ※終了
●図夢歌舞伎『忠臣蔵』第四回「七段目」 松本幸四郎 ほか
7月18 日(土)11 時開幕 チケット好評発売中
●図夢歌舞伎『忠臣蔵』第五回「九・十一段目」 松本幸四郎 ほか
7月25日(土)11 時開幕 チケット好評発売中

■構成・演出:松本幸四郎
■配信場所:イープラス「Streaming+」
■チケット:第一回+トークイベント
4,700 円(税込)
■購入方法: イープラス 図夢歌舞伎 で検索
図夢歌舞伎『忠臣蔵』

書いた人

東京都港区在住。2001年『和樂』創刊準備号より現在に至るまで、歌舞伎及び、日本の伝統芸能を主に担当してきた。プライベートでも、地方公演まで厭わず追っかけてしまうほど歌舞伎や能・狂言、文楽が大好き。