Culture
2020.08.14

なぜ法隆寺は世界最古の木造建築なのか?長寿の秘訣を探る

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世界最古の木造建築として注目を集める法隆寺。約1300年の長い歴史をくぐり抜けてきたこの建物には、長寿の秘訣が隠されています。木造建築と聞くと長持ちしない印象を持つ方も多いでしょう。木材は焚き火の燃料になることからもわかるように、火事に弱いはず。日本は世界有数の地震大国のため、ほかの素材に比べ衝撃に弱いのではと考える人もいます。さらに日本は湿気の多い国であるので、菌が繁殖して建物が劣化するリスクもあります。それでも法隆寺は、約1300年もその姿を保ち続けています。何故こんなに法隆寺は長寿なのでしょうか。その秘密を解き明かすべく、まずはその構造に着目してみましょう。

法隆寺はなぜ世界最古?木材に注目!

illustration by Yukimasa Inamura

法隆寺の建造物で使われている木材は、非常に強度が高いと言われています。木材の中でも最高レベルの耐久性と保存性を誇る桧(ひのき)を使っているからです。そして、一般的に木材は伐採後の100~200年で少しずつ強度を増して、1000年が経過するまで強度はそれほど変わらないとも言われています。ものすごい時代スケールですよね。建築当時の柱の匂いも触った感じも、古代の人が生きていた時代のものがそのまま残っているというわけです。とても歴史のロマンを感じます。

法隆寺の地震対策に注目!

地震対策にも着目してみましょう。現代建築ではよく耐震構造(地震に耐える構造)という言葉が使われますが、法隆寺はまた異なる構造が見られるようです。法隆寺の五重塔では、各階がゆるくつながっているだけで、地震の振動が伝わるとその波に乗るように建物が動く仕組みになっています。また、中心に「心柱(しんばしら)」があるため、倒壊するほどの横揺れにもなりません。自ら揺れることにより地震による倒壊を防ぐという構造になっており、自然の摂理に抗わない建築とも言えるでしょう。現在では、東京スカイツリーでもこの技術が応用されて使われているようです。

建築技術の伝来

版画に描かれた法隆寺(平塚運一作)。出典:シカゴ美術館

法隆寺の建物の仕組みについて触れましたが、その法隆寺を建てた人々についても触れておきましょう。実際に建造に携わったのは、6世紀に仏教伝来とともに朝鮮から日本に渡ってきた造仏工や造寺工だったと言われています。これらの人々が日本に新しい建築技術を伝えたとされており、石の上に柱を置いたり、屋根を瓦で葺いたりする技術を伝えたとも言われています。ただ、どのような技術を持った人々であったかは定かでない部分も多いです。掘立柱の住居が一般的だった当時の奈良の人々にとっては、法隆寺は斬新な建築に思えたことでしょう。

その後、『日本書紀』によると天智9年(670)には、法隆寺が一屋余す事無く焼失してしまったそうです。すばらしい建築が灰になってしまったのは、もったいないですね。それから約1300年間、昭和の大修理を始め様々な修理が行われてきました。その流れの中で、次世代に貴重な技術を伝える職人が居たからこそ、今でも法隆寺という素晴らしい建築が残っているのです。

法隆寺を実際に訪れて感じた力強さ


今年7月、実際に法隆寺を見に行ってきました。まず感じたのが、木の風合いが美しく、繊細な技術によって作られた建築であるということです。そして、柱と柱がしっかりとはめ込まれており、それもひとえに職人の正確さの賜物だと感じました。また、想像以上に警備員の方が厳重に見張りをしており、手入れや掃除も入念に行っているようでした。建築技術とそれを支える人々の力があってこそ、この法隆寺は今でもその姿をとどめているのです。現場を見てこそわかることがあると感じ、貴重な経験ができました。

建築技術の素晴らしさに浸る

以上のことからわかるように、法隆寺には世界最古の木造建築である理由がたくさん存在するのです。私自身も最初、法隆寺はなぜ長持ちするんだろう…と分からないことも多かったのですが、長寿の理由を調べていくうちに法隆寺の魅力を再確認できました。また、法隆寺とも構造は異なりますが、日常でよく見かける家や寺社でも木造の伝統工法のものはたくさん存在します。それらは、日本古来より受け継がれてきた職人の素晴らしい技術があってこそ、今でもその姿を留めていると言えるでしょう。皆さんも法隆寺はもちろん、近所にある建物を含め、建築技術の素晴らしさに浸ってみてはいかがでしょうか。

書いた人

千葉県在住。国内外問わず旅に出て、その土地の伝統文化にまつわる記事などを書いている。得意分野は「獅子舞」と「古民家」。獅子舞の鼻を撮影しまくって記事を書いたり、写真集を作ったりしている。古民家鑑定士の資格を取得し全国の古民家を100軒取材、論文を書いた経験がある。長距離徒歩を好み、エネルギーを注入するために1食3合の玄米を食べていた事もあった。