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2020.09.09

丹後ちりめん創業300年。与謝野町、京丹後市でその歴史と魅力を学ぼう!

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古来、世界中で最高級の被服素材として愛されてきた「シルク」。その生産や加工は盛んに行われ、日本国内にもいたるところに名産と呼ばれるシルクが存在します。中でも、主に着物の代表的な生地として愛されてきた京都・丹後地方のシルク「丹後ちりめん」は、2020年に創業300年を迎えます。

今回、丹後ちりめん創業300年を記念する数多くの事業や、関係する施設を取材してきました。古き良き伝統を守りつつ、未来へ向かって歩む丹後ちりめんの姿をお届けします!

今さら聞けない「丹後ちりめん」の魅力

丹後ちりめんの特徴は、よこ糸を湿らせて3000~4000回もの強い「より」をかけ、それを精練して本来は平面であるはずの生地面に凹凸の文様「シボ」を加えること。完成までに膨大な時間と手間をかけ、美しい生地を生み出すのが魅力です。

この「シボ」をつくることによって
・シワがよりにくくなる
・しなやかで肌触りがよくなる
・凹凸が乱反射することで染め上がりの色合いに豊かさや深みが出る
といった効果があり、高級な着物に重宝されてきました。

また、「より」のかけ方に強弱をつけたり、あえてよった糸とそうでない糸を組み合わせたりすることで、生地の質を微妙に変えられるとのこと。現代では機械化も進んでいますが、それでも職人のアナログな感性による細かい調整は欠かせません。

300年にわたる長い歴史の中で丹後ちりめんの質は高く評価され、今や丹後の後染めされる白生地のシェアは全国の約70%という圧倒的な数字に。まさに、「日本一の絹織物」と呼ぶにふさわしい実績を残してきました。

節目の300年目に「コロナ」

丹後ちりめんの生産者たちや京都府をはじめとする地方自治体、地元の商工会議所や銀行などが一体となって組織された「丹後ちりめん創業300年事業実行委員会」は、2017年から来たる創業300年に備えて様々な事業を展開してきました。

地域ブランディングの一環として、「丹後ちりめん」のブランド化や国内外での認知度の向上を図るべく、若者にも影響力のある国内外で活躍するデザイナーを数多く丹後に迎え入れました。そして、優秀な学生とのコラボなどを通じた人材育成の取り組みや、ブランド発信、ものづくり、販売活動の拠点となる「TANGO OPEN CENTER(仮称)」の設立に向けた取り組みを進めてきました。

そして、いよいよ待望の2020年がやってきました。実行委員会は「これまでの集大成を披露する1年だ!」と意気込み、イベントを通じて多くの人に丹後を訪れてもらう狙いもあったといいます。

ところが、予想だにしない新型コロナウイルスの流行によって大きな方針転換を迫られることになりました。人を集めれば感染リスクがつきまとうため、集客イベントは次々と中止に追い込まれます。

しかし、そうは言っても「創業300年の機会を逃すわけにはいかない……」という事情がありました。もともと、着物の需要低迷や生産者の高齢化によって業界全体が危機的な状況にあり、関連事業も「お祝い」というより「危機的状況の打開」という意味合いが強かったそう。追い打ちをかけるようにコロナで催事が激減し、丹後ちりめんの売り上げも大幅に減少しているといいます。

「ここで諦めるわけにはいかない!」と考えた実行委員会は、丹後に人を集めるのではなく、発信力の強い東京を中心に集大成を見せていこうと決意。感染防止に配慮する形で8~9月には新宿のNEWoManアートコラボ展示やPOPUP販売、秋にも東京都内で現在進行中のコラボ作品展示とPOPUP販売を企画するほか、WEBサイトTANGO OPENをはじめとする情報のオンライン発信にも取り組んできました。

創業300年の2020年は不本意な1年となってしまいましたが、逆境にも負けず301年目以降に繋がる事業を展開してきたのが、丹後ちりめんの姿なのです!

丹後ちりめんの歴史を伝える「ちりめん処」

丹後ちりめんの関連施設は、創業から300年にわたって生産を続けてきた丹後地方の与謝野町と京丹後市に数多く残されています。文化財に制定される希少価値の高い施設や、現役で稼働している工場が、丹後ちりめんの魅力を私たちに伝えてくれます。

旧加悦町役場庁舎

昭和4(1929)年に建設された「旧加悦町役場庁舎」は、京都府宮津市出身の設計者・今林彦太郎(甲子園球場の設計者でもあります!)によって建築された京都府指定の有形文化財です。

建設の2年前に発生した大震災が原因で町の役場機能が不足していたため、役場用として1階を、町会議事堂用として2階を設計しました。

1階の旧役場

2階の旧町会議事堂

当時はまだ珍しかった洋風建築の建物で、復興のシンボルとして最新鋭の耐震加工が施されました。とくに2階の旧議場は見どころが多く、設置された舞台や天井の装飾といったユニークなデザインはたいへん希少価値が高いとされます。

しかし、すでに役場や議場としての役割を終えていたこともあり、近年は老朽化が進んでいました……。そこで、2018年には旧加悦町役場庁舎耐震改修検討委員会が発足。現代の耐震基準をクリアすべくプロフェッショナルたちが議論を重ね、2020年の4月に工事が完了しました。耐震補強は1階を、復元は2階を中心に行われ、現代建築の強度をもちつつもかつての伝統を生かしたイイトコ取りの施設に生まれ変わりました。

4月からは与謝野町観光協会が指定管理者となって営業を再開。後述する「ちりめん街道」などを含めた与謝野町観光の拠点として活用し、一方で現在・未来にも通用するシルク商品を並べ、丹後エリア全体をシルクの街として世界に発信する取り組みも行っていくとのことでした。

施設名: 旧加悦町役場庁舎
住所: 629-2403 京都府与謝郡与謝野町加悦1060
営業時間: 9:00~17:00
定休日: 年末年始(12月29日~1月3日)

ちりめん街道と旧尾藤家住宅

旧加悦町役場庁舎のすぐそばには、ちりめん商家や医院、銀行などかつての町の賑わいを伝える建物が多く残され、通称「ちりめん街道」と呼ばれる町並みが保存されています。

区域全体で「機音(はたおと)響く丹後ちりめんのまち」として国の重要伝統的建造物群保存地区に指定されていますが、現代でも約7割ほどの家屋に住人が住んでいるほか、営業中のシルク製品販売店もあり、まだまだ現役バリバリの街。

ちりめん街道のオーダーメイド婦人服店「コウジュササキ」の店内

そんな「ちりめん街道」の中でひと際大きく、立派な家屋が「旧尾藤家住宅」です。

酒造や庄屋業で財をなしていた尾藤家の9代目・尾藤庄蔵が文久3(1863)年に建築。少し前から9代目が生糸ちりめん業者に転身していたこともあり、住むだけでなく「職場」としてちりめん業にも活用されていたといいます。住宅の特徴は、歴代尾藤家の当主によって大胆な改修が加えられたこと。10代目は奥蔵や隠居座敷を、11代目は昭和4(1929)年にかねてからの悲願であった洋館を増築しました。

当時まだ洋風建築には多額の費用が必要で、現代の価値にして約7000~8000万円ほどかかったそう。この金額からも、11代目の「洋館愛」とお金持ちぶりをうかがい知れます。なんとも羨ましい限り……。

外観は純和風の屋敷2階に洋館が「乗っかっている」ような姿に仕上がっており、かなり豪快な和洋折衷ぶりが印象に残ります。

文化財としての価値も高く、2002年には京都府の有形文化財にも指定されました。

施設名: 旧尾藤家住宅
住所: 629-2403 京都府与謝郡与謝野町字加悦1085
営業時間: 9:00~17:00
定休日: 毎週水曜日(休日の場合は翌日休館)、年末年始(12月29日~1月3日)
公式webサイト: 旧尾藤家住宅

田勇機業

昭和6(1931)年に創業し、90年近い歴史を誇る老舗の「田勇機業(たゆうきぎょう)」。

丹後地方に絹織物の製造業者は数多くありますが、田勇機業は丹後ちりめん一番の特徴である、よこ糸を湿らせて3000~4000回もの強い「より」をかけていく「湿式八丁撚糸」を含む複雑で手間のかかる伝統的な工程を守る会社です。精練のみ丹後織物工業組合の加工場で行いますが、撚糸から機織り、検査まで一貫した工程で生地づくりに取り組んでいます。

今回の取材では、たて糸を織機にかけるために整える作業「整経」の様子を見学できました。「糸繰り」という工程で巻きとった糸を一定の張力と長さに整え、織物に必要なたて糸をふたたび巻きとっていきます。

作業に失敗すると20反、30反という量の生地がパーになるので、かなりデリケートな操作を求められるとのこと。

よこ糸の場合はさらに作業が増え、3000回/1m~4000回/1mもの撚糸を容易にするために、糸を熱湯でやわらげる「緯たき」や、冒頭でも触れた「湿式八丁撚糸」などの作業が必要になるため、糸を用意して生地が完成するまでにだいたい2か月ほどの期間を要してしまうそう。

緯たきの様子

湿式八丁撚糸用機械の細部

取材中「あれには4日かかる」「これには1週間」と手間、時間がどんどん加算されていき、想像するだけで頭がおかしくなりそうでした……。

しかし、ゼロから糸づくりをすることで「より」の強弱を巧みに調整し、完成する「シボ」の大小、高低、形態が微妙に変化する質の高い生地ができるとのこと。

工場入り口付近に飾られる数多くの賞状やトロフィー

「手間をかけることこそがウチの生命線であり、絶対に撚糸を辞めることはない」と田勇機業の田茂井社長は語ります。

会社名: 田勇機業株式会社
住所: 629-3104 京都府京丹後市網野町浅茂川112
公式webサイト: 田勇機業株式会社

丹後ちりめんの歴史をたどるツアーが開催されます

ここまで、丹後ちりめん創業300年のあゆみを振り返ってきました。私自身、丹後ちりめんはもちろん織物に関する知識は皆無だったのですが、施設見学やちりめんに携わる皆様の思いを聞き、感銘を受けるとともにその歴史を深く理解できました。

最後に、今回の記事で丹後ちりめんに興味をもっていただいた方にオススメしたい「丹後ちりめん関係のツアー」をご紹介します!

2020年10月25日(日)と同26日(月)の2日間、着物研究家として知られるシーラ・クリフさんと丹後ちりめん関連施設をめぐるプレミアムツアーが開催されます。

提供:海の京都DMO

今回ご紹介した旧加悦町役場庁舎や旧尾藤家住宅、田勇機業などの施設をめぐり、シーラさんとおしゃべりしながら楽しく知識を深められます。また、2日目の昼食処である橋立ベイホテル内の創作フレンチ料理店「フィーヌズ・エルブ」は私も昼食で訪れたのですが、フレンチながら気軽に楽しめるメニューと天橋立の絶景が抜群でした!

丹後ちりめん愛好家の方はもちろん、丹後ちりめんを初めて知ったという方でも楽しめる行程だと思うので、気になる方はぜひ以下のリンクからツアーの詳細を確認してみてください。

「シーラ・クリフと巡る丹後ちりめん工房」プレミアムツアー

書いた人

学生時代から活動しているフリーライター。大学で歴史学を専攻していたため、歴史には強い。おカタい雰囲気の卒論が多い中、テーマに「野球の歴史」を取り上げ、やや悪目立ちしながらもなんとか試験に合格した。その経験から、野球記事にも挑戦している。もちろん野球観戦も好きで、DeNAファンとしてハマスタにも出没!?