はじめてでも何度でも訪れたい名店。この秋、京都旅で楽しみたい美味トピックスを集めました。今回は「桃李園」、「隆兵そば」、「御菓子司愛信堂」の3店をご紹介。
京都の食通が30年も通い続ける韓国料理
「桃李園」
「オモニが畑で育てた野菜でつくるナムルが絶品」、そんな噂を聞いて訪れた、伏見・深草の「桃李園」。
金正姫さんと成龍和さん。山菜を摘んだり、知り合いの農家に分けてもらうことも。
朝鮮かぼちゃ、サンチュ、なす……ずらりと並んだ8種のナムルは、どれも薄味ながら素材の個性が引き出され、心と体にしみ入る美味しさです。ナムルのつくり手である金正姫(キム・チョンヒ)さんの本家は、韓国の山間部出身。母親譲りの郷里の伝統料理の美味しさを伝えたいと、40年ほど前から京への野菜の供給地だったこの地で、長男の成龍和(ソン・ヨンファ)さんと畑を耕し、店を切り盛りしてきました。案内してもらった畑で、自然のままに育つ野菜を摘む姿に、滋味の源がそこにあることがわかります。
左/自家栽培の野菜や干した野菜のナムル。手前からまめもやし、朝鮮カボチャの葉、干し大根、わらびなど。右/保身湯(ほしんたん)のように、じっくり鶏を煮込む、地鶏の白粥。えごまの醬油漬けと朝鮮にんにくの醬油漬け。夏の疲れが出る時期に最高。
もうひとつの自慢は成龍和さんが目利きをする牛肉。自家製のたれでさっとあえた肩バラ肉の嚙むほどに慈味深いこと。摘んだばかりのえごまの葉に包んでいただけば、箸が止まりません。じっくり煮た鶏のおかゆや、大根と牛肉の煮込みも、手間と愛情をかけたからこその深い味。ひと口いただくごとに、体に力が湧いてきます。
左/肩バラをやや厚切りにして自家製だれであえた焼き肉。牛肉はすべて個体識別番号がわかる、たしかな最高品質。えごまとサンチュを添えて。右/最高の牛肉と大根、椎茸の煮物。以上に各種キムチ、チョレギ、チヂミなどがつくコース。コースの内容は季節により異なる。
水が命のそばを尋ねて、名水の里へ
「隆兵そば」
どこで何を食べるかは、旅の最重要目的。ときに、昼膳のために足をのばしてみるのも素敵です。目的地は、昨今、一段と磨きがかかったと評判の「隆兵(りゅうへい)そば」。名月と名水を求めて建立されたという桂離宮の近くでそばを打ち始めて10年以上になるお店。打つ、ゆでる、洗うと、水が大きな役割を担うそばの、すべてを井戸水でまかなうからこその清らかな味が魅力です。ご主人・中村隆兵さんの生家は、この地に120年以上続く菓子処「中村軒」。「扱うのが粉というのは同じですが、お酒が好きだったもので」とそばを目ざした経緯を語ります。
凜とした空気が漂う店内。窓の外の緑もご馳走。
さて、昼どきのおすすめは、季節の前菜とひと口のそばをあてにお酒を愉しんでから、好きなそばをたっぷりいただけるミニコース。本枯れ節(ほんかれぶし)で丁寧にとる辛口のつゆと相まって、つるりとのどをすべるそばの心地よさは格別です。また、2014年から井戸水の水槽を備え、前菜やコースの中で出す魚はすべて川のものに切り替えました。
左/昼のミニセットは、先付盛り合わせ、おそば、うなぎの飯蒸し、香の物、デザート。先付のあとに、盛り、すだち、雉汁(きじしる)そばなど、好みのものを選び、選んだものによって値段が変わる。右/もりそば。そば粉は時期によって、富山産や北海道産を石臼で挽いてもらったものを使用。盛りそばは、つなぎなしの十割そば。つゆは本枯れ節の血合い抜きを厚削りにして使用。
「本物の京のそば屋になれた気がします」と胸をはるご主人。隆兵そばを目的に桂離宮に寄る?そんな旅程も楽しみです。
酒のあてに鯉の卵の炊いたんと、鯉こくのあらを酒と味噌で練った鯉味噌の盛り合わせ、パリッと焼いた有明のり。
しっとりきんとんなら、ここ!
「御菓子司 愛信堂」
京都の上生菓子の華といえばきんとん。舌の上ですっと消え入るような口どけが特に好まれます。そぼろがつくれるギリギリまで水分を残して炊かれたあんは絶品。
きんとん。札幌で4代続いた店を当代で京都へ。そんな背景から生まれたハスカップきんとんもおすすめ。きんとんは1種2個より発送可。
「愛信堂」はそんな京都らしいきんとんで人気急上昇中の店です。「小倉山」の銘の付くこちらは晩秋に登場。自慢の栗きんとんは9月末から12月まで。