クスッと笑えたり、うんうんと納得したりする現代アート作品の数々。千葉市美術館で開かれている「福田美蘭展 千葉市美コレクション遊覧」を訪れた浮世離れマスターズのつあおとまいこは、福田美蘭さんが読み解いて生み出した数々の現代アート作品にやられっ放し。いにしえの水墨画や浮世絵の名作が、どれも楽しく化けていたからです。
えっ? つあおとまいこって誰だって? 美術記者歴◯△年のつあおこと小川敦生がぶっ飛び系アートラバーで美術家の応援に熱心なまいここと菊池麻衣子と美術作品を見ながら話しているうちに悦楽のゆるふわトークに目覚め、「浮世離れマスターズ」を結成。さて今日はどんなトークが展開するのでしょうか。
だるまさんのお尻が鼻になった?!
つあお:日本の古い絵にはだるまさんすなわち達磨大師を描いたものが結構たくさんありますけど、雪舟が描いた白い法衣のこのだるまさんは、結構不思議な感じがするんですよね。
まいこ:太いマジックで縁取りしたような服を着てますね。
つあお:西洋の絵と違って日本の絵にはたいてい輪郭線があるから、線そのものの存在は普通なんですけど、その線がちょっとだけ太めで割と均一で薄い灰色なのが絶妙な存在感を表している。
まいこ:だるまさんをよく見ると、口の周りのひげだけが濃い! そして困ったような目をして壁のほうを向いていますね!
つあお:そうなんですよ。人が訪ねてきたのに壁のほうを向きっ放し。見ようともしていない。9年間壁に向かって修行している最中だから、安易には振り向けないんでしょうけど。
まいこ:訪ねてきた男性も、だるまさんと同じような目をしてる!
つあお:その男性の手首、何となく変だと思いませんか。
まいこ:ちょっとロボットみたい。
つあお:とりあえず、この人は手首を自分で切り落として、だるまさんに見せているらしいんです。
まいこ:うわぁ! なんでそんなことをしたんですか!!
つあお:だるまさんは、禅宗の始祖とされているとっても偉いお坊さんなんです。で、左の人物は、どうしてもだるまさんの弟子になりたいとお願いに行ったけど断られてしまったので、決意のほどを見せるために切り落としたらしい!
まいこ:そこまでして!! すごいですね! でも淡々としていて血も吹き出てないし、顔も痛そうじゃないのがまたすごい !!
つあお:そんなことをされたら、やっぱりだるまさんは、困っちゃいますよね。
まいこ:ところで、この絵はなぜ次々に折られているんでしょう?
つあお:だるまさんは、この弟子入りしたい人のことをまるで無視しているように見えるんだけど、実は心の目でしっかり見ていたことがわかるなんてことを、福田美蘭さんは左から2枚目の絵で表現しているように見えます。
まいこ:へぇ。1枚の絵だと知識がないと分からないことを、前後がわかる紙芝居のように展開してくれるところがとっても面白い!
つあお:しかもね、すごく自由に折りまくってる!
まいこ:こうやってずらして折ることをよく思いついたものだと思います。だるまさんのお尻と膝の部分が岩にぴったりはまって鼻になってる!
つあお:私は、この鼻の描写、すごく素敵だと思うんですよ。おしりが鼻であることを見つけたなんて、ホント天才だなぁ。
まいこ:この図像認知力は、むしろ数学者みたい!
つあお:この絵を見たら、だるまさんも転んじゃいそう!
まいこ:ははは! 次の折り方で、また表情が変わってる。
つあお:そう、これを4つの場面に展開するという発想自体が素晴らしいですよね。
まいこ:最後の1枚は形も面白いけど、オチもバッチリ表現されてます。
つあお:これだけ遊んでるのに、福田さんはだるまさんの物語の本質をバッチリ表現している。福田さんもすごいんだけど、実はやっぱり雪舟も背景にだるまさんの思想を描き込んでいたんだろうとも思うんですよ。無意識かもしれないのだけど。
まいこ:雪舟の無意識の部分も含めて、折り紙形式で私たちにストーリーをきっちり刻んでくれて、福田さんナイス!
真っ赤な市川團十郎の大迫力
つあお:この大迫力の絵は何だろう?
まいこ:市川海老蔵が市川團十郎を襲名したときの口上の場面を描いているみたいですよ?! 眼力といいポーズといい、ホント大迫力です。しかも赤い!
つあお:何だか知らないけど、大爆発してる!
まいこ:岩も粉々に飛び散るほどのエネルギー!
つあお:東京オリンピックの開会式で選手団が入場したときのプラカードで変に話題になってた漫画の集中線みたいなのが使われていたりしますね。
まいこ:そう聞くと、漫画の吹き出しみたいなのがある! 中にコロナウイルスみたいなのが描かれてますよ!
つあお:すばらしい気づきだなぁ。吹き出しの中には普通は言葉が入るのに、コロナの絵とは! なんて斬新なんだろう。
まいこ:岩石もろともコロナウイルスを吹き飛ばして、しかも目から出ているビームで破壊しているような! 海老蔵がんばれ!!
つあお:こんなに強い歌舞伎役者がいたら素晴らしいなぁ。江戸時代の朱書きの鍾馗様は疱瘡(ほうそう)除けだったそうですが、この海老蔵さんはコロナ除けになりそう!
まいこ:しかも端正な顔をしてるので飾りがいがあります(ハートマーク)。
つあお:まいこさん変身してみたらどう?
まいこ:えっ! 海老蔵さんにあやかれるの?
つあお:やっぱり日本美術は素晴らしい。
まいこ:この目のお面持って帰って、たまにつけて厄除けします。
つあお:こうやって見ると、やっぱり漫画の源流は日本美術にあるんだなぁと思う。
まいこ:ホントですね。映像のない時代に空想の世界をどうやって伝えるか、めちゃめちゃ研究した表現が冴え渡ってる。
つあお:その空想力を現代の世界に応用している福田さんもまた素敵です。
まいこ:しかも折ったり切ったり持ち帰れたり、遊びの幅が広がってて楽しいです。
つあお:遊びながら、コロナ退散じゃー。
まいこセレクト
「目からうろこ」現象が起こった一枚!
以前何かの展覧会で元ネタの曾我蕭白(そが しょうはく)の『虎渓三笑図』を見た時に、作品名に「虎」という字が入っているので目を凝らして虎を探したのに見つかりませんでした。わたしがぼーっとしているからかなと思っていたのですが、今回の展覧会で「そもそも虎は描かれていない」ということがはっきりしました!
なぜかというと、故事に基づいて描かれたこの絵には「虎」は「声」でしか登場しないからです。
千葉市美術館のウェブサイトからその故事をご紹介。
「虎渓三笑とは、廬山に住む慧遠法師を陶淵明と陸修静が訪れた帰り、慧遠法師が二人を送る途中、話に夢中になって超えないことにしていた虎渓を過ぎてしまい三人で大笑いしたという故事である。」(出典:千葉市美術館ウェブサイトの曾我蕭白『虎渓三笑図』解説)
しかも、気づいたのは虎の声が聞こえたからだといいます。当時の知識人たちはそれをよく知っていて、ニンマリしていたのですね。
そんなのわかるかー! と思って福田さんの作品を見ると…故事のあらゆる場面が異時同図法(時間の経過を伴う異なる場面を一つの画面の中に描く、日本絵画で伝統的な手法)で1枚の絵に描かれています。
3人が気づかずに橋を渡る場面、気がついて大笑いしている場面、そして、声だけしか存在していないはずの虎さんも意外な方法で絵の中に存在しています(画面の右の真ん中辺りをじっと見つめてみてください)。あ~福田さん、ありがとう!
つあおセレクト
今回は「つあおセレクト」も曾我蕭白です。
そもそも蕭白のこの屏風、もともとかなり変だと思います。蕭白にはエキセントリックな作品が結構あって、独特の迫力のあるものが多いのですが、この屏風は獅子と虎というもとから迫力のあるモチーフを描きながらも、その2頭が両方ともなぜか戸惑いのある表情を見せているのですよね。やっぱり蕭白はおもしろい。
そして、この屏風にインスピレーションを得た福田美蘭さんは、小さなチョウチョにおびえている獅子に注目。蛾が苦手な人はよくいますが、獅子ともあろうものが! って思いますよね。さらに福田さんが気づいたのは、屏風を閉じるとチョウチョが獅子のホントに近くに来てしまうということ。閉じてしまうと、屏風を眺めている人には見えなくなるのだけど、獅子はホントにおびえていそう! 見えないものを見るって楽しいですね!
つあおのラクガキ
浮世離れマスターズは、Gyoemon(つあおの雅号)が作品からインスピレーションを得たラクガキを載せることで、さらなる浮世離れを図っております。
「だるまさんが転んだ」という遊びはどうやって生まれたのでしょうか。ラクガキで起源を探ってみました。
展覧会基本情報
展覧会名:福田美蘭展 千葉市美コレクション遊覧
会場名:千葉市美術館(千葉市中央区)
会期:2021年10月2日〜 12月19日
公式ウェブサイト:https://www.ccma-net.jp/exhibitions/special/21-10-2-12-19/