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2022.02.21

広々キッズスペースも完備!リニューアルした滋賀県立美術館は、アートへのはじめの一歩にぴったり

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小さなお子さんを持つ保護者が外出する時、授乳のためのスペースは完備されているか? これは、かなり重要ではないでしょうか? また、おむつを交換するスペースはあるのか、幼児用のトイレはあるのか? 目的地の状況をリサーチしてから出かけると思います。リニューアルされた滋賀県立美術館では、これらの対応がバッチリ! これは、子連れファミリーには嬉しいですね! 

ディレクター(館長)の保坂健二朗さんは、多くの人にアートに触れて欲しいと話します。バージョンアップされた美術館の魅力をご紹介します!

撮影:大竹央祐

広々としたキッズスペースに感激!

令和3(2021)年6月に滋賀県立近代美術館がリ二ューアルし、『滋賀県立美術館』としてオープンしました。保坂さんは、「みんなに優しく、使いやすい美術館と思ってもらいたい」と、抱負を語ります。

その思いを形にしたのが、新たに設けられたキッズスペースです。プレイマットは、靴を脱いで上がるようになっていて、くつろげます。今後は、絵本やおもちゃなども置かれる予定だとか。どこからでも見渡せるようにベンチを配置しているので、保護者は子どもが遊んでいる様子を、安心して見ていられます。

「この場所は元々はレストランだったのですが、2階なのもあって、ご利用が少なかったので、全スペースを使ってキッズスペースにしました。展示の場所からは離れているので、子どもたちが声を出しても問題ないですし、自由に使ってもらいたいですね」

キッズスペース内にはファミリールームがあり、広いので利用しやすそうです。授乳室は個室型で3室あり、プライバシーが守られる設計になっています。元はキッチンだった場所で、浄水機能付きの給湯器も完備。粉ミルクを溶かすためのお湯を持参しなくていいので、助かりますね。おむつ替えのためのスペースもあります。このキッズルームの近くにあるトイレには、幼児用便器も設置されていました。置くタイプのトイレットペーパーホルダーが、子どもの手の届く位置で、象さんの形なのが微笑ましいです。

イメージはリビングルーム

エントランス部分も、照明やソファーなどを新しくして、居心地の良い空間に変わりました。天井が高くて、窓ガラスが大きいので、開放感があります。「この美術館は、びわこ文化公園の文化ゾーンにあります。公園へ遊びに来た人たちも、気軽に入ってきてもらえるように、くつろげるリビングルームをイメージしました」

「このビーンズ型のソファーは子どもたちに人気で、寝そべったりして、リラックスして使ってくれてますね」と、保坂さん。このソファーに夫婦が腰掛けて、ガラス越しに見える現代アートのオブジエを楽しむ光景も見られるとか。

柱の照明は、信楽焼による陶製の素材が使われていて、温かみのある印象を受けます。エントランスには、テーブルと椅子があって、入場無料、飲食物の持ち込みもOK。カフェスペースとミュージアムショップも設置されていて、誰もが気軽に入ってリラックスできる空間です。

「ヨーロッパのミュージアムでは、併設されているカフェが地元の人たちの憩いの場所になっていることが、よくあります。この場所を気に入って使ってもらって、何度か来るうちに、展示も見てみようかと思ってもらえたら嬉しいですね」

美術館を好きになってもらいたい

「小学生の頃に、公園の中にある美術館へ行ったのが、アートとの出合いです。その場所が楽しいと思えたのが大きいです。同じように、子どもたちに美術館を好きになってもらいたいですね。こうして、似た環境の美術館のディレクターになったのも縁だと思っています」

撮影:大竹央祐

屋外にはさまざまな現代アート作品があるので、それを眺めるのも、アートへの入り口となりそうです。

「これは、何を表していると思いますか?」と保坂さん。「うーん、昆虫でしょうか?」。答えは、大外れだったのですが、別に正解しなくても、好きに想像しながら楽しんでいいそうです。こんな風に親子で会話するのもいいかもしれませんね。

ちなみに、この作品の作者はアメリカの現代美術家、アレクサンダー・コールダーで、タイトルは、『フラミンゴ』。フラミンゴの一瞬の動作を表しているんだそうです。

井上裕加里『こうさするこうえん』2021年

あれ、遊具がある! と思って、じっくり見ると……。二か所あるはしごから高台に上がると、滑る斜面はつながっている? ブランコもつながった不思議な形をしています。コミュニケーションを取らなければ遊べない、かかわり合いをテーマにした『こうさするこうえん』というタイトルのアート作品でした。これもアートなんですね! 面白いです。

えっ無料で見られる?驚きの試み

「アートに触れて欲しい」と話す保坂さんは、展示を無料で公開する試みを、リニューアル後に始めました。「ニューヨークの近代美術館『MoMA(モマ)』で、金曜日の夕方から入場料無料なのが知られていますが、日本でもいくつか試みている美術館があります。まだまだ一般には広く知られていないのですが」。美術館で、展示が無料で見られるなんて、全く想像していなかったので、驚きです。

滋賀県立美術館では、令和4(2022)年3月27日まで毎週日曜日、常設展示が無料で見られます。これは株式会社『木の家専門店谷口工務店』が、理念に共感して、寄付したことで実現したのだそうです。

「例えば、子どもを連れて観覧に来られた場合、交代で見たとしても、30分ぐらいが限界だと思うんですね。そうすると、入場料というのは、やはりネックになるんじゃないかと。でも、無料なら見てみようという気になるじゃないですか。一緒に子どもさんも見て、わからなくても、何か感じてくれるかもしれないし。それで、なんだ意外と面白いなぁと思ったら、次につながると思うんですね。美術館に来てもらおうと思うと、無料化は効果が大きいんです」

保坂さんの狙いは的中して、子ども連れが多数、この日曜日の無料観覧を利用してアートに触れているそうです。

アートを理解する糸口となる対話型鑑賞とは

アートに熱い思いを寄せる保坂さんに、超初心者の質問をぶつけてみました。「どうしたら、アートってわかりますか?」。「そうですね。最近の美術館でよく行われているのが、対話型鑑賞です。この方法は、理解を深める手助けになると思いますよ」。対話型鑑賞? 初めて聞く言葉です。どういった方法なんでしょう? 

「例えば、これは海外の美術館で行った例ですが、子どもたちに抽象画を鑑賞させて質問するんですね。『これは何を表していると思いますか? きれいだと思いますか? 怖いと思いますか?』そうすると、様々な答えが返ってきます。一度この体験をすると、友人同士でも、お互いに対話をして理解を深める鑑賞をするようになります」

何となく美術館というのは、静かに黙って見るイメージだったので、目からうろこです。「慣れると、ああ、こうやって見ていいんだと思うようになりますよ。1つの絵でも人によって、気になるところは違うし、感じ方だって違うわけです」。自由に感じながら楽しんでいいと思うと、アートへの第一歩が踏み出しやすくなりそうです!

この対話型鑑賞の手助けとなるワークショップのボランティアスタッフを、募る計画も進行中だとか。「ワークショップを円滑に進めるスキルを身につけてもらって、サポートをお願いしたいと思っています。ボランティアで参加してくれる人にとっても、新しい体験になればいいですね」

地元ゆかりの作家の展示や、現代アートが楽しめる

ちょうど取材時に開かれていた常設展を見学しました。郷土ゆかりの作家が手掛けた風俗画や風景画が展示されていて、当時の様子が絵画から伝わる興味深い内容です。作品の下には対話形式になったキャプションが付けられていて、祖父母と孫や、親子でコミュニケーションを取りながら楽しんもらえるようにとの工夫がされていました。

大津市生まれの女性画家で、105歳で亡くなるまで第一線で活躍した小倉遊亀(おぐらゆき)の展示コーナーもあり、こちらは随時見ることができます。滋賀県立美術館は、国内でも最大規模の約60点の遊亀作品を所蔵しています。子どもの頃にカラー写真の美術の本で見て、よくわからないながらも、心惹かれた本物の作品と対面することができて感激しました。知人の娘さんたちをモデルにして描いたという『姉妹』。お下げ髪とおかっぱの少女が、共に折り紙で遊ぶ姿を描いた、微笑ましい温かみのある作品です。

コレクションは他にも、誰もが一度は見たことがあると思われる、日本画家・安田靫彦(やすだゆきひこ)の『飛鳥の春の額田王』や、近江八幡市出身の志村ふくみの染織作品などがあります。また1960年から70年代のアメリカの著名な現代アート作品も、数多く所蔵しているそうです。保坂さん自ら企画の展覧会も、令和4(2022)年3月27日まで開催しています。これは楽しみですね。是非、自然に囲まれた滋賀県立美術館を、気軽に訪れてみて下さい。

「人間の才能 生みだすことと生きること」

会期:2022年1月22日(土)〜3月27日(日)
休館日:毎週月曜日(祝日の場合は開館し、翌平日が休館)
観覧料:一般1,300円、高・大生900円、小・中生700円
※身体障害者手帳等をお持ちの方は無料
企画展情報

滋賀県立美術館

住所:滋賀県大津市瀬田南大萱町1740-1
開館時間:9時半~17時(入館は16時半まで)
休館日:毎週月曜日(祝日の場合は開館し、翌平日が休館)、年末年始、施設点検や展示入替のための臨時休館有り。
公式ウェブサイトhttps://www.shigamuseum.jp/

書いた人

幼い頃より舞台芸術に親しみながら育つ。一時勘違いして舞台女優を目指すが、挫折。育児雑誌や外国人向け雑誌、古民家保存雑誌などに参加。能、狂言、文楽、歌舞伎、上方落語をこよなく愛す。ずっと浮世離れしていると言われ続けていて、多分一生直らないと諦めている。