この秋、大混雑必至と言われている話題の美術展がふたつあります。ひとつは、2018年10月5日から東京・上野の森美術館でスタートする「フェルメール展」。西洋絵画の中でも日本人に屈指の人気を誇り、全世界に35点しか存在しないフェルメール作品のうち、史上最大となる9点の作品が東京へ集結する、話題の展覧会です。
そして、もうひとつが今回紹介させていただく、京都国立博物館の特別展「京のかたな」です。ここ数年、人気オンラインゲーム「刀剣乱舞-ONLINE-」の効果によって、全国各地の美術館・博物館で開催される刀剣展や刀剣の企画展示には、若い女性を中心に熱心なファンが殺到。「刀剣乱舞-ONLINE-」に登場する刀剣展示のガラスケースの前には長蛇の列ができることも珍しくありません。
そんな追い風を受けて、今回開催された特別展「京のかたな」は、展示規模、話題性などどれをとっても、公立博物館・美術館で開催される刀剣展としては過去最大の刀剣展となりました。本稿では、その展示の魅力や見どころ、オススメの鑑賞法をご紹介します。
遠征しても見ておきたい! 京のかたな展の見どころとは?
今回の特別展「京のかたな」は開催初日から大混雑するなど、日本各地から熱心な刀剣ファンで賑わっています。それもそのはず。本展には、絶対見逃せない「見どころ」があるのです。
まずは、その別格とも言える展示規模です。平安時代から現代に至るまで、都が置かれた京都では、有力な鍛冶職人達が工房を構え、時代に応じた名刀が数多く生み出されてきました。本展では、現存する京都=山城系鍛冶の生み出した名刀を中心に、前後期に分かれて展示される出展点数は、絵画や歴史資料などを含め、国宝21件(刀剣19件、その他2件)、重要文化財71件を含む全200件! 全国各地の美術館・博物館から名品中の名品が集結した、空前絶後の展示規模なのです。
また、公立博物館における初公開作品も多数含まれています。刀剣類では、古くから大切に守り継がれてきた祇園祭・長刀鉾町所蔵の長刀や、名工・来国俊の手によって制作された現存する日本最古となる鑓(やり)が初公開されるなど、見逃せない作品が多数。また、重要文化財「光徳刀絵図」付属の新発見文書など、歴史資料からも新展示が続々登場しています。
もちろん、歴史に残る名品も多数出展。たとえば、「天下五剣」と名高い国宝「三日月宗近」。京都三条の名工・宗近が手がけた平安古刀における屈指の名作とされます。刃文と地金(黒い部分)の境目に無数の「三日月状」の文様(打のけ)が浮かび上がる様が、特別な展示ケースでじっくりチェックできます!
さらに見逃せないのが、公立博物館での展覧会としては異例なほど大胆にフィーチャーされた人気オンラインゲーム「刀剣乱舞-ONLINE-」とのタイアップです。展覧会に出品される刀剣類からは、「三日月宗近」「鳴狐」「鯰尾藤四郎」など、人気上位の刀剣を含めて実に23振が、「刀剣乱舞-ONLINE-」で登場するキャラクターに対応しています。ゲームで登場する主要キャラクターは、滅多に観ることができない国宝級の名剣ばかりなので、これだけまとめて「実物」を楽しめる展覧会はまずこれまでなかったのではないでしょうか?
また、音声ガイドでは、俳優・伊武雅刀が担当した通常版の音声ガイドに加え、「刀剣乱舞-ONLINE-」から「三日月宗近」(cv:鳥海浩輔)、「五虎退」(cv:粕谷雄太)、「膝丸」(cv:岡本信彦)、「千子村正」(cv:諏訪部順一)と、4人のキャラクターが解説してくれる特別版が登場。ちょっとした寸劇も交えつつ、刀剣の魅力をたっぷり味わえるファン必聴の音声ガイドといえそう。また、第二会場として、最近の特別展では珍しく本館(明治古都館)を開放。こちらでは、タイアップされたキャラクター20人の記念写真用等身大パネルと新作イラストが容易された写真撮影コーナーと、展覧会限定コラボグッズを販売する特設売り場が用意されています。こちらは写真撮影・SNSへの投稿OKです。
専門知識がなくても「京のかたな展」を楽しめるオススメの鑑賞法とは?
ところで、「刀剣」に対して苦手意識がある人って結構いらっしゃるのではないでしょうか? じつはつい最近まで私自身「刀剣ってどれ見ても同じだよね」と思い込んでいたのですが、粘り強く展覧会に通ううちに、鑑賞のコツが少しずつわかってきました。まだまだ筆者自身も刀剣ファンとしては駆け出しみたいなものですが、「どう鑑賞すればいいのかわからない!」とお悩みの方にヒントになるようなオススメの「刀剣鑑賞法」を4つご紹介したいと思います。
オススメ鑑賞法1:たくさんの作品の中から、好みの刀剣を探してみよう!
まず「刀剣鑑賞法」としてオススメしたいのが、「自分の好みの刀剣を見つける」こと。アートブロガーの草分け的存在である青い日記帳・Takさんが最近上梓された新書「いちばんやさしい美術鑑賞」(筑摩書房・刊)でも「絵画に比べその背景を深く読み解かなくてもよいのが工芸品鑑賞の気楽な点です」と書かれている通り、工芸作品は、自分の好みで鑑賞してOKなのです。作品中に込められた寓意やシンボル、歴史的な背景を読み解かなければ楽しめない作品も多い絵画作品と違い、刀剣のような工芸作品は、立体的で見た目の好みが出やすいですし、作品鑑賞の事前知識がなくても、見たままの姿かたちを愛でるだけでも鑑賞が成り立つからです。何より、まずは難しい解釈は横に置いて、自分の好き嫌いで鑑賞すると、肩の力が抜けて面白く観ることができますよね。
特に今回のような最高レベルの大規模展では、展示アイテムのクオリティは保証済み。であれば、あとは安心して思う存分時間をかけて、自分の好みを見つけることに集中してOKです。作品を見比べながら、「どの刀剣が自分の好みかな」と気軽に見ていきましょう!
オススメ鑑賞法2:刀剣の各パーツに着目してじっくり比較鑑賞してみよう!
引用:「週刊ニッポンの国宝100 国宝刀剣 ザ・極み P24-25」(小学館・刊)
好みの刀剣を見つける時は、漠然と全体の雰囲気やかたちを見ていくのも良いのですが、あるひとつの部分やパーツに着目して見比べると、自分の好みがハッキリ認識しやすいです。たとえば、今回私は徹底的に「刃文」にこだわって鑑賞してみました。
同じ京都・山城鍛冶の手による作品でも、「直刃」(すぐは)「丁子」(ちょうじ)「互の目」(ぐのめ)など、時代や刀工・流派によって表現方法は様々あり、一振り一振り、全部刃文が異なるのですよね。刀剣の奥深さを知ることができました。
たとえば、こちらを見て下さい。物凄く個性的な刃文ですよね。通常は刀身の先端部である「刃部」のみに焼入れがされますが、本作は、刀身全体に焼入れがなされることによりこのような皆焼刃(ひたつらば)と呼ばれるような刃文が生まれます。このように各パーツにフォーカスして見ていくことで、各作品の個性がはっきり感じ取れるようになってきます。是非お試し下さい。
オススメ鑑賞法3:名剣に秘められた歴史ロマンを味わいながら観る!
ひとつひとつの刀剣の来歴やエピソードを音声ガイドや解説パネルで丁寧に見ていくのも、名剣鑑賞のポイントです。作品に纏わる有名なエピソードと一緒に鑑賞することで、思い入れのある作品が見つけやすくなります。特に今回展示されている刀剣作品は、由緒正しい名剣ばかりですので、歴代の保有者も歴史に名を残す戦国武将や皇族などがズラリ。バックストーリーも豊富に用意されているのです。
たとえば、前期展示で展示される「宗三左文字」などは、豪華な歴代所有者で知られます。三好宗三→武田信虎→今川義元→織田信長→豊臣秀吉→豊臣秀頼→徳川家康→明治天皇へと受け継がれるなど、時の権力者の下で愛蔵されてきました。
また、こちらの「膝丸」は、源義経の愛刀で、「平家物語」にも登場する歴史上有名な名刀とされます。「筑前国三笠郡の出山というところに住む唐国の鉄細工」が源満仲の命を受け制作し、罪人を試し切りした際、膝まで切れるほど凄まじい切れ味だったという伝説から、「膝丸」という名がつけられました。
今回出展されている名刀の中にはこのように歴史ロマンあふれるエピソードを含んだ作品が多数出展されています。数百年の歴史を持つ名刀のストーリーを是非楽しみながら鑑賞してください。
オススメ鑑賞法4:「刀剣乱舞」の世界観に浸ってみる!
刀剣乱舞の熱狂的なファンである「刀剣女子」の人たちに話を聞いてみると、刀剣に関しては、ベテランのアートファンを遥かに上回る、驚くほど深い知識と鑑賞眼を持っている人が多いことに驚かされます。
ゲームでは、刀剣そのものというより、各刀剣の付喪神として表現された多数の「美男子」キャラクターが登場します。各キャラクターの容姿や性格、能力値やサイドストーリーには、それぞれの刀剣に関連する来歴やエピソードが設定されているので、ゲームを深くプレイすればするほど、自然に刀剣や歴史に関する教養が身についてくるのがこのゲームの良いところ。
「刀剣女子」たちは、こうして自分たちの好きな各キャラクターのイメージを通して美術館・博物館で実物を観ることによって、イマジネーションを膨らませて「刀剣乱舞-ONLINE-」の世界観と合わせて自由に刀剣鑑賞を楽しんでいるのですね。
最近の「刀剣乱舞」はゲームだけではありません。先行するゲームで確立された設定や世界観をベースに、マンガ、アニメ、ノベライズ作品、舞台、実写映画、ファンによる動画や同人誌などによる二次作品とメディアミックスが進行。色々な楽しみ方が用意されているのです。
私は飽きっぽい性格なので、オンラインゲームにはやや抵抗があるのですが、アニメやマンガは大好きです。そこで、今回の展覧会に合わせ、Kindleでマンガ「活劇 刀剣乱舞」を見たり、Netflixでアニメ「刀剣乱舞-花丸-」で初めて「刀剣乱舞」の世界に触れてみたのですが、結構面白かったです! ちょくちょく各刀剣に関する歴史的なエピソードも紹介してくれるので勉強にもなりますし、スーッと刀剣に関する知識が頭に入ってくる感じがいいのですよね。
正統派の解説書や入門書を読んでもピンとこなかった方は、是非このようなメディアから刀剣の世界を味わってみてはいかがでしょうか?
刀剣の面白さが体感できる「京のかたな」展、是非お楽しみに!
京都国立博物館創立120年の中で、刀剣の特別展としては初めてとなる特別展「京のかたな」。出展規模、クオリティともに日本最高峰の展覧会となりました。様々な楽しみ方が用意されている今回の展覧会は、遠征しても観に行く価値がある素晴らしい展示が用意されています。芸術の秋を、是非京都観光とセットで楽しんでみてくださいね。
特別展「京のかたな 匠のわざと雅のこころ」
会期 2018年9月29日~11月25日
会場 京都国立博物館
文・撮影/齋藤久嗣
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