シリーズ「ひんやり! つるん! 水ようかんの名店」でご紹介する東西7軒は、手づくりの生菓子を中心に商いをしている店。今回は「塩芳軒(しおよしけん)」をご紹介します。
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笹の青い香りが蒸し暑い京都に涼を呼ぶ
塩芳軒の「笹水羊羹」
夏ならではの風情を愛でるのも、日本で生まれた涼菓の楽しみ。こと水ようかんは、東京では桜の葉が、京都では竹や笹が好相性とされてきました。笹で包む水ようかんはあっても、たっぷりと一枚の葉を贅沢に使うのは、この店独特の演出。一文字に留められた黒文字と伸びやかな笹の対比が美しい。凜とした水ようかんの姿は、西陣に明治15(1882)年から長のれんを掲げてきた風格ある店のたたずまいと重なります。
さて「笹水羊羹」には、この店ならではの味が隠されています。それは、あんに配された「和三盆」。まろやかな甘み、独特の香りをまとったあんがひんやりとのどを伝うのは格別です。「和三盆の風味、口どけを好んだのは私の祖父です」と5代目主人・高家啓太(たかやけいた)さん。「その特徴を生かしたお菓子を考案することに励み、早い時期から和三盆だけでできた干菓子もつくるようになりました」。旧来より上菓子、特に干菓子で知られてきた塩芳軒。菓子づくりには、和三盆、上白糖、糖蜜ほか10種類ほどの糖を使い分けます。「和三盆を水ようかんに使うには注意が必要です。加える瞬間の見極めが難しい」そうですが、味わうほうには風味絶佳の記憶だけが残ります。