2019年2月22日に東京国立近代美術館 工芸館で「The 備前-土と炎から生まれる造形美-」が開幕しました。備前焼にスポットを当てた展覧会は数十年ぶり。桃山時代から現代まで、約520年にもわたる備前焼の歴史を見ていくことができます。人間国宝に認定されている作家の作品を多数出品という、贅沢な展示…! 陶芸ファンはもちろん、「備前焼ってよくわからないな〜」という初心者の方でも楽しむことができます。
今、備前焼が世界で注目されはじめている!
近年、「薪窯」や「焼き締め」を取り上げたイベントや展覧会が、アメリカやヨーロッパで開催されています。薪、焼き締めといえば備前焼! その魅力がじわじわと世界に広がりつつあるのです。
今回の「The 備前-土と炎から生まれる造形美-」は、国内では久々の備前焼に関する展覧会。先日、備前焼の窯元に取材に行き、その魅力にふれたてホヤホヤの焼き物初心者きむらが、展覧会の様子をレポートします!
えっ! これが備前焼!?
早速ですが今回の展示のなかで、私が衝撃を受けた作品を紹介します。
▲ハート柄の備前焼なんてみたことない…!(伊勢崎淳「角花生」平成20年 岡山県立美術館)
▲じっと眺めていると不安な気持ちになってくる不思議な球体(金重晃介「誕生(王妃)平成12年」)
▲かわいいスズメの集団も!(島村光「群雀」平成14年)
▲そしてジブリに出てきそうな謎の物体(金重晃介「備前花器 海から」平成11年 東京国立近代美術館)
どれも備前焼の概念を抜け出したユニークな造形。もともと備前焼に対して「渋いな〜」というイメージを持っていた私は、これらの作品を前に驚きを隠せませんでした。掲載した作品は、現代の陶芸作家たちがつくり出したもの。釉薬を使わず土と炎と造形によって生み出される備前焼は、日用品として重宝されてきましたが、長い歴史のなかで少しずつ進化し、ここまでたどりついたのです。
桃山時代の作品がずらり
さて、さきほどご紹介した作品ですが、実は第3章に展示されていたもの。あまりに衝撃的だったので、先走ってご紹介してしまいました。今回の展覧会では、前述にもあげた通り、桃山時代から続く備前焼の歴史を順を追って見ていくことができる展示になっています。もちろん第1章には、桃山時代の作品が並んでいました。
茶人たちに愛された備前焼
桃山時代、備前焼は茶の湯のうつわを多く制作していました。茶碗や茶入れなど、土と炎から生まれる独特な美しさから、多くの茶人に愛されていたのです。
展示室に並ぶ「花入」
これで擦れるの…? すり鉢を完成させたのは備前焼
ゴマやとろろ、離乳食などをするために、現代でも日用品として使用されているすり鉢。桃山時代、食材をするための鉢は生活していくための必需品でした。
「擂鉢」桃山時代 人間国宝美術館蔵
もともとは鎌倉時代に禅僧によって日本にやってきたすり鉢ですが、内側に条溝(細かい溝)を付けて元来の形を確立させたのは備前焼。調理を担う台所器具のため、使用頻度が高く丈夫なものが求められました。高温で長時間焼き締めるため、投げても割れないといわれるほど頑丈な備前焼は、すり鉢にうってつけだったのです。
人間国宝が持ち帰った壺
今回の展覧会にも作品を出品している藤原啓は、1970年に人間国宝に認定された陶芸家です。波のような模様が特徴的なこの壺は、16世紀の作。藤原啓が旅先で見つけてそのまま持ち帰ったというエピソードが残っています。
「櫛目波状文壺」室町時代 人間国宝美術館蔵
桃山から繋がる近代の備前焼
人間国宝たちの作品が勢ぞろい
第2章には、はじめて備前焼で人間国宝(重要無形文化財保持者)に認定された金重陶陽をはじめ、藤原啓、山本陶秀ら近代作家計6人の作品が展示されています。
第2章 展示室
展示室には人間国宝に認定された作家の優品がずらり。陶芸好きにはたまらないラインナップです。
桃山時代の作品に影響を受けた
第1章から2章にかけて順に作品を見ていくと、近代の作家がいかに桃山時代の茶の湯のうつわに魅力を感じていたかがわかります。桃山時代の茶入れや茶碗などをうつして技術を習得し、その後自分のつくりたいものをつくっていく。桃山の作品から何を得て、何を表現しようとしていたのかがわかります。
左/桃山時代の花入れ(「三角花入」) 右/近代作家・金重陶陽の花入れ(「三角擂座花入」昭和28-29年ごろ 岡山県立美術館)
この不思議な円盤はなんだ?
第2章の展示室のなかで、不思議な円盤を発見しました。
第2章 展示室
これは、作品を焼く際に、効率よく大量に窯にいれられるように使われた「陶板(とうばん)」と呼ばれる窯道具です。模様のような丸は、壺や茶碗など作品が置かれていた跡。備前焼きは、1年に数回しか火入れをしないので、1回の火入れでできるだけたくさん窯詰めができるように、さまざまな工夫がなされていました。
作品同士を組み合わせて焼く場合もあったので、平鉢や手鉢など平たいものには、別の作品が乗せられていた跡が残るものが多くあります。これらは、実際に展示室で探してみてください!
新しい備前焼のかたち
第3章に展示されているのは、冒頭にご紹介したような現代作家による備前焼。「備前焼とは何か」を常に意識しつつ、新しい素材やユニークな造形を生み出し、新しい備前焼に挑戦しています。
備前焼の素材は、主に田んぼの下から採土する「田泥」。年々農地面積が減少している現代では、この「田泥」がどんどん少なくなってきています。そのため、素材を大切にしている現代作家・隠崎隆一さんは、今までは捨てられていた「屑土」といわれる土を数十種類集め素材として使用するなど、新しい試みを行っています。
「混淆白泥壺」平成28年
↑は、隠崎隆一さんの作品。屑土でつくられた本体の上に、クリーム色の粘土を貼っています。土のイメージとはかけ離れた白い備前焼。今回の展覧会で私が衝撃をうけた作品のひとつです。
第3章では、日用品としてはもちろん、アート作品としての顔を持ち始めた備前焼が、今後どのように進化していくかを考えることができます。
東京国立近代美術館 工芸館では最後の陶芸展
今回の特別展「The 備前-土と炎から生まれる造形美-」の会場となる東京国立近代美術館 工芸館は、2020年夏に金沢に移転してしまいます。そのため、この場所で行われる陶芸展は今回が最後。とても貴重な機会なので、ぜひ足を運んでみてください。
「The 備前-土と炎から生まれる造形美-」
会期 2019年2月22日〜5月6日
会場 東京都国立近代美術館 工芸館
開館時間 10:00〜17:00
休館日 月曜日
観覧料 一般900円(600円)/大学生500円(350円)/高校生300円(200円)
無料観覧日 2月24日
※天皇陛下御在位30年を記念して入館無料
公式サイト