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竹本織太夫 大阪・法善寺で有吉佐和子『一の糸』との深い縁を語る【文楽のすゝめ 四季オリオリ】第6回
法善寺横丁は、馴染み深い場所
法善寺横丁とは、法善寺の北側にある路地のことを指します。ミナミの繁華街にありながら、静かな情緒が漂う場所です。東西両端にある門には「法善寺横丁」の文字が掲げられていますが、西は藤山寛美※1東は三代目桂春団治※2が揮毫(きごう)したものです。「この善の文字を見てください。何か違うのがわかりますか?」と、織太夫さんが指し示した藤山寛美の看板の文字を見ると……。あれ、棒が1本足りない!? 『私は1本抜けた人間やから』と、あえて1画抜かして書いたとのエピソードが残っているそうです。大阪が誇る喜劇王のしゃれっ気を感じますね。
この路地の両側には、老舗の割烹やバー、お好み焼きや串カツ店などが並び、地元の人から観光客まで多くの人に親しまれています。弟で三味線弾きの鶴澤清馗さんの同級生が開いているお店もあるそうで、ふらっと気軽に立ち寄れる場所なのだそうです。
石畳に映えるセットアップのデニム
細い路地は石畳が続いているので、どこか懐かしいような風情。元々はアスファルト舗装だったのを、昭和57(1982)年に南海電車から敷石を譲り受けて、この石畳になったそうです。これを記念して、毎年8月10日、11日は法善寺境内を会場に、各店が手作りの夜店を出店し、演芸や文楽の奉納で賑わう「法善寺横丁まつり」が開催されます。
織太夫さんに路地の中央に立っていただきました。上下のデニムをすっきりと着こなしたコーデが映えますね!! 法善寺横丁は、この場所を舞台にした小説や映画、歌謡曲が誕生したことでも知られています。このショットは、映画の一場面のようではないでしょうか!?
お待ちかねの編集長の解説!!
今回も、ファッション誌を歴任してきた和樂web鈴木深編集長が解説します! 大阪の情緒溢れるスポットに合わせたコーデは、いかがでしょう? 皆様、編集長渾身の解説を、お楽しみください!!
ファッション解説・鈴木深
はい、今回はデニムの上下(いうなればこれもスーツ姿)でご登場です。
一見、街の風景に溶け込んでしまいそうなインディゴの上下は、実はいつも以上にデンジャラスな匂いをプンプンさせているのにお気づきでしょうか!?
シロウト目にはフツーのオジさん(いや、オリさん)に見せかけたデニムの上下は、デニムマニアやリーバイス・ポリス(笑)が愛してやまない、いわゆる「大戦モデル」のデニムジャケットとパンツです。
「大戦モデル」とは、第二次世界大戦下で生産されていたリーバイスのジャケットとパンツのことで、資材節約のためデザインが簡素化されているのが特徴。
ジャケットの前立てにつけられたボタンは通常より1個少ない4個で、ボタンの形も真ん中に穴の開いたドーナツ型で、ディテールはいたってシンプル。
「さすが織太夫さん、わかって着てるよね」と言って、軽~く記事をしめくくるとお思いでしょうが、そうは問屋が卸しません!
ここまでの話はデニムマニアであれば、まぁよくある話しです。
しかしですよ! 織太夫さんのド変態値がすごいのはここからなんです!
※たぶんまたまた今回も長くなると思いますので、お時間のない方は以下読み飛ばしていただいてOKです。
「大戦モデル」を着る人はそれがオリジナルアイテムであれ復刻アイテムであれ、ことさらヴィンテージ感をアピールしたがるものです。そして一度でも「大戦モデル」を着たことがある人はよく分かると思いますが、デニムジャケットのサイズ感が日本人の体に合うことは稀で、どうしても身幅があまり、中で体が泳いでしまいます。
でもオリジナル感やヴィンテージ感を重視するデニムマニアは「これこそが大戦モデルの醍醐味❤」とか思っちゃったりするわけです。
リーバイス・ポリスから見ればデニムの経年変化はリスペクトの対象で、手直しを加えたりするなんて言語道断! なわけです。
ところが!
我らの太夫の着こなしをよーく見てください。
「大戦モデル」のジャケットにしては、妙に体にフィットしていると思いませんか?
第一ボタンまでキチッと留められた首元は、まるで「ビスポークのシャツですか?」と聞きたいくらいにベストフィット。
アームホールが狭い肩まわりもコンパクトで、アームの細さも思わず「モード系ジャケットですか?」と聞きたいくらいのタイト感!
つまり…われらが太夫は「大戦モデル」のジャケットを、あろうことかなじみのテーラーに持ちこんでバラバラに解体して、自分の体にピッタリ合わせて作り直しているんです!!
もうこの時点で、いわゆるデニムマニアとは一線を画し「オリジナル感やヴィンテージ感をありがたがるより、俺の体にぴったり沿っていることの方が重要なんだよ!」と、またしても織太夫節が炸裂です。
そしてさらに!
注目すべきは、このインディゴの色合いです。
デニムマニアがありがたがるヴィンテージ感とは真逆の、ノンウォッシュかと見まごうほどのクリーンで深みのあるインディゴブルーです。
「大戦モデル」のジャケットとパンツを、あえてノンウォッシュなインディゴブルーの上下でまとめ、なおかつ第一ボタンまできちんと留める潔い着こなしはさすが!
ちなみにパンツのロールアップはきっちり1インチ(=2、5cm)で、いつもながらブーツにかかるかかからないかの絶妙な丈。
「大戦モデル」であっても、それを着こなす織太夫さんの美意識は、1ミリたりとも揺るぎません。カシミアのスーツを着こなすときもしかり。デニムの上下を着こなすときもまたしかり。
「俺だってヴィンテージの良さは大好きだよ」
「でも、古いモノをただありがたがるのはつまらないよね。何よりも譲れないのは、ジャケットもパンツも俺にベストフィットしていることなんだよ!」
「この温故知新の俺の美意識、どうせ誰もわからないでしょ」
とおっしゃっているのが、着こなしからまるで大音量で聞こえてくるようです。
取材・文/ 瓦谷登貴子