琳派の創始者が芸術村を開いた場所
アマン京都がある鷹峯地区は、江戸時代初期に琳派(りんぱ)※1の創始者・本阿弥光悦(ほんあみこうえつ)が、居を構えたことで知られています。徳川家康から与えられた敷地に、金工・陶工・蒔絵師・画家・織物職人などを呼び集め、芸術村として繁栄させました。光悦は自らの創作だけではなく、当時の総合プロデューサーのような役割を果たしていたようです。琳派は日本だけではなく、世界芸術にも影響を与えました。
光悦にオマージュをささげたおもてなしの趣向
茶会の始めに柴田厚志総支配人より「この5年の間、アマン京都らしいサービスをずっと考えてきました。今日の茶会も、皆様に楽しんでいただけるように、通常の茶会とは違うアマン京都らしい内容になっています」と挨拶がありました。
お茶室ではなく一枚板のカウンター席で、目の前で料理人が懐石料理をふるまってくれる趣向です。最初に輪島塗りの卓上盆の上に、陶器のオブジェが運ばれてきて驚きました。これは、ゲストをもてなすショープレートと呼ぶそうです。「光悦ゆかりの場所ですので、琳派をイメージしています」と、総料理長の髙木慎一朗さんが説明してくださいました。金沢の陶芸家・中村卓夫さんが手掛けたもので、曲線的な形がそれぞれ違っているのも面白いです。
髙木総料理長が目指す料理
「京都にいながらにして京都ではない料理を目指しています」と、髙木さんからまるで禅問答のようなコメントがあり、「何を召し上がっておられるか、必ずわかるお料理をご用意したい」と続けられました。
髙木さんは「京都吉兆」で修業を積んだのち、実家が経営する金沢の料亭「銭屋」に戻り二代目としてミシュラン2つ星へと導いた実力者。また世界各地から招かれて、海外のレストランとのコラボレーションを積極的に行うなど、日本料理の普及・発展に努めています。
京都で作られた食器も取り入れながら、あえて出身である金沢ゆかりの漆器や陶器を使うのも、京都にいながらにして新鮮な気分を味わってもらいたいとの思いが感じられます。
記憶に残る素材の美味しさに感動
少し肌寒い天候だったこの日に合わせるようにして出されたのは、海老芋の椀盛。絶妙の柔らかさの海老芋そのものが感じられる、驚くほどのシンプルさ。白味噌仕立ての一品で身体があたたまり、「何を食べたかがわかる料理」の言葉が、すっと腑に落ちました。
次々と運ばれるメニューの途中、箸休として出されたのは鯖寿司。器として使われていたのは、最初にショープレートとして目の前にあった、あの陶器でした。こうして料理と合わせる様子を見せるのも、アマン京都らしい演出なのでしょう。
また鯖寿司には、ブルーチーズの代表格のロックフォールが載せられていて、それを焼き海苔で包んで食べる斬新さ。生まれて初めて食べたこの組み合わせは、不思議なほど違和感がなく、心に残る一品となりました。
森の自然を忍ばせた秋スイーツ
懐石料理の最後には、秋の季節が感じられるスイーツと、お薄をいただきました。京都産紅はるかのスイートポテトは、エグゼクティブペストリーシェフの松尾浩幸さんが最後の仕上げを目の前で披露してくださり、ライブ感が味わえるのも楽しいです。
京都産の柿ムースの練り切りは、見た目も可愛らしく、上品な甘さがお薄とぴったり。アマン京都の森の庭で採れた北山杉の新芽や山椒を忍ばせたガナッシュチョコレートが入っているのが、やはり通常のお茶席とは違うところです。ほのかにアマン京都の自然が感じられる極上スイーツでした。
新感覚の「茶香」体験で和むひととき
懐石料理を堪能した後は、まさしく新しい茶会とも言えるお楽しみが待っていました。京都を拠点に茶会や座禅会などインスタレーションを通して、集団的創造を行うアートコレクティブOchill(オチル)による「茶香(ちゃこう)」体験です。
茶香とは、一体どんなものなのか? ちょっとドキドキした気分で、用意された場所へと移動しました。炭をおこして茶葉を熱し、水たばこの原理を応用した特別の水パイプで、気化された和らいだ茶味そのものを鼻腔で味わうのが茶香の仕組みと説明してくださいました。エジプトで使用されるシーシャを彷彿とさせますが、茶香は煙草の葉ではなくて茶葉を使うので、非喫煙者でも味わえる新たな嗜好体験なのだそうです。
加熱した炭を置く様子は、炭手前のようでもあり、カジュアルなお茶席といった感じです。土に戻る自然素材のパイプが、1人ずつ懐紙に挟んで手渡され、順番が回ってくると、煙が出る管の先端につけて茶香を体験するやり方です。茶席でお濃茶を同じ腕で回すのと、少し似ている気がしました。
最初、うまく煙が出せませんでしたが、何回か試すうちに少しコツがつかめました。煙を吐くと茶葉の甘みが感じられ、不思議な感覚でした。この日使用している茶葉は玉露でしたが、Ochillでは、キンモクセイを入れてみたり、酒粕やだしを入れてみたり、色々と試している最中なのだそうです。
『鷹』を連想させる遊び心
柱を見ると、縄で編まれたオブジェが掛けられているのが目につきました。これは「鷹峯茶会」の鷹にかけて、この日のために編まれたもの。鷹狩りが行われたころ、鷹と止まり木を結ぶ紐は、この独特の結び方をしていたそうです。床の間に掛けられたお軸のようにも見えて、紐から鷹をイメージさせるのが、何とも洒落ていますね。
来年の秋には、アマン京都の森の庭に、数寄屋建築の茶室が誕生するそうです。アマン京都が佇む鷹峯で採取した土を用い、土壁を塗るなどこだわりが詰まった、特別の空間となりそうです。
基本情報
アマン京都
京都府京都市北区大北山鷹峯町1番
公式ウェブサイト
https://www.aman.com/ja-jp/resorts/aman-kyoto