Culture
2024.11.19

美術館の名茶碗で抹茶が飲める!? 新潟・木村茶道美術館の熱い思いとは

この記事を書いた人

新潟県柏崎市に、とんでもない茶道美術館があるのをご存じだろうか? その名も木村茶道美術館。ガラスケースで展示されるレベルの茶道具で、抹茶を一服出してくれる美術館だ。掛け軸や釜など、ほかの道具も一級品! しかも2024年は開館40周年を記念して、とっておきの名物茶碗でお茶が飲めるという。さっそく参加してみた。
尚、聞き手はオフィスの給湯室を、国宝級の茶室に見立て抹茶をたてる「給湯流茶道(きゅうとうりゅうさどう)」。「給湯流」と表記させていただく。

「茶道具は、使わなかったら死んでしまう」熱い思いで開館し続ける美術館

給湯流茶道(以下、給湯流):美術館の所蔵品で抹茶をたてるのは、いつから始められたのですか?

夏はビーチサンダル、短パンのお客さんも茶席に招いてくれる、懐の大きい美術館だ! ※お客様のプライバシー保護のため、円で隠しております。

木村茶道美術館館長(以下、館長):初代館長が「茶道具は美術品だけども使わなかったら死んでしまう」と考えていました。その信念のもと開館から40年、ずっと茶席でお客様をもてなしています。

給湯流:どんな人がくるかわからない美術館で、名品でもてなすのは相当の勇気がいると思うのですが……?

館長:いずれ形あるものは無くなるものですし。

給湯流:かっこいい! 厳しい修行をこなしたお坊さんがいうような言葉!

茶会で使われない茶碗は”死んでいく”

館長:美術館をつくるときに当時、東京国立博物館にお勤めだった林屋晴三さんに茶道具を鑑定していただきました。私はその場にいて、先生の言葉の筆記を担当したのですよ。たくさんある茶道具を、先生は一目見ただけで「これはいつの時代のどういうもんだ」とおっしゃった。それで休憩時間に私は「なぜ一目見ただけでわかるのですか?」と誠に素朴な疑問をぶつけたわけです。

普段は木村茶道美術館の展示スペースにある茶道具。今日は「茶席にて使用中です」という熱いキャプションが出ている! これから見れるぞ

給湯流:それは熱い質問です!

館長:そうしたら先生は「とにかくいいものを見ろ、できれば触れ」と言われましたね。持ってみないと茶碗はわかりません。

給湯流:確かに……。私のような、いつも美術館でガラス越しに名品を眺めているだけの人間には耳が痛い言葉です。

館長:美術館で見る国宝もいいですが、私どもは茶道具に触れてみていただきたい。それで「こういうもんだな」とわかってもらえれば、仮に茶道具が滅したとしてもいい、と私は思っています。

給湯流:なんと暖かいお言葉……。木村茶道美術館のスピリットが少しわかった気がします。受付のスタッフのかたもフレンドリーで驚きました。木村茶道美術館で働くみなさんは、初めて来た我々のようなものにも親切で感動です!

館長:では茶席にご案内しましょう。

手のひらにフィットする、くぼみがすごい長次郎の樂茶碗

茶席が催される広間に案内してもらう。広間から見える庭もきれいだ。秋は夜間ライトアップもされるという。(詳しい情報は文末で!)

さっそく、長次郎の樂茶碗(らくぢゃわん)でお点前が始まる!

美術館は消防法により、炭でお湯を沸かすのは禁止されている。電気の風炉を使用中。

この樂茶碗の銘(※1)は「武悪(ぶあく)」。この茶碗が収まっていた箱に千利休の孫、宗旦が「武悪」と書きつけているそうだ。そ、そして、ついに目の前に「武悪」が、キターーーー!

緊張で汗ばむ手をハンカチでふきつつ、おそるおそる茶碗を持ってみると……。とてもやさしく手に吸い付く!

給湯流:この茶碗、ちょうど指が当たる部分がくぼんでいるので、グリップが効く形で持ちやすいです。

館長:「武悪」の作者として長次郎の名が挙がっていますが、実際は何人もの手で作られたといわれています。幾人もの手が入って持ちやすい形になったのでしょう。利休も立ち会って何か意見をいっていたかもしれませんね。

※1:銘…茶道具に付けられる名称。

人の手が触ることで、生き返る茶碗

館長:樂茶碗は大変壊れやすいものです。今回は、久しぶりに茶席に出すので数日前からずっと水につけました。

この日の茶席では樂家の初代長次郎、2代目の常慶、3代目の道入、3つの樂茶碗が勢ぞろいした!

給湯流:ずっと保管したり、ガラスケースで展示したりしていると乾いてしまうのですね。

館長:たくさんのお客さんが手に取ると、みなさんの手の油もついてきます。「武悪」も、今月何回か茶席に出して表情が変わってきました。

給湯流:茶碗は、人の手で触られることで元気でいられるのか! 生き物なのですね。

館長:この茶碗、もとは武者小路千家に伝わったといわれています。しかし、天明の大火(※2)で多くのものが焼けてしまいました。この茶碗は曲げ物に入っていたらしいのです。曲げ物は当時焼けてしまったのですが、なんとか茶碗は無事でした。

火事でいろいろな傷を負った「武悪」。その姿はたくましくも見える。

給湯流:火事を生き残った樂茶碗!

※2:天明の大火…天明8(1788)年におきた,京都の史上最大といわれる火災

大好きな茶道具を柏崎から東京まで、タクシーで抱きかかえて運んだこともある

そして大きな床の間には、雪舟の直弟子・周徳の山水画や高麗青磁の花入(はないれ/※3)が!

館長:この花入は、高麗青磁菊花象嵌瓶(こうらいせいじきっかぞうがんびん)と言い、13世紀のものです。少し傾いているので、片方だけに耳をつけてバランスをとっています。

給湯流:それはおもしろい!

館長:初代館長はこの花入が大好きでした。あるとき東京の茶会でこの花入を使う機会があったと。その際、初代館長は柏崎からタクシーに乗り、大事にかかえて東京まで行ったそうです。

給湯流:タクシーで! 茶道具に愛情を注ぎ、名碗を惜しみなく使ってたくさんのお客さんをもてなす。木村茶道美術館の懐の大きさに感動です。今日はありがとうございました!

※3:花入…花を入れて飾る茶道具

木村茶道美術館


開館時間
10:00~16:30

休館日
毎週月曜(祝日の場合は翌日)、12月~3月(冬期は休館)
https://sadoukan.jp/
毎年、12月~3月は休館します。2024年秋に訪れたい方はお早めに!
※開館40周年茶席は、終了しました。しかし名茶碗で抹茶がいただける茶席は引き続き開催中です。

美術館の周りは自然も豊か。今なら紅葉も楽しめます。

2024年11月24日までお庭ライトアップも開催中。
松雲山荘紅葉ライトアップ

書いた人

きゅうとうりゅう・さどう。信長や秀吉が戦場で茶会をした歴史を再現!現代の戦場、オフィス給湯室で抹茶をたてる団体、2010年発足。道後温泉ストリップ劇場、ロンドンの弁護士事務所、廃線になる駅前で茶会をしたことも。サラリーマン視点で日本文化を再構築。現在は雅楽、狂言、詩吟などの公演も行っている。ぜひ遊びにきてください!