CATEGORY

最新号紹介

2,3月号2024.12.27発売

片岡仁左衛門×坂東玉三郎 奇跡の「国宝コンビ」のすべて

閉じる

Culture

2025.01.10

フランスで独自進化するBONSAÏ文化。大規模イベントを現地リポート!

パリの東側にあるヴァンセンヌ城の森にて、「BONSAI CULTURE EXPO(盆栽文化のエキスポ)」が開催されました。フランス中から日本ツウが集う、年に1回の大イベントです。ちょっと意外なことに、パリ市内には盆栽専門店がいくつもあり、盆栽が広く浸透しています。

パリの盆栽展・BONSAÏ CULTURE EXPOとは

初めてフランスに盆栽が展示されたのは、1878年にパリで行われた第3回万国博覧会でのことでした。その後、フランスで盆栽が本格的に登場するのは1960年代になってからで、ヨーロッパ全体で大きなブームになったのは1980年代半ばだったそう。
今となっては、パリ市内には盆栽専門店がいくつもあり、一般的な園芸店でも盆栽コーナーは珍しくありません。

思いの外、歴史があるフランスでの盆栽文化ですが、2024年10月25日から3日間、パリの東側にあるヴァンセンヌ城内の「パリ花公園(Le Parc Floral de Paris)」にて、「BONSAÏ CULTURE EXPO(盆栽文化エキスポ)」が開催されました。
こちらの公園では1989年から行われている展示会で、フランス中から日本ツウが集います。

BONSAÏは世界共通語

ヴァンセンヌ城

茶道、日舞、刺し子など、ありとあらゆる日本文化に精通された方にも出会いました

盆栽アプリで100年後の所有者へ

盆栽エキスポに入ると、まず目に飛び込んで来たのが、盆栽管理に特化したアプリ「APPY BONSAI」でした。
このアプリは器や植物のサイズを記録しておくことができ、不意に素敵な器や植物に出会ったときでも、家にあるものとの組み合わせを考えることができます。また、植え替えや、展示会出品などのイベント毎に写真を撮影し、成長を残していくこともできます。
開発者のミカエル(Mickaël)さんも盆栽を育てていて、記録ができるアプリを探していたけれどなかったので自ら作ってしまったそう!

盆栽アプリ「APPY BONSAI」の開発者のミカエルさん(右端)とチームのみなさん

ミカエルさん曰く、「盆栽は誰が所有していたものか、ということでも価値が大きく変わる」そうなので、今後、所有者の変遷を証明するものとしての役割も担っていきそうです。例えば100年前の持ち主の写真を見ながら、盆栽が辿ってきた軌跡を楽しむことができるようになるかもしれません。
フランスでは所蔵するワインの在庫管理をするアプリがよく使われていますが、ワインと盆栽は長期保有することや、モノの背景にあるストーリーを所有する点が共通していそうです。
そして、このアプリは20ヵ国語対応というグローバルさ! 盆栽ファンが世界中にいることを知りました。「盆栽発祥の国である日本でも使ってもらえたら、光栄です!」と、ミカエルさん。

アプリに記録された所有する鉢の情報

フランス発の新流派「コスミックスタイル」が学べる動画教材

更に展示を進んでいくと、栽培に関しての動画教材「FETES DU BONSAI !(盆栽祭り!)」のコーナーがありました。
YouTubeで盆栽チャンネル「ALEXIS FAIT DU BONSAI(アレクシスの盆栽作り)」を配信しているアレクシー・ブーラス(Alexis Bouras)さんは、Youtubeでの動画制作で培った技術で、プロの盆栽家による教育動画を撮影、販売しています。
撮影が一年間に及んだ、春夏秋冬ごとの盆栽の手入れを記録したものが人気だそう。初心者から上級者まで幅広い層に対応していて、一番手頃なものは苔玉作りの2,99€(日本円で500円弱)。苔玉は盆栽の入門編といえそうです。

動画サイトを運営するアレクシーさん(右)と同僚の方

ここではフランス独自に発展した様式「コスミックスタイル」にも出合いました。
架空の惑星に生育する樹木の形を作り上げるという、ファンタジーなコンセプト。空間に枝を縦横無尽に広げることで、地球の重力に反する宇宙空間を表現しています。フランスでの独自進化が新鮮です。

コスミックスタイルが学べる動画教材

パリのライフスタイルに合った熱帯植物盆栽

フレデリック・マレット(Frédéric Malet)さんは、インド洋に浮かぶフランス領レユニオン島からの出展で、熱帯植物を用いた盆栽制作に取り組んでいます。フランスにある盆栽専門学校に通ったり、日本に行ったりしながら学んだといいます。
盆栽は通常、屋外で育てられ、時折、行事の際に数日間という短い期間のみ室内に飾られるものです。熱帯植物であれば室内でも育てられ、生活の中に溶け込む観葉植物になるという点で、特に庭がないパリのアパルトマンで人気だそう。
同じフランス領とはいえ、植物の移動は検疫上厳しいので、展示会用の植物は常に現地調達。このエキスポでは15個の作品を制作し、ほとんどが売れてしまっていました。

盆栽を剪定するフレデリックさん

梅印が可愛いポップな盆栽鉢

陶芸作家として活動するサビーヌ・ベナード(Sabine Besnard)さんは、盆栽鉢を制作しています。どの器にも「梅」の刻印が。
なぜ梅の刻印なのかと聞くと、「梅は春の訪れを象徴する好きな花だから」とサビーヌさん。
彼女の作品は、鮮やかな色合いとアイコニックな梅印がポップな雰囲気を生み出していて、フランスのインテリアにも調和しそうです。

梅は春の訪れを象徴する好きな花だと語る、陶芸作家のサビーヌさん

「梅」がトレードマーク

フランスの樹と日本の技法が融合する盆栽

蛍光オレンジの盆栽エキスポのスタッフジャケットを羽織った、盆栽愛好家のティエリー・クロード(Thierry Claude)さんの盆栽歴は40年以上! フランスで設立された最初の盆栽協会 A.F.A.B(フランスアマチュア盆栽協会)の会員で、出品者のひとりです。
フランス国内に自生するCerisier de Sainte lucieという桜の一種を用いつつ、日本の技法を取り入れた作品を制作しました。

盆栽を説明するティエリーさん

その技法とは、シャリミキ(sharimiki)とフランスでは呼ばれていて、更に日本語で調べると「神・舎利(ジン・シャリ)」という、枯れた木と生きた木を組み合わせる技法が見つかりました。「神」は枝、「舎利」は幹が枯れている状態のものを指します。
フランスにおいて、枯れた木は忌み嫌われているそうなのですが、「それでも日本の伝統的技法を、フランスの樹に使うという挑戦をしたかった」とティエリーさんは語ります。生と死を映し出す、色と質感の強いコントラストが個性を生み出します。

枯れた木と生きた木を組み合わせた幹の部分

多くの人に気軽に受け入れられている盆栽文化

アプリや動画教材、熱帯植物など、フランス人ならではの感性で新しい広がりを見せている盆栽文化。昔ながらの作法を尊重する人たちがいる一方で、新しいことを柔軟に取り込んでいく姿勢も感じました。
訪れている人たちの年齢層も幅広く、ベビーカーを押した家族連れや、10代、20代ぐらいの人も多く見かけ、日本文化が多くの人に気軽に受け入れられていることが嬉しかったです。

盆栽の即売所も充実
Share

ウエマツチヱ

フランスで日本人の夫と共に企業デザイナーとして働きながら、パリ生まれだけど純日本人の2児を子育て中。 本当は日本にいるんじゃないかと疑われるぐらい、日本のワイドショーネタをつかむのが速いです。 日々の仏蘭西生活研究ネタはコチラ https://note.com/uemma
おすすめの記事

ビル・ゲイツも購入した盆栽「水石」とは?盆栽界の巨匠に、その魅力や鑑賞方法を聞いてみた

矢野 詩織

傷ついた心もつなぐ。フランスで独自の進化を遂げた「Kintsugi(金継ぎ)」

ウエマツチヱ

盆栽と鉢植えって何が違うの?初めての盆栽鑑賞5つの疑問に答えます

ジャポニスムの影響はどこまで広がっていた?デンマークの近代絵画に与えた多大な影響

マリーヌ・ワグナー

人気記事ランキング

最新号紹介

2,3月号2024.12.27発売

片岡仁左衛門×坂東玉三郎 奇跡の「国宝コンビ」のすべて

※和樂本誌ならびに和樂webに関するお問い合わせはこちら
※小学館が雑誌『和樂』およびWEBサイト『和樂web』にて運営しているInstagramの公式アカウントは「@warakumagazine」のみになります。
和樂webのロゴや名称、公式アカウントの投稿を無断使用しプレゼント企画などを行っている類似アカウントがございますが、弊社とは一切関係ないのでご注意ください。
類似アカウントから不審なDM(プレゼント当選告知)などを受け取った際は、記載されたURLにはアクセスせずDM自体を削除していただくようお願いいたします。
また被害防止のため、同アカウントのブロックをお願いいたします。

関連メディア