8月17・18日に静岡県静岡市で開催された駿府城夏まつり『水祭』は、ある意味で革新的な雰囲気のサマーイベントだった。
一般的な縁日や夏祭りの出し物を想像していただきたい。焼きそば、じゃがバター、かき氷、フランクフルト、りんご飴。これらの飲食物がずらりと並んでいるが、見方を変えれば「どの祭りも同じようなもの」になってはいないか。
その土地の地域物産を使った飲食屋台があってもいい、ということだ。
幸いなことに、最近の夏祭りは「地域物産展示会」のような色合いを帯びるようになった。ただの焼きそばではなく「国内の○○産の肉を使った焼きそば」という感じで、取り扱うものの付加価値が高くなっている。
「抹茶ピンス」とは?
さて、静岡県は全国有数の茶の産地である。
静岡は茶を中心に世界が動いている。これは決して大げさな表現ではない。たとえばNHKの天気予報では、静岡県下に限って「遅霜情報」というものがある。これは茶の天敵である遅霜の予報で、茶農家はこの情報を確認してから遅霜防止の送風機を回す。
茶がなければ、今の静岡もない。が、静岡の茶産業にここ最近変化が表れている。
一言で言えば、「茶は茶として飲むだけではなくなった」ということだ。
それは此度開催された水祭でも見受けられる。会場では静岡茶を使ったかき氷の販売ブースが設置されていた。要は、地元産の茶を使ったシロップをかけるかき氷だ。
まずは静岡市所在の佐藤園が経営するカフェ『MATCHA PLACE』のブースに足を運んでみる。ここで販売されているのは『クリームチーズ抹茶ピンス』というもので、「ピンス」とは韓国式かき氷のことである。
我々がよく知っているかき氷を連想してはいけない。まず、食感が違い過ぎる。「これは本当に氷か?」と疑ってしまうようなフワフワ感で、味わいもクリームチーズをかけているだけ極めて斬新だ。シロップには抹茶を使っている。
地元テレビ局の番組で紹介されて以降、この抹茶ピンスは人気を博している。静岡市でしか食べることのできない、超希少なかき氷だ。
もうひとつ、こちらもやはり静岡市に所在する浜佐商店のかき氷を紹介しよう。
こちらは煎茶とほうじ茶のシロップを半分ずつかけた『ハーフ&ハーフ』が目玉商品だ。食べてみると、独特な甘さに気付く。精製糖のそれとはまったく違う甘さだ。我々現代人の舌はすっかり精製糖になれてしまっているから、この甘さはかなり新鮮に感じる。
その上これは茶のシロップをかけているから、べたつきがなくさっぱりしている。地球温暖化が叫ばれる現代の夏に食べるには絶好のかき氷だ。
新商品開発の流れ
ここ数年の静岡茶の「進化」が目覚ましい。
先述のように、茶は茶として飲むだけのものではなくなっている。よりバリエーション豊富な商品開発が進められるようになったのだ。しかもそれは、静岡県の条例を巡る動きとつながっているようだ。
静岡県には製茶に関する厳しい条例が存在した。緑茶への着色及び着味を原則禁止する静岡県製茶指導取締条例があったのだが、2017年7月に県はこの条例を廃止する方針を打ち出した。
が、ここで生産農家から大反対の声が巻き起こる。地元紙の静岡新聞も製茶条例の話題を連日取り上げるほどで、条例廃止が「静岡茶の品質を低下させるのでは」という懸念が市民からも相次いだのだ。
結果、製茶指導取締条例は廃止されたが、それに代わる静岡県茶葉振興条例が制定された。こちらは旨味成分の添加を従来通り規制しつつも、フレーバーで香りをつけることを容易にした内容である。
行政のこの動きは、新商品開発の重要性を関連各社に印象付けるものだった。もはや「飲むだけの茶」ではこの先の販路拡大は難しい。
「飲む茶」からの脱皮
静岡県内では、「急須を所有する家が減っている」ということが社会問題になっている。
『ちびまる子ちゃん』は1970年代の清水を舞台にした作品である。まる子の家は父母、祖父母、そして二人姉妹の家庭だが、あの当時では大して珍しくない家族構成だ。そのような家には、急須は欠かすことのできない。
ところが日本では少子高齢化が進み、1世帯の構成人数も少なくなった。さらに日々口にする飲み物もペットボトルのものが普及し、自分で茶を作る機会も減った。急須を持たない家庭が増えるのは、時代の流れとも言える。
が、それは主幹産業である製茶業の規模を縮小させてしまう事態でもある。だからこそ、「飲む茶」に代わる茶製品を開発しなければならない。そのひとつが、先述のかき氷なのだ。
茶の県内消費を巡る現状は、確かにあまりいいものではない。しかし筆者自身は割と楽観視している。苦境は時として、その苦境のお陰で乗り切ることができるからだ。