鮮烈な色彩の対比と調和、宝石の魅力を引き出す大胆なカット、唯一無比の独創的なデザイン…。ローマの名門ジュエラー「ブルガリ」が、その豊かな創造性を鮮やかに開花させ、華やかでドラマティックな独自のスタイルを確立した1950年代。その背景には、映画界との深く情熱的な関係がありました。
当時、「チネチッタ」と呼ばれるローマ郊外の映画撮影所を訪れた銀幕のスターの多くが、「ブルガリ」のジュエリーに魅了され、その名を世界へと広めたのです。
一方、あでやかなオーラをまとった女優たちも、「ブルガリ」のクリエイションに多大なインスピレーションを与えました。
今回、ご紹介するのは、そんな「ブルガリ」と映画、そして女優たちとの“蜜月”を讃える最新ハイジュエリーコレクション『チネマジア』──。息をのむほどに美しく、壮麗でいてウィットに富んだ輝きが、まさに伝説の名作映画のように、私たちを夢と驚きに満ちた世界へと誘います。
ダイヤモンド、サファイア、ルビー、エメラルド──4大宝石を主役にした羨望の輝き
ヴェネチア映画祭に集うスターを象徴した輝き
世界最古の映画祭として知られるイタリア・ヴェネチア国際映画祭。この歴史ある映画祭へのオマージュとして誕生したネックレスは、壮麗でモダンなデザインが魅力。中央のオクタゴナル(8角形)カットのブルーサファイアとまばゆいダイヤモンドは、美しい水辺の祝祭に集う華やかなスターたちを表現しています。
伝説の女優たちを神々しいまでの存在に高めたダイヤモンドの威力
1950年代の映画『紳士は金髪(ブロンド)がお好き』で、お金持ちとダイヤモンドに目がないショーガールを魅力的に演じ、「ダイヤモンドは女の親友」とセクシーに歌い上げたマリリン・モンロー。すべての女性にとってダイヤモンドは、その歌詞のとおり、親友のようにいつもそばにいてほしい存在に違いありません。
その一方で、ダイヤモンドの輝きは、女優たちにとっても力強い味方であり続けました。3度のアカデミー賞に輝き、名女優とわれたイングリッド・バーグマンでさえも、その力を借りたことがあります。
1964年公開の映画『訪れ』で、大富豪の主人公を演じたバーグマンが選んだのは、洗練されたオートクチュールドレスと「ブルガリ」のダイヤモンドジュエリーでした。目の眩むような燦めきをまとった彼女は、威厳に満ちた美しさに…。
ダイヤモンド──それは、身にまとう女性を美しく飾るだけでなく、揺るぎない自信と特別なオーラを与えてくれる、まさに神秘の力を宿す宝石なのです。
ヴェネツィアンレースのような繊細でいて大胆な華やぎ
15〜16世紀のイタリア・ヴェネツィアで生まれた、幾何学模様が特徴のヴェネツィアンレース。それに着想を得た「ブルガリ」流レース細工。繊細な美しさの追求だけに終わらず、立体的で迫力すら感じさせるデザインに。そうした華やかさの極め方に独自の美意識が宿ります。
ダイヤモンドの花々が肌に浮き立つネックレス
驚くほどしなやかで、胸元にフィットするネックレス。花々を思わせるパーツは、中央のダイヤモンドを高い位置にセッティングした立体的なつくり。肌の上にのせると光を取り込んだダイヤモンドが浮き立って見え、“光のレース”のように輝きます。
レッドカーペットに降り立つスターに捧げられた栄光を象徴する真紅のルビー
ベルリン、カンヌ、ヴェネチアで開催される世界三大国際映画祭──。
その象徴ともいえるレッドカーペットでは、毎年、映画スターだけでなく、トップモデルやミュージシャンといったセレブリティが美しさを競い、そのドレスや絢爛たるジュエリーにも人々の関心が集まります。
そんな世界が注目するシーンに、宝石の女王“ルビー”が還ってきたのは、近年のこと。アジアの紛争地域を主な産出地としてきた上質のルビーは、その数が激減し、いつしか幻の宝石といわれるまでになっていました。
21世紀を迎えて間もないころ、そうした状況にようやく変化が訪れます。アフリカのモザンビークで極上のルビーが発見され、そのクオリティが世界のトップジュエラーに認められたのです。その鮮麗な美しさは、“ピジョン・ブラッド(鳩の血)”と呼ばれる最高品質のルビーを軽やかにした印象。
今日、そのハイジュエリーをまとった選ばれし女性たちが、レッドカーペットに新たな伝説を生み出します。
極上のルビーを際立たせる多彩なダイヤモンドの光
カラー(襟)をモチーフにしたチョーカータイプのネックレス。中央のクッションカットのルビーは、稀少な10カラットを超える大きさで、色鮮やかなモザンビーク産。そのセンターストーンと完璧に色を揃えたルビーが、華やかに周囲を彩ります。さまざまなカットを施したダイヤモンドから放たれる多彩な輝きも、遊び心溢れるデザインのポイント。写真は、今やレッドカーペットの常連となったトップモデルのベラ・ハディッド。
「ブルガリ」流のアレンジで伝統のデザインがモダンに
イヤリングのメインストーンに用いられたクッションカットのルビーは、それぞれ8カラット以上。そもそもルビーは3カラットを超える大きさがめずらしく、その稀少性がわかります。シャンデリアタイプのデザインは、幾何学的な「ブルガリ」らしいアレンジが新鮮。色とシェイプの大胆な対比が、クラシックになりがちなルビーをモダンに。
決して抗うことのできない自然の神秘を秘めたエメラルドの尽きせぬ魅力
宝石として古い歴史をもつエメラルドは、数千年もの間、時の権力者を魅了してきました。
銀幕のスターのなかにも、熱狂的にエメラルドを愛した女性たちがいます。圧倒的な美貌で世界を魅了したエリザベス・テーラーはその代表ともいえる女優。
宝石に対して確かな審美眼をもつ彼女は、夫のリチャード・バートンから贈られた豪華なブローチとネックレスのセットをはじめ、「ブルガリ」のエメラルドジュエリーの名品を数多く所有していました。エメラルド独特の鮮明なグリーンの光彩が、その稀有なバイオレットの瞳を美しく引き立てることを知っていたのでしょう。お気に入りのエメラルドジュエリーは最晩年までその手元に残されていたといいます。
1950年代のハリウッドで人気を博したイタリア出身の女優、ジーナ・ロロブリジーダもエメラルドに魅せられたひとりです。「ブルガリ」のジュエリーを深く愛した彼女は、とりわけドラマティックなデザインを好みました。多くの国際映画祭で審査員を務め、芸術家としても活躍したジーナにとって、知的な華やかさをもつエメラルドジュエリーは、単なる宝石以上の、自らのシンボルともいえる存在だったのかもしれません。
伝説の女優に捧げられた迫力のエメラルドリング
「ブルガリ」をこよなく愛した女優、ジーナ・ロロブリジーダに捧げられたエメラルドジュエリー。このリングのセンターストーンは、「シュガーローフカット」と呼ばれる大胆な山形のフォルムが特徴的です。宝石の表面にカット面をつけないカボションカットのため、エメラルドならではの鮮明なカラーと個性豊かなインクルージョン(内包物)が堪能できます。
極めて稀少なエメラルドをさらに贅沢な輝きへと昇華
ペンダントの中央を飾るエメラルドは34カラット以上で、色と透明感に優れたコロンビア産。それをクッションシェイプのカボションカットに。周囲を取り巻くダイヤモンドとエメラルドには、デザインに合わせたカスタムカットが施されています。
−和樂2019年10・11月号より−
※表記は、本体(税抜き)価格です。
文/福田詞子(英国宝石学協会 FGA)
撮影/小野祐次