Culture
2019.09.26

なんか、タイトルすごい…シネマ歌舞伎「女殺油地獄」の魅力を徹底解説!

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「女殺油地獄(おんなごろしあぶらのじごく)」。インパクト抜群なタイトルをもつこの作品は、近松門左衛門によって300年以上前に作られました。そんな歴史ある演目「女殺油地獄」が、2019年11月8日(金)に、シネマ歌舞伎として全国公開します!

「女殺油地獄」とは?

1721年、人形浄瑠璃として初演されましたが、センセーショナルな作品ゆえに、しばらく上演の機会に恵まれませんでした。しかし明治時代に評価が見直され 、歌舞伎としても上演されたことで人気が爆発。関西の歌舞伎を代表する作品のひとつとして今日まで幾度も演じられています。

油まみれになり逃げ回るお吉と、必死に追う与兵衛。血みどろで繰り広げられるラストシーンは強烈な印象を残します。

今回は、平成30年に大阪・松竹座で上演された市川染五郎改め、十代目松本幸四郎襲名披露公演の「女殺油地獄」が、シネマ歌舞伎として新たに生まれ変わりました。幅広い活躍を続ける市川猿之助との共演も見どころです。

たった5文字の漢字がすべてを語る!「女殺油地獄」あらすじ

主人公は油屋を営む河内屋の次男・与兵衛(松本幸四郎)。喧嘩ばかりの放蕩息子が「野崎参り」として馴染みの芸者に因縁をつけようとするところから始まります。
そこで偶然出会った同業の油屋である豊嶋屋の女房・お吉(市川猿之助)に話しかける与兵衛。子どもを連れたお吉は、喧嘩をして泥まみれになった与兵衛の面倒を見てやりますが、この些細な親切が後々の悲劇へと関わっていきます。

借金の返済に困った与兵衛は、親からも金を巻き上げようと、義父の徳兵衛や妹にまで手をあげます、見かねた母親・おさわが勘当を言い渡すと、家を飛び出しますが、行く手もない。
お吉のもとを訪ねようと思い当たります。
一方、徳兵衛とおさわもお吉のもとへ行き、この銭を渡して帰るようにはからってほしいと涙ながらに頼みます。それを物陰で聞いていた与兵衛。
おさわたちが預けた銭は、借金完済にはほど遠く、与兵衛はお吉に「不義になって」(=不倫関係になって)とさらに金をせびります。
必死に断るお吉に、ならば商売道具の油を貸してほしいと懇願する与兵衛。油を準備しようと背を向けたその瞬間――。

300年越しの衝撃をスクリーンで!「シネマ歌舞伎」には魅力がいっぱい

シネマ歌舞伎とは2005年に始まった、歌舞伎の舞台公演を撮影し、映画館でデジタル上映する「観劇空間」。映画館で楽しむデジタルに収録された歌舞伎という新しさは平成の世に反響を呼びました。
今回はなんと第34弾!松竹撮影所の全面協力で、プロの技が集結した作品です。

松本幸四郎・市川猿之助の表情がたっぷり味わえる!映画ならではのカットワーク


舞台では席が遠く、細かい表現まで見ることが難しい場合もありますよね。シネマ歌舞伎なら、歌舞伎俳優の表情や汗のひとしずくまでしっかり観ることができます。

松本幸四郎さんのおちゃめな表情、無頼者のざっくばらんさ、苛立ちなども余さず切り取られています。放蕩者が一転して人を殺めてしまう、急転直下の変化をどう演じているかがみどころです。ラストの表情はお見逃しなく。

一方、市川猿之助さんのお吉も優しげで、与兵衛を突き放せない面倒みの良さがあります。ふと見せる人妻の表情にはつい引き込まれてしまいますよ!バラエティでのイメージも強い方ですが、澤瀉屋を引っ張る存在である名女形、さすがの貫禄です。この色っぽさ、女性のみなさんは参考になるかも?

共演も多い、同世代ならではの気安さもあるのでしょうか。息がぴったりのお二人のコンビネーションは見ごたえがありますよ。

さらに、シネマ歌舞伎ならではの大胆なカットワークもみどころのひとつ! 舞台が多角的に撮影されています。


今回は特に本番だけではなく、舞台稽古の撮影も敢行。客席にカメラ用のレールを設置し、舞台上のカメラ台数も通常より増やすなど、新たな撮影方法を多数使用しています。

二階席からのカットや舞台袖からの横顔を切り取ったカットなど、映画だからこそのアングルを堪能できますよ。

また、「音」にもこだわりが。花道の奥から現れる足音が左側から聞こえてくるなど、立体感のある音をスクリーンで楽しめます。

一部の三味線などの音楽が流れる場面に関しては、別途演奏なしでの撮影も実施。俳優の息遣いまでも拾い、舞台に満ちる緊張感を余すことなく観客に伝えてくれますよ。

クライマックスの「油殺」の場面は圧巻!カメラマンが舞台上にあがり、手持ちのスローカメラを使うなどの技法を駆使し、肌を濡らす油の質感や血のわずかな飛び散りまでも鮮明に映し出されています。
松本幸四郎さん、市川猿之助さん渾身の鬼気迫る迫力に、思わず息を詰めて見てしまいますよ。

今回の演目には義父・徳兵衛役は中村歌六さん、叔父・森右衛門役に市川中車さん(香川照之の名でおなじみ)。妹・おかち役の中村壱太郎さんなど、令和の歌舞伎を彩る俳優が多数出演しています。それぞれの表情や演技をアップで観られるのもシネマ歌舞伎ならでは!

白塗りやかつらなど、特徴をまとめられがちな歌舞伎俳優ですが、それぞれが持つ素敵な個性がたっぷりとスクリーンに映し出されています。

表情のひとつひとつが見逃せない! 歌舞伎俳優の力量を存分に味わえるのがシネマ歌舞伎の大きな魅力です。ごひいきの歌舞伎俳優と運命的な出会いを果たしてしまうかもしれませんよ!

上演時間は約100分! 初心者さんにもおすすめのコンパクトさ

「シネマ『歌舞伎』だし、上映時間も長いのでは?」と思われた方、時間は約100分と、ほとんどの映画と変わらない長さです。与兵衛とお吉の関係にフォーカスしていて、ストーリーをよりわかりやすく、コンパクトにまとめられていました。

生の舞台で言う幕間の部分は、画面に説明文が現れて教えてくれます。ちょっと無声映画のよう。この説明文が舞台で借りる「イヤホンガイド」のように、わからない部分を補足する役割も担ってくれますよ。

「女殺油地獄」は「世話物」と呼ばれる、江戸時代の現代劇。能や狂言を基にした「松羽目物」と違ってせりふは比較的わかりやすいです。とはいえ、今とは違う言葉も出てくるので、難しく感じることもありますよね。説明文がストーリーの理解を助けてくれます。

映画としても完成度が高い「シネマ歌舞伎」。初心者さんから歌舞伎通まで楽しめますよ。

「シネマ歌舞伎見ましょか、お茶飲みましょか?」ひと味違うお出かけにもおすすめ


「いつかは歌舞伎を見てみたいけれども、舞台はハードルが高い」「なかなか時間が取れない」という方にもシネマ歌舞伎はぴったりです。

女子会やデートの選択肢に、シネマ歌舞伎を取り入れてみるのもおすすめ。ひと味違うアフター5、休日が過ごせるかもしれませんよ。

残忍で怖い作品なのに、どこか色っぽい。江戸時代の戯作者近松門左衛門の不朽の名作、ぜひスクリーンでご覧ください。

「女殺油地獄」は11月8日(金)より東劇(東京)他、全国のMOVIXなどで公開。各映画館や歌舞伎座、大阪松竹座などでは特別鑑賞券・ムビチケカードを1800円で発売します。当日料金よりオトクに観られますよ。

シネマ歌舞伎
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